新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.869、2009/5/18 10:33 https://www.shinginza.com/idoushin.htm

[行政・医道審議会・医療法人・理事の資格]

質問:自分は開業医ですが、刑事事件で起訴されてしまいました。有罪となった場合、過去の処分例と比較すると医師免許取り消しの可能性もあるそうです。いつごろ免許取消となってしまうでしょうか。医師免許取り消しとなってしまった場合、私は、医院の経営を続けることは出来ないのでしょうか。刑事事件を起しておきながらいうのも変ですが、私の医院は、地域医療に欠かせない施設だと思っています。罪は反省していますが、何とか医院を継続できないか、また、何か自分の経歴である医療の知識経験を生かした仕事ができないものか、教えて下さい。

回答:
1、刑事裁判は3審制がとられています(刑事訴訟法405条など)。地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所です。医道審議会の審議は、刑事裁判が確定した後に開始されますから、高等裁判所に控訴し、最高裁判所に上告している場合は、免許取消処分も行われません。高等裁判所に控訴し、最高裁判所に上告することは、刑事被告人の正当な権利です。少しでも法的に主張したいことがあれば、上級裁判所に異議申し立てを為すことができます。弁護士に依頼して最大限に争ってもらうことができます。通常、刑事裁判が終結するまで、1〜2年、医道審議会の処分は半年〜1年で決定がでることになります。
2、刑事事件で有罪確定した場合でも、事実関係を覆すような重大な新証拠があれば、再審請求(刑事訴訟法435条)ができる場合もあります。
3、行政処分に明らかな裁量逸脱行為(著しい不公平な処分など)がある場合は、処分の取り消しを求める行政訴訟(行政事件訴訟法8条)も可能です。
4、医師免許取消後の仕事に関して、医院に関係する業務を列挙しますので、参考にして下さい。
1〜3番は事務所ホームページ事例集別稿を参照下さい。本稿では上記4番について詳説します。

【解説】:
以下の方法は、現在の医院を、医師・歯科医師で、誰か継承してくださる方が最低1名は必要です。親族・友人・知人経由でも、その1名の医師を確保できるかどうかがポイントになります。今まで勤務医を雇っていた場合は、その勤務医と相談してみるのも良いでしょう。勿論、今から勤務医を募集しても良いでしょう。以下の方法には、いずれも困難が伴いますが、あなたが罪を反省し、地域医療の維持発展に情熱をお持ちなら、おのずと道は開けてくると思います。

1、医療法人の理事として仕事をする
医療法人は、病院、医師(歯科医師)が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を運営する社団又は財団で、医療法の規定により、都道府県知事の認可を受けて設立される法人(医療法39条)です。法人には、民法等の公益法人(社団と財団。平成20年民法改正施行により許可ではなく、公益法人との認定により認められます。後記認定法参照)、と営利法人(例えば会社)、がありますが(事務所事例集818番参照)、医療法人は、医療法という特別法により認められた公益法人(社団、財団)です。公益か営利かの判断は、構成員、寄付者に収益を分配するかどうかで決まりますから、収益事業(医師業務)を行い、そこから医師が給与をいただいても何ら問題ありません。平成18年の第5次医療法改正(平成19年4月1日施行)により、医療法人の非営利性が徹底化され、解散時の残余財産の帰属を定款で定める場合は、「国若しくは地方公共団体又は医療法人その他の医療を提供する者であって厚生労働省令で定めるもののうちから選定されるようにしなければならない」と規定され(法44条5項)、新設の医療法人は全て「持分の定めのない」医療法人とされることとなりました。持ち分の定めがないというのは、社団の構成員が法人を退社するときに法人に出資等した財産の払い戻しができないということです(従来はほとんどが持ち分の定めがありました)。さらに、残余財産は公的な機関、団体等に帰属し公益性を徹底したのです(改正前は個人を帰属先にすることができました)。人間と異なり有形の形がない公益法人の内部業務を決定執行し、対外的に代表するには機関が必要でありそれが理事です。

