新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.789、2008/5/12 15:13 https://www.shinginza.com/sakimono.htm

【海外商品先物オプション取引・オプション取引その構造・特色・損害が出た場合の対策】

質問:私は、62歳の主婦です。以前地方公務員として勤務していた頃の預金等で貯蓄の意味で数年株の取引経験があります。先日、ある業者から、何度も電話がありお会いしたところ、海外におけるコーヒー等の商品先物オンプション取引を勧められました。投資額が少なくて利益が出やすく、損失も限定的である。通常の商品先物取引、株式の信用取引と違い追加証拠金(追証)もないというのです。本当に商品先物オプション取引は安全な取引なのでしょうか。そもそもオプション取引って何ですか。取引をして損害が出た場合対策はあるのですか。勿論私は先物取引をしたこともありません。

回答:
1.貴女のご経歴では、コーヒー等の海外商品先物引オプション取引をお勧めできません。

2.商品先物オプシヨン取引自体が安全であるということはありません。むしろ投機的取引の色彩が強く、一般の家庭の主婦が直ぐに理解できる取引ではありません。

3.先物取引、及びオプション取引もデリバティブ(日本語では派生商品という意味です)すなわち、金融派生商品といわれる取引ですから、例えば、株式売買、現物商品売買、為替取引等もともとの金融商品の取引自体を十分理解した上でないと、更に複雑な金融派生商品の取引行為をご自分の判断で行う事は困難です。オプション取引(本件の他に国内ですと大阪証券取引の日経平均株価オプション取引等があります)は、一般人にとり先物取引より更に複雑で投機予測が困難な取引となっていますから、長期の投資取引経験、知識、金融投資資金がない人には、自らの資産保持の面から危険性を伴う商取引です。後述の判例も、投資経歴、投資理解能力、投資資金の有無を重視しています。

4.万が一、一般の主婦等社会人が業者の電話勧誘等で理解できないままに、以上のようなオプション取引を行い損害が生じた場合には、民法、商法の一般原則、複雑で投機的色彩が強い商取引を規制する法律、例えば平成19年施行金融商品取引法(旧証券取引法が旧金融先物取引法等も取り入れ改正されました)、商品取引所法、海外先物規制法(略称)等を根拠に損害賠償をすることも可能です。諦めないでお近くの法律事務所にご相談ください。

5.当事務所事例集のbV23、bU38、bU15、bU14、bU09、bT94、bT93、bQ82等も参考にしてください。

解説:
1.貴女が勧誘を受けた取引は、海外の商品取引所で取引されているコーヒー等の商品先物取引に関するオプション取引ですから、海外商品先物オプション取引ということが出来ます。この構造は、基本的には商品先物取引とそれを前提とするオプション取引から成り立っていますから、理解する上で分けてご説明します。最後に海外の取引の特殊性をお話します。更に被害が生じた場合の対策も述べます。

2.コーヒー等の取引ですから、商品先物取引について先ずご説明します。
(1)先物取引とは「将来の一定時期に商品(又はある金融商品)の売り渡しする事を約束してその価格を現時点(この点が大切です)で決めておく取引」です。

(2)先物取引については、大きく分けるとコーヒー、金、銀、小豆(赤いダイヤ)、等の通常有体商品の先物取引(規制法律は商品取引所法、略称海外先物規制法)と、有体商品以外の金融商品例えば株価指数、国債、金利、通貨等の先物取引(規制法は金融商品取引法)があります。

(3)そもそも先物取引とは何かといえば、これに対する概念は現物(原資産)取引です。例えば、コーヒー、金、銀、有価証券(株、不動産担保の証券等)、債権、通貨等の一切の商品に関する現物取引です。

(4)先物取引と現物取引の関係は何かというと、経済の実態から言うと取引の本体は、現物取引にあります。大昔は、現物取引が単純で取引額もさほど多くなかった頃は取り決め、法令も単純、簡明でよかったのです。しかし、自由主義経済、市場経済の発達により大量の物資を時間的要素(将来の取引)が加わり複雑になるとこのような現物取引関係を適正、公平、迅速に維持することが当然求められる事になり、まず自然発生的に16世紀後頃から適正公平な現物取引秩序維持のために先物取引相場が出現したのです。最初は、現物取引のリスク回避(ヘッジ)のために相場が出現したのです。すなわち保険のようなものです。又適正な相場は、商品に対する適正な相場を明らかにし、商品を売る人も買う人も安心して取引が出来るようになったのです。

(5)商品先物取引の例ですが、小豆を来年仕入れようとする仕入れ業者は、1年前から価格を決めて生産者と予約しますが、天候により豊作となれば小豆相場は暴落して仕入れた小豆を安値で卸し販売する事になり、莫大な損害が生じます。しかし、そのような損害を填補する保険はありませんから、業者は天候に左右されるような取引ができず、取引自体が停滞し円滑な取引が阻害されることになります。そこで、そのような困った業者の要望に応えて、営業として先物取引相場が自然発生的に創設されました。仕入れ業者は、先物取引市場で、反対権利を同額購入するのです(小豆を売る生産者側の権利、前もって売却価格は決まっていますから、相場が崩れた時利益を得るのは生産者側です)。すなわち、実取引と同量の小豆売りの権利を数%の証拠金(売買代金ではありませんから証拠金といいます。従って、先物取引は少ない証拠金で何十倍の取引が出来るのです)で購入し、万が一相場が崩れても、現物売買での損失を先物相場で回復し、相場が上がって先物市場で損失を受けても、現物取引の利益でその損失を穴埋めすることが出来るのです。相場を利用するには別途取次業者に手数料がかかりますが、取引の必要経費として処理される事になります。以上の現象を生産者側なら見れば、相場の値段変化により小豆の生産量、生産設備への投資等を調整する事が可能となります。更に、このような先物取引市場に業者とは無関係な一般投資家の参入を認め、市場価格の判断をその時々の経済状況を反映した公の意見を集める事により、常に小豆相場の適正な価格を公にし売り手買い手にも公平、適正な取引秩序、市場経済が形成されることを最終目的にしているのです。この仕組みは市場経済にとり必要な制度なのです。

(6)適正公平な現物取引の実現を図るため先物取引は創設されたものであり、現物取引から派生した取引(広義の商品)でありのデリバティブ(金融派生商品)ということになります。以上により、適正な現物取引がなければそもそもそれに関する先物取引も有り得ません。従って、とどのつまり先物取引の予測は全て現物取引の予測に他ならないのです。この理屈は、商品先物取引に限らず全ての先物取引に共通のものです。

