新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.737、2008/1/7 15:11 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【民事・アパート賃貸借契約特約の有効性・賃料不払いと管理会社の鍵の交換・自力救済,自救行為は認められるか】

質問:私(A)は,アパート(月10万円)を借りる際,保証人になってくれる人がいなかったため,大家さんが指示した保証会社(甲)と保証委託契約をしました。私は,しばらくの間は賃料をきちんと支払っていたのですが,体調を崩してしまい,働けなくなったため,2ヶ月ほど賃料支払を滞らせてしまいました。その間,保証会社が私の代わりに大家さんに賃料を支払ったようで,保証会社の人が私の家に頻繁に来て家賃の立替払い分の取立てに来るようになりました。私はどうしても支払うことが出来なかったので,待ってくださいとお願いしていたのですが,ある日,私が通院のため外出して家に戻ってくると,鍵穴がふさぐような形で大きな鍵が取り付けられており,家の中に入れない状況になっていました。あわてて保証会社に電話したところ,「支払わないお前が悪い。立替え家賃を支払うまでは,鍵は取り外さない。」と言って,家に入れてくれませんでした。「家賃を滞納した場合,甲会社は家の鍵に施錠することができる」といった趣旨の条項が契約書に書いてある以上,このような行為も許されるのでしょうか。私は,鍵を開けてもらうことは出来ないのでしょうか。

回答:
@契約書に特約があっても,立替金を支払わないからといって,鍵をかけて締め出すなどということは許されません。鍵を使用不能にすることは,器物損壊罪(刑法261条262条)に該当します。管理会社,大家さんに先ず口頭,文書で警察に連絡して,被害届け,告訴を行うことを伝えて鍵取り外しを請求してください。具体的に弁護士と相談した場合はその点も合わせて伝えてください。

A管理会社等が応じない場合,直ちに口頭で所轄警察署,交番に被害届け,告訴を行い先ず任意捜査を要請し,警察官を通じ管理会社,大家に連絡してもらい捜査機関立会いのもと原状回復を求め,捜査の一環として直ちに鍵を開けてもらうようにして下さい。捜査機関がどうしても応じない場合,弁護士等と相談,協議し文書にて上記手続を行い,併せて文書にて捜査が行われない理由開示を捜査機関担当者,責任者(警察署長)に求めてください。捜査機関が文書を受け取らない場合(結構責任の問題から多いと思います)は,FAXで送付してください。捜査機関がFAX番号を開示しない場合がありますので(警察署ホームページにFAX番号を記載していないところが意外と多いようです),捜査機関への相談の段階で担当官の名刺を受け取るなどしてFAX番号を確保しておきましょう。

B管理会社が付けていった新しい鍵を壊し入居することですが,理論的には「自救行為」として無罪と考えられるのですが,条文上の根拠がなく捜査機関の対応,裁判所の判断いかんによっては,貴方に器物損壊罪成立の可能性がまったくないとはいえませんので,先ず前述の対策を執るのが無難かもしれません。憤激のあまりつい鍵を壊してしまい,万が一捜査が開始された場合は,逮捕という身柄拘束はまずないと思いますし,基本的に弁護人と協議し無罪を主張すべきです。但し,捜査機関が無罪を納得せず事件の長期化が予想されそれを回避したい場合は,警察官,検察官に事情を説明し,入居後至急延滞家賃を支払って管理会社,大家さんに文書等で謝罪し,鍵の被害金等を弁償すれば(供託でもいいと思います)不起訴処分になるでしょう。不安であれば刑事弁護専門の弁護士に至急相談してください。

C通常は以上で解決しますが,どうしても鍵交換が出来ない場合には,弁護士費用は必要になりますが,最終的には断行の仮処分等の法的手続きも考える必要が生じるかもしれません。

D尚,貴方の御質問と類似の事例がありますので,事務所事例集728号を参照してください。

解説:
1,保証会社が家賃を保証債務の履行として立替払いした場合,家賃を滞納した賃借人に対して求償できるのは当然のことです(民法459条)。しかし,甲会社が貴方に支払を求める権利行使は社会通念上相当と認められる範囲内でのみ許されるに過ぎません。貴方の家に頻繁に取立てに来ていますが,この程度では不法不当な行為とまでは言い切れないでしょう。

2,@次に,甲会社は,貴方が借りている家の鍵を閉めて使用不能にし新しい鍵を付け替えています。これは明らかに器物損壊罪(刑法261条)に該当します。管理会社は,鍵の所有者である大家さんの許可(又は推定上の許可,事後許可)を得て行っていますが,当該鍵は貴方に賃貸していますから,他人のものと評価されるからです(刑法262条)。

