新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.848、2015/1/21 15:01 https://www.shinginza.com/chikan.htm

【刑事・略式手続きについての被疑者の同意後・不起訴処分の可能性があるか】

質問:私の夫が、通勤電車内で痴漢をしたという容疑で逮捕されました。被害者と示談が成立すれば不起訴処分になる可能性があるということは法律事務所のホームページ等を見て知っていました。しかし夫は、翌日の検察官の取調べで、検察官から、罰金を払えば早く出られる、今承諾しなければあと10日間留置場に入れる、といわれ、会社の勤務もあり略式起訴に同意する書面にサインをしてきてしまいました。今からでも被害者と示談をして、不起訴処分にしてもらうことはできませんか?

回答:
1.痴漢事件(迷惑防止条例違反事件)については、被害者と示談が成立し、同種前科などがなければ、不起訴処分になる可能性が高いといえます。一方で略式起訴による罰金刑は、罰金を払うだけの手続ではありますが、有罪判決であり、前科になります。不起訴処分にしてもらうことを望む場合には、一刻も早く弁護人を選任し、略式起訴の手続をストップしてもらうのがよいでしょう。その上で、弁護人に依頼して示談交渉をしてもらってください。
2.事務所法律相談データベース事例集538番も参考にしてください。

解説:
1.起訴とは、検察官が裁判所に対して、被告人について公判を開き、刑事処分を下すように求める手続を言います。検察官は、起訴について広範な裁量権を持っています(起訴便宜主義。起訴便宜主義については、当HPの多数の事例で詳しく解説されていますのであわせて参照してください)。起訴されれば、被告事件について公判が開かれます。公判(裁判)は、公平な裁判所の元で検察と被告人のそれぞれの主張や証拠を吟味して処分を決めるものですから、被告人にとっても、自分の言いたいことを主張するための重要な機会であるといえます。例えば、自分はやっていない、無罪だ、というときに、それをいう機会を与えられずに刑罰が課されるようなことは絶対にあってはならないことです。これは、国家の最高法規である憲法31条および32条において保障される基本的人権です。

2.しかし、自分の犯してしまった犯罪について特に争いたいことも無く、処罰の内容についても納得している被告人にとって、公開の法廷で自らの罪について明らかにされることは被告人にとって無益であることもあり、手続の無駄にもなります。そこで、制度の趣旨について充分に説明を受け、正式裁判の請求もできることを条件に、被告人が書面で同意すれば、略式起訴という手続によって事件を終了させることができます(刑事訴訟法460条以下)。略式起訴の手続がとられると、裁判所は、被告人に対し罰金の支払を命ずる判決をくだします。

3.略式起訴は、身柄拘束等を受けて不安になっている被告人からすれば、「お金を払えば解放してもらえる」という点で非常に魅力的です。書面による同意が要求されていますが、実際は定型の書式にサインをするだけです。法律で要請されていますので、検察官はある程度の説明はすることになっていますが、「弁護士に頼んで示談すれば不起訴の可能性もある」とまでは説明しません(そこまでの義務があるとはいいにくいでしょう)極限の精神状態にある被告人が、正確に理解できるかも難しいと思います。

4.したがって、検察官の略式起訴の申し出に対し、無罪を主張するならまだしも、示談して不起訴を、という理由でこれを断る被告人はほぼいないと考えられます。実際に当事務所でも、ご家族からの相談をお受けしている最中に、被疑者本人が、罰金刑の略式起訴に同意して釈放されて出てきてしまった、というケースはよくあります。

5.では、一度サインした略式起訴の承諾を、撤回することができるでしょうか。この点法律は、後日の正式裁判の請求を認めますが、承諾の撤回について定めていません。撤回が認められるのは、461条の2に反するような場合に限られると考えられます。略式命令は、461条の手続、すなわち検察官が裁判所に対して略式命令を請求してしまうと、撤回は難しくなるでしょう。しかし、当事務所ではこれまで、略式命令の承諾書類にサインをしてきた被疑者について、検察官が請求を裁判所に提出する前に受任し、検察官に略式起訴の手続をストップするよう要請、検察官の協力を得て、示談、不起訴にこぎつけた事例があります。これは、検察官の協力が必要ですが、弁護人がすばやく対応することにより、検察官の理解を得られる場合があるということです。ただしこれは、略式命令の書類にサインをして、身柄を解放されてから、できるだけ早く弁護士を依頼して検察官と交渉してもらう必要があります。もしご家族にそのような方がいらっしゃる場合は、できるだけ早く弁護士に相談してください。