(7)しかし、一般の投資家が先物取引に参加するには、十分な予備知識や投資の経験がないと危険です。投資家は本当の業者と違い現物取引の裏づけがないのですから、少額の証拠金で数十倍の取引を行い、一旦損失が出たらこれを担保するものは何もないのです。元々、専門の取り扱い業者が将来の価格を予測できないからこそ、わざわざ手数料を支払い保険のため反対取引を行うのです。そのような1年前後の短期の取引に、取引実態の経験がなく理解も十分でない一般人が対等に予測し、売り買う時期を決断できるはずがありません。ところが、取次業者は形式的書面に署名を重ねて証拠を保全し、先物取引の構造の複雑さを利用し、無知な投資家を事実上誘導して取引を重ねて、主に高額な手数料(手数料は証拠金の額ではなくて数十倍の実際の取引額を基準に算出されますから莫大なものになります。その他向かい玉等の違法行為もあります)を取得しようとするのです。そのため、商品取引所法等で一般投資家保護の規定が種々おかれています。具体的内容は前記当事務所事例集を参照してください。

3.次に、オプション取引について説明します。
(1)オプション取引とは、ある目的物(商品、金融商品等原資産)をあらかじめ決められた期間(又は将来の一定の日)において、あらかじめ決められた一定の価格(又はレート、権利行使価格という。ストライクプライスといいます)買い付けることが出来る権利(又は売付けることが出来る権利、この権利をオプションといいます)を売買する取引です。先物取引と同じような定義になりましたが、売買の対象物が異なります。

(2)先物取引とどこが違うのかというと、先物取引はある目的物自体(商品等例えば、コーヒー、小豆等)を売買する取引なのですが、オプション取引は、目的物(例えば小豆を)を買い付ける事が出来る権利(売付けることが出来る権利)の売買なのです。すなわち、取引の対象が目的物の権利自体ではなく、目的物売買の予約権の売買と考えると分かりやすいと思います。

(3)買い付ける(売付ける)事が出来る権利自体を売買取引の対象にするので、買い付ける権利をコールオプション、売付ける権利をプットオプションといい、双方の権利自体が取引の対象になるので、双方の権利について売り買いが行われます。すなわち、コールオプションの買いと売り、プットオプションの売りと買いです。紛らわしいですが、現物の予約権自体を取引の対象としていると考えれば理解しやすいと思います。前例で言えば、小豆購入(売却)予約権と考えればいいでしょう。

(4)理解が難しいと思いますので、基本的取引の内容を説明します。オプションの買い手(バイヤーです)は、オプション料(プレミアムといいます)を売り手(グランダーです)に支払ってオプションを取得し、売り手はオプション料を先ず受け取って、買い手の権利(予約権)行使に従い、目的物の売る権利買う権利を引き渡す義務を負うことになります。買い手は既にオプション料を支払っていますから、権利(予約権)を行使するかどうかは自由です(小豆を買うかどうかは自由です)。コールオプションの買い手は、現物の実相場が上がれば当然権利行使してもいいですし(予約権を行使して小豆を買う)、権利行使しないで価格が上がったオプション自体を売却して利益をあげてもいいわけです。相場が下がっていれば損失を生じますから権利行使をする意味がないので、最終的には放棄ということになります(損害はオプション料だけで限定的です)。コールオプションの売り手はすでにオプション料を取得していますから、買い手の権利行使の請求を待つだけであり、実相場が上がっていれば買い手の権利行使により取引時あらかじめ決められた価格との差額が損失になります(その額は相場で決まりますか損害に限度はありませんから大変です。そういう意味で各オプションの売りは危険なのです)。実相場が下がっていれば権利行使してきませんから、受け取ったオプション料が利益になります(利益額はこのオプション料に限定されることになります)。プットオプションの買いと売りも結果は逆になりますが、構造は同じです。この制度も、先物取引と同じように現物取引をしている人には何ら危険はありません。いくらオプション取引で損失が出ても先物取引と同じく現物売買で反対利益が得られるからです。

(5)よく理解できないと思いますので、具体例(小豆)を挙げて説明します。
@ 本来小豆の卸業者が決済時の相場の下落に備えてオプション取引を利用する場合。権利行使価格100円のプットオプションについてプレミアムを支払って買った場合には、100円で売約定を得ることのできる権利ですから、相場が150円になれば約定値段100円のものが150円に値上がりしたのと同じ状況になります。相場が高騰している状態ですから、権利行使して150円の小豆を既に約束済みの100円で売却しても損害が生じますので、権利行使せずに放棄することになります。しかし、現物取引では相場高騰により利益を得ているので業者は支払ったプレミアムだけが損害で先物取引を利用した場合より損害額が少ないことになります。

A本来価格を決めて将来の売買をした小豆の生産業者側が決済時の相場の高騰に備えて利用する場合。ある生産業者が、権利行使価格100円のコールオプションについてプレミアムを支払って買った場合には、いつでも100円で、そのオプションの対象となる商品先物取引が行われている商品市場において、商品先物取引の買約定を得ることができるのと同様の権利を取得したことになります。相場が130円になったとき(相場が上がり130円の小豆を100円で売りますから現物取引では30円損をする状態)に権利行使をすると、約定値段100円のものが130円に値上がりしたのと同じ状況になりますので、現物取引での30円の損害をオプション取引で回復することが出来ます。すなわちプラスマイナスゼロとなります。この場合は先物取引を利用した場合と損害が異なりませんし、むしろプレミアム料が損となります。しかし、予想外の事であり予想通りの場合に生じる損害額の減少(@のように相場が下がった場合)を考えると、オプション取引の利用はやむを得ない取引と判断する事になります。

