新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.642、2007/7/23 13:33 http://www.shinginza.com/qa-roudou.htm

【労働法・使用期間・労働法の本質・制度趣旨・解雇の理由はどのようなものか・解雇されたときの対策】

質問:私は、今年の3月に大学を卒業して、ある会社に4月から働いています。ところが、入社してから1か月経った先日、突然会社から「明日からこなくていいから」と言われてしまいました。理由について上司に聞いても、会社側は、「君には協調性がない」と抽象的な理由をいうだけです。いままで働いていて会社内部の人ならず取引先の人ともトラブルをおこしたことはありません。3ヶ月の試用期間中であればこんな一方的な会社の言い分が許されるのでしょうか。

回答:
試用期間を定めた労働契約であっても、解約権留保付労働契約と考えられますので、労働契約は成立しています。したがって、会社が労働者を解雇するには客観的に合理的な理由がなくては解雇することはできません。協調性がないという理由では合理的な理由にはなりません。また、試用期間の定めがあり解雇について合理的理由がある場合であっても、14日を越えて雇用されている場合に、会社が解雇するには、30日前までに解雇の予告をするか、平均賃金の30日以上の解雇予告手当金を支払う必要があります。したがって、解雇が認められる場合であっても、解雇の予告なく解雇をすることはできません。相談者は解雇予告手当金の請求をすることができます。

解説:
先ず労働法における雇用者、労働者の利益の対立について申し上げます。本来、資本主義社会において私的自治の基本である契約自由の原則から言えば労働契約は使用者、労働者が納得して契約するものであれば特に不法なものでない限りどのような内容であっても許されるようにも考えられますが、契約時において使用者は経済力からも雇う立場上有利な地位にあるのが一般的ですし、労働力を売って賃金をもらい生活する関係上労働者は長期間にわたり拘束する契約でありながら常に対等な契約を結べない危険性を有しています。しかし、そのような状況は個人の尊厳を守り、人間として値する生活を保障した憲法13条、平等の原則を定めた憲法14条の趣旨に事実上反しますので法律は民法の雇用契約の特別規定である労働法等(基本労働三法等)により労働者が対等に使用者と契約でき、契約後も実質的に労働者の権利を保護すべく種々の規定をおいているのです。法律は性格上おのずと抽象的規定にならざるをえませんから、その解釈にあったっては使用者、労働者の実質的平等を確保するという観点からなされなければならない訳ですし、雇用者の利益は営利を目的にする経営する権利(憲法29条の私有財産制に基づく企業の営業の自由)であるのに対し、他方労働者の利益は毎日生活し働く権利ですし個人の尊厳確保に直結した権利ですからおのずと力の弱い労働者の利益をないがしろにする事は許されないことになります。ちなみに、労働基準法1条は「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たすべきものでなければならない。」第2条は「労働条件は労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。」と規定するのは以上の趣旨を表しているのです。

1、解雇の有効性について
試用期間とは、使用者が労働者を採用する際に、労働者の業務の適性や勤務態度を観察して本採用するかどうか決定するための期間のことをいいます。このように試験的な勤務期間中の労働関係を本採用の労働契約と別個に予備的な契約と考えるか、本契約と一体的に考えるかについて争いがあります。試用期間を定めた入社契約は本採用の労働契約と一体的に考え法律的には使用者側に解雇権が留保された解約権留保付労働契約であると考えるべきです。なぜなら別個の契約と考えると本採用の労働契約が成立していない事になることから使用者側は解約が容易になり他方労働者側は働く権利を実質的に脅かされる危険性が生じて対等な労使関係があるとはいえなくなるからです。試用期間でも労働契約成立を認め労働者の権利を実質的に確保すべきです。

次に、この留保された解約権に基づく解雇の場合には、通常試用期間経過後の解雇よりもある程度広い範囲で会社が解雇することが認められますが、試用期間契約がどのようなものであっても基本的に労働契約解約する合理的具体的理由が必要ですから恣意的な解雇は許されません。なぜなら既に本契約が成立していますから解約により労働者の働き生活する権利が奪われる事は極力避けなければならず、他方使用者は雇用に付き支障が生じる正当で具体的理由がない以上雇用を継続しても何ら不都合はないからです。労働基準法18条の2はこの趣旨から合理的理由がない解雇は無効としているわけですが、本条の「合理的理由」「社会通念上相当である」とは具体的に詳細に検討しなければならないことになります。

判例においても留保された解約権に基づく解雇について、「試用期間中の解雇は、解約権を留保した趣旨から、採用時にはわからなかったが、試用期間中の勤務状態などから判断して、その者を引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することが、試用期間を設定した趣旨・目的に照らし、客観的に相当である場合にのみ許される」としています。したがって、解雇は「客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認される場合にのみ許される」ものと考えているといえます。このような判例の考え方に沿って考えますと、相談者が会社から言われた解雇理由である、協調性がないとの理由に合理的な理由が存するか判断するためには、就業規則の解雇理由の規定や、協調性がないとする具体的な事実が示されていなければできません。ある判例においては、試用期間中の者に若干責められるべき事実があった場合であっても「会社には、教育的見地から合理的範囲内で、その矯正・教育に尽くすべき義務がある」としたものもありますので、試用期間中に会社からどのような教育・指導があったか等についても更に検討してみてもよいでしょう。

