新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.891、2009/6/24 17:26

【民事・私道・建築基準法上の42条2項道路・一般の私道との比較】

【質問】
私の所有する私道を、私と仲の悪い近隣住民が通っているのが許せません。弁護士に相談したところ、私の道路が「二項道路」というのだそうで、そうなると、近隣住民を排除できない、と言われました。私道とはすなわち私の所有する道路でしょう。納得できないのですが。

【回答】
1.建築基準法上の二項道路の所有者は、近隣土地の所有者等に対して、通行を制限することはできない、という判決が最近出ました(東京地裁平成19年2月22日)。これによれば、相談した弁護士の言うとおり、あなたの私道であるとはいえど、近隣住民の通行を排除することはできないことになります。
2.事務所事例集810番699番99番も参考にしてください。

【解説】
1.(二項道路とは)
二項道路とは、建築基準法42条2項の規定により建築基準法上の道路とみなされる道のことをいいます。本来の建築基準法上の道路(建築基準法42条1項で定める幅員4メートル以上の道路)と区別する意味で、根拠となる条文を用いて二項道路と呼ばれるものです。現行の建築基準法の規定では、都市計画区域において敷地が4メートル以上の道路に2メートル接していないと原則として建物が建てられないことになっています(建築基準法43条)。土地があっても、建築物を建てられないとすると所有権の制限となり、本来は許されることではありません。しかし、所有権といえども国民全体の公共の福祉という見地から制限されることは憲法で認めるところです。建築基準法は国民の生命、健康および財産の保護を図るという「公共の福祉」の見地から、幅員4メートルの道路に接していない土地には建物の建築を制限しているのです。

道路とは、物の輸送、人の移動に用いられる施設ですから経済、取引社会の維持発展にとっては必要不可欠なものであり、建物建築にあったては防災上からも安全、平穏、衛生的な社会生活を営む上でも欠くべからざるものです。この様な規制によって、例えば消防自動車が通れないような道路に家が密集するという事態は避けされるのですから、やむを得ない制限であることは理解できるでしょう。しかし、幅員4メートル未満の狭い道路に面して建築されている建物がすでに多くあることも事実ですし、建築基準法に従いこのような建物が再建築できないとすると狭い道路に古い家が立ち並んでいるという状況が続いてしまいます。そこで、建築基準法施行以前から建物が建っている土地については、道路に接しているという要件を満たさなくても、建築できないとするのではなく、道路の幅員を広げることにより建築が可能な土地とすることにしたのが二項道路です。現状を救済するための規定といっても良いでしょう。具体的には、建築基準法が適用される時点で建物が立ち並んでいる幅員4メートル未満の道で、特定行政庁が指定した道路のことをいいます。

2.(2項道路の効果、問題点の指摘)
二項道路に指定されると、建築基準法により、避難または通行の安全のため敷地または建築物との関係につき条例で制限を設けることができるほか(43条2項)、道路内には、特定のものを除いて建築物を建築し又は敷地造成のための擁壁を築造することが禁止され(44条1項)、また、道路の変更または廃止について制限される場合があります(45条1項)。このように、二項道路は、私道ではあるもののその私権の行使に制限が加えられており、また、道路交通法における道路として扱われていることから(道路交通法2条1項1号)、私道とはいえど公道としての性格も併せ持つものといえます。ただ、見方を変えると、このようにもいえます。すなわち、二項道路に指定されたために、本来は私道である道路が公道のように扱われてしまうわけで、あなたの不満はまさにそこにあるものと思われます。私道を所有しているあなたと、土地を通行する近隣住民の方との間には法的な通行権が設定されるわけではないにもかかわらず、通行に所有者であるあなたの許可が不要になってしまうのです。そこで、あなたのように仲の悪い人の私道の通行を拒否したいという考えが、法律的に保護に値するのか問題となります。判例がありますので検討しましょう。

3.(東京地裁平成19年2月22日判決の検討)
折り合いの悪い近隣住民に対して通行を止めさせたい、というあなたのお気持ちは人情としてはわかります。しかしながら、二項道路の公益性を考えるとあなたの気持ちが法律上も保護されうるものか検討が必要になります。この点について本判例は、二項道路(位置指定道路にもなっています。)の公益性を重視して、一定の関係にある近隣住民の通行を排除することはできない、としています。判決は、「道路は、本来公共の需要を満たすために存在するものであり、自己が建築確認を受けることができたのも、自己のみならず、他人の通行も許容し、その結果都市の安全さ、快適さを確保することを社会一般に対して許容したからなのであって、そのような者は、自己所有の二項道路を他人が通行することも受忍すべき地位にある」としました。そして、二項道路の所有者に対し「自己の所有地がいわゆる二項道路として指定され、当該二項道路に接することにより自己所有の建物が建築基準法上の接道義務を満たしている場合には、その土地の所有者は、私法上、他人の通行権を一般的に否定したり、一般的な通行禁止を命ずる裁判を求めたりすることは、特段の事情のない限り、権利の濫用であって許されない」という結論になっており、特段の事情がない限り認められないとされています。