(6)もう一度、何故、オプション取引があるのかを解説します。端的に言えば、先物取引と同様に本来は現物取引のリスクヘッジ(保険、適正相場の公示)を先物取引より費用がかからないようにするためにあります。例えば、小豆の現物取引をする業者は、先物取引相場で反対売買を行って損害担保(保険)をするよりも、その小豆売りの予約権を購入しておき(プットオプションの買い手となる)本当に現物売買で損害が出るとき(相場が下がる)だけ権利行使を行い損害填補します(オプションの行使レートが市場レートより有利な場合インザマネーといいます)。予想どおり損害が出ないような場合(相場が上がるので現物取引では利益が出る状態です。すなわち行使レートが市場レートより不利であり権利行使をすると不利益な場合をアウトオブザマネー。尚、同等な場合アットザマネーといいます)は権利放棄を行うことで、最小限の出費で保険作用を行おうとするわけです。すなわち、先物取引なら現物取引の利益分全額を損失として計上することになりますが、オプション取引なら権利行使を放棄してプレミアム分の損失で済むわけです。最初から権利行使放棄が本来の目的であり権利放棄の場合、最初のプレミアム料と取次業者への手数料のみがいわゆる保険の経費となるわけです。その経費の総額はオプション(予約権)の売買の方が証拠金を積んで先物取引の反対売買を立てることによる決済額よりも少額であり、取引自体が成り立つことになります。反対に生産者側は、コールオプションの買い手となりますがその構造はまったく同じです。この取引に一般投資家が投資して、保険作用と適正な相場価格が公示されて、最終的に安全な取引秩序が形成されるのです。従って、現物取引業者の取引は両オプションの買いが原則となります。売りを行うのは例えば保険契約であれば、確実な保険料で利益を上げる保険会社と考えればいいと思います。従って、万が一の場合(相場が崩れる)莫大な出費が必要となります。このような立場に事情を知らない一般投資家が立つことはとても危険なわけです。以上をもっと分かりやすく言うと、各オプションの売りは通常の保険契約における保険会社の地位を取引の対象にしているようなものであり、何も起こらなければ安定収入が得られるのですが大きな危険性を内容しています。

(7)以上のように、オプション取引は現物取引業者にとり、いかなる相場結果になろうとも本来損失は生じないものです。すなわち、現物取引の保険のためにありデリバティブ(金融派生取引、商品)の一形態なのです。これにより結果的に現物取引の適正な取引維持のために作られた相場であり公正な取引が維持されるのです。

(8)歴史的に見ると、17世紀オランダのチューリップのオプション取引で価格高騰によるコールオプションの売り手の破産がオランダの経済不況の原因といわれています。チューリップ取引につい実体相場を無視してオプション権を過度に投機の対象としたことが原因となったのです。

(9)東京穀物証券取引所では、とうもろこし、大豆のオプション取引がありますが、取引量は少ないようです。規制法は商品取引所法(法2条8項4号)です。従って、本件のような取次業者は、本件のように取引量が多い海外の商品先物オプション取引を利用し、手数料等の利益を上げることを考えるのです。

(10)本来は、オプション取引もなくてはならない制度なのですが、その危険性を説明します。
@取引の対象である原資産は、そもそも短期間に価格変動の危険があるからこそ実体相場に応じヘッジ(保険)のため、先物取引、オプション取引が行われており、現物取引をしない一般投資家のオプション取引は、性質上常にハイリスクの危険性を内包しています。

Aプット、コール各権利について、それぞれ売り買いがあり、先物取引より更に複雑な構造を持っているので、構造理解が難しく投資判断が困難です。

B短期間(1年以内)においてオプション権(予約権)行使の時期、価格の見極めが難しい。権利行使をすると先物取引と同じように委託保証金が別途必要になります。

Cプレミアム(オプション料)の適正価格の判断が難しいです。プレミアムは原資産の価格の変動(予定するストライクプライスより上回る利益があるかどうか)、権利行使期間満了日までの時間的経過(満期日までの価格変動の期待権が要素となり満期日が近づくと価値がなくなってゆく)等により決まるので、変動が予測困難で転売、買戻しのタイミングなどについて十分な判断ができません。

D 現物取引、先物取引さえも行っていない一般人には理解が難しい。

E各オプションの売りは損害が予想できず拡大の危険がある。

F各オプションの買いのオプション料(プレミアム)は、元々業者が放棄を予想している現物売買の保険料と同じであり、満期日に近づくにつれて期待権が減少し下落する性質を有する(生命保険契約を考えれば分かりやすいと思います)。原資産が値上がりしなければ最終的に満期日にはゼロになる可能性が高い危険な取引です。これを取次業者は損害が限定的というのですが、限定的でも枚数により全てのプレミアムがゼロになり短期間に数千万円の損害も珍しい事ではありません。

G株のように放置できず、保険的意味から短期間に投資額全額を失う危可能性があります。

H手数料が高額であり、プレミアムが上がっても利益を出すのが難しい。仮に1枚10万円程度とすると(手数料の額は規制されていません)、通常プレミアムの30%−50%を占めることになり、その分だけ値上がりしなければ利益が出ない構造になっています。又、通常1枚の価格の30%−50%が手数料価格となり、高額すぎてこの分を回復することも困難です。

I取次業者は、以上の複雑な構造を利用し、本来権利行使放棄を予想される買い及び、危険なオプションの売りを勧め転売、買戻しを行い(通常の決済方法でありその度ごとに手数料がかかる。例えば1枚10万円等)、高額な手数料等(投資額の数十パーセント、)を請求する危険があります。

J以上より、このような取引については、先物取引以上に取引に参加で出来る資格があるか(適合性の原則、商品取引所法215条)、説明義務の必要性(商品取引所法218条)、取引枚数の制限、一任取引の禁止が更に要請されます。特に訴訟では、オプション取引前の有価証券等投資経験が金額、年数等どれだけあったかが重要になると思います。まったくなければ違法性は認定しやすくなるでしょう。

4.
(1)本件は海外での商品先物オプション契約ですから、国内の先物取引を規制法である商品取引所法は適用になりませんし、外国の先物取引を規制する海外先物規制法はオプション取引まで規定していませんので、規制外の取引になります。しかし、商品取引法、海外先物規制法の趣旨を類推し、日本国内の先物取引と同様に違法行為については、先物取引と同様に不法行為理論に基づき損害賠償を求めていく事になります。

(2)海外オプション取引の危険性として、海外市場に対する投資ですから、為替、海外市場の経済社会状況も考慮に入れる必要があり、情報入手自体も容易ではないです。又、日本の業者が委託した海外の取引業者(複数関与している場合もあります)の確認、取引自体行われているかの確認も困難な面がありますので、いざ損害が生じたときには実態解明が大変です。

5、本件では、勧誘業者が「投資額が少なくて利益が出やすく、損失も限定的である。通常の商品先物取引、株式の信用取引と違い追加証拠金(追証)もないというのです。」と話していますが、オプション取引の性質構造上虚偽的説明が含まれていると考えられます。貴女の投資経歴から見てとてもお勧めできません。貴女がこの解説を1読して直ちに理解できたとはとても思えません。法律家でも直ぐには理解できない点もあるのです。そのような先物オプション取引を一般ご家庭の主婦にとてもお勧めすることは出来ません。