Aアパートの中に侵入していれば住居侵入罪(刑法130条)です。アパート所有者である大家さんの(推定的)承諾があっても成立に影響ありません。本罪は実際にアパートに住んでいる人(あなた)の住居,生活の平穏を保護法益としていますから,大家さんの承諾は問題になりません。勿論以上の行為について管理会社,大家さん(承諾を与えると民法719条共同不法行為となります)に金額はともあれ,民法上の不法行為による損害賠償請求権も生じます。

Bところが,本件においてはAさんが同意した賃貸借契約書に「支払いが滞った場合には,家の鍵に施錠することができ締め出すこともできる」旨の条項が記載されているので大家さんから委託を受けている甲会社の行為は契約の履行であり許されうるのではないかという問題が生じます。

Cしかし,この契約条項は基本的に無効です。

(ア)管理会社からすれば,契約の時説明し,納得して署名した以上有効であるとの反論が考えられますが,私的自治の大原則である契約自由の原則からは納得して署名したものが全て有効であるとは限りません。契約自由の原則(私的自治の大原則)には制度上(理論上)本質的に内在する理念として信義誠実の原則,権利濫用禁止の原則,公序良俗違反禁止,公正,公平の法理が存在するからです。憲法12条,民法1条,90条,その他各法律総則規定(たとえば民訴2条,破産法1条,刑訴1条等)はその趣旨を明確に宣言しています。契約自由の原則は,それ自体が目的ではなく,自由主義,基本的人権尊重主義が目標とする個人の尊厳確保の手段なのです。個人の尊厳確保は,説明するまでもなく適正公平な法社会秩序の建設なくしては実現不可能です。従って,私的自治の大原則には理論上,信義則,公正,公平等の理念が内在したとえ,国会で決議された法律といえどもこの大法則を侵害する事は出来ませんし(憲法違反であり無効です),いわんや,私人間でこの法則に反した契約など認められるはずがありません。(事務所事例集730号,734号も参考してください。)

(イ)この契約条項は,文言上家賃の受け取れない管理会社の自力救済を認めた趣旨と解釈できますが,自力救済(私人が公権力に頼らず自らの実力により自己の権利を実現する事)は法律に規定がありませんし,法治国家である以上法律が特別に認めた場合(正当防衛,緊急避難民法720条)以外は原則として許されません。これを是認すると法秩序が混乱し収拾がつかなくなる危険があるからです(事例集728号参照)。実質的に賃料請求権行使の権利濫用を認めた条項となりますから無効です。

(ウ)賃貸借関係においては,賃借人の生活する権利の中核である居住権保護の必要性が高く,所有権を有し経済的立場が優位な大家さんと比較し,特に不利益にならないよう配慮しなければならず,この条項は賃借人に特に不利益であり借地借家法30条の趣旨からも又,公平の理念からも公序良俗に反し無効です。

(エ)類似した事例について,裁判所は,そのような条項は公序良俗に反し無効であると判断しています。その趣旨を簡単に説明すると,「法治国家においては,自己の権利を実現するためには法的手続きによるのが原則であって,緊急やむを得ない事情が存在する場合を除いて,通常の権利行使の範囲を超えて権利実現を図ることは許されない。また,そのような権利行使の方法を認める旨の合意も特別の事情がない限り,公序良俗に反し無効である。」というものです。

Dこれを本件について考えてみると,甲会社としては,Aさんと連絡が取れなくなったわけでもなく,鍵をかけて締め出さなければならない緊急差し迫った状況にあるとはいえません。したがって,甲会社には特別な事情があったとは言いがたく,法的手続きにしたがって権利行使をすればいい訳です。以上から,少なくとも本件のような事情の下では,判例の趣旨からも鍵の交換は許されません。又,「鍵をかけて締め出してもよい」という条項を無効とし,自力救済を認めなくても訴訟手続がある以上金銭回収を目的とする管理会社に特に不利益は見当たりません。

3,@以上のように甲会社による締め出し行為は何らの正当性もない行為であり,不法行為,犯罪行為にも該当しますから,貴方が直ちに,鍵を自力で破壊し取り替えて自分のアパートに入室できるのは当然許されるようにも思いますが,法的には,又別個の問題として考える必要があります。というのは,貴方の鍵取替え行為自体が器物損壊という不法行為,犯罪行為に該当し許されないのではないかというややこしい問題になるからです。数時間前まで生活していたアパートに直ちに入居できないというのはどうしても納得できないでしょうが,法律の適用は公平でなければならず貴方だけは例外というわけにもいきません。