4.(判例の評価)
この裁判の事案は、二項道路の所有者がこの道路に接している敷地に建物を建てている場合のようです。このような場合は、自分も道路に使用していて利益を得ているのだから他の人の通行を拒否することはできないとしているようですが、その理由では仮に、二項道路の所有者がその道路に接している土地を有していない場合はどうなるのか、という疑問が残ってしまいます。また、特段の事情のない限り、権利の濫用となるとしていますから、特段の事情があれば制限ができることになってしまいます。私見ですが、むしろ端的に二項道路については、道路として使用されていたという事実が認められて、建築基準法上公道と同様の制限を受けているのですから、当然に所有権の制限を受けることを明らかにしたほうが良かったと考えられます。

5.(他の一般私道との比較)
では、これに対して、二項道路ではない一般の私道であればどうでしょうか。例えば、42条1項5号の位置指定道路(私道を公道と同じに扱うように指定する)、個別に通行地役権(民法280条)、賃借権が設定された道路です。その場合にも、近隣住民に対する通行制限を求めることはできないのでしょうか。判例においては、「私道の通行につき日常生活上の不可欠の利益を有する者は特段の事情のない限り敷地所有者に対して妨害排除、妨害禁止を求めることのできる人格権的権利を有する」と判示ものが多く見受けられます(最高裁第1小法廷判決平成9年12月18日42条1項5号、位置指定道路に関する判決です。その他同平成12年1月27日判決などです。)。

学説上は、私道所有者は一般公衆の通行を全面的に禁止することはできないのですが、法律上の制約に反しなければ、その限度で道路の保全と関係権利者の安寧のために、道路の使用方法を自ら定めることができるという見解が支配的であり、内容的には判例と学説との間に大きな乖離はありません。特に位置指定道路は建築基準法上の道路で2項道路と規定趣旨が同様に考えることができます。その他一般の私道であれば、所有者が、自己の生活の安寧のために通行の禁止・制限をすることも認められうるものと思われます。このように、二項道路(位置指定道路も含む。)と一般の私道とで扱いが大きく異なるのは、先にも申しましたとおり、二項道路の公共性が大きな理由となっています。すなわち、二項道路は、その所有者が隣接地に建築確認を得るための救済制度ですが、二項道路の指定を受けるにあたり、一般人の安全な通行状況や、それにともなう都市空間の快適さ、などが考慮されているためです。このことから、冒頭でご説明した二項道路に対する制限(敷地と建物の条例による制限、擁壁築造の禁止、道路廃止または変更の制限)がなされているわけです。

6.(まとめ)
このように、二項道路は私道とはいえ性質上は公道に準じた道路ということができますので、あなたが相談した弁護士の回答は正しいということになります。但し、判決によれば、「特段の事情のない限り」という留保をしていますから、通行禁止を求めることが、権利の濫用とならないような特段の事情が認められるような事実がある場合は別の結論になる、とも考えられます。通常は、そのような事実関係はあり得ないと考えられますが、一度検討することも必要でしょう。

(参考条文)

【民法】
(基本原則)
第一条  
3  権利の濫用は、これを許さない。
第六章 地役権
(地役権の内容)
第280条  地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第三章第一節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。