6、判例を検討します。
(1)東京地方裁判所平成17年3月4日民事第23部判決(平成16年(ワ)第4891号、損害賠償請求事件)。夫と死に別れ年金収入により、都営住宅で一人暮らしをする77歳の独身女性が、取次業者から海外商品(金、銀、砂糖、ココア)先物オプション取引の勧誘を受け、取引により1600万円の損害が生じた事件です。被害者は10年ほど前に2年間株式取引の経験がありましたが、ほぼ全額について不法行為(民法709条)による損害と認定しています。その理由ですが、@原告の経験、知識、理解力、財産内容に照らせば、被告従業員による原告に対する勧誘、取引の受託は適合性原則に違反する、Aオプション取引についてその仕組みや価格変動要因、分析方法について、原告の知識、経験、理解力に対応した具体的な説明を行っていなかったとして、説明義務違反ある、B取引の内容について殆ど理解していなかった原告が、被告従業員に言われるままに予め取引内容が記載された売買伝票に署名押印していたことが、実質的な一任売買にあたる。C約1年2ヶ月の取引における1600万円の損害が全て業者の手数料であること。D業者が36回の取引により2450万7000円もの手数料を取得し、手数料化率(最終損害に対する手数料の割合)は153・15パーセントである。E取引開始2ヶ月で120枚の取引をして1300万円の損害を出している。以上を前提に判決は、業者の不法行為責任を認め、1割の過失相殺をしたうえで被害者側の請求を認めています。過失相殺を認めた点を除き適正な判決です。

(2)東京地方裁判所平成17年10月25日民事第45部判決、平成15年(ワ)第12743号損害賠償請求事件。
@取引時59歳、中学校を卒業し、職歴はあるが夫は、タクシー乗務員でその後死亡しその後1人で公団住宅に居住し、年金生活者である主婦が、業者の電話勧誘により海外商品(砂糖、銅、銀、原油、コーヒー等)、通貨先物オプション取引を行い3600万円の損失が生じた事件です。過去に株式取引を行ったことはあるが商品先物取引やオプション取引を行ったことはありません。3100万円の損害を認定しています。

A判旨を参照します。オプション取引の構造についての説明です。「オプション取引の仕組み等について 【ア】 オプション取引とは、原資産を予め定められた価格で買う権利又は売る権利を売買する取引であり、買う権利を「コール・オプション」、売る権利を「プット・オプション」、予め定められた価格を「ストライクプライス」、オプションを買付ける際のオプション価格を「プレミアム」という。 被告が扱うタイプのコール・オプションの保有者は、原資産を特定の期日(満期日)までの任意の時点に、ストライクプライスで、一定数量を購入する権利を取得し、プット・オプションの保有者は、原資産を満期日までの任意の時点に、ストライクプライスで、一定数量を売却する権利を有する。オプションの購入者は、満期日までに権利を行使するか権利を放棄するかを選択することができ、またオプションを転売することもできるが、満期日を経過すると、権利行使できなくなり、オプションは無価値となる。 オプションの購入者は、コール・オプションを購入した場合は、原資産価格がストライクプライスを超えて上昇すればするほど、プット・オプションを購入した場合は原資産価格が満期日にストライクプライスよりも下落すればするほど利益は拡大する。他方で、オプションの購入者は、原資産の価格が予想通りに変動しない場合はオプションを放棄すればよいので、損失は、購入時のプレミアム価格に限定されている。(一方、オプションの売り手は、取引時にプレミアムを受け取るが、オプションの買い手による権利行使によりストライクプライスでの対象商品の売買を履行する義務を負う。利益は受領したプレミアムに限定されるが、コール・オプションを売却した場合は、原資産価格がストライクプライスを超えて上昇すればするほど損失が拡大し、逆にプット・オプションを売却した場合は、原資産価格がストライクプライスを超えて下降すればするほど損失が拡大することとなり、その意味で損失は無限定である。)【イ】 プレミアム価格は、本来価値(現時点において権利行使をしたならば得られる金額)と時間価値(現時点から最終期日までにおける原資産の価格変動の可能性に伴う価値)により構成され、プレミアム価格の変動要因としては、原資産の価格、原資産の価格の変動可能性(ボラティリティ)、権利行使期間、ストライクプライス、短期金利等があり、これらの要因が複雑に絡み合って価格が決定される。すなわち、原資産価格の上昇は、コール・オプションのプレミアム価格の上昇の、プット・オプションのそれの下落の要因となり、原資産価格の下落は、それぞれ逆の要因となる。

次に、ボラティリティが大きいほど、満期日に原資産の価格がストライクプライスに達する可能性が高いことから、オプションのプレミアム価格の上昇要因となる。同様のことは、権利行使期間についても当てはまり、権利行使期間が長いほどプレミアム価格は高くなる。逆に言えば、時間の経過により権利行使期間が短くなるにつれ、時間価値が失われ、プレミアム価格の下落要因となる。また、コール・オプションについてはストライクプライスが現在の商品価格と比較して低いほど、プット・オプションでは高いほどプレミアム価格の上昇要因となり、短期金利の上昇はコール・オプションのプレミアム価格の上昇、プットオプションのそれの下落要因となるとされている。【ウ】 オプション取引は、原資産価格の変動リスクをヘッジする目的で開発された金融商品であるが、プレミアムが日々変動することに着目し、オプションの転売により利益を得るため、投機目的で購入されることもあり、個人投資家により購入される場合はこのような目的によるものである。【エ】 以上のとおり、オプションの購入による損失はプレミアム価格と手数料に限定されるが、投資額全額を失う可能性も相当程度あることから、オプション取引は一般投資家の行う取引の中では、ハイリスクな取引であるということができる。さらに、取引の仕組み自体が、抽象的・技術的な概念を多く用い、複雑であり、一般人には容易には理解しにくい上に、プレミアム価格の変動要因についての情報を一般の投資家が入手することが困難であり、特に、被告の扱う海外市場における先物オプションについては、原資産価格、ボラティリティはもちろん、プレミアム価格すら一般の公刊物には掲載されていない。従って、プレミアム価格の変動要因についての情報の入手が難しい上に、仮にこれを入手できたとしても、一般の投資家において、これを分析して適切な相場判断を行うことは極めて困難であると解される。」

B本件取引は、2回目の取引に過失相殺30%を認め3100万円の損害を商品取引所法、金融商品取引法等の規定趣旨を類推し認定しています。理由は、@適合性違反、A説明義務違反、B一任取引、C断定的判断の提供、D過当取引、本件第1及び第2取引の取引回数は合計153回であり、月平均の取引回数は約4.54回である(期間約3年半)。E本件第1及び第2取引において原告が被った損失総額は、3671万8634円であるが、このうち手数料は2742万1000円であり、損失総額に占める割合は、74.67パーセントである。過失相殺の点を除き妥当な判断でしょう。

