新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.908、2009/9/1 12:37

【民事・労働契約と退職後の競合する事業・営業行為の禁止の効力】

質問:現在勤務している会社へ入社した際に、「退職後3年間は会社と競合関係にある同業他社へ就職し、会社と競合する事業または営業行為をしてはならない」という誓約書にサインをさせられました。今私は転職活動をしていますが、入社時にサインをさせられたこの誓約書によると、私は同じような会社に就職をしてはいけないということになるのでしょうか?

回答:
一概に、誓約書が有効であなたが同じような会社に就職できないということはありません。貴方の前の会社の職種や地位などによって就職が制限される場合もあり、具体的に検討する必要があります。

解説:
1.(契約自由の原則と職業選択の自由による原則論)私的自治の原則、契約自由の原則により契約の内容は基本的に当事者で自由に定めることができますが、労働者に、退職後の職業選択の自由を制限することはできない、というのが原則です。職業選択の自由は、日本国憲法にもある通り、国民の基本的人権の一つです(憲法第22条1項)。憲法の諸規定は、国家機関に対する法規範として制定されていますが、私人間の契約関係においても、その趣旨は尊重されるべきであり、私法解釈の基準として影響すると考えられています。

2.(問題点)しかし、就業規則、雇用契約書、退職時の誓約書など、に特約が規定されている場合に、競業避止義務を負う場合があります。競業避止義務とは、会社と競業関係にある会社に就職したり、自ら競業関係となる事業をおこなったりしない、という義務をいいます。例えば、退職した社員が同じ業種の会社に転職をする場合には、退職社員による機密やノウハウの漏洩、顧客基盤を使われたりする、といったことが生じ得ます。このようなことから、退職社員に競業避止義務を課してこのような行為を制限することは、企業防衛という観点からは当然のことともいえます。憲法が私有財産制(憲法29条)、営業の自由(憲法22条1項)を認めている以上、会社の財産、利益を勤務していた従業員でも不当に侵害することは許されません。一方で、退職社員本人にとっては、今まで苦労して身に付けた知識や経験、人脈を退職後にも活用したいと考えるでしょうし、今までとは全く違う業界で働くことを選ばなくてはいけない、というのでは、職業選択の自由、生活権が侵害されてしまいます。社員は、経済力がある経営者と異なり生活のため自らの労働力を切り売りして生活していかなければならない立場にあり法の理想である実質的平等を確保し、公正な社会秩序を維持するため労働契約により取得した知識、経験、技術の活用は生活の保障のため広く認める必要があります。判例は以下のように原則論を説明しています。「習得した業務上の知識、経験、技術は労働者の人格的財産の一部をなすもので、これを退職後にどのように生かして利用していくかは各人の自由に属し、特約もなしにこの自由を拘束することはできない。」(金沢地裁昭和43年3月27日)。

3.(判断基準)よって、退職後の競業避止義務は、会社と従業員本人との間で利害関係の調整が必要となりますが、法の理想から見て合理的な範囲での特約があって初めて認められるものと解釈されています。たとえ、就業規則などの特約で競業避止義務を定めていた場合についても、その適用の可否は具体的事情によって異なり、一義的な基準を申し上げることは困難です。抽象的基準を挙げれば、基本的に労働者の退職後の就職は自由であり、これを制限する取り決めは認められません。例外的に会社に対して利益侵害、背信性が認められる特別の事情がある場合には、競業避止義務の取り決めは有効と考えるべきです。利益侵害、背信性の判断は、@従業員、社員の職種、地位、A競業避止の期間、B競業避止を認める地域、C退職後の競業避止を認めた条件として代償処置がとられているかどうか、D競業禁止行為の具体的内容。以上の基準を総合的に考慮して決めることになるでしょう。 

4.従って、同業他社への就職または独立開業を検討されている場合は、それが会社に対する顕著な背信行為になっていないかを前もって慎重に吟味する必要はあります。背信性は重要な要素になります。例えば、同僚の引き抜き、顧客の引き抜きなどをおこなっていないかどうか、在職中に関わった企業秘密の内容や程度が会社の財産を構成する高度なものではなかったか、その秘密に携わっていた期間の長さ、競業があまりにも隣接していないか、秘密に携わることにより、特別な報酬を得ていなかったかどうかなどを確認、検討する必要があります。