A現行法規上,貴方を救済する制度として,緊急行為としての正当防衛,緊急避難がありますが(民法720条,刑法36条)があるのですが,鍵の取替えは数時間前に終了しており目の前の侵害行為はありませんから,急迫な状態がないので正当防衛で救う事が出来ません。

Bそこで,このような状況の場合何とか「自力救済」「自救行為」で救済できないか問題となります。前述したように自力救済は原則許されませんが,法律に規定がなくても超法規的例外的に,正当防衛等緊急行為の厳格な要件を準用し認められる場合があるものと解釈いたします。その要件とは,3つに分かれ,第一に急迫な侵害行為が終了し目前になくても,公権力の救済手続きを待っていては事実上回復できないか,非常に困難になるような緊急事態であること。次に,被害回復の手段が社会的に相当な行為であること。最後に,守る利益と相手方の利益の大小,双方の利益に関する正当性の比較により著しく利益の均衡を失わないこと。以上の要件を総合的に評価し,適正な法社会秩序の維持という理想から判断することになります。

C理由をご説明します。
(ア)国家制度が存在する以上自力救済が許されないことは論を待ちません。国民が,代表者を選任し自ら国家機関を創設し(自由主義,民主主義),各権力に国家社会の統治を委託した以上,国家権力は,国民の信託により司法(裁判権),立法,行政権を有しあらゆる紛争を公権的に強制的に解決する権能を有していますから,国家制度を作った時から私人は独力で紛争解決する権限すなわち「自力救済権」を自らの意思により放棄,喪失しているのです。国民が,自らの約束を破り自救行為を行うならば,最終的に国家制度の否定につながりますから法論理的にも許されるはずがありません。法秩序が崩壊し内戦,内乱化した国々を見るまでもなく自力救済,自救行為は基本的に認められないのです。

(イ)それでは,法が認める緊急行為である正当防衛等は明らかに自力救済の一態様であるにもかかわらず,どうして許されるのでしょうか。急迫不正の違法行為が目前にあるとはいえ自力救済を認めることは紛争解決権を国家に委託した趣旨に反するようにも思いますが,そもそも国民が,国家機関に紛争解決権力を委託した最終目的は,三権分立によって互いの権力を抑制均衡させ適正な法社会秩序を守り,国民の基本的人権を確保し個人の尊厳を保障するところにあります(憲法13条)。そうであるならば,国民が目の前に違法行為が迫っており公権力の救助を待てないような場合,厳格な要件の元に自己の利益を守る権利を認め,実質的に個人の尊厳を確保するために行う自力救済を是認することは自由主義,民主主義,人権尊重主義の制度趣旨に反しないからです。又,国民は緊急事態での自衛権だけは国家に委託せず自らの権利として保留したと考える事も出来るのです。更に,これを認めないと被害者を法的保護の外に置き違法行為を行うものを逆に放置,保護する事にもなり公平の理念からも許されません。適正な法秩序を維持するには,時として国家権力としても厳格な要件のもとに主権者である国民自身の権利保全を認めなければならないのです。従って,急迫な違法侵害行為が終了し目の前になくても,法的手続きを待っていては権利回復が困難になるような状況の場合,正当防衛等の要件を準用し例外超法規的に自救救済を認めることは自由主義,基本的人権尊重主義に反するものではありません。

(ウ)自力救済を認める明文はありませんが,犯罪行為において私人である被害者が犯罪行為遂行中である現行犯人(犯罪行為終了間もない準現行犯を含みます)を逮捕することは認められており(刑訴213条,214条)その結果,自ら被害品の取り戻しもできるのですから,これは違法な侵害行為である犯罪行為終了後も長時間追跡して行う事が出来ますので「自救行為」を認める根拠と捉える事が出来ます。これも正当防衛ではありませんが,被疑者の人権を不当に侵害することもないですし,むしろ適正な法秩序を守り被害者等の人権保障の趣旨に合致するので認められるのです。又,事後強盗(刑法238条)の規定も自力救済の根拠(すなわち,追跡者に自力救済の概念を認めないと奪還行為が違法となり窃盗犯の暴行が正当防衛となり事後強盗に出来ないからです)としてよく説明されていますが,私人の逮捕行為と同様な場面であり妥当な解釈です。従って,厳格な要件により自力救済は認められることになります。