2、次に貴方の働く権利を守る具体的な方法について考えてみましょう。
@地位保全の仮処分(民事保全法 23条2項)は貴方が事実上会社に行けないような場合には貴方の社員としての地位を確保するのに有効です。労働者の働き生活する権利が問題となっていますから仮処分では、申立後直ちに(1週間前後)審尋期日が開かれますので会社に戻れるかどうかとりあえず明らかになりますし、裁判官も迅速に会社側に証拠の提出を求め説得してくれます。解雇に付き正当な理由がなく解雇は無効ということになれば社員としての地位は法律上認められますが、事実上会社に行くのは出来ない状態で、働くことを諦めざるを得ないような場合もあります。そのような場合には、会社と和解という形で、退職するが解決金(和解金)を請求するという結論で解決する場合もあります。その場合の解決金解決金の要求としては基本給の5―6倍にするべきでしょう。というのは、労働者は試用期間でも就職を当てに日常生活を開始していますから失業保険の趣旨と同様に最低6ヶ月程度の生活保障が確保されるべきだからです。

A労働基準法第18条の2では「解雇は、客観的に合理的な理由を除き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定義していますので、以上のように会社側に具体的事実や就業規則を検討した結果、会社の主張内容に異議があれば、仮処分の後に時間がかかりますが解雇の濫用として解雇無効の訴えを検討することも考えられます。

Bしかし、会社が任意の話し合いに応じる様子の場合には調停などを利用してみてもよいでしょう。ただし、相手方が出頭しない場合には手続をすすめられないという問題点がありますので、裁判官のほか労働問題に関する労働審判員2名が加わって組織される労働審判委員会が行う労働審判制度を利用することも検討してみてもよいでしょう。この手続によりますと、特別な事情がある場合を除いて、3回以内の審理で終了しますし、相手方不出頭であっても、手続を進めることが出来ます。

C会社から解雇を告げられたら、とりあえず証拠を確保するため「解雇なら、理由を付した解雇通知を下さい」とお願いすべきですし、書面をくれないのであれば、電話などで、出勤するなと言われたことを録音し、「会社から出勤するなと言われたので自宅待機しております。出勤準備しているので、いつでも出勤の指示をしてください」という内容証明を出しておくのも一つの方法です。自分で出来ないようであれば最初に5万円程度の費用で法律事務所に依頼する事も可能です。

Dちなみに、試用期間中の解雇と似通ったものに「見習い労働者の解雇」、「臨時労働者の解雇」がありよく問題になりますが、憲法、労働法の制度趣旨から試用期間中の労働者と同様に働き生活する権利を実質的に確保するため合理的具体的理由がなければ勿論解雇できないと考えるべきでしょう。

Eこのように、会社側の態様によっても、貴方の採るべき方法も異なってきますので、最寄りの弁護士事務所で協議の上対応する事をお勧めいたします。

≪参照条文≫

(解雇)
第十八条の二
 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
(解雇の予告)
第二十条
 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
○2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
○3 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
第二十一条
 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者

民事保全法
(仮処分命令の必要性等)
第二十三条  係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。
2 仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。
3 第二十条第二項の規定は、仮処分命令について準用する。
4 第二項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。

労働審判法
(平成十六年五月十二日法律第四十五号)
(目的)
第一条  この法律は、労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(以下「個別労働関係民事紛争」という。)に関し、裁判所において、裁判官及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者で組織する委員会が、当事者の申立てにより、事件を審理し、調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み、その解決に至らない場合には、労働審判(個別労働関係民事紛争について当事者間の権利関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判をいう。以下同じ。)を行う手続(以下「労働審判手続」という。)を設けることにより、紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とする。
(迅速な手続)
第十五条  労働審判委員会は、速やかに、当事者の陳述を聴いて争点及び証拠の整理をしなければならない。
2  労働審判手続においては、特別の事情がある場合を除き、三回以内の期日において、審理を終結しなければならない。
(労働審判)
第二十条  労働審判委員会は、審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえて、労働審判を行う。
2  労働審判においては、当事者間の権利関係を確認し、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命じ、その他個別労働関係民事紛争の解決をするために相当と認める事項を定めることができる。
(労働審判によらない労働審判事件の終了)
第二十四条  労働審判委員会は、事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判事件を終了させることができる。
(訴え提起の擬制)
第二十二条  労働審判に対し適法な異議の申立てがあったときは、労働審判手続の申立てに係る請求については、当該労働審判手続の申立ての時に、当該労働審判が行われた際に労働審判事件が係属していた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなす。
(非訟事件手続法 及び民事調停法 の準用)
第二十九条  労働審判事件に関しては、非訟事件手続法 (明治三十一年法律第十四号)第一編 (第三条、第六条、第七条、第十条中民事訴訟に関する法令の規定中人証及び鑑定に関する規定を準用する部分、第十一条、第十三条、第十五条、第二十一条並びに第三十二条を除く。)並びに民事調停法 (昭和二十六年法律第二百二十二号)第十一条 、第十二条、第十六条及び第三十六条の規定を準用する。この場合において、非訟事件手続法第二十六条 中「裁判前ノ手続及ビ裁判ノ告知ノ費用」とあるのは「労働審判事件ニ関スル手続ノ費用」と、民事調停法第十一条 中「調停の」とあるのは「労働審判手続の」と、「調停委員会」とあるのは「労働審判委員会」と、「調停手続」とあるのは「労働審判手続」と、同法第十二条第一項 中「調停委員会」とあるのは「労働審判委員会」と、「調停の」とあるのは「調停又は労働審判の」と、「調停前の措置」とあるのは「調停又は労働審判前の措置」と、同法第三十六条第一項 中「前二条」とあるのは「労働審判法(平成十六年法律第四十五号)第三十一条及び第三十二条」と読み替えるものとする。

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