新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.686、2007/10/16 17:03 https://www.shinginza.com/jidoukaisyun.htm

【青少年保護育成条例違反・児童買春・民事上の責任】

質問:私は、東京都在住の者ですが、私の15歳の娘にいわゆる淫行行為をしたとして、40歳の甲が逮捕されました。甲はどのような罪に問われるのですか?また、甲に対して、慰謝料を請求することはできますか?

回答:
1、40才甲の刑事上の問題について

@ご質問では、甲があなたのお嬢様にどのような関係、理由により淫行行為をしたか不明ですが、行為についてお嬢様の同意がなければ刑法上強姦罪、強制わいせつ罪(刑法176、177条)になります。同意があった場合でもお嬢様は15歳であり、18歳以下の未成年者ですから成人女性と異なり場合によって懲役刑等刑罰の対象となり異なる取り扱いを受けることになります。16歳から女性は結婚が認められていますから(民法731条)法は、是非の弁別能力すなわち意思能力を有する15歳程度から人間として享有している性的に自由に行動する権利(性的自由権。未成年者でも幸福追求権を有しています。憲法13条)を認めていると考えられます。未成年者の婚姻は両親の許可が必要ですが(民法737条)、性的自由権は権利の性質上これに拘束されませんから両親の同意は不要です。しかし、性的な社会秩序維持、未成年者保護の見地から精神的に未成熟ですから判断能力がほぼ確立する18歳までみだりに性的自由権を濫用する事は出来ません(すなわち18歳以上の人と同じく自由な性行動は出来ないわけです。場合により未成年者も処罰の対象になります。例えば、インターネットを利用した場合等)。そこで、このような18歳未満で未成熟な未成年者の性的自由権の濫用に積極的に加担、誘発、そそのかし等行為を行い、社会秩序を揺るがす者の刑事責任を認めて法は厳しく処罰しています。

A先ず、甲とお嬢様との人間関係から金品等対価がない場合は、東京都青少年の健全な育成に関する条例違反に該当します。同法第18条の6では、「何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。」と規定されております。未成年者でも性的自由権を有してはいますが、意思能力はあるものの判断能力が未熟であり、人格の形成途上にある者ですから当人保護、公共社会全体の利益保護の見地から権利濫用は許されず、このような未成年者と社会的に正当な理由なく交際し権利濫用を幇助しそそのかした者を処罰、禁止しています。未成年者自身は、本来性的自由権を生まれながらに有していますし自損行為であり、判断能力が不十分であるところから道徳的に問題がありますが刑罰の対象にはなりません。以上の趣旨から「みだらな性交又は性交類似行為」とは、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいいます。従って、みだらなとは、婚姻関係及び婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係以外の性的交際関係ということになります。お嬢様が40歳の甲と以上の正当な関係にはないでしょうから、規定により2年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります(前記条例第24条の3)。本件甲の行為は、前記条例第18条の6違反に該当し、甲の情状にもよりますが、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金の範囲内で処罰がなされるものと思われますが、通常初犯であれば、略式手続により罰金100万円の範囲内で罪を償う事になるでしょう。

B次に、いわゆる援助交際等により金銭等経済的対価を交付、供与して性的関係を持つと児童買春等防止法の罪に該当します。金銭的に余裕がない未成熟な未成年者の弱みを利用して更に健全な精神的、肉体的な性的成長を侵害し、道徳的社会秩序を更に蔑ろにして悪化させるのでその罪は重く条例の倍以上になっています(5年以下の懲役又は300万円以下の罰金です。ホームページ事例集参照)。常習的に行うと懲役刑が選択されますし、未成年者、社会に対して反省、謝罪、被害填補を怠ると実刑も予想されます。未成年者自身は、性的自由権を生まれながらに有していますから、自ら積極的にインターネットを利用し18歳未満である事を公表利用して交際しない限り道徳上の責任は別として刑事責任を負いません。

2、民事上の問題について

@未成年者の判断能力が未熟であることに乗じて、複数回のみだらな性行為に及んだ場合には、未成年者の人格形成に重大な打撃を与える行為といえ、上記の条例違反の犯罪行為であるだけでなく、民事上の不法行為(民法709条)に該当することは明らかです。よって、不法行為に基づく慰謝料の請求をすることは可能です。不法行為とは、相手方の「権利」を違法に侵害する事を言いますが、この権利の内容は、法律上明確に認められたものだけでなく、判例上大審院時代から法的保護に値する利益をも含むと解釈されています。不法行為の存在意義は、他人の権利を侵害する事を禁止し自由な社会生活秩序を確保する事にありますから権利だけでなく法的利益を保護の対象にしなければその目的を十分に達成できないからです。従って、未成年者が、性的に健全に成長していく権利、性的自由権は人間として当然認められますから法律上規定されていませんが法的保護に値する利益として不法行為の対象になるわけです。

