新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.698、2007/11/8 15:28

【親族・養子縁組成立要件・有効性・相手方行方不明の場合の手続方法】

質問:私は多重債務者でお金を借りることが出来なかったとき、甲から、自分と養子縁組をして、氏を変えればまたお金を借りることが出来ると誘われて、甲と養子縁組をしました。しかし、縁組届出後すぐに、甲は行方不明となり、また、自分の(私の)名前で勝手に金を借りたりするなど迷惑な行為をしました。それから、5年ほど経ちましたが、何か犯罪に巻き込まれるのではないか不安になりましたので、縁組を解消したいと思います。しかし、甲の所在が分かりません。どのようにすればよいのでしょうか?

回答:名前を変えて借金できるようにすることを目的にする養子縁組は、養子縁組の意思がないとして無効と判断されると考えられます。養子縁組の無効を主張するには、養子縁組無効の人事訴訟を提起することが必要です。また、養子縁組が無効とは言えない事情がある場合は、縁組を解消するためには離縁の手続きが必要となりますが、相手方が所在不明で協議ができないため離縁の訴えを起こすことになります。いずれにしろ、人事訴訟法の特殊性により手続の進め方に注意が必要です。なお、甲が所在不明では、裁判が進められないのではという疑問を持たれるかもしれんせんが、民事訴訟法により準用される公示送達という手続により被告が所在不明でも裁判(人事訴訟)の手続きを進めることは可能です。

解説:
1.貴方は、多重債務者であり新たに借金をする目的、動機のみで甲と養子縁組をしていますから、このような不法ともいえる養子縁組は有効かどうかまず考えてみる必要があります。

2.養子縁組の基本的成立要件は、養子縁組を行う当事者の合意(実質的要件、802条1項1号)と戸籍法の届出(形式的要件すなわち要式行為です。802条1項2号は届出がないと無効と書いてありますが、不成立無効と解釈されています)ですが、問題は1号の養子縁組の意思があったかどうかということになります。条文802条1項1号には「人違いその他の事由によって当事者に縁組する意思がないときは無効である」と規定してありますから、「縁組をする意思」とはどのような内容であるかを解釈する必要があります。

3.養子縁組の意思とは、実質意思すなわち当事者に親と嫡出子の法定血族の親子関係(実親子は自然血族の親子関係といいます)を設定する意思と、縁組届出の意思の二つをいい、それが一つでも欠けた場合は養子縁組する意思がないとして、縁組が無効になるとされています。

@ 養子縁組の制度の本来の目的、存在理由は、未成年養子縁組といって親のいない未成年者のための教育、監護、福祉を養親が行うための制度にあるとされています。また、成人について養子が認められていますが、成人の場合は人為的な家族関係の創設そして副次的に財産の承継、家庭内経済協力等にあるとされています。

Aこのような養子制度は、養子と養親となる人との間の合意で成立のが基本であり、その意味では契約の一種といえます。ですから、基本的には財産的契約と同様、私的法律関係であり私的自治の原則、契約自由の原則の支配内にあります。すなわち、個人間の私的法律関係は、個人の尊厳を目的に各人に幸福追求権を認めていかなる内容においても当事者が希望し、合意すれば法的効果を認められるのです。ただ、経済的取引関係を規律する財産法と家族、親族間の適正な秩序を規律する家族法とでは、前者においてはいかに取引関係を適正、公平、安全、迅速に処理できるかという観点から法律が規定され、法律解釈もそのような視点から解釈されるのに対し、後者は個人の尊厳確保の核である家族、親族関係をどのようにして適正に維持し、保護していくかという点に視点があるという違いがあります。従って、養子縁組をする意思というのは、家族法が予定している親子関係を結ぶ意思に限定され、勝手に自ら独自の親子関係を作り出すことはできことになっています。そこで、養子の制度の内容を法律でそのような養子関係を結ぶ意思が必要とされているのです。

