新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.855、2009/3/27 18:26

【民事・相続財産(不動産)の調査方法・名寄台帳・固定資産課税台帳】

質問:父が突然亡くなりました。実家は農家で、長男である私が家を継ぐ予定です。父から、かなりの数の田畑があると聞いていましたが、私が把握しているのは、実際に耕作している田畑だけです。父の遺産について弟妹に説明する必要もありますので、父の持っていた田畑を把握したいのです。@どうしたら知ることができますか。A父が生前に弟に不動産を贈与していたとも聞いています。贈与した不動産について調べることはできるのでしょうか。

回答:
@1番目の方法として、お父様の自宅に納税通知書・権利証・土地の賃貸借契約書などがないかを探してみましょう。それらの書類には、お父様名義の不動産、あるいはお父様名義だった不動産が記載されています。記載された不動産は、売却等で名義が変わっている場合もありますので、登記事項証明書で現在の所有者を確認して、相続財産に含まれる否かを確認する必要があります。2番目の方法として、市区町村役場でお父様名義の名寄帳を閲覧する方法があります。名寄帳(「名寄台帳」とも言われ、以下、「名寄台帳」といいます。)は、その名のとおり、所有者の「名前」ごとに作成された台帳です。名寄台帳には、その市区町村内にあるお父様名義の全ての不動産の所在、面積、固定資産税評価額などが記載されています。ただし、年度途中で売却されていた場合でも、それが反映されるのは翌年の台帳からになりますので、この方法でも相続財産であるか否かの判断は登記事項証明書をみてからになります。

A名寄台帳は、1月1日現在の所有者の名前を基準に作成されています。過去の名寄台帳と現在の名寄台帳を取得して比較してみましょう。過去の台帳に記載されていて現在の台帳に記載されていないものは、売買、贈与等で、お父様名義から他人名義に変わったということですから、該当する不動産の登記事項証明書を法務局で取得して、現在の所有者およびその不動産を取得した理由を確認することで、弟さんに贈与されたものであるか否か調べることができます。

B尚、未登記の不動産は適正な課税のために補充課税台帳に記載されていますので、未登記のものでも名寄せ帳に記載されています。ただ、お父様が、個人財産を法人名義にしている場合は調査できませんので、法人名義の不動産(法人名寄帳)を別途調査することになります。会社の委任状があれば閲覧できます。以下解説します。

解説:
1.名寄台帳とは
各市町村が、固定資産課税台帳に基づき同一納税義務者ごとにその者が所有するその市町村内の土地及び建物についての登録事項について、記載、備えている台帳です(地方税法第387条1項)。土地については土地名寄帳、建物については建物名寄帳といいますが、一般には、両方をあわせて名寄(台)帳と呼ぶことが多いです。どうして市町村(東京なら区ごと)は名寄帳を備えなければならないかというと、税金の適正な課税を行うためです。即ち、個人の有する不動産に対する課税を適正に行うために固定資産課税台帳の中から個人ごとに全不動産を集め記載し、面積等により税金の計算を公正にしています。課税権(憲法30条)は、地方自治分権独立の原則から地方公共団体にも与えられていますから(憲法94条)、市町村ごとに名寄帳がおかれているのです。名寄台帳にはある人物がその市町村内に所有する土地および建物が、固定資産課税台帳に基づいて一覧できるようになっています。この台帳は、同条3項により、納税義務者が閲覧できるようになっています。税金は国民から強制的に財産を徴収するものですから、公正な法律に基づかなければならず(憲法84条、租税法律主義)、国民がどのような理由により課税されるかを確認出来るようにして不当不公正な課税を防ぐ趣旨に基づいています。ご相談のケースでは、貴方はお父様の相続人ですから、その関係を証明できれば、お父様名義の名寄台帳を閲覧することができます。ただ、名寄台帳は市区町村ごとに備えられていますので、お父様名義の不動産があるかどうかは、存在することがわかっている、あるいは、予測される市町村にそれぞれ閲覧の請求をする必要があります。例えば、ある市町村に不動産があることを誰も知らず、予測もできないような場合には、この不動産については、遺産分割の際には遺産からもれてしまう可能性がことになります。

地方税法
(土地名寄帳及び家屋名寄帳)
第387条 市町村は、その市町村内の土地及び家屋について、固定資産課税台帳に基づいて、総務省令で定めるところによつて、土地名寄帳及び家屋名寄帳を備えなければならない。
2 市町村は、総務省令で定めるところにより、前項の土地名寄帳又は家屋名寄帳の備付けを電磁的記録の備付けをもつて行うことができる。
3 市町村長は、納税義務者から第382条の2第1項の規定による求めがあつたときは、土地名寄帳又は家屋名寄帳に固定資産課税台帳の登録事項と同一の事項が記載(当該土地名寄帳又は家屋名寄帳の備付けが前項の規定により電磁的記録の備付けをもつて行われている場合にあつては、記録。次項において同じ。)をされている場合に限り、同条第一項の規定により当該納税義務者の閲覧に供するものとされる固定資産課税台帳又はその写しに代えて、土地名寄帳若しくはその写し(当該土地名寄帳の備付けが前項の規定により電磁的記録の備付けをもつて行われている場合にあつては、当該土地名寄帳に記録をされている事項を記載した書類。次項において同じ。)又は家屋名寄帳若しくはその写し(当該家屋名寄帳の備付けが前項の規定により電磁的記録の備付けをもつて行われている場合にあつては、当該家屋名寄帳に記録をされている事項を記載した書類。次項において同じ。)を当該納税義務者の閲覧に供することができる。
4 市町村長は、前項の規定により土地名寄帳若しくはその写し又は家屋名寄帳若しくはその写しを閲覧に供する場合においては、土地名寄帳又は家屋名寄帳に記載をされている事項を映像面に表示して閲覧に供することができる。