5.(合理性の具体的判断基準と判例の検討)退職後の競業避止義務特約について、その合理性の判断基準を判例に照らして確認してみたいと思います。

1)対象となる労働者の地位・職種による判断。
全ての従業員を対象として競業避止義務を負わせえることはできません。すなわち、保護に値する重要な製造技術や営業秘密に接している従業員が例外的に対象となるので、小売店の販売員や、工場の組み立て作業員のように、比較的単純な労働に従事するような内部的地位の低い従業員の同業他社への就職を規制することは認められません。契約をする場合、以上の趣旨から従業員の範囲を限定することが必要となります。

(東京地裁平成17年2月23日判決の検討)
内容。「従業員と使用者との間で締結される、退職後の競業避止に関する合意は、その性質上、十分な協議がされずに締結される場合が少なくなく、また、従業員の有する職業選択の自由等を、著しく制約する危険性を常にはらんでいる点に鑑みるならば、競業避止義務の範囲については、従業員の競業行為を制約する合理性を基礎づける必要最小限の内容に限定して効力を認めるのが相当である。そして、合理性を基礎づける必要最小限の内容の確定に当たっては、従業員が就業中に実施していた業務の内容、使用者が保有している技術上及び営業上の情報の性質、使用者の従業員に対する処遇や代償等の程度等、諸般の事情を総合して判断すべきである。上記の観点に照らすならば、従業員が、使用者の保有している特有の技術上又は営業上の情報等を用いることによって実施される業務が競業避止義務の対象とされると解すべきであり、従業員が就業中に得た、ごく一般的な業務に関する知識・経験・技能を用いることによって実施される業務は、競業避止義務の対象とはならないというべきである。」

「原告は、商品知識、接客サービスの方法等の営業ノウハウなどについても競業避止義務によって保護されるべきである旨主張する。しかし、本件で被告Aらが行っている、商品知識や営業態様は、正に従業員が日常的な業務遂行の過程で得られた知識・技能であって、このような知識等は、従業員が自由に利用することができる性質のものであると解すべきであって、そのような利用までも禁止することは職業選択の自由に対する重大な誓約となる。」。妥当な判断です。因みに、会社の役員だった場合には、当然会社の機密情報をもっているので、在任中は当然に競業避止義務を負いますし(会社法 356条、旧商法264条)、退任後もその義務は消滅しないか問題ですが、基本的に競業避止義務を認める契約等は有効になります。役員は、労働契約ではなく基本的に委任契約であり企業と対等な関係で契約したものと評価できるからです。

2)拘束期間の長短
仮に、社員が勤務条の地位、職種から競業避止義務を負うとしても、競業避止義務に拘束される期間が長すぎると再就職の途を閉ざすことになるため、過度で、不必要な制限をなくするため「退職後何年間」といったように制限期間を設けることが必要でしょう。

以下のように3年の規制を有効とした判例(大阪地裁平成3年10月15日判決、仮処分異議申立事件)もあります。判決内容。印字機および各種チケット、ラベルの製造販売等を業の会社において、「得意先を奪うといった競業行為をその会社に対する影響がもっとも大きい退職直後の3年間に期間を限定し、特約によって禁止することは不合理ではなく、職業・営業の選択の自由や生存権を侵すものではない。」としている。詳細。「このように被申請人がY社を設立して経営し、被申請人を除く申請人の従業員三名のうち二名を入社させて、Y社によって申請人の得意先に申請人が取り扱うのと同種の商品の販売をするという競業行為を継続した結果、申請人は、年間売上高が五〇万円以上の得意先をすべて被申請人ないしY社に奪われ、通常一〇〇〇万円から一五〇〇万円程度はあった月商が一〇分の一程度に落ち込むという打撃を受けた。この事実を基に被申請人が申請人に入社したさいにした競業避止義務負担特約の効力について判断する。