(エ)ちなみに,具体的に自救行為とは窃盗,詐欺等の財産犯人を偶然見つけ逃げようとする犯人から自己の財物を取り戻すような場合です。

(オ)最高裁判決昭和24年5月18日も傍論として窃盗被害者の被害物取り戻しを例に挙げ自救行為を一定の要件のもとに認めています。

D本件を検討してみると,かなり微妙な点もありますが,当職としては自救行為に該当するものと判断します。
(ア)先ず緊急性ですが,貴方は,従前の鍵を使用不能とされ新たな鍵を設置されて実際上居住権も侵害されていますが,侵害した管理会社の所在,責任者は把握していますから刑事事件として警察への捜査開始要請,管理会社への現状復帰要請,仮処分,明け渡し訴訟等の法的手続きが可能ですが,これらの手続には時間がかかり,時間の経過とともに管理会社,大家さんの事実上の占有状態が現実化し捜査機関の対応いかんによっては居住権回復が著しく困難になっていく危険が十分あります。居住権侵害行為が数時間前でありますから微妙ですが,権利保全の緊急性は認められるものと思われます。

(イ)数時間前まで居住していた生活権を守るため鍵の取り外しは手段の相当性を逸脱しているとはいえません。

(ウ)利益,法益の比較ですが,管理会社は単なる鍵すなわち財産権が保護の対象ですが,貴方は日常生活の基本である居住生活権が保護の対象であり圧倒的に守られるべき利益が大きい事。相手の鍵付け替え行為は犯罪行為であり法的保護の面で問題があるのに対し,貴方の居住権の正当性は確保されている事等を総合的に検討すると,今回の場合は自救行為を認めても法秩序を不安定にするとは言い切れず違法性がないと判断していいと考えられます。

E福岡高裁判決(昭和45年2月14日)は本件と類似する建物店舗賃借物件の占有回復について自救行為を認めています。競売により所有権を取得した者が4日前に他の共同賃借人から受け取ってかけた鍵を以前からの(共同)賃借人(抵当権は賃貸借前に設定済みであるが事実認定により認められる占有権自体は対効できる関係。しかしほぼ店舗内設備は大方搬出済みの状況。)がハンマー,たがねで損壊し店舗に車両をいれた行為(刑法261条器物損壊,刑法235条の2不動産侵奪罪)について無罪を言い渡しています。第一審は事実関係の認定で賃借人に保護される占有権がないとして有罪を認めています。すなわち,第一審も賃借人に占有権を認めれば自救行為として無罪を認めたかもしれません。

F自救行為を認めない判例は多いのですが,保護に値する居住権を侵害された賃借人の居住権回復の自救行為を否定した判例は見当たりません。

G理論的には自救行為として犯罪は不成立なのですが,捜査機関が以上の理論を的確に理解し適切に対応してくれるかどうか不安ですので,以下その他適切な方法も説明します。

4,@自救行為としての実力行使に不安がある場合,居住権を回復するその他の手続ですが,原則に戻り法的解決権限を国民は国家権力に委託したのですから,積極的に行政権力である捜査機関に働きかけなければなりません。国家権力である捜査機関は,私人の自力救済を禁止し,強制的捜査権を独占しているのですから犯罪行為により被害を受けた者を救済する義務があるのです。

A具体的には先ず管轄捜査機関に被害届け,告訴を提出する事を管理会社に口頭,文書にて通告することです。管理会社が応じないようであれば,実際に所轄警察署に被害届け,告訴を口頭,文書で提出する必要があります(刑訴241条)。

B続いて,任意捜査の一環として,事件関係者を呼び出し甲会社に任意で鍵をはずしてもらい,明け渡しをしてもらうよう捜査機関に要請し,手続終了後に穏便に入居することになります。但し,捜査機関は民事事件不介入を口実に着手をためらう場合がありますから,文書で被害届け,告訴を行う必要がありますし,捜査に着手しないようであればその理由開示を求め意見書を提出することになります。

Cしかし捜査機関は,捜査開始の法的義務,責任を恐れて書面を受け取らない場合がありますので,FAX送付を至急行ってください。捜査機関は,事実上の受領を警戒しFAX番号を知らせませんから事前に番号確保を行いましょう。電話では教えてくれませんから担当官の名刺を受け取ることが大切です。名刺を渡さない時もありますので注意してください。どうしても捜査に着手しない場合は,鍵を破壊されてアパートの居住権が侵害され違法状態が続いている事情を詳細に記載し担当者,責任者(警察署長)に書留で書類を送付する方法もあります。

D以上の方法でどうしても事態が進展しなければ弁護士と相談して最終的には法的手続きになる場合もあります。断行の仮処分,明渡し訴訟,不法行為に基づくホテルの宿泊代等損害賠償請求などが考えられます。