B また、養子縁組は家庭、親族間の関係でありますから身分、家族身分関係維持の理想からの婚姻(婚姻障碍)と同様に規律が数多く規定されており、これらは縁組障碍(しょうがい)として事実上の要件とされています(違反すると婚姻と同じように取消し事由となります。)。例えば、養親となるものが成年者であること、尊属養子、年長者養子でないこと、配偶者ある者の未成年者縁組には配偶者とともにすること、未成年者縁組には家庭裁判所の許可が必要であること等です。

Cこれらのことを前提に、これまで養子縁組の意思が認められるか裁判上問題になった事例を参考に検討してみます。

Dまず、判例では一般的に、「養子縁組の届出自体については当事者間に意思の一致があったとしても、それは単に他の目的を達するための便法として仮託されたに過ぎなくて、真に養親子関係の設定を欲する効果意思がなかった場合においては、養子縁組は効力を生じない」とされています(最判昭23,12,23民集2,14,493)。このような縁組を仮装縁組といい縁組は無効と判断されます。

E具体例としては、兵役義務を免れる目的の縁組、芸妓営業をさせる目的の縁組、婚姻に際して仮親となる目的の縁組、法定推定家督相続人たる長女を他家に入籍させるための縁組などがあります。「婚姻に際して仮親となる目的の縁組」というのは、現在では理解できないと思いますが、第2次世界大戦後でも家同士の結婚という考えが残っており、家の格が釣り合わないのは不都合な結婚として嫌われ、家の格を同等にするために低い格の家から高い格の家に養子に行ってそこから嫁ぐ、などということが行われていたのです。このような目的での養子縁組は「当事者間に養親子関係を生じさせる意思はなかった」として裁判所は無効としています(東京高裁昭和55.5.8)。

Fまた、よく問題となるのは相続人とするために養子縁組がなされたという事案です。この点について裁判所の判断は縁組を有効とするものもありますし、反対に無効とするものもあります。このことからも明らかなように縁組の目的がどうかということは、問題ではなく、当事者に親子関係を生じさせる意思があったかなかったかが問題とされるのです。

Gこの点について、検討する材料として、養子との間に性的関係が認められる場合の判例があります。判例はこの場合も事案によって結論をことにしています。性的な関係のある親子関係というのは少なくとも法律上は認められていませんから、そのような親子関係を認めることはできないはずで、判例も妾関係にある男女間での養子縁組について妾関係を隠す目的でなされたものだとして、縁組無効と判断しています。しかし、他方で性的な関係が養子縁組後に継続していても、「親子関係を生じさせる意思をもってなしたる養子縁組そのものを・・なすことなし」として縁組は有効と判断しています。目的が不道徳なものであっても、親子関係を作る意思があれば養子縁組意思があると判断しているのです。この判例の考え方によれば、性的な関係を持ちながらの親子関係を持ちたいという、当事者の考えを肯定し、そのような親子関係を不道徳なものであるとしながら肯定するということになりますから、批判があって当然のでしょう。ただ、裁判となった事案の多くは養子縁組そのものが問題となったわけではなく、相続問題等金銭的な問題が絡むことから、一概には言えませんが結論としては妥当な判断であったようです。

4.そこで、本件養子縁組について検討してみましょう。氏を変えることにより生活の必要上借金をしやすくするためという動機ですが、相談者に少なくとも法定血族の親子関係を成立させようとする意思があるのであれば、養親子関係合意の動機は基本的に縁組意思には影響しませんから有効でしょう。経済的な理由により事実上の相続人、承継者を作出し、又、相続税対策、会社経営のためにする養子縁組と同様なレベルと考えられます。しかし、親子関係を持つ意思もなく単に名前を変更したいということで縁組したのであれば縁組意思はなく無効と判断されます。したがって、その場合には養子縁組の無効の確認を求めて裁判を提起することが出来ます。

5.養子縁組の無効確認の訴訟においては、養子縁組の無効原因である前述の養子縁組の意思がないことを養子縁組の無効の確認を求める者が主張立証する必要があります。この場合、相手が行方不明であり通常は客観的な物的な証拠があることは少ないとは思いますが、本人や利害関係人の証言などの証拠によって詐欺的な借金行為をする事の経済事情を立証すれば縁組の無効は認められるものと思われます。その手続は民事訴訟ではなく基本的に人事訴訟法に基づき行われます。後述のごとく離縁訴訟の箇所で手続の特色を説明いたします。