本件で競業避止義務負担特約が有効かどうかが問題になるのは、退職後三年間の競業避止を約した部分であるが、このような特約は、企業の従業員が在職中に職務上利用しまたは知ることのできたその企業の秘密や種々の情報を退職後に利用してその企業と競合する業務を行うことによって、その企業の利益を損なうような事態を招くことを防ぐ趣旨で、企業が従業員に約束させるものである。右のような企業防衛を目的とする特約の効力を無限定に認めると、被申請人もいうように、従業員の退職後の新たな職業、営業の選択を不当に制約してその従業員の行う公正な取引を害することにもなりかねないから、特約を有効と判断するには慎重でなければならないことはいうまでもない。しかし、本件では、被申請人は、その能力によって開拓したとはいえ、申請人の従業員として申請人の名で申請人のために開拓した得意先に対し、申請人を退職すると同時に設立して経営しているY社によって申請人の取り扱う商品と同種の商品を販売するという申請人と競合する営業行為をしているものであり、それも、被申請人が申請人の営業の全般を掌握する地位にいた者として申請人の企業利益の防衛に高度の責任を負っていたにもかかわらず、自己が右のような地位にいたために保持し管理していた顧客に関する詳細な情報を退職にさいして申請人にほとんど伝えず、Y社の営業のために利用し、自己以外の申請人の従業員三名のうち二名までもY社に入社させてY社の営業に従事させ、またY社が申請人のそのような営業を承諾しているかのように読める虚偽の案内をし、あるいは申請人の在庫品をY社の営業のために無断で搬出するなど、申請人の利益を損ない、商品販売における申請人の競争力を減殺し、被申請人ないしY社に有利な状況を作り出しておいて、申請人と競合する営業をしているのである。

本件で申請人が防衛すべきものとしている企業利益は、申請人の得意先ないしそれに関する顧客情報であって、特許権ないしこれに類する権利やノーハウなどほどには特別な秘密保持を必要としないものではあるが、それを従業員がその利益のために自由に利用すれば、場合によっては企業の存立にも関わりかねないこととなる点において、右特許権等の権利利益と異なることのない重要な企業利益であり、企業が合理的な範囲で従業員の在職中および退職後のその自由な利用を制約することは合理性を欠くものではないといってよい。本件のように被申請人が自己の退職後に申請人において顧客情報を利用することがほとんどできないようにしておいて申請人の得意先を奪うといった競業の行為を、その行為の申請人に対する影響がもっとも大きい退職直後の三年間に期間を限定して、特約によって禁止することは、不合理ではなく、被申請人のいう職業、営業の選択の自由や生存権を侵すものではなく、公正な取引を害するものでもないというべきである。」「その他、疎明を総合しても、右特約を争点2に掲げた憲法、法律の規定に照らして無効とするのを相当とする事情は認められないから、申請人は右特約に基づいて被申請人の右競業行為の差止めを求める権利を有するといえる。」以上のように、業務内容や技術の性質、特殊性等によりこの妥当とされる期間は当然変わってきます。

3)対象となる地域による限定。
基本的に、競合避止の特約が有効とするためには、地方の会社等で業務の性質上、営業エリアが特定の地域に定まっているような場合は、その営業エリア外での競業行為までも禁止するのではなく、一定の場所的限定をする必要があります。場所的限定が広範囲であったとしても、相当な理由があれば認められている場合もあります。

(東京地裁平成14年8月30日判決)
清掃用品、清掃用具、衛生タオル等のレンタル及び販売等を目的とする株式会社に勤務した社員に対する損害賠償請求事件です。「在職時に担当したことのある営業地域(都道府県)並びにその隣接地域(都道府県)に在する同業他社(支店、営業所を含む)という限定された区域におけるものである(隣接都道府県を越えた大口の顧客も存在しうることからすると、やむを得ない限定の方法であり、また「隣接地域」という限定が付されているのであるから、これを無限定とまではいえない)。」

詳細「イ 本件誓約書に基づく合意は、原告に対する「就業期間中は勿論のこと、事情があって貴社を退職した後にも、貴社の業務に関わる重要な機密事項、特に『顧客の名簿及び取引内容に関わる事項」並びに『製品の製造過程、価格等に関わる事項』については一切他に漏らさないこと」という秘密保持義務を被告に負担させるものである。このような退職後の秘密保持義務を広く容認するときは、労働者の職業選択又は営業の自由を不当に制限することになるけれども、使用者にとって営業秘密が重要な価値を有し、労働契約終了後も一定の範囲で営業秘密保持義務を存続させることが、労働契約関係を成立、維持させる上で不可欠の前提でもあるから、労働契約関係にある当事者において、労働契約終了後も一定の範囲で秘密保持義務を負担させる旨の合意は、その秘密の性質・範囲、価値、当事者(労働者)の退職前の地位に照らし、合理性が認められるときは、公序良俗に反せず無効とはいえないと解するのが相当である。