医療法人には役員として、原則として理事3人以上及び監事1名以上を設置することが必要です。理事の欠格事由(医療法46条の2第2項)を列挙します。
1  成年被後見人又は被保佐人
2  この法律、医師法 、歯科医師法 その他医事に関する法令の規定により罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して二年を経過しない者
3  前号に該当する者を除くほか、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者

従って、2項3号の解釈からあなたがもし、実刑判決を受けた場合は刑期満了まで、執行猶予判決を受けた場合は執行猶予期間満了まで、理事に就任することはできません。生活の必要性があるのでその期間は、医療法人の職員(医療事務)に採用してもらうと良いでしょう。公益性があり資格を制限しているのです。医療法人の理事長は原則として医師(歯科医師)である必要がありますが(都道府県知事の許可があれば医師でなくても可能です)、理事長以外の理事は、医師でなくても(医師免許取消処分を受けた者でも)就任することができます(法46条の3)。理事は、公益法人の内部業務を執行し法人を代表する機関ですが、個別的に行う患者の医療行為とは別の職務であり、医師でなくても理事になることができるのです。学校法人で、教職をとる先生と学校の理事が異なるのと同じです。理事の仕事は、医療法46条の4第3項「医療法人の業務は、定款又は寄附行為に別段の定めがないときは、理事の過半数で決する。」に規定されるとおり、医療法人の業務に関する意思決定を行うことです。会社で言うと取締役に似ていますね。経営に関する意思決定を行います。新しい医療設備を導入したり、人事計画を定めたり、社員総会に提出する議題を考えたりします。あなたが長年医院を運営してきたなら、きっとその経験を生かすことができると思います。あなたは医療法人から仕事に応じた相当額の役員報酬を受けることができます。

医療法人設立申請の書式(東京都)をリンクしますので参考にして下さい。

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shinsei/ninka/iryohojin/index.html

2、医院の不動産・医療機器・設備の賃貸人(大家)として仕事をする
現在、医院の不動産物件の所有権を有している場合は勿論、賃貸で行っている場合でも、「転貸」の大家として、不動産の管理業務を継続することができます。この業務を行う株式会社などの法人を設立・経営することも考えられます。不動産の所有権を有している場合は、新しい医院の院長との間で、「賃貸借契約書」を締結します。現在賃貸で医院を運営している場合は、大家さんと協議して、現在の契約を、「転貸可能」な契約へと変更(契約の更改、民法513条)する事をお願いしてみましょう。通常の契約書では「転貸」は不可能もしくは個別許可が必要となっていることが多いと思います。賃貸借契約は、容易に所有権を移転できないような価値の大きな物件を対象とした貸借が想定され、当事者の信頼関係が大事であると考えられているからです。民法にも規定があります。

民法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
第2項  賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

そこで、賃貸のままで医院を運営するには、現在の大家さんとの間で「不動産賃貸借契約書」を作り直すか、「更改契約書」を作り、新たな医院の院長との間で、転貸可能な特約の付いた「不動産転貸契約書」を締結します。賃貸の場合に、大家さん側の希望と一致すれば、不動産所有権を買い取ることも考えられます。なかなかタイミングが合わないと思いますが、大家さんから所有権を買い取って賃貸に回すことも選択肢の一つであるということです。この場合は、大家さんとの間で「不動産売買契約書」を作成し、新しい医院の院長との間で「不動産賃貸借契約書」を締結します。

3、医療事務を請け負う会社を経営する
新しく会社を設立し、医院を運営する医師と、医療事務の請負契約(民法632条)を締結します。従来の従業員に対して、従来同様の条件を提示し、勤務継続を了解してもらえれば、再度労働契約を締結し、医院の運営は従来どおりにすることができます。「医療事務請負契約書」「労働契約書」が必要となります。医療事務サービスの提供について、新しい医師と、従来のスタッフと協議して、運営していくことができます。経営者であるあなたも、当然、レセプト作成について勉強しなおす必要があると思います。この方法は、ある程度の規模の医院でないと、会社規模として営業することは困難な可能性があります。