(3)名古屋地方裁判所平成15年12月3日判決、(平成14年(ワ)第274号損害賠償請求事件)。56歳の専業主婦(過去に2年間勤務経験がある)が10年程度の株式取引を経験した後に海外商品先物オプション取引を行い、2400万円の損失(期間6ヶ月)について40%の過失相殺を認め1440万円を損害と認定しています。理由は、説明義務違反、断定的判断の提供、新規委託者保護義務違反を認めましたが、10年間の株取引から適合性の原則は違反していないとの判断です。本件では、コーヒーのオプション(アウトオブザマネーでのコールオプションの買い)は権利行使、転売の機会もなく満期に無価値となっています。手数料は、1枚10万円、91枚取引により910万円(手数料率38%)を支払っています。

(4)大阪地方裁判所平成15年10月21日判決(平成14年(ワ)第6605号損害賠償請求事件)。損害全額認定。
@当時68歳、専業主婦(健忘失語症の症状)、個人年金にて独りで生活していた女性(中学校卒業後日本舞踊の師匠)が電話勧誘により始めた海外商品先物オプション取引により(老後の資金)3170万円(内手数料955万円)の損失が生じた事件です。20年前に株取引を行ったことがあったが、先物取引やオプション取引の経験はなく全額を損害として認定しています。全プットオプション買い130枚が転売も出来ずに満期日に権利喪失しています。適合の原則違反、説明義務違反、新規委託者保護義務違反、実質的一任売買が理由です。プレミアム価格の40%が手数料額となっており高額です。当然の判決です。

A判決内容。「オプション取引の基本的な仕組みとリスク。【ア】オプション取引の基本構造。前記前提事実記載のとおり、オプションとは、原資産を、満期日又は満期日までの期間内にストライクプライスで買う権利(プットオプション)又は売る権利(コールオプション)をいう。本件取引は、原告が、米国市場における9月限月・100円75セント又は77セントの円先物のプットオプション(ドル建て)を買ったものである。オプション保有者は、権利行使をするか否かの自由を有し、また、オプションを相場価格で転売することもできるが、権利行使しないまま満期日を徒過すると、オプションは無価値となる。そして、オプション取引には、プットとコールのそれぞれについて、購入と売却があり、これに応じて、オプション取引におけるリスクとリターンの特徴は4種類に分類される。このうち、本件のようなプットオプションの購入であれば、損益曲線は、原資産価格がゼロの場合に最大となり、損益分岐点を通って原資産価格とストライクプライスが一致する点まで単調減少するが、さらに原資産価格が増加しても、その後は一定の値(投資額相当額のマイナス)を取ることになる(甲6、乙5)。【イ】リスクヘッジ目的によるオプション取引の場合、以上のように原資産の保有者は、プットオプションの購入により、その投資額を負担するだけで、原資産価格がストライクプライス以下に下落するリスクを回避できる。このような掛捨て型の保険と同様の経済的効果を得ること(リスクヘッジ)が、オプション取引本来の目的である。そして、リスクヘッジ目的のオプション取引には、原資産価格の相場が予想と反対に変動した場合に価格変動リスクを負担しない点で、これを全面的に負担する先物取引などとは異なる経済的意味があり、仮に満期日までにプレミアムが減少し、最終的に権利を放棄することになり、投資額全額を喪失したとしても、それにはリスク回避の対価としての経済的意義があるから、プレミアムが合理的に算定されている限り、有用かつ合理的な商品といえる。

【ウ】投機目的のオプション取引の場合。(ア)以上に対し、投機目的のオプション売買は、市場のオプションを購入して、プレミアムが騰貴したときに転売利益を得ようとするものである。この場合も、先物取引とは異なり、投機のリスクは投資額に限定されている(本件取引のように為替変動リスクがある場合も同じ。)。しかし、専らプレミアムの価格騰貴による転売利益の取得のみを見込んだ取引であるため、将来のプレミアムの価格変動について合理的な予測を行うことが必要であり、そのためには、前提として、価格変動の特徴及びその要因についての正確な理解が不可欠である。(イ)まず、プレミアムの価格変動は、当然、原資産の価格変動により左右される。しかし、プレミアムは原資産価格よりも遥かに大きく変動するのが通常であり(レバレッジ効果)、また、権利行使の可能性が減滅した場合などには原資産の価格変動とは必ずしも連動しない場合があるため、単純に原資産の価格変動が予測できればよいというものでもない。(ウ)また、プレミアムは、本質的価値(直ちに権利行使し得たとした場合に得ることのできる利益)と時間的価値(将来の権利行使日において権利行使した場合に得ることのできる利益の期待値の総和)とからなるとされる(甲6)。しかし、本件オプションのプレミアムは、購入時において、円相場がストライクプライスを上回っていたため本質的価値はいずれもゼロであり、時間的価値のみからなっていたところ、時間的価値は、さらに、原資産価格の変動率(ボラティリティ)、原資産価格とストライクプライスとの距離、満期までの期間の長短等により決定されるが、基本的に時間の経過とともに加速度的に下落する性質を有することに加え、特に、本件オプションは、権利行使期間が4ないし5か月と短いため、ボラティリティが将来十分大きくなることが予測される場合でなければ、時間的価値(即ちプレミアム全体)が急激に値下がりする可能性が高かったものといえる。(エ)さらに、本件取引においては、プレミアムの約4割という高額の手数料が徴収されているため、プレミアムが値上りしただけでは利益とならず、これが購入時の約1.4倍以上に上昇しない限り、やはり損失を被ることになる。(オ)以上を要するに、本件取引は、リスクの範囲が投資額に限定されており少ない投資で多くの投資効果が得られるという有利な面もないわけではないが、反面、プレミアムが時間的価値のみからなること、満期までの期間が短いこと、手数料が高額であることなど各種の要因を考慮すれば、転売利益が出る可能性に比して、元本欠損の危険性の方が確率的には高く、高度の投機性を有するハイリスク・ハイリターンな取引であるといわざるを得ない。これに加え、プレミアムの変動要因は極めて多種多様であって上記したところに尽きないこと、オプション取引は日本では馴染みの薄い取引であることにも照らせば、通常の理解能力を有する一般投資家であっても、オプション取引について合理的な投資判断を下すことは、相当の困難を伴うというべきである。」

(5)名古屋地方裁判所 平成15年8月19日判決平成13年(ワ)第4962号(損害賠償請求事件)。電話勧誘による海外商品先物オプション取引の大学卒元歯科医師43歳男性について過失相殺4割を認めて損害を認定。主に説明義務違反、断定的判断の提供等を一連の違法行為としています。コーヒー、大豆、原油各オプションの買い取引です。