本件誓約書の秘密保持義務は、「秘密」とされているのが、原告の業務に関わる「重要な機密」事項であるが、企業が広範な分野で活動を展開し、これに関する営業秘密も多種多様であること、「特に『顧客の名簿及び取引内容に関わる事項』並びに『製品の製造過程、価格等に関わる事項』」という例示をしており、これに類する程度の重要性を要求しているものと容易に解釈できることからすると、本件誓約書の記載でも「秘密」の範囲が無限定であるとはいえない。また、原告の「『顧客の名簿及び取引内容に関わる事項』並びに『製品の製造過程、価格等に関わる事項』」は、マット・モップ等の個別レンタル契約を経営基盤の一つにおいている原告にとっては、経営の根幹に関わる重要な情報であり、これを自由に開示・使用されれば、容易に競業他社の利益又は原告の不利益を生じさせ、原告の存立にも関わりかねないことになる点では特許権等に劣らない価値を有するものといえる。一方、被告は、原告の役員ではなかったけれども、埼玉ルートセンター所属の「ルートマン」として、埼玉県内のレンタル商品の配達、回収等の営業の最前線にいたのであり、「『顧客の名簿及び取引内容に関わる事項』並びに『製品の製造過程、価格等に関わる事項』」の(埼玉県の顧客に関する)内容を熟知し、その利用方法・重要性を十分認識している者として、秘密保持を義務付けられてもやむを得ない地位にあったといえる。このような事情を総合するときは、本件誓約書の定める秘密保持義務は、合理性を有するものと認められ、公序良俗に反せず無効とはいえないと解するのが相当である。

ウ 本件誓約書に基づく合意は、原告に対する「事情があって貴社を退職した後、理由のいかんにかかわらず二年間は在職時に担当したことのある営業地域(都道府県)並びにその隣接地域(都道府県)に在する同業他社(支店、営業所を含む)に就職をして、あるいは同地域にて同業の事業を起して、貴社の顧客に対して営業活動を行ったり、代替したりしないこと」という競業避止義務を被告に負担させるものである。このような退職後の競業避止義務は、秘密保護の必要性が当該労働者が秘密を開示する場合のみならず、これを使用する場合にも存することから、秘密保持義務を担保するものとして容認できる場合があるが、これを広く容認するときは、労働者の職業選択又は営業の自由を不当に制限することになるから、退職後の秘密保持義務が合理性を有することを前提として、期間、区域、職種、使用者の利益の程度、労働者の不利益の程度、労働者への代償の有無等の諸般の事情を総合して合理的な制限の範囲にとどまっていると認められるときは、その限りで、公序良俗に反せず無効とはいえないと解するのが相当である。

本件誓約書の定める退職後の秘密保持義務が合理性を有することは前記イのとおりである。そして、本件誓約書による退職後の競業避止義務の負担は、退職後二年間という比較的短い期間であり、在職時に担当したことのある営業地域(都道府県)並びにその隣接地域(都道府県)に在する同業他社(支店、営業所を含む)という限定された区域におけるものである(隣接都道府県を越えた大口の顧客も存在しうることからすると、やむを得ない限定の方法であり、また「隣接地域」という限定が付されているのであるから、これを無限定とまではいえない)。禁じられる職種は、原告と同じマット・モップ類のレンタル事業というものであり、特殊技術こそ要しないが契約獲得・継続のための労力・資本投下が不可欠であり、ダスキン社が市場を支配しているため新規開拓には相応の費用を要するという事情がある。また、使用者である原告は既存顧客の維持という利益がある一方、労働者である被告は従前の担当地域の顔なじみの顧客に営業活動を展開できないという不利益を被るが、禁じられているのは顧客収奪行為であり、それ以外は禁じられていない(本件誓約書の定める競業避止義務は、原告の顧客以外の者に対しては、在職時に担当したことのある営業地域(都道府県)並びにその隣接地域(都道府県)に在する同業他社(支店、営業所を含む)に就職をして、あるいは同地域にて同業の事業を起して、営業活動を行ったり、代替したりすることを禁じるものではない)し、マット・モップ類のレンタル事業の市場・顧客層が狭く限定されているともいえないから、本件誓約書の定める競業避止義務を負担することで、被告が原告と同じマット・モップ類のレンタル事業を営むことが困難になるというわけでもない。もっとも、原告は、本件誓約書の定める競業避止義務を被告が負担することに対する代償措置を講じていない。しかし、前記の事情に照らすと、本件誓約書の定める競業避止義務の負担による被告の職業選択・営業の自由を制限する程度はかなり小さいといえ、代償措置が講じられていないことのみで本件誓約書の定める競業避止義務の合理性が失われるということにはならないというべきである。これらの事情を総合すると、本件誓約書の定める競業避止義務は、退職後の競業避止義務を定めるものとして合理的な制限の範囲にとどまっていると認められるから、公序良俗に反せず無効とはいえないと解するのが相当である。』妥当な判断であり、以上から、労働者の地位や職種によっては、地域を無制限とした特約も認められる場合もあります。

