新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.882、2009/6/4 17:05

【インターネットオークションで購入した中古車の瑕疵担保責任】

質問:私は,これまであまりインターネットオークションを利用したことがなかったのですが,先日,インターネットオークション上で,私が欲しかった中古の輸入車が開始価格8000円で出品しているのを見つけたので,入札し,結局,6万4000円で落札しました。購入に際しては,落札代金のほかに搬送費用,オークションシステム料等として5万2845円を落札者が負担することとなっていたため,私は,出品者に対して合計11万6845円を支払いました。なお,オークションにおいては,車両の写真の掲載,仕様の説明等のほか,次のようなコメントが掲載されていました。「・右,前バンパー,フェンダーに擦り傷があります。それと,左,前後ドアに薄く10円傷があります。それと,左,リアドアノブにひびが入っています。しかし,エンジン,エアコンなど機関は良好です。気になる電動ファンもキッチリと回りますので大丈夫です。・先日バッテリーを付け替えたところです。・出品物がお車ですので,それぞれ見方,取り方が違うと思いますので低年式,中古車だということにご理解頂ける方のみ入札してください。ご理解頂けない方の入札,ご遠慮頂けますようお願い致します。・昼の暑い時間に乗りましたがエアコンはよく利いておりました。ですが,左リアフェンダーのトランクリッドとの接点の部分に小さな塗装はげを見つけました。」しかし実際に搬送されてきた車両には,サイトで指摘された損傷以外に,@ガソリンタンクのガソリン漏れ,Aセンターマフラーの欠落,B電動ファンのさび,Cショックアブソーバーが機能しない,Dタイヤの劣化,E左リアノブが割れて外からドアが開けられない,F右ウインカーの欠落,G運転席ドアがきちんと閉まらないといった損傷がありました。私としては,これらの損傷についての修理費を出品者に対して請求したいのですが,認められるでしょうか。

回答:
1.ガソリンタンクのガソリン漏れについては修理費を請求することが可能ですが、それ以外の修理費は請求できないと考えて良いでしょう。なお、インターネットオークションにおいては,取引の相手が特定できない,目的物を確認できずサイト上の説明に依拠するしかないという構造上の問題があり,一般の売買に比べてトラブルになる可能性が高い面があるため,取引をするにあたっては,より慎重な判断を行うとともに,サイト上の説明,価格,出品者とのやり取り(メール,電話等)等の記録を残しておくことが重要です。2.法律相談事例集813番815番も参考にしてください。

解説:
1.(法的構成、瑕疵担保責任)
インターネットオークションも売買契約であり,その目的物が中古車のような特定物(取引の目的物として当事者が物の個性に着目した物をいい,これに対して,単に種類,数量,品質等に着目し,その個性を問わずに取引した物を不特定物といいます。従って、新車の購入は不特定物の売買となります)である場合には,民法570条の瑕疵担保責任が問題となります。瑕疵担保責任とは売買の目的物に瑕疵(その物が取引上普通に要求される品質が欠けていることなど,欠陥がある状態)があり,それが取引上要求される通常の注意をしても気付かぬものである場合に,売主が買主に対して負う責任をいい,この場合,買主は瑕疵があることを知った時から,1年以内ならば売主に対し,損害賠償の請求ができますし,また瑕疵のために契約の目的を達することができないときは,契約を解除することもできます。但し、不特定物に瑕疵があった場合の債務不履行責任とは異なり、理論上瑕疵のない目的物の請求(新品と取り替えてもらうこと)はできません。隠れた瑕疵に当たるためには,570条の解釈上、(1)一般人が通常の注意を払っても知り得ない瑕疵であることと,(2)買主が善意・無過失であることが必要です。また,瑕疵担保責任に基づく契約の解除又は損害賠償請求は,買主が事実を知った時から1年以内にしなければならないとされています。(民法570条,566条3項、除斥期間です。時効期間ではありませんから時効中断はありません。)。これらの解釈、要件は、すべて、後述する瑕疵担保責任の法的性質(法定責任説)から理論的に導かれます。