(6)東京地方裁判所 平成13年6月28日民事第30部判決損害賠償請求事件。当時36歳、オプション取引前1年間の株の購入暦がある専業主婦(大学薬学部卒)が行った電話勧誘による海外商品先物オプション取引に関し、過失相殺20%−50%を認めて2600万円の損害を認定。主に説明義務違反、断定的判断の提供等を違法行為としています。コーヒー、砂糖等オプション取引です。

(7)名古屋地方裁判所平成13年2月28日判決損害賠償請求事件。海外商品(砂糖、コーヒー等)先物オプション取引、専業主婦、ほぼ投資経験なし、37歳、電話勧誘、過失相殺40%(契約書等書類への署名が理由となっています)で損害350万円認定。適合性違反、説明義務違反を根拠としています。

(8)名古屋地方裁判所平成13年2月21日判決損害賠償請求事件。海外商品(大豆、銅)先物オプション取引、保健施設で婦長の職歴あり、ほぼ投資経験なし、56歳、電話勧誘、過失相殺30%(契約書類への署名が理由となっています)で損害1800万円認定。適合性違反、説明義務違反を根拠としています。

(9)東京地方裁判所平成13年2月9日判決損害賠償請求事件。海外商品(砂糖、天然ガス)先物オプション取引、短大卒専業主婦、投資経験なし、当時55歳、電話勧誘、過失相殺なし(判断の対象にしていない)損害2200万円(老後資金)全額認定。適合性違反、断定的判断の提供を根拠としています。

7.ついでに、日経平均株価オプション取引の判例も参照します。
(1)大阪地方裁判所平成19年11月16日第11民事部判決、(平成17年(ワ)第1995号損害賠償請求事件)。
@ それまで株式投資経験がなかったが、同一証券会社で3年間株式の現物取引、株価指数連動型上場投資信託(ETF)及び日経平均株価オプション取引等を行った34歳男性(大卒)について、現物取引、ETF取引に業者の違法性を認めず、オプション取引については、複雑でハイリスク・ハイリターンな取引であるから、業者側の説明義務違反、過当取引、手数料稼ぎ(日計り)を認め、過失相殺2割として1390万円の損害を認定した事案。構造は商品先物オプシヨン取引とまったく同様です。

A 判決内容。オプション取引の説明を引用しますが商品先物オプション取引と構造は同一であり、現物取引のヘッジ(保険)のためにオプション取引相場が建てられているのです。「日経平均株価オプション取引。(ア)オプション取引とは、特定の商品を、あらかじめ定められた期日に、あらかじめ定められた価格で買う権利、又は売る権利(オプション)を売買する取引をいう。(イ)日経平均株価オプション取引は、日経平均株価を対象とした株価指数オプション取引である。決済の方法としては、期限までに反対売買を行う方法のほか、期限に権利行使ないし履行を行うことによる方法があるが、株価指数という抽象的な数値を対象とする取引であるため、その場合は差金の支払によって決済がされる。(ウ)日経平均株価オプション取引においては、買う権利(コール・オプション、以下「コール」という。)、売る権利(プット・オプション、以下「プット」という。)の双方につき、買い建てと売り建てがある。買い建てを行う者はその対価としてプレミアムを支払う必要があり、売り建てを行う者は、その対価としてプレミアムを受け取ることができる。買い建てにおいては、行使期限が過ぎると権利が消滅し、投下したプレミアム全額が損失となるというリスクがあるが、予想に反した値動きをした場合でも権利を放棄することが可能であり、損失はプレミアムの額に限定される。他方、売り建てにおいては、利益はプレミアムに限定されるが、予想に反した値動きとなり、オプションの買い手が権利行使してきた場合、損失は無限定となる。売り建てを行うに際しては、取引の履行を確保するため、顧客は、証券会社に一定の証拠金を預託することが必要とされ、値動きにより、追加証拠金が請求される場合もある。」

B本件では、当初からインザマネーでの売り建てが繰返され、買い建ての日計り(同日に決済)の繰り返し、ストラングル売り(原資産の動く程度を限定的に予想し予想の範囲内であれば同一限月で権利行使価格の異なるコール、プットの買い売りを組み合わせて確実に利益を得ようとする方法であるが予測が難しい)等が行われ7ヶ月、損失3180万円、内手数料1580万円であり高額な手数料(手数料率約50%)となっています。

(2)東京地方裁判所平成17年7月22日民事第10部判決、平成16年(ワ)第14082号(損害賠償請求事件)。44歳、大学工学部卒、区立中学校用務員、アパート賃料収入あり、日経平均株価指数オプション取引まで有価証券取引の経験はないが株式の相続を機会に取引を始めた男性について適合性違反、説明義務違反、過当取引を理由に50%の過失相殺をして約1600万円を損害と認定しています。1年3ヶ月722回の取引により損失金3200万円のうち2500万円が手数料となっています。

(3)京都地方裁判所平成16年5月26日第2民事部判決、平成14年(ワ)第1562号(損害賠償等請求事件)。請求棄却。日経平均225オプション取引、65歳男性、大卒、賃貸マンション経営所有、金融資産等3000万円、大学卒業後数年株式取引、その後10年間山一證券で株式現物売買、山一證券倒産後被告会社で株式の現物取引を行う。損失1200万円。適合性の原則違反、説明義務違反、手仕舞い義務違反、損害拡大防止義務違反、ロールオーバー(プレミアム収入により得たオプションについて損失が生じた場合、その損失を(帳簿上)回復するために更にプレミアムが高くなっているオプションの売りを継続して行い相場の回復を待つ取引で万が一の場合リスクが大きい)の違法性を認めませんでした。株式取引が長く投資経験を重視したと思われます。

(4)さいたま地方裁判所平成16年6月25日第5民事部判決、平成14年(ワ)第399号(損害賠償・預託金返還請求事件)。請求棄却。55歳、高卒、女性、独身(夫死亡)、7年間出版社勤務、6年間図書関係会社勤務、その他出版に関する仕事に従事、主婦、オプション取引前10数年間有価証券投資、又仕手株投資を行い複数の証券会社の口座を有する。日経平均株価オプション取引に投資する金融資産を有していたが3800万円の損失発生。以上の事情を基に適合性の原則違反、断定的判断の提供、善管注意義務違反を認めませんでした。

(5)京都地方裁判所平成14年9月18日第7民事部判決、平成11年(ワ)第542号(損害賠償等請求事件)。日経平均株価指数オプション取引です。過失相殺20%で損害を認定。被害者3名、3200万円の損害を認定。(関連条文旧証取法43条。)一部原告には、かなり前から有価証券取引の経験があったが、本件オプション取引は賭博性が強く長い投資経験と深い知識を必要とし一般投資家には向かない制度として、適合性違反等の理由により損害を認定しています。