6.次に、養子縁組が成立有効であるとしても、甲は、縁組届出後すぐに、甲は行方不明となり、(私の)名前で勝手に金を借りたりするし、5年ほど経っていますから、裁判上の手続きにより離縁できるかどうかが問題となります。いわゆる裁判離縁です。814条1項2号は「3年以上の生死不明」を離縁理由と規定しており2項において離縁判断の裁判所の裁量権を認めています。これは、条文上も準用されているように裁判上の離婚と同様であり、養子縁組関係解消についても破綻主義(当事者どちらかに責任があるかどうかに関わらず関係が形骸化していれば離縁を認める考え)が採られ、実態関係がなく形骸化した養親子関係について裁判所の後見的機能を認めて適正な法定親子関係を規律しようとしています。1項、2項の理論的関係については、離婚のホームページ事例集(bU54)に記載されていますから割愛しますので参照してください。

本件の場合は、2号の「3年以上の生死不明」に該当し、2項の裁判所の裁量権からも離縁は認められるものと解する。その理由ですが、3年以上の生死不明が離縁理由となっているのは、3年もの長期間親子に交流がないようであれば法定親子関係を創設した意味はありませんし、形骸化し実態がありませんので離縁を認めているのです。その趣旨から本号の生死不明となるに至った原因いかんは特に問われておりません。本件養子縁組の場合は、縁組後直ちに行方不明となり、5年間行方不明であることから、生死不明と同じく評価できますから本号に該当します。その他、本件の動機からみて事実上の親子関係の形跡はありませんから、本条2項の規定理由からも離縁の解消を認めても不都合はないと思われます。1号の悪意の遺棄とは、正当な理由なく親子としての扶助義務等を継続的に履行せず、親子としての共同生活の維持を拒否することをいうとされますが本件は、成人同士であり同居義務等はありませんから該当しないと思われます。以上の離縁原因が明らかに認められるので十分といえますが、本件ではさらに、親子関係の実体もなく、借金をしやすくする為に養子縁組をし、養親が無断で養子名義の借金や口座開設等をしていることは、反社会的であり、養子縁組の悪用といえ、縁組を継続し難い重大な事由に該当するとも考えられます。以上より、相談者の養子縁組には、裁判上の離縁原因が認められると考えられます。

7.具体的な手続きについてですが、養子縁組の解消の場合、一般的には、調停前置主義が採用され、まず、家庭裁判所での調停手続きを経る必要があります(家事審判法18条)。しかし、相手方が行方不明等調停をすることが不可能な場合には、特例として、最初から裁判をすることが認められています。養子縁組の離縁訴訟は、人事訴訟により非訟事件手続的色彩によって行われ(人訴18条−22条参照、尚、非訟事件手続についてはホームページ事例集bU76参照、当事者主義が後退しその分職権主義、職権探知主義がとられています。)、家庭裁判所に訴えを提起することになります。相手方の所在が不明な場合には、戸籍の附表、住民票などの最後の住所地を管轄する家庭裁判所に訴えを提起することになります。また、相手方の所在が不明の場合には、通常の方法では相手方に訴状等の裁判書類が送達されないため、公示送達という特別の方法(ホームページ事例集を参照してくださいbU66)を利用して、裁判を進めることになります。相手方が所在不明であることを裁判所に報告疎明をする必要があります。公示送達が認められれば、相手方が欠席のまま、裁判が進められ、当方が主張立証をしなければなりませんが、反論がないことから、比較的自分の主張が認められやすいでしょう。但し、前述のようにこの訴訟は裁判所の後見的裁量を認める非訟事件的手続ですから職権探知主義の下、原則的に当事者主義から認められる自白の規定は適用にならず被告欠席による裁判終結にはなりませんので事実上詳細なる証拠提出が求められます(人訴19条 民訴244条)。

