新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.849、2009/2/12 13:40 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

【民事・根保証・平成17年改正前の根保証契約の解釈・信義則】

質問:結婚中に夫の借金について包括根保証人になっていました。最近、離婚した後に元夫が借りた借金についても、私が保証人であるからと言って請求が来るのですが、支払う義務があるのですか?

回答:
1.借金をする契約を金銭消費貸借契約といいます。特定の金銭消費貸借契約の保証人になるとたとえ離婚したからと言って保証人であることに変わりはなく、保証人の責任(「保証債務」といいます)に変わりはないので、元夫が支払いを怠るとあなたのところに請求が来ます。また、元夫が借金を支払いさえすれば、保証債務も消滅しますのであなたが請求されることはありません。このように保証債務は保証する対象の債務が特定されているのが通常です(保証債務の附従性といいます)が、それとは別に根保証という契約があります。根保証とは、債務者が債権者に対して現在有し、または将来有するであろう「一切の債務」について、保証人が債務者と連帯して保証する保証形態です。この場合、附従性はないので、債務を弁済しても再度借り入れるとその債務の保証をすることになります。
2.勿論、根保証をすると一生責任を負うわけではなく、「元本確定期日」までに債務者が負担した債務を保証することになります。元本確定期日は、通常、契約書に記載されていますので確認してみて下さい。記載が無い場合は、契約から3年で確定(民法465条の3)します。
3.したがって、あなたが根保証を締結していた場合、元本確定期日前に元夫が負担した債務については、婚姻中はもちろん離婚後に元夫が借りた借金についても支払い義務があることになります。
4.なお、平成16年の民法の改正により、限度額を定めない包括根保証契約は無効になりましたので、あなたの契約内容とその締結した時期をご確認ください。
5.また、仮に包括根保証を改正前に締結していたとしても、包括根保証契約の補償範囲について信義則を根拠として制限する判決も存在しますので、かならずしも支払う義務があるとは言い切れません。弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
6.事務所法律相談データベース736番、635番、618番、440番、416番も参考にしてください。

解説:
1.平成16年民法改正後の包括根保証契約
従来より、保証金額や保証期限に定めのない包括根保証は、保証人が過大な責任を負う可能性のあることや、経営者の新たな事業展開や再起を阻害するとの指摘がなされていました。このため、平成16年3月より、保証制度の適正化に関する審議が開始され、包括根保証を禁止する内容の民法改正法が平成16年11月に成立し、平成17年4月1日から施行されています。改正のポイントとしては、@書面での契約を要件としたこと(民法465条の2第3項による446条2項及び3項の準用)A極度額の定め(465条の2第2項)B保証する債務の期間を限定したこと(465条の3)が挙げられ、いずれも、改正前の包括根保証により保証人が過大な責任を負わされてきた反省に基づいたものです。したがって、包括根保証契約が平成17年4月1日以降に締結されているのであれば、あなたにもこの改正法が適用されますので、@包括根保証契約を書面により締結していなければ無効A極度額が定められていないということで無効B離婚後の元夫の借金が包括根保証契約締結の日から3年経過後のもの(あるいは確定日を5年以内の日を定めていればその日以降)であれば保証されないなどの主張により、支払いを拒むことができるものと考えられます。

2.平成16年改正以前の包括根保証契約
これに対して、あなたと金融機関との間の包括根保証契約が平成17年4月1日以前に締結したものであった場合には、先の@からBの主張が認められません。しかし、民法の改正が、包括根保証を結んだ保証債務者の保護を目的としてなされていることからすると、包括根保証契約の締結の時期が平成17年4月1日の前後で大きく扱いを異にするのは妥当ではないとも思われます。あなたの相談内容に似た事例として、大阪高等裁判所平成18年10月4日判決があります。事案は、主債務者の委託を受けた信用保証会社が代位弁済し、その回収業務の委託を受けた原告(債権管理回収会社)から包括根保証人である被告に対して保証債務の履行を求めたものです。原告は主債務者の居住用マンションの取得のための借入(第1貸付)、カードローンによる借入(第2貸付)、不動産投資のための借入(第3及び第4貸付)のすべてについて包括根保証契約締結を理由としてその履行を求めていたものの、裁判所は判決において、貸付の性質やその経緯、さらには平成16年改正の趣旨をも考慮し、信義則を根拠として包括根保証の範囲を第1及び第2貸付のみに制限したものです。なお、主債務者と包括保証人は夫婦でしたが第3貸し付けに先立って離婚していました。