【建築基準法】
(道路の定義)
第四十二条  この章の規定において「道路」とは、次の各号の一に該当する幅員四メートル(特定行政庁がその地方の気候若しくは風土の特殊性又は土地の状況により必要と認めて都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内においては、六メートル。次項及び第三項において同じ。)以上のもの(地下におけるものを除く。)をいう。
一  道路法 (昭和二十七年法律第百八十号)による道路
二  都市計画法 、土地区画整理法 (昭和二十九年法律第百十九号)、旧住宅地造成事業に関する法律(昭和三十九年法律第百六十号)、都市再開発法 (昭和四十四年法律第三十八号)、新都市基盤整備法 (昭和四十七年法律第八十六号)、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法 (昭和五十年法律第六十七号)又は密集市街地整備法 (第六章に限る。以下この項において同じ。)による道路
三  この章の規定が適用されるに至つた際現に存在する道
四  道路法 、都市計画法 、土地区画整理法 、都市再開発法 、新都市基盤整備法 、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法 又は密集市街地整備法 による新設又は変更の事業計画のある道路で、二年以内にその事業が執行される予定のものとして特定行政庁が指定したもの
五  土地を建築物の敷地として利用するため、道路法 、都市計画法 、土地区画整理法 、都市再開発法 、新都市基盤整備法 、大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法 又は密集市街地整備法 によらないで築造する政令で定める基準に適合する道で、これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもの
2  この章の規定が適用されるに至つた際現に建築物が立ち並んでいる幅員四メートル未満の道で、特定行政庁の指定したものは、前項の規定にかかわらず、同項の道路とみなし、その中心線からの水平距離二メートル(前項の規定により指定された区域内においては、三メートル(特定行政庁が周囲の状況により避難及び通行の安全上支障がないと認める場合は、二メートル)。以下この項及び次項において同じ。)の線をその道路の境界線とみなす。ただし、当該道がその中心線からの水平距離二メートル未満でがけ地、川、線路敷地その他これらに類するものに沿う場合においては、当該がけ地等の道の側の境界線及びその境界線から道の側に水平距離四メートルの線をその道路の境界線とみなす。
3  特定行政庁は、土地の状況に因りやむを得ない場合においては、前項の規定にかかわらず、同項に規定する中心線からの水平距離については二メートル未満一・三五メートル以上の範囲内において、同項に規定するがけ地等の境界線からの水平距離については四メートル未満二・七メートル以上の範囲内において、別にその水平距離を指定することができる。
4  第一項の区域内の幅員六メートル未満の道(第一号又は第二号に該当する道にあつては、幅員四メートル以上のものに限る。)で、特定行政庁が次の各号の一に該当すると認めて指定したものは、同項の規定にかかわらず、同項の道路とみなす。
一  周囲の状況により避難及び通行の安全上支障がないと認められる道
二  地区計画等に定められた道の配置及び規模又はその区域に即して築造される道
三  第一項の区域が指定された際現に道路とされていた道
5  前項第三号に該当すると認めて特定行政庁が指定した幅員四メートル未満の道については、第二項の規定にかかわらず、第一項の区域が指定された際道路の境界線とみなされていた線をその道路の境界線とみなす。
6  特定行政庁は、第二項の規定により幅員一・八メートル未満の道を指定する場合又は第三項の規定により別に水平距離を指定する場合においては、あらかじめ、建築審査会の同意を得なければならない。
    第二節 建築物又はその敷地と道路又は壁面線との関係等
(敷地等と道路との関係)
第四十三条  建築物の敷地は、道路(次に掲げるものを除く。第四十四条第一項を除き、以下同じ。)に二メートル以上接しなければならない。ただし、その敷地の周囲に広い空地を有する建築物その他の国土交通省令で定める基準に適合する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したものについては、この限りでない。
一  自動車のみの交通の用に供する道路
二  高架の道路その他の道路であつて自動車の沿道への出入りができない構造のものとして政令で定める基準に該当するもの(第四十四条第一項第三号において「特定高架道路等」という。)で、地区計画の区域(地区整備計画が定められている区域のうち都市計画法第十二条の十一 の規定により建築物その他の工作物の敷地として併せて利用すべき区域として定められている区域に限る。同号において同じ。)内のもの
2  地方公共団体は、特殊建築物、階数が三以上である建築物、政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物又は延べ面積(同一敷地内に二以上の建築物がある場合においては、その延べ面積の合計。第四節、第七節及び別表第三において同じ。)が千平方メートルを超える建築物の敷地が接しなければならない道路の幅員、その敷地が道路に接する部分の長さその他その敷地又は建築物と道路との関係についてこれらの建築物の用途又は規模の特殊性により、前項の規定によつては避難又は通行の安全の目的を充分に達し難いと認める場合においては、条例で、必要な制限を付加することができる。
(その敷地が四メートル未満の道路にのみ接する建築物に対する制限の付加)
第四十三条の二  地方公共団体は、交通上、安全上、防火上又は衛生上必要があると認めるときは、その敷地が第四十二条第三項の規定により水平距離が指定された道路にのみ二メートル(前条第二項に規定する建築物で同項の条例によりその敷地が道路に接する部分の長さの制限が付加されているものにあつては、当該長さ)以上接する建築物について、条例で、その敷地、構造、建築設備又は用途に関して必要な制限を付加することができる。
(道路内の建築制限)
第四十四条  建築物又は敷地を造成するための擁壁は、道路内に、又は道路に突き出して建築し、又は築造してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する建築物については、この限りでない。
一  地盤面下に設ける建築物
二  公衆便所、巡査派出所その他これらに類する公益上必要な建築物で特定行政庁が通行上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したもの
三  地区計画の区域内の自動車のみの交通の用に供する道路又は特定高架道路等の上空又は路面下に設ける建築物のうち、当該地区計画の内容に適合し、かつ、政令で定める基準に適合するものであつて特定行政庁が安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めるもの
四  公共用歩廊その他政令で定める建築物で特定行政庁が安全上、防火上及び衛生上他の建築物の利便を妨げ、その他周囲の環境を害するおそれがないと認めて許可したもの
2  特定行政庁は、前項第四号の規定による許可をする場合においては、あらかじめ、建築審査会の同意を得なければならない。
(私道の変更又は廃止の制限)
第四十五条  私道の変更又は廃止によつて、その道路に接する敷地が第四十三条第一項の規定又は同条第二項の規定に基く条例の規定に抵触することとなる場合においては、特定行政庁は、その私道の変更又は廃止を禁止し、又は制限することができる。
2  第九条第二項から第六項まで及び第十五項の規定は、前項の措置を命ずる場合に準用する。

【道路交通法】
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一  道路 道路法 (昭和二十七年法律第百八十号)第二条第一項 に規定する道路、道路運送法 (昭和二十六年法律第百八十三号)第二条第八項 に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいう。

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