8.本件養子縁組については、以上に述べてきたとおり、所定の手続きをすれば、養子縁組の解消が可能です。実体のない養子縁組を継続放置しておくことは、養親が勝手に借金をしたり、地位を悪用されたり、犯罪に巻き込まれたり、不測の損害を負わされる恐れがありますので、早期に養子縁組の解消をされることをお勧めします。その際、人事訴訟法による離縁無効訴訟、離縁訴訟、公示送達手続きなどの裁判手続きが必要となり、裁判所との折衝が重要となりますので、法的専門家と協議してみましょう。

≪参考条文≫

民法
(養親となる者の年齢)
第七百九十二条 成年に達した者は、養子をすることができる。
(尊属又は年長者を養子とすることの禁止)
第七百九十三条 尊属又は年長者は、これを養子とすることができない。
(後見人が被後見人を養子とする縁組)
第七百九十四条 後見人が被後見人
(未成年被後見人及び成年被後見人をいう。以下同じ。)を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。後見人の任務が終了した後、まだその管理の計算が終わらない間も、同様とする。
(配偶者のある者が未成年者を養子とする縁組)
第七百九十五条 配偶者のある者が未成年者を養子とするには、配偶者とともにしなければならない。ただし、配偶者の嫡出である子を養子とする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。
(配偶者のある者の縁組)
第七百九十六条 配偶者のある者が縁組をするには、その配偶者の同意を得なければならない。ただし、配偶者とともに縁組をする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。
(十五歳未満の者を養子とする縁組)
第七百九十七条 養子となる者が十五歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、縁組の承諾をすることができる。
2 法定代理人が前項の承諾をするには、養子となる者の父母でその監護をすべき者であるものが他にあるときは、その同意を得なければならない。
(未成年者を養子とする縁組)
第七百九十八条 未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は、この限りでない。
(縁組の無効)
第八百二条 縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
 一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき。
 二 当事者が縁組の届出をしないとき。ただし、その届出が第七百九十九条において準用する第七百三十九条第二項に定める方式を欠くだけであるときは、縁組は、そのためにその効力を妨げられない。
(縁組の取消し)
第八百三条 縁組は、次条から第八百八条までの規定によらなければ、取り消すことができない。
(養親が未成年者である場合の縁組の取消し)
第八百四条 第七百九十二条の規定に違反した縁組は、養親又はその法定代理人から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、養親が、成年に達した後六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。
(養子が尊属又は年長者である場合の縁組の取消し)
第八百五条 第七百九十三条の規定に違反した縁組は、各当事者又はその親族から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。
(後見人と被後見人との間の無許可縁組の取消し)
第八百六条 第七百九十四条の規定に違反した縁組は、養子又はその実方の親族から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、管理の計算が終わった後、養子が追認をし、又は六箇月を経過したときは、この限りでない。
2 前項ただし書の追認は、養子が、成年に達し、又は行為能力を回復した後にしなければ、その効力を生じない。
3 養子が、成年に達せず、又は行為能力を回復しない間に、管理の計算が終わった場合には、第一項ただし書の期間は、養子が、成年に達し、又は行為能力を回復した時から起算する。
(配偶者の同意のない縁組等の取消し)
第八百六条の二 第七百九十六条の規定に違反した縁組は、縁組の同意をしていない者から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、その者が、縁組を知った後六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。
2 詐欺又は強迫によって第七百九十六条の同意をした者は、その縁組の取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、その者が、詐欺を発見し、若しくは強迫を免れた後六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。
(子の監護をすべき者の同意のない縁組等の取消し)
第八百六条の三 第七百九十七条第二項の規定に違反した縁組は、縁組の同意をしていない者から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、その者が追認をしたとき、又は養子が十五歳に達した後六箇月を経過し、若しくは追認をしたときは、この限りでない。
2 前条第二項の規定は、詐欺又は強迫によって第七百九十七条第二項の同意をした者について準用する。
(養子が未成年者である場合の無許可縁組の取消し)
第八百七条 第七百九十八条の規定に違反した縁組は、養子、その実方の親族又は養子に代わって縁組の承諾をした者から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、養子が、成年に達した後六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。
(婚姻の取消し等の規定の準用)
第八百八条 第七百四十七条及び第七百四十八条の規定は、縁組について準用する。この場合において、第七百四十七条第二項中「三箇月」とあるのは、「六箇月」と読み替えるものとする。
2 第七百六十九条及び第八百十六条の規定は、縁組の取消しについて準用する。
(嫡出子の身分の取得)
第八百九条 養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する。
(養子の氏)
第八百十条 養子は、養親の氏を称する。ただし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、この限りでない。
(協議上の離縁等)
第八百十一条 縁組の当事者は、その協議で、離縁をすることができる。
2 養子が十五歳未満であるときは、その離縁は、養親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議でこれをする。
3 前項の場合において、養子の父母が離婚しているときは、その協議で、その一方を養子の離縁後にその親権者となるべき者と定めなければならない。
4 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項の父若しくは母又は養親の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
5 第二項の法定代理人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、養子の親族その他の利害関係人の請求によって、養子の離縁後にその未成年後見人となるべき者を選任する。
6 縁組の当事者の一方が死亡した後に生存当事者が離縁をしようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、これをすることができる。
第八百十四条 縁組の当事者の一方は、次に掲げる場合に限り、離縁の訴えを提起することができる。
1.他の一方から悪意て遺棄されたとき。
2.他の一方の生死が3年以上明らかでないとき。
3.その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき。
2 第770条第2項の規定は、前項第1号及び第2号に掲げる場合について準用する。