3.平成18年10月4日判決の解説
(1)貸付金の性質について
裁判所は、第1貸付の性質が居住用マンション取得のためのローンであり、また、第2貸付が単なるカードローンであることを理由として、「これらについて被告が保証債務を負担しないとする理由はない」としていますが、これは当然のことと考えられます。すなわち、これらの貸し付けを受けた時点において主債務者と保証人とは夫婦であったわけですから、その住居の購入と生活費の借り入れは夫婦が一体となることに特段の異義はないものでしょう。これに対して、第3及び第4貸付は、主債務者が、被告と離婚した後に銀行の担当者の強い勧めに応じて不動産投資のために借り入れたもので、被告との婚姻関係中にその生活に必要な貸し付けではありませんでしたし、貸付の性質からまったく別個と考えられます。また、その金額も、第1貸付が1240万円であるのに1億5700万円と巨額であり、もはや別口の貸し付けと言わざるを得ないものといえます。

(2)各貸付の経緯
また、第3及び第4貸付は、その貸し付けにあたり、銀行担当者から被告に対して個別に保証人になることを求めたものの被告がこれを拒絶したことや、被告に拒絶されたために保証会社の保証のみで貸付が行われたことからも、包括保証契約による保証の対象とは認めがたいとされたものと思われます。

(3)貸付元である銀行の運用
このほか、貸付銀行の運用として、保証人の側から特に申し出がない限り包括根保証契約書を使用して保証契約を締結していたという事情もありました。このような運用では、保証人に対して包括根保証契約の重要性・危険性について十分な説明がなされたとは考え難いですし、他方で銀行としても、保証契約の中でもことさらに包括根保証契約を締結することを意図していたものとは推察しがたいといえます。

(4)以上の事情によると、この事案における銀行と被告との間の保証契約は極度額を定めない根保証契約であると評価できますし、判決においてもそのように認定されています。そして、判決時にはすでに平成16年改正による民法が施行されていたこともあり、「改正後の民法施行前の本件包括根保証契約に基づく保証責任について考察する場合にも、その趣旨を十分考慮して判断することを要することを総合して勘案」し、被告の保証債務の範囲を信義則によって制限し、第3及び第4貸付には及ばないものと判断しました。この判断は、法的評価の安定・公平を念頭において下されたもので、その結論の妥当性は高く評価されるべきものと考えられます。

4.したがって、あなたの保証契約も、極度額を定めない包括根保証に基づくものであれば、全額の支払い義務を負わなくてもよい可能性がありますので、早めに弁護士にご相談されるようにしてください。

《参照条文》

民法
(保証人の責任等)
第四百四十六条  保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
2  保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3  保証契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
(貸金等根保証契約の保証人の責任等)
第四百六十五条の二  一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く。以下「貸金等根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2  貸金等根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3  第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、貸金等根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。
(貸金等根保証契約の元本確定期日)
第四百六十五条の三  貸金等根保証契約において主たる債務の元本の確定すべき期日(以下「元本確定期日」という。)の定めがある場合において、その元本確定期日がその貸金等根保証契約の締結の日から五年を経過する日より後の日と定められているときは、その元本確定期日の定めは、その効力を生じない。
2  貸金等根保証契約において元本確定期日の定めがない場合(前項の規定により元本確定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。)には、その元本確定期日は、その貸金等根保証契約の締結の日から三年を経過する日とする。
3  貸金等根保証契約における元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日がその変更をした日から五年を経過する日より後の日となるときは、その元本確定期日の変更は、その効力を生じない。ただし、元本確定期日の前二箇月以内に元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日が変更前の元本確定期日から五年以内の日となるときは、この限りでない。
4  第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、貸金等根保証契約における元本確定期日の定め及びその変更(その貸金等根保証契約の締結の日から三年以内の日を元本確定期日とする旨の定め及び元本確定期日より前の日を変更後の元本確定期日とする変更を除く。)について準用する。

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