2.(問題の所在)
瑕疵担保責任は、法律が特に定めた売主の責任とされています。というのは、特定物の売買の場合、売主の瑕疵担保責任は、契約上当然に生じる責任ではないと考えられるからです。特定物の売買の場合、その物を現状のまま引き渡せば売主の契約上の責任は果たした、と考えられるからです(新車に瑕疵がある場合は、まだ「新車を引き渡す債務」の履行をしていないので債務不履行責任になります。民法415条。)。しかし、それでは、商品に瑕疵がないと信じて購入した買主は思わぬ損害を被ることになります。そこで、公平の見地から民法が売主に瑕疵担保責任を特に負わせたと考えるのです(すなわち瑕疵担保責任は取引の公平上法が特別に認めた責任であり、学説上法定責任説といわれています。)。そこで、瑕疵担保責任を売主が負うか否かは買主売主両者の公平を図るという見地から最終的には判断されることになります。特に、ネットオークションは,一般消費者が不要となった品物を出品しますし,金額も通常の商業ベースの代金よりかなり廉価な場合もあります。あまり、売主に重い責任を課すと売主たる消費者が予期せぬ責任を負う可能性があります。他方,買主たる消費者としては、現物の確認もできないで売主を信用して購入するわけですから瑕疵担保責任を追及したいと考えるのも無理のないころです。そこで問題となるのは,「中古品」として個人により出品されたという事実が,どの程度,瑕疵担保責任を排除するのか,また出品価格の高低によって瑕疵担保責任の有無・程度が影響を受けるのか,ということであり,法律的には,(1)このような状況下で,当該欠陥等が瑕疵担保責任を根拠づける「瑕疵」と評価されるか,(2)瑕疵担保責任免除特約が存在するかという点が争点になります。

3.(判例)
本件と同様の事案について,判例(控訴審、東京地方裁判所平成16年4月15日判決)は,以下のような判断をし,結論としては,本件についていえば@の損傷のみを「瑕疵」と認め,その他のAないしGについては,瑕疵とは認めず,@についての修理費についてのみ,損害賠償請求が認容されました。

判決内容
「民法570条の『瑕疵』とは,売買の目的物が通常備えるべき性能等を備えていないことをいうが,本件のような中古自動車の売買においては,それまでの使用に伴い損傷などが生じていることが多く,これを修復しないで売却する場合には,修理費用を買い主が負担することを見込んで売買代金が決定されるのが一般的であるから,買い主が修理代金を負担することが見込まれる範囲の損傷などは,これを当該自動車の瑕疵というのは相当でない。・・・サイトでは本件損傷については記載されていないが,それ以外の損傷の存在が明らかにされていて,かつ,初心者に対し入札に際して注意を促し,むしろ入札を控えるようにとコメントしていること,本件車両は,オークションでの開始価格が8000円,落札価格が6万4000円にとどまるところ,年式,車両の状態等によって価格が左右されることを考慮しても,その落札価格は極めて低廉なものであったと解されることなどに照らせば,本件車両は,サイトで指摘された損傷以外に修理を要する損傷個所が存在することも予想されたうえで開始価格が設定されて出品され,かつ,サイトの指摘以外の損傷が実際にあったとしても,落札者が自ら修理することを予定して落札されたものであった。・・・したがって,本件車両に民法570条の「瑕疵」があるというためには,前記予想ないし予定を超えた損傷が存する場合であることを要するというべきところ,本件損傷AないしGは,これらの損傷によって車両の走行それ自体が不可能であるとも,危険を伴うとも解されないから,Xが自ら修理することを覚悟していて当然というべき範囲内の損傷であると認められ,サイトに記載がなかったとしても,これをもって,本件車両の瑕疵ということはできない。・・・しかしながら,本件車両は,低年式の中古車であって,損傷個所が存在するとはいえ,サイトにはその走行自体が不可能であるとか,危険を伴うといった記載はなく,かえって,走行それ自体には問題がないかのような記載がされていたのである。その見地から損傷@についてみると,ガソリンタンクのガソリン漏れは,その程度が相当のものであったと認められ,そのようなガソリン漏れが生じている自動車では,引火の危険性などからして安全な走行それ自体が困難であることは明らかであるから,そのような状態は,本件車両の落札価額の低廉さ,サイトの記載を考慮しても,前記した予想ないし予定を超える損傷であったといわなければならない。したがって,少なくとも本件損傷@は,民法570条の「瑕疵」に当たる。」