人事訴訟法
(定義)
第二条 この法律において「人事訴訟」とは、次に掲げる訴えその他の身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え(以下「人事に関する訴え」という。)に係る訴訟をいう。
 一 婚姻の無効及び取消しの訴え、離婚の訴え、協議上の離婚の無効及び取消しの訴え並びに婚姻関係の存否の確認の訴え
 二 嫡出否認の訴え、認知の訴え、認知の無効及び取消しの訴え、民法(明治二十九年法律第八十九号)第七百七十三条の規定により父を定めることを目的とする訴え並びに実親子関係の存否の確認の訴え
 三 養子縁組の無効及び取消しの訴え、離縁の訴え、協議上の離縁の無効及び取消しの訴え並びに養親子関係の存否の確認の訴え
(訴えの変更及び反訴)
第十八条  人事訴訟に関する手続においては、民事訴訟法第百四十三条第一項 及び第四項 、第百四十六条第一項並びに第三百条の規定にかかわらず、第一審又は控訴審の口頭弁論の終結に至るまで、原告は、請求又は請求の原因を変更することができ、被告は、反訴を提起することができる。
(民事訴訟法 の規定の適用除外)
第十九条  人事訴訟の訴訟手続においては、民事訴訟法第百五十七条 、第百五十七条の二、第百五十九条第一項、第二百七条第二項、第二百八条、第二百二十四条、第二百二十九条第四項及び第二百四十四条の規定並びに同法第百七十九条 の規定中裁判所において当事者が自白した事実に関する部分は、適用しない。
2  人事訴訟における訴訟の目的については、民事訴訟法第二百六十六条 及び第二百六十七条 の規定は、適用しない。
(職権探知)
第二十条  人事訴訟においては、裁判所は、当事者が主張しない事実をしん酌し、かつ、職権で証拠調べをすることができる。この場合においては、裁判所は、その事実及び証拠調べの結果について当事者の意見を聴かなければならない。
(当事者本人の出頭命令等)
第二十一条  人事訴訟においては、裁判所は、当事者本人を尋問する場合には、その当事者に対し、期日に出頭することを命ずることができる。
2  民事訴訟法第百九十二条 から第百九十四条 までの規定は、前項の規定により出頭を命じられた当事者が正当な理由なく出頭しない場合について準用する。
(当事者尋問等の公開停止)
第二十二条  人事訴訟における当事者本人若しくは法定代理人(以下この項及び次項において「当事者等」という。)又は証人が当該人事訴訟の目的である身分関係の形成又は存否の確認の基礎となる事項であって自己の私生活上の重大な秘密に係るものについて尋問を受ける場合においては、裁判所は、裁判官の全員一致により、その当事者等又は証人が公開の法廷で当該事項について陳述をすることにより社会生活を営むのに著しい支障を生ずることが明らかであることから当該事項について十分な陳述をすることができず、かつ、当該陳述を欠くことにより他の証拠のみによっては当該身分関係の形成又は存否の確認のための適正な裁判をすることができないと認めるときは、決定で、当該事項の尋問を公開しないで行うことができる。
2  裁判所は、前項の決定をするに当たっては、あらかじめ、当事者等及び証人の意見を聴かなければならない。
3  裁判所は、第一項の規定により当該事項の尋問を公開しないで行うときは、公衆を退廷させる前に、その旨を理由とともに言い渡さなければならない。当該事項の尋問が終了したときは、再び公衆を入廷させなければならない。
(確定判決の効力が及ぶ者の範囲)
第二十四条 人事訴訟の確定判決は、民事訴訟法第百十五条第一項の規定にかかわらず、第三者に対してもその効力を有する。
2 民法第七百三十二条の規定に違反したことを理由として婚姻の取消しの請求がされた場合におけるその請求を棄却した確定判決は、前婚の配偶者に対しては、前項の規定にかかわらず、その前婚の配偶者がその請求に係る訴訟に参加したときに限り、その効力を有する。
(判決確定後の人事に関する訴えの提起の禁止)
第二十五条 人事訴訟の判決(訴えを不適法として却下した判決を除く。次項において同じ。)が確定した後は、原告は、当該人事訴訟において請求又は請求の原因を変更することにより主張することができた事実に基づいて同一の身分関係についての人事に関する訴えを提起することができない。
2 人事訴訟の判決が確定した後は、被告は、当該人事訴訟において反訴を提起することにより主張することができた事実に基づいて同一の身分関係についての人事に関する訴えを提起することができない。
(訴訟手続の中断及び受継)
第二十六条 第十二条第二項の規定により人事に関する訴えに係る身分関係の当事者の双方を被告とする場合において、その一方が死亡したときは、他の一方を被告として訴訟を追行する。この場合においては、民事訴訟法第百二十四条第一項第一号の規定は、適用しない。
2 第十二条第一項又は第二項の場合において、被告がいずれも死亡したときは、検察官を被告として訴訟を追行する。