E尚,立腹のあまり鍵を壊し入居してしまった場合,理論的には器物損壊罪は成立しませんが,対応を間違えた捜査機関が事件を立件するようであれば,徹底的に無罪を争うのが基本です。その他至急延滞家賃を支払い,管理会社に謝罪,弁償金を供託などして支払うことにより,最終的には罰金等の刑事処分は回避する方法もあります。本件に関する説明は以上のとおりですが,自分で対応するのが困難であると思われる方は,経験のある法律家に相談するようにして下さい。

≪参考資料≫

『・・・本件特約は,賃貸人側が自己の権利(賃料債権)を実現するため,法的手続によらずに,通常の権利行使の範囲を超えて,賃借人の平穏に生活する権利を侵害することを内容とするものということができるところ,このような手段による権利の実現は,近代国家にあっては,法的手続によったのでは権利の実現が不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合を除くほか,原則として許されないものというほかなく,本件特約は,そのような特別の事情がない場合に適用される限りにおいて,公序良俗に反し,無効であるといわざるを得ない。そして,本件特約の必要性及びその運用状況が仮に被告らの主張するとおりであったとしても,また,仮に被告ら主張のとおり原告がことさら賃料不払の理由を作出するような者であったとしても,法は,そのような場合でさえ,あるいは,そのような場合にこそ,通常の権利行使の範囲を超えて債務者の権利を侵害するような方法による権利の実現については,原則として法的な手続を経るよう要求しているのであって,被告らが主張するような右事情は,右結論を何ら左右するものではない。更に,被告ら主張のとおり原告が本件特約の存在を認識した上で賃貸借契約を締結したとの事実が仮に認められるとしても,右のとおりの本件特約の内容に照らせば,やはり,右結論に何ら影響を及ぼすことはないというべきである。』
札幌地裁平成一〇年(ワ)第三二〇四号・平成11・12・24判決

≪条文参照≫

憲法
第十一条  国民は,すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は,侵すことのできない永久の権利として,現在及び将来の国民に与へられる。
第十二条  この憲法が国民に保障する自由及び権利は,国民の不断の努力によつて,これを保持しなければならない。又,国民は,これを濫用してはならないのであつて,常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第十三条  すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。

民法
(基本原則)
第一条  私権は,公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなければならない。
3  権利の濫用は,これを許さない。
(公序良俗)
第九十条  公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は,無効とする。
(委託を受けた保証人の求償権)
第四百五十九条  保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け,又は主たる債務者に代わって弁済をし,その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは,その保証人は,主たる債務者に対して求償権を有する。
(共同不法行為者の責任)
第七百十九条  数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも,同様とする。
2  行為者を教唆した者及び幇助した者は,共同行為者とみなして,前項の規定を適用する。
(正当防衛及び緊急避難)
第七百二十条  他人の不法行為に対し,自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため,やむを得ず加害行為をした者は,損害賠償の責任を負わない。ただし,被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。
2  前項の規定は,他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。
(損害賠償請求権に関する胎児の権利能力)

刑法
(正当防衛)
第三十六条  急迫不正の侵害に対して,自己又は他人の権利を防衛するため,やむを得ずにした行為は,罰しない。
2  防衛の程度を超えた行為は,情状により,その刑を減軽し,又は免除することができる。
(緊急避難)
第三十七条  自己又は他人の生命,身体,自由又は財産に対する現在の危難を避けるため,やむを得ずにした行為は,これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り,罰しない。ただし,その程度を超えた行為は,情状により,その刑を減軽し,又は免除することができる。
2  前項の規定は,業務上特別の義務がある者には,適用しない。
(不動産侵奪)
第二百三十五条の二  他人の不動産を侵奪した者は,十年以下の懲役に処する。
(事後強盗)
第二百三十八条  窃盗が,財物を得てこれを取り返されることを防ぎ,逮捕を免れ,又は罪跡を隠滅するために,暴行又は脅迫をしたときは,強盗として論ずる。
(器物損壊等)
第二百六十一条  前三条に規定するもののほか,他人の物を損壊し,又は傷害した者は,三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
(自己の物の損壊等)
第二百六十二条  自己の物であっても,差押えを受け,物権を負担し,又は賃貸したものを損壊し,又は傷害したときは,前三条の例による。

刑事訴訟法
第一条  この法律は,刑事事件につき,公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ,事案の真相を明らかにし,刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。
第二百十三条  現行犯人は,何人でも,逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
第二百十四条  検察官,検察事務官及び司法警察職員以外の者は,現行犯人を逮捕したときは,直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない。

破産法
(目的)
第一条  この法律は,支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により,債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し,もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに,債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。

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