Aしかし、前述のごとく東京都青少年の健全な育成に関する条例は、「青少年の環境の整備を助長するとともに、青少年の福祉を阻害するおそれのある行為を防止し、もつて青少年の健全な育成を図ることを目的とする。」(条例第1条)とされており、法理論的に本件条例の保護法益は、個々の未成年者の保護という個人的法益だけでなく、善良な風俗の維持、青少年の健全な育成環境の保持という社会的法益も重要な要素として含まれていると考えられています。したがって、本件条例違反の行為がただちに個人的法益だけを侵害しているものとは評価できません。よって、このことから慰謝料の金額が低く評価される可能性があり、単純な痴漢、強姦等の性被害の不法行為に比べて、慰謝料の金額は低くなるものと考えられます。しかし、社会全体(社会的法益)に対する罪の償いは別途、贖罪寄付、奉仕活動等により別個に責任を果たす必要があります。さらに、損害の具体的算定に当たっては未熟なりにも意思能力を有し被害者にも同意したという落ち度があり過失相殺される可能性もあります。具体的な慰謝料の金額について、特別な基準や相場などはなく、個々の被害の事情をもとに、個別具体的に判断することとなります。あくまで一般論ですが、他の犯罪との比較から10万円から50万円の範囲と思われます。但し、示談交渉の場合は、相手方の経済状況、社会的地位、示談の必要性からこの範囲にとどまらない場合もございます。高額な金員を、強引に要求する場合、恐喝と評価される危険もございますから弁護士と協議し法的な評価を基にして、内容証明等で的確な請求を行う事が必要です。

B次に、児童買春も同様ですが、経済的対価を利用する点で誘惑的であり悪質ですから未成年者の健全な成長の阻害、権利濫用、道徳的社会秩序破壊への加担が更に甚大ですので未成年者への賠償、社会全体に対するお詫びの内容も大きくなります。

C尚、強姦、強制ワイセツの場合、被害者はお嬢様だけですから一般的に損害賠償額は100万円から400万円の範囲となるでしょう。

3、具体的な手続きとして、甲に対して、慰謝料等の損害賠償の請求をしていくことになりますが、時期としては、甲に対する刑事処分がなされる前に請求をした方が良いでしょう。甲に対する検察庁の刑事処分の判断がなされる際に、実務の運用として被害者との示談の成否が重要な要素として考慮されるからです。被害者との示談が成立した場合、被疑者の前科等の情状にもよりますが、一般的に起訴猶予等の不起訴処分などの軽い処分がなされる傾向にあります。したがって、被疑者はできるだけ早く被害者との示談の成立を求めていますので、慰謝料の金額についても比較的高額な金額でも被疑者は支払を承諾してくることが多い様です。請求の方法として、個人ですることも可能ですが、弁護士を交渉代理人として選任し、裁判をすることも視野にいれて、固い決意、意思を相手方に示すことにより、交渉を有利に進めることも可能です。一度、弁護士に相談されることをお勧めします。

≪参考条文≫

東京都青少年の健全な育成に関する条例

(目的)
第一条 この条例は、青少年の環境の整備を助長するとともに、青少年の福祉を阻害するおそれのある行為を防止し、もつて青少年の健全な育成を図ることを目的とする。
(青少年に対する反倫理的な性交等の禁止)
第十八条の六 何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。
(平一七条例二五・追加)
(罰則)
第二十四条の三 第十八条の六の規定に違反した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
(平九条例七五・追加、平一六条例四三・平一七条例二五・一部改正)
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
(平成十一年五月二十六日法律第五十二号)
最終改正:平成一六年六月一八日法律第一〇六号
(目的)
第一条  この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする。
(定義)
第二条  この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
2  この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一  児童 
二  児童に対する性交等の周旋をした者
三  児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
3  この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一  児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二  他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三  衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
(適用上の注意)
第三条  この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。
(児童買春)
第四条  児童買春をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律
(平成十五年六月十三日法律第八十三号)
第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は、インターネット異性紹介事業を利用して児童を性交等の相手方となるように誘引する行為等を禁止するとともに、児童によるインターネット異性紹介事業の利用を防止するための措置等を定めることにより、インターネット異性紹介事業の利用に起因する児童買春その他の犯罪から児童を保護し、もって児童の健全な育成に資することを目的とする。
(定義)
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一  児童 十八歳に満たない者をいう。
二  インターネット異性紹介事業 異性交際(面識のない異性との交際をいう。以下同じ。)を希望する者(以下「異性交際希望者」という。)の求めに応じ、その異性交際に関する情報をインターネットを利用して公衆が閲覧することができる状態に置いてこれに伝達し、かつ、当該情報の伝達を受けた異性交際希望者が電子メールその他の電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下同じ。)を利用して当該情報に係る異性交際希望者と相互に連絡することができるようにする役務を提供する事業をいう。
三  インターネット異性紹介事業者 インターネット異性紹介事業を行う者をいう。
(インターネット異性紹介事業者等の責務)
第二章 児童に係る誘引の規制
第六条  何人も、インターネット異性紹介事業を利用して、次に掲げる行為をしてはならない。
一  児童を性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、他人の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは他人に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)の相手方となるように誘引すること。
二  人(児童を除く。)を児童との性交等の相手方となるように誘引すること。
三  対償を供与することを示して、児童を異性交際(性交等を除く。次号において同じ。)の相手方となるように誘引すること。
四  対償を受けることを示して、人を児童との異性交際の相手方となるように誘引すること。
第五章 罰則
第十六条  第六条の規定に違反した者は、百万円以下の罰金に処する。

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