2.固定資産課税台帳とは
では、名寄台帳の基となる固定資産課税台帳とはどのようなもので、何が記載されているのでしょうか。固定資産課税台帳については、地方自治法第381条に規定されています。

地方税法
(固定資産課税台帳等の備付け)
第381条 市町村は、固定資産の状況及び固定資産税の課税標準である固定資産の価格を明らかにするため、固定資産課税台帳を備えなければならない。

固定資産課税台帳とは、@土地課税台帳、A土地補充課税台帳、B家屋課税台帳、C家屋補充課税台帳及びD償却資産課税台帳を総称して言います(地方税法第341条第9項)。各台帳の対象となる固定資産、記載される事項は以下のとおりになります。

@土地課税台帳(地方税法第341条第10項、第381条第1項)
土地課税台帳に記載されている土地は、登記簿に登記されている土地です。台帳に記載される事項としては、所有者の住所氏名又は名称、その土地の所在・地番・地目・地積及び所有権、質権及び100年より長い存続期間の定めのある地上権の登記名義人の住所及び氏名又は名称並びにその土地の基準年度の価格又は比準価格等が記載されています。
A土地補充課税台帳(地方税法第341条第11項)
この台帳に記載される土地は、登記簿に登記されていない土地で、かつ、地方税法の規定によって固定資産税を課することができる土地です。各土地の所有者の住所氏名又は名称、その土地の所在・地番・地目・地積及び基準年度の価格又は比準価格が記載されています。
B 家屋課税台帳(地方税法第341条第12項)
この台帳には、登記簿に登記されている家屋(マンションの共用部分を含む)が記載されています。所有者の住所氏名または名称、家屋の所在、家屋番号、種類、構造、床面積及び基準年度の価格又は比準価格等が記載されています。
C 家屋補充課税台帳(地方税法第341条第13項)
この台帳は、登記簿に登記されている家屋以外の家屋で、かつ、地方税法により固定資産税を課することができる家屋です。家屋台帳同様、所有者の住所及び氏名又は名称並びにその所在、家屋番号、種類、構造、床面積及び基準年度の価格又は比準価格が記載されています。
D 償却資産課税台帳(地方税法第341条第14項)
償却資産については、償却資産の所有者の住所氏名または名称、償却資産の所在、種類、数量及び価格が記載されています。

3.名寄台帳(固定資産課税台帳)の閲覧・証明書の申請の手続き
誰でも閲覧・証明書の申請ができる不動産登記簿と異なり、名寄台帳等の閲覧・証明書の申請は原則として納税義務者等に限られています。これは、不動産登記簿は不動産土地引きの安全を保護するため一般への公示が予定されているのに対して(民法177条)、名寄台帳は、元々固定資産税の課税事務の必要性に基づいて作成されており、不当に課税される国民の利益を考え閲覧を許しているからです。さらに、名寄台帳には、その不動産の価値ともいえる、固定資産の価格が記載されています。これを所有者以外の第三者にその了解をなくして見せたり、その写しを交付したりすることは、財産上の情報・秘密を漏らすことになるからです。名寄台帳の閲覧・申請をできる人は原則納税義務者本人で、固定資産課税台帳の閲覧・申請については、納税義務者本人以外に、納税管理人、本人から委任または同意を受けた人、借地人・借家人からも関係する書類を提示すれば、閲覧・交付を受けることが可能です。

4.名寄台帳証明書を申請する
名寄台帳は、郵送でできます。市区町村の用意する所定の申請書に必要事項を記入し、指定された書類(本人確認書類、委任状等)と、規定の手数料(小為替等)、切手を貼った返信用封筒を同封して郵送で請求します。ご相談のケースでは、亡くなったお父様名義のものを申請しますので、貴方が相続人であることを証明する書面(戸籍謄抄本等)を同封することになります。詳しくは各市町村にお問い合わせ下さい。

5.注意点
名寄台帳等は、1月1日現在の所有者名で作成されます。例えば、7月にお父様がある土地を売却された場合に、8月に名寄台帳を取得すると、売却した土地がお父様の台帳に記載されています。ですので、名寄台帳に記載された土地全てがお父様名義の不動産であるとは限らないので、念のため登記事項証明書を取得して現在の名義人が誰であるのかを調べる必要があります。なお、上述していますが、この方法は申請した市町村内にあるお父様名義の不動産しか把握できませんので、お父様名義の全ての不動産を完璧に把握するという方法ではありません。まれに、ひいおじいさん名義の土地が見つかった、などという話を聞いたりするのも、その所有する不動産を完全に把握する方法がないことが原因です。多くの不動産を所有するような場合には、生前から土地の一覧を作成するなどして、自分の死後、相続人が戸惑うことのないように準備しておくことも必要かもしれません。又被相続人が資産家で有れば、個人会社の法人名義にしている場合も有りますので、法人所有の不動産も調査の対象とする必要があるでしょう。

《条文参照》

憲法
第三十条  国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
第八十四条  あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
第九十四条  地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

民法
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第百七十七条  不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

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