<参照条文>

刑事訴訟法
第四百六十一条  簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、百万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。
第四百六十一条の二  検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることについて異議がないかどうかを確めなければならない。
○2  被疑者は、略式手続によることについて異議がないときは、書面でその旨を明らかにしなければならない。
第四百六十二条  略式命令の請求は、公訴の提起と同時に、書面でこれをしなければならない。
○2  前項の書面には、前条第二項の書面を添附しなければならない。
第四百六十三条  前条の請求があつた場合において、その事件が略式命令をすることができないものであり、又はこれをすることが相当でないものであると思料するときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。
○2  検察官が、第四百六十一条の二に定める手続をせず、又は前条第二項に違反して略式命令を請求したときも、前項と同様である。
○3  裁判所は、前二項の規定により通常の規定に従い審判をするときは、直ちに検察官にその旨を通知しなければならない。
○4  第一項及び第二項の場合には、第二百七十一条の規定の適用があるものとする。但し、同条第二項に定める期間は、前項の通知があつた日から二箇月とする。
第四百六十三条の二  前条の場合を除いて、略式命令の請求があつた日から四箇月以内に略式命令が被告人に告知されないときは、公訴の提起は、さかのぼつてその効力を失う。
○2  前項の場合には、裁判所は、決定で、公訴を棄却しなければならない。略式命令が既に検察官に告知されているときは、略式命令を取り消した上、その決定をしなければならない。
○3  前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
第四百六十四条  略式命令には、罪となるべき事実、適用した法令、科すべき刑及び附随の処分並びに略式命令の告知があつた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる旨を示さなければならない。
第四百六十五条  略式命令を受けた者又は検察官は、その告知を受けた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる。
○2  正式裁判の請求は、略式命令をした裁判所に、書面でこれをしなければならない。正式裁判の請求があつたときは、裁判所は、速やかにその旨を検察官又は略式命令を受けた者に通知しなければならない。
第四百六十六条  正式裁判の請求は、第一審の判決があるまでこれを取り下げることができる。
第四百六十七条  第三百五十三条、第三百五十五条乃至第三百五十七条、第三百五十九条、第三百六十条及び第三百六十一条乃至第三百六十五条の規定は、正式裁判の請求又はその取下についてこれを準用する。
第四百六十八条  正式裁判の請求が法令上の方式に違反し、又は請求権の消滅後にされたものであるときは、決定でこれを棄却しなければならない。この決定に対しては、即時抗告をすることができる。
○2  正式裁判の請求を適法とするときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。
○3  前項の場合においては、略式命令に拘束されない。
第四百六十九条  正式裁判の請求により判決をしたときは、略式命令は、その効力を失う。
第四百七十条  略式命令は、正式裁判の請求期間の経過又はその請求の取下により、確定判決と同一の効力を生ずる。正式裁判の請求を棄却する裁判が確定したときも、同様である。

参考刑罰法規
刑法176条 強制わいせつ罪
  十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上七年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
刑事訴訟法235条
 親告罪の告訴は、犯人を知った日から6箇月を経過したときは、これをすることができない。ただし、次に掲げる告訴については、この限りでない。
一 刑法第176条から第178条まで、第225条若しくは第227条第1項(第225条の罪を犯した者を幇助する目的に係る部分に限る。)若しくは第3項の罪又はこれらの罪に係る未遂罪につき行う告訴

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(抜粋)
(東京都迷惑防止条例、東京都以外の各道府県でもほぼ同様の条例が制定されています。)
第5条(粗暴行為の禁止)
1項 何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。
第8条(罰則)
1項 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
  1 第2条の規定に違反した者
  2 第5条第1項の規定に違反した者
3項 常習として第一項の違反行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

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