(6)京都地方裁判所平成11年9月13日判決(損害賠償等請求事件)。
@日経平均株価指数オプション取引。当時66歳、女性、尋常小学校卒業、33年間小学校事務員勤務、投資歴8年、転換社債、投資信託、外国債券、外国投資信託等ハイリスク商品の取引歴、70%過失相殺し300万円の損害認定(適合性、説明義務違反、旧証取法54条1項)。ストラドル、ストラングルの売り、ロールオーバーが行われている。

A判決内容。(オプション取引について)の説明。
(一)本件日経平均株価指数オプション取引は、日経平均株価を取引対象とするもので、満期日にしか権利行使ができないいわゆる「ヨーロピアンタイプ」に属し、大阪証券取引所が執行している。満期日は各月の第二金曜日(休業日に当たるときは順次繰り上げる)である。
(二)オプションの買い手は、売り手に対し、「プレミアム」と呼ばれる対価を払う。買い手と売り手は、満期日までに、買付けあるいは売り付けたオプションそのものを反対売買によって決済することができる。買い手は、満期日に権利行使することも、権利を放棄することも可能である。売り手は、買い手が権利行使すれば、これに応じなければならない。もし買い手が権利行使できないまま満期日を迎えれば、プレミアムが売り手の利益となる。
(三)オプション取引は、コールの売り、買い、プットの売り、買いの四つが基本型である。
(四)オプション取引は、右基本型を組み合わせて様々な手法を使うことができる。代表的なものとして、次のものがある。
(1)ストラングルの売り
 同一満期日の異なる権利行使価格のコールとプットを同時に売る取引である(通常は、高いコールと低いプットを売るが、逆に低いコールと高いプットを売る場合もある)。株価の変動が小幅になると予想したときの戦略であり、株価が二つの権利行使価格の間に入ると利益(プレミアム分)が出るが、逆にこれを超えて株価が大きく変動すると、大きな損失を被ることになる。
(2)ストラングルの買い
 同一満期日の異なる権利行使価格のコールとプットを同時に買う取引である。上昇するか下落するかは判断がつかないが、いずれにせよ株価が大幅に変動すると予想したときの戦略であり、株価が二つの権利行使価格の間に入ると損失(プレミアム分)が出るが、逆にこれを超えて株価が大きく変動すると、大きな利益が出ることになる。 
(3)ストラドルの売り
 同一満期日の同じ権利行使価格のコールとプットを同時に売る取引である。株価の変動が小幅になると予想したときの戦略であり、株価の変動が小幅であれば利益が出るが、逆に株価が大きく変動すると、大きな損失を被ることになる。ストラングルの売りと比べると、プレミアムが高額だが、利益を出す株価変動の幅は小さい。
(4)ストラドルの買い
 同一満期日の同じ権利行使価格のコールとプットを同時に買う取引である。上昇するか下落するかは判断がつかないが、いずれにせよ株価の変動が大幅になると予想したときの戦略であり、株価の変動が小幅であれば損失が出るが、逆に株価が大きく変動すると、大きな利益が出ることになる。ストラングルの買いと比べると、プレミアムが高額だが、より小幅の株価変動で利益を生じる。
(5)オプション取引を理解するためには、プレミアムの形成要因を把握する必要がある。プレミアムは、本質的価値(市場価格と権利行使価格との差)と時間価値との合成である。時間価値は、満期までの原証券価格の変動性の大きさ(ボラティリティ)、満期までの残存期間、短期金利、配当率等が要素となっている。

(6)東京地方裁判所平成13年11月30日判決損害賠償請求事件。日経平均株価オプション取引、断定的判断の提供、過失相殺60%損害600万円認定、男性、41歳、事故の保険金が資金、歯科技工士、後に警備員、有価証券経験投資は保険金が入りオプション取引の約1年前から行い信用取引等も行う。根拠は民法709条、旧証取法42条。

(7)千葉地方裁判所平成12年3月29日判決(損害賠償請求事件)。日経平均株価オプション取引、女性、専業主婦、59歳、高校卒、亡夫公務員、パート以外職歴ほとんどなし、オプション取引前数年間被告の会社との取引を除き投資歴なし、過失相殺なし、業者の善管注意義務違反により損害全額30万円を認定しています。

8、外国為替オプション取引の判例を参照します。
(1)大阪地方裁判所平成18年1月31日第20民事部判決、平成16年(ワ)第13886号(損害賠償請求事件)。10%の過失相殺を認め1700万円の損害を認定。主婦、64歳、中学校卒業、内職の経験があるが鉄工所勤務の夫の収入で生計をたて、有価証券投資等の経験は一切なく、電話勧誘により取引を開始したが金融投資用の資産はなく、適合性、説明義務に違反していると判断しています。外国為替オプション取引の構造は、商品先物オプション取引と同一です。