家事審判法
第17条 家庭裁判所は、人事に関する訴訟事件その他一般に家庭に関する事件について調停を行う。但し、第9条第1項甲類に規定する審判事件については、この限りでない。
第18条 前条の規定により調停を行うことができる事件について訴を提起しようとする者は、まず家庭裁判所に調停の申立をしなければならない。2 前項の事件について調停の申立をすることなく訴を提起した場合には、裁判所は、その事件を家庭裁判所の調停に付しなければならない。但し、裁判所が事件を調停に付することを適当でないと認めるときは、この限りでない。

民事訴訟法
(公示送達の要件)
第110条 次に掲げる場合には、裁判所書記官は、申立てにより、公示送達をすることができる。
1.当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合
2.第107条第1項の規定により送達をすることができない場合
3.外国においてすべき送達について、第108条の規定によることができず、又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合
4.第108条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後6月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合
2 前項の場合において、裁判所は、訴訟の遅滞を避けるため必要があると認めるときは、申立てがないときであっても、裁判所書記官に公示送達をすべきことを命ずることができる。
3 同一の当事者に対する2回目以降の公示送達は、職権でする。
ただし、第1項第4号に掲げる場合は、この限りでない。
(公示送達の方法)
第111条 公示送達は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示してする。
【則】第46条
(公示送達の効力発生の時期)
第112条 公示送達は、前条の規定による掲示を始めた日から2週間を経過することによって、その効力を生ずる。
ただし、第110条第3項の公示送達は、掲示を始めた日の翌日にその効力を生ずる。
2 外国においてすべき送達についてした公示送達にあっては、前項の期間は、6週間とする。
3 前2項の期間は、短縮することができない。
(公示送達による意思表示の到達)
第113条 訴訟の当事者が相手方の所在を知ることができない場合において、相手方に対する公示送達がされた書類に、その相手方に対しその訴訟の目的である請求又は防御の方法に関する意思表示をする旨の記載があるときは、その意思表示は、第111条の規定による掲示を始めた日から2週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなす。この場合においては、民法第98条第3項ただし書の規定を準用する。

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