参考例として、規模は大きいですが、上場企業であるニチイ学館のリンクを紹介します。

http://www.nichiigakkan.co.jp/top/index.html

看護師と歯科衛生士については、労働者派遣法4条1項3号(施行令第2条)で、派遣業務が禁止されていますので、従来の看護師や歯科衛生士は、新しい医師と再度雇用契約してもらうしかないでしょう。

≪条文参照≫

民法
第三章 法人
(法人の成立等)
第三十三条  法人は、この法律その他の法律の規定によらなければ、成立しない。
2  学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益を目的とする法人、営利事業を営むことを目的とする法人その他の法人の設立、組織、運営及び管理については、この法律その他の法律の定めるところによる。

医療法
第三十九条  病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる。
2  前項の規定による法人は、医療法人と称する。
第四十条  医療法人でない者は、その名称中に、医療法人という文字を用いてはならない。
第四十条の二  医療法人は、自主的にその運営基盤の強化を図るとともに、その提供する医療の質の向上及びその運営の透明性の確保を図り、その地域における医療の重要な担い手としての役割を積極的に果たすよう努めなければならない。
第四十四条  医療法人は、都道府県知事の認可を受けなければ、これを設立することができない。
2  医療法人を設立しようとする者は、定款又は寄附行為をもつて、少なくとも次に掲げる事項を定めなければならない。
一  目的
二  名称
三  その開設しようとする病院、診療所又は介護老人保健施設(地方自治法第二百四十四条の二第三項 に規定する指定管理者として管理しようとする公の施設である病院、診療所又は介護老人保健施設を含む。)の名称及び開設場所
四  事務所の所在地
五  資産及び会計に関する規定
六  役員に関する規定
七  社団たる医療法人にあつては、社員総会及び社員たる資格の得喪に関する規定
八  財団たる医療法人にあつては、評議員会及び評議員に関する規定
九  解散に関する規定
十  定款又は寄附行為の変更に関する規定
十一  公告の方法
5  第二項第九号に掲げる事項中に、残余財産の帰属すべき者に関する規定を設ける場合には、その者は、国若しくは地方公共団体又は医療法人その他の医療を提供する者であつて厚生労働省令で定めるもののうちから選定されるようにしなければならない。
第四十六条の二  医療法人には、役員として、理事三人以上及び監事一人以上を置かなければならない。ただし、理事について、都道府県知事の認可を受けた場合は、一人又は二人の理事を置くをもつて足りる。
2  次の各号のいずれかに該当する者は、医療法人の役員となることができない。
一  成年被後見人又は被保佐人
二  この法律、医師法 、歯科医師法 その他医事に関する法令の規定により罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつた日から起算して二年を経過しない者
三  前号に該当する者を除くほか、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなるまでの者
第四十六条の三  医療法人(次項に規定する医療法人を除く。)の理事のうち一人は、理事長とし、定款又は寄附行為の定めるところにより、医師又は歯科医師である理事のうちから選出する。ただし、都道府県知事の認可を受けた場合は、医師又は歯科医師でない理事のうちから選出することができる。
2  前条第一項ただし書の規定に基づく都道府県知事の認可を受けて一人の理事を置く医療法人にあっては、この章(次条第二項を除く。)の規定の適用については、当該理事を理事長とみなす。

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律
(趣旨)
第一条  一般社団法人及び一般財団法人の設立、組織、運営及び管理については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。(定義)
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一  一般社団法人等 一般社団法人又は一般財団法人をいう。

公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律
第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は、内外の社会経済情勢の変化に伴い、民間の団体が自発的に行う公益を目的とする事業の実施が公益の増進のために重要となっていることにかんがみ、当該事業を適正に実施し得る公益法人を認定する制度を設けるとともに、公益法人による当該事業の適正な実施を確保するための措置等を定め、もって公益の増進及び活力ある社会の実現に資することを目的とする。
(定義)
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一  公益社団法人 第四条の認定を受けた一般社団法人をいう。
二  公益財団法人 第四条の認定を受けた一般財団法人をいう。
三  公益法人 公益社団法人又は公益財団法人をいう。
四  公益目的事業 学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものをいう。

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