≪条文参照≫

商品取引所法
(昭和二十五年八月五日法律第二百三十九号)
(定義)
第二条
8  この法律において「先物取引」とは、商品取引所の定める基準及び方法に従つて、商品市場において行われる次に掲げる取引をいう。
一  当事者が将来の一定の時期において商品及びその対価の授受を約する売買取引であつて、当該売買の目的物となつている商品の転売又は買戻しをしたときは差金の授受によつて決済することができる取引
二  当事者が商品についてあらかじめ約定する価格(以下「約定価格」という。)と将来の一定の時期における現実の当該商品の価格の差に基づいて算出される金銭の授受を約する取引
三  当事者が商品指数についてあらかじめ約定する数値(以下「約定指数」という。)と将来の一定の時期における現実の当該商品指数の数値の差に基づいて算出される金銭の授受を約する取引
四  当事者の一方の意思表示により当事者間において次に掲げる取引を成立させることができる権利(以下「オプション」という。)を相手方が当事者の一方に付与し、当事者の一方がこれに対して対価を支払うことを約する取引
イ 第一号に掲げる取引
ロ 第二号に掲げる取引(これに準ずる取引で商品取引所の定めるものを含む。)
ハ 前号に掲げる取引(これに準ずる取引で商品取引所の定めるものを含む。)
9  この法律において「商品市場」とは、一種の上場商品又は上場商品指数ごとに、次の各号に掲げる区分に応じて当該各号に定める取引を行うために商品取引所が開設する市場をいう。
一  上場商品に係る商品市場 当該上場商品に係る前項第一号に掲げる取引又は同項第二号に掲げる取引
二  上場商品指数に係る商品市場 当該上場商品指数に係る前項第三号に掲げる取引
10  この法律において「商品市場における取引」には、前項各号に定める取引のほか、商品取引所が、定款で定めるところにより、商品市場において次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に定める取引をすることとしたものを含むものとする。
一  上場商品に係る商品市場 次に掲げる取引
イ その対象となる物品が当該上場商品であるか又はこれに含まれる商品指数に係る第八項第三号に掲げる取引
ロ 当該上場商品に係る第八項第四号イ又はロに掲げる取引に係る同号に掲げる取引
ハ その対象となる物品が当該上場商品であるか又はこれに含まれる商品指数に係る第八項第四号ハに掲げる取引に係る同号に掲げる取引
ニ 当該上場商品の売買取引(第八項第一号に掲げる取引に該当するものを除く。以下この号において同じ。)
ホ 当事者の一方の意思表示により当事者間において当該上場商品の売買取引を成立させることができる権利(以下「実物オプション」という。)を相手方が当事者の一方に付与し、当事者の一方がこれに対して対価を支払うことを約する取引
二  上場商品指数に係る商品市場 当該上場商品指数に係る第八項第四号ハに掲げる取引に係る同号に掲げる取引
16  この法律において「商品市場における取引等」とは、次に掲げる行為をいう。
一  商品市場における取引
二  前号に掲げる行為の委託の取次ぎ
三  商品清算取引の委託の取次ぎ
四  前号に掲げる行為の委託の取次ぎ
17  この法律において「商品取引受託業務」とは、商品市場における取引等(商品清算取引を除く。)の委託を受ける営業をいう。
18  この法律において「商品取引員」とは、商品取引受託業務を営むことについて第百九十条第一項の規定により主務大臣の許可を受けた者をいう。
(不当な勧誘等の禁止)
第二百十四条  商品取引員は、次に掲げる行為をしてはならない。
一  商品市場における取引等につき、顧客に対し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供してその委託を勧誘すること。
二  商品市場における取引等につき、顧客に対し、損失の全部若しくは一部を負担することを約し、又は利益を保証して、その委託を勧誘すること。
三  商品市場における取引等につき、数量、対価の額又は約定価格等その他の主務省令で定める事項についての顧客の指示を受けないでその委託を受けること(委託者の保護に欠け、又は取引の公正を害するおそれのないものとして主務省令で定めるものを除く。)。
四  商品市場における取引につき、顧客から第二条第八項第一号に掲げる取引の委託を受け、その委託に係る取引の申込みの前に自己の計算においてその委託に係る商品市場における当該委託に係る取引と同一の取引を成立させることを目的として、当該委託に係る取引における対価の額より有利な対価の額(買付けについては当該委託に係る対価の額より低い対価の額を、売付けについては当該委託に係る対価の額より高い対価の額をいう。)で同号に掲げる取引をすること。
五  商品市場における取引等につき、その委託を行わない旨の意思(その委託の勧誘を受けることを希望しない旨の意思を含む。)を表示した顧客に対し、その委託を勧誘すること。
六  商品市場における取引等につき、顧客に対し、迷惑を覚えさせるような仕方でその委託を勧誘すること。
七  商品市場における取引等につき、その勧誘に先立つて、顧客に対し、自己の商号及び商品市場における取引等の勧誘である旨を告げた上でその勧誘を受ける意思の有無を確認することをしないで勧誘すること。
八  商品市場における取引等につき、顧客に対し、特定の上場商品構成物品等の売付け又は買付けその他これに準ずる取引とこれらの取引と対当する取引(これらの取引から生じ得る損失を減少させる取引をいう。)の数量及び期限を同一にすることを勧めること。
九  前各号に掲げるもののほか、商品市場における取引等又はその受託に関する行為であつて、委託者の保護に欠け、又は取引の公正を害するものとして主務省令で定めるもの
(適合性の原則)
第二百十五条
商品取引員は、顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行つて委託者の保護に欠け、又は欠けることとなるおそれがないように、商品取引受託業務を営まなければならない。
(商品取引員の説明義務及び損害賠償責任)
第二百十八条
商品取引員は、受託契約を締結しようとする場合において、顧客が商品市場における取引に関する専門的知識及び経験を有する者として主務省令で定める者以外の者であるときは、主務省令で定めるところにより、あらかじめ、当該顧客に対し、前条第一項各号に掲げる事項について説明をしなければならない。
2 商品取引員は、顧客に対し前項の規定により説明をしなければならない場合において、前条第一項第一号から第三号までに掲げる事項について説明をしなかつたときは、これによつて当該顧客の当該受託契約につき生じた損害を賠償する責めに任ずる。

外商品市場における先物取引の受託等に関する法律(略称、海外先物規制法)
(昭和五十七年七月十六日法律第六十五号)
最終改正:平成一一年一二月二二日法律第一六〇号
(目的)
第一条  この法律は、海外商品市場における先物取引の受託等を公正にし、及び当該先物取引の委託者が受けることのある損害の防止を図ることにより、当該先物取引の委託者の利益の保護を図ることを目的とする。
(定義)
第二条  この法律において「先物取引」とは、売買の当事者が将来の一定の時期において当該売買の目的物となつている商品及びその対価を現に授受するように制約される取引であつて、現に当該商品の転売又は買戻しをしたときは差金の授受によつて決済することができるものをいう。
2  この法律において「海外商品市場」とは、外国に所在し、かつ、商品(有価証券、通貨その他これらに類するものとして政令で定めるものを除く。以下同じ。)の先物取引が行われる市場であつて、政令で指定するものをいう。
3  前項の規定による指定は、当該海外商品市場における先物取引の目的物となつている一種の商品ごとに行う。
4  この法律において「海外商品市場における先物取引の受託等」とは、海外商品市場において先物取引を行うことの委託を受け、又はその委託の媒介、取次ぎ若しくは代理を引き受けることをいう。
5  この法律において「海外商品取引業者」とは、海外商品市場における先物取引の受託等を業として行う者(海外商品市場における先物取引の受託等を業として行うことについて、この法律以外の法律でその適用により海外商品市場における先物取引の受託等の公正及び当該先物取引の委託者が受けることのある損害の防止が確保されるものの規定に基づく規制を受ける者として政令で定めるものを除く。)をいう。
6  この法律において「海外先物契約」とは、海外商品市場における先物取引の受託等を内容とする契約であつて、海外商品取引業者が売付け又は買付けの別、売付け又は買付けに係る価格、数量及び時期その他の経済産業省令で定める事項につき別に顧客の指示を受けて売付け若しくは買付け又はその注文をする旨の定めのあるものをいう。

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