4.(判例の評価)
本判決は上記の売主の負担軽減を認め,価格がかなり低廉なこともあって,ドアの開閉の不具合を含む損傷につき「瑕疵」と認めませんでしたが,普通自動車の基本性能である「走行すること」については安全性も含め,たとえ低廉な価格の中古品でも備えるべき性質として,瑕疵になるとしています。特に当該中古品の市場価格に比して非常に安価な場合は,買主が修理費用を負担し,その分低価格にする趣旨であると理解できるため,基本的に妥当な判断であると考えられます。裁判所は、瑕疵担保責任の制度趣旨を考慮して、買主売主の公平を実現するという見地から最終的な結論を出しているのです。
 
5.(第一審判決)
東京簡易裁判所平成15年10月8日判決。原審はインターネットオークションの内容、本件車両の実勢価格との比較から落札価格が瑕疵を含むものと評価するなどして原告の請求を認めませんでした。「原告は、本件車両が平成2年式の中古品であること、アルファロメオという「名車」でありながら、出品価格が6万4000円と設定されており、その価格が通常の同年式同車種の価格に比べると極めて低廉であることを十分承知していたものである。原告は、落札後本件車両が搬送されてきて初めて、オークションサイトで指摘がされていなかったいくつかの損傷が存在していることを発見したと主張する。確かに、損傷の中には、ガソリンタンクからの油漏れなど車両の走行に危険を及ぼしたり支障をきたしたりする部分もあり、被告がこのことをオークションサイトで事前に告げなかったことは相当でない。しかし、一方で、被告は、同じサイトの中で、初心者に対し落札に際しての一定の注意を促し、むしろ初心者については落札は控えるようにとのコメントを出しているのであるから、初めてオークションに参加する原告としても、低廉な出品価格に照らし、前記のような瑕疵のあることは十分予測し得たはずである。ところで、中古自動車の売買においては、売買当時ある程度の損傷が存在するのは当然であり、代金額も買受け後の修理費用を見込んで決定するとされている。本件の場合,本件車両の落札価格6万4000円に原告が修理費用として請求している29万3600円を加算すると35万7600円となるが、これは、原告が落札時に認識していた同年式のアルファロメオの価格帯(17万円ないし68万円)のほぼ中間値に相当する価格である。すなわち、原告は、修理することを前提として、相応する代価で同年式同車種の中古車を取得したことになる。そうすると、本件車両の前記損傷の程度は、落札価格に照らして許容すべき範囲内のものと考えられ、民法570条の『瑕疵』ということはできないというべきである。」瑕疵担保自体信義則、公平の理念(民法1条)に基づき規定されていますので原審の判断もあながち間違いと言い切れるかどうか疑問は残ります。

6.(本件の検討)
本判決を前提とすれば,あなたのケースにおいても,同様の結論になる可能性が高いと思われます。必要な修理をした上で、修理費を請求すると良いでしょう。相手が話し合いに応じない様であれば、相手方住所地を管轄する簡易裁判所に民事調停を起こすか、あなたの住所地を管轄する簡易裁判所に民事訴訟を提起すると良いでしょう。初めに回答した通り、インターネットオークションにおいては,取引の相手が特定できない,目的物を確認できずサイト上の説明に依拠するしかないという構造上の問題があり,一般の売買に比べてトラブルになる可能性が高い面があるため,取引をするにあたっては,より慎重な判断を行うとともに,サイト上の説明,価格,出品者とのやり取り(メール,電話等)等の記録を残しておくことが重要です。どうしても心配な場合は、新車ディーラーの子会社であるような中古車販売店から購入することをお勧めいたします。

(参照条文)

民法
(基本原則)
第1条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3  権利の濫用は、これを許さない。
(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
第566条  売買の目的物が地上権,永小作権,地役権,留置権又は質権の目的である場合において,買主がこれを知らず,かつ,そのために契約をした目的を達することができないときは,買主は,契約の解除をすることができる。この場合において,契約の解除をすることができないときは,損害賠償の請求のみをすることができる。
2  前項の規定は,売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3  前二項の場合において,契約の解除又は損害賠償の請求は,買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。
(売主の瑕疵担保責任)
第570条  売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは,第566条の規定を準用する。ただし,強制競売の場合は,この限りでない。

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