新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.766、2008/3/6 16:23 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

【民事・親族・過去の養育費】

質問:私は,5年前に夫と離婚し,以後,当時10歳だった娘を私の手で育ててきました。今回,娘の進学を機に,元夫に対して,養育費を請求しようと思っていますが,あわせて,過去5年分の養育費を請求することはできるでしょうか。

回答:
1.過去5年分の養育費を請求する事が出来ます。但し,要件としては,扶養(養育)の必要性の存在と,夫に経済的扶養(養育)能力が認められることが必要です。厳格に言うと,過去の養育費(扶養料)について以上の2つの要件が備わった時から請求できます。
2.裁判手続ですが,家事審判法による家事審判手続により行われます。通常訴訟手続は利用できません。
3.当事務所事例集bU97,bU69号を参照してください。

解説:
1.養育費の意義
養育費とは,子を監護,教育するのに必要な費用であり,一般的にいえば,未成熟子が自立するまでに要するすべての費用(衣食住に必要な経費,教育費,医療費,最小限度の文化費,娯楽費,交通費等)です。法律上は,民法766条1項所定の「子の監護に必要な事項」の一つとして扱われており,実際には,子を現実に引き取って育てている親(監護親)が,もう一方の親(非監護親)から子を育てていくための費用を分担してもらうという形で支払われています。養育費の理論上の根拠は,親子関係そのものであり,具体的には,自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させなければならないという生活保持義務(扶養義務)に求められます。したがって,養育費は,親であれば当然負担しなければならないものであり,特に取り決めがなくても,養育費を支払う義務は抽象的には存在し,また,時効にかかることもありませんので,理論上は,事後的に過去の養育費を請求することは可能となります。

2.過去の養育費の始期
(1)上記のように,養育費の根拠からみて,過去の養育費を請求することは可能ですし,実際上も,もし,過去の養育費の請求を認めないと,あえて要扶養状態にある未成熟子を放置した者は,その費用負担に迫られることがなく,要扶養状態にある未成熟子を扶養して費用負担をした者との間で公平性を欠きますし,特に,子が要扶養状態にあることは,親であれば容易に認識できますので,未成熟子を放置し,養育費の分担を免れるというのは,親の生活保持義務(扶養義務)の趣旨に反することになるでしょう。もっとも,過去の養育費の請求を無制限に認めるべきとすると,養育費を支払っていなかった親は,一度に多額の養育費を請求されることになり,酷な結果となりかねません。そこで,過去の養育費の負担をいつから認めるべきかが問題となります。

(2)かつては,扶養義務者に対して,請求を受ける以前の過去の養育費の負担をさせるとすると,予期せずして,長期間累積した養育費の履行を求められることになるため,扶養義務者が不測の損害を被るから,過去の養育費については,請求されたとき以後のものに限るべきあると考えられていました(請求時説)。

(3)しかし,前述のように,親であれば,通常,子が要扶養状態にあることは容易に認識できますので,必ずしも,不測の損害を被るとはいえないはずですし,生活保持義務に基づく養育費の負担という観点からは,請求時説は,狭きに失すると考えられ,私見では,要扶養状態が具体的に発生した時点を始期とすべきと考えます。勿論,扶養義務者の扶養能力の存在が必要です。なぜなら,生活保持義務は経済的に扶養(養育)能力があることが前提になるからです。この点,宮崎家審平成4年9月1日は,養育料の支払義務は,事件本人(未成年者)が要扶養(要監護養育)状態にあり,義務者である相手方(父)に支払能力があれば発生し,裁判所は裁量により相当と認める範囲で過去に遡った養育料の支払を命じることができる旨判示し,事件本人(未成年者)が相手方(父)の元から申立人(母)の元へ戻った時点を養育料支払の始期と定めましたが,以上2つの要件を認めており妥当な審判であると思われます。

3.過去の養育費の請求手続
過去の養育費の請求は,民事事件として地方裁判所の手続で処理されるのか,養育費の請求として家庭裁判所で審理されるのかについて,見解の対立がありました。この点,最高裁は,「民法878条・879条によれば,扶養義務者が複数である場合に各人の扶養義務の分担の割合は,協議が整わないかぎり,家庭裁判所が審判によって定めるべきである。扶養義務者の1人のみが扶養権利者を扶養してきた場合に,過去の扶養料を他の扶養義務者に求償する場合においても同様であって,各自の分担額は,協議が整わないかぎり,家庭裁判所が各自の資力その他一切の事情を考慮して審判で決定すべきであって,通常裁判所が判決手続で判定すべきではないと解するのが相当である。」(最判昭和42年2月17日)としています。実際にも,未成年者の養育途中で,養育費を請求しようとする場合,過去の養育費に関しては地方裁判所の判断に委ね,現在及び将来の養育費に関しては家庭裁判所の審判に委ねるというのは妥当ではなく,最高裁の判示するように,過去の養育費についても,審判手続きによるべきでしょう。過去の養育費の具体的な請求手続きについては,内容証明郵便の送付や家事調停の申立が考えられます。お近くの法律事務所に御相談になると良いでしょう。

<参照条文>

(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
民法第766条 父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は,その協議で定める。協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所が,これを定める。《改正》平16法1472 子の利益のため必要があると認めるときは,家庭裁判所は,子の監護をすべき者を変更し,その他監護について相当な処分を命ずることができる。3 前2項の規定によっては,監護の範囲外では,父母の権利義務に変更を生じない。

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