4)代替措置の有無
3)の判例(東京地裁平成14年8月30日判決)が示すように、必ず代替措置(代償措置)が必要というわけではありませんが、退職金の増額等の特別な代償措置がとられていたかどうかも労働者の生きる権利が問題になっている以上有効性の判断基準のひとつとなります。

6.(まとめ結論)

以上のように、競業禁止特約があったとしても、その特約が合理的でなければ、公序良俗違反で無効とされます。その特約が無効であれば、もはやあなたがそれにサインをしていたかどうかということは問題にはなりません。ただし、従業員側にも、一斉の大量の引き抜き行為や、顧客を奪う、また、守秘義務違反などといった背信行為が認められた場合には、不正競争防止法に基き、会社側から損害賠償請求や、差し止め請求の可能性はあります。また、そのような場合には、退職金の減額措置も有効とされる場合もあります。

(退職金返還請求事件最高裁昭和52年8月9日判決)内容。「原審の確定した事実関係のもとにおいては、被上告会社が営業担当社員に対し退職後の同業他社への就職をある程度の期間制限することをもって直ちに社員の職業の自由等を不当に拘束するものとは認められず、したがって、被上告会社がその退職金規則において、右制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給すべき退職金につき、その点を考慮して、支給額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることも、本件退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば、合理性のない措置であるとすることはできない。すなわち、この場合の退職金の定めは、制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨であると解すべきであるから、右の定めは、その退職金が労働基準法上の賃金にあたるとしても、所論の同法三条、一六条、二四条及び民法九〇条等の規定にはなんら違反するものではない。以上と同旨の原審の判断は正当であって、原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は失当である。論旨は、すべて採用することができない。よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。」として、退職金32万円の返還を認めました。妥当な判断でしょう。

あなたが現在平社員であれば、すぐに同業他社へ転職をしたとしても競業避止義務違反が問題となる可能性は低いと考えられます。
役員職に就いていたり、新たに同業種の会社を立ち上げて営業する、といった場合には具体的に検討する必要が出てくるでしょう。ケースバイケースですので、詳しくは近くの弁護士や社会保険労務士に問い合わせてみてください。

≪条文参照≫

憲法22条1項 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

商法264条 取締役が自己又は第三者の為に会社の営業の部類に属する取引を為すには取締役会に於いて其の取引に付重要なる事実を開示し其の承認を受くることを要す

(競業及び利益相反取引の制限)
会社法356条1項 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。

一  取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二  取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三  株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
2  民法第百八条 の規定は、前項の承認を受けた同項第二号の取引については、適用しない。

不正競争防止法2条1項7号 営業秘密を保有する事業者からその営業秘密を示された場合において、不正の競業その他の不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為
不正競争防止法3条 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害するもの又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
不正競争防止法4条 故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、第十五条の規定により同乗に規定する権利が消滅した後にその営業秘密を使用する行為によって生じた損害についてはこの限りではない。
不正競争防止法15条 第二条第一項第四号から第九号までに掲げる不正競争のうち、営業秘密を使用する行為に対する第三条第一項の規定による侵害の停止又は予防を請求する権利は、その行為を行う者がその行為を継続する場合において、その行為により営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある保有者がその事実及びその行為を行う者を知った時から三年間行わないときは、時効によって消滅する。その行為の開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

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