新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.617、2007/5/8 14:11 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

【民事・親族・離婚に伴う夫婦共有自宅の清算方法】

質問:現在、家を出た妻と、協議離婚の話し合いをしています。妻も離婚自体は致し方ないと思っているようですが、2年前に購入してしまった、自宅マンションをどうするかという問題があります。購入時点の私の収入だけでは、住宅ローンの審査が通らないかもしれないので、妻の収入も合算して、私と妻との共有名義にして、妻にも連帯債務者になってもらう形で購入をしました。私の方が収入もかなり多く、持分割合も多くしてあるので、私が住むという方法が現実的なようにも思うのですが、妻は、自分もそのマンションに住みたいわけではないが、自分が住まないのなら債務者から外して欲しいといっています。確かにそうすべきだとも思いますが、今からそうできるものでしょうか。

回答:
1.離婚する場合は、それまでの夫婦双方の共有財産について、どのように分けるかという問題が生じます(財産分与、民法768条)。分け方については、「一切の事情」を考慮して定める、とされていますので(同条3項)、自宅不動産についても、いろいろな分け方が考えられますが、共有のままにするのは、生活を別にしていく以上、本来は避けたいところですので、@売って代金を分けるか、A夫婦どちらかの所有にして、所有者になった方が、それに見合った負担をしていくか、ということになります。しかし、@の方法は、売れなければとれません。購入してからの住宅ローンの返済期間が短い自宅マンションの場合は、中古となって価値は減少する一方、ローンはまだ減っておらず、売却して、その代金全額を支払に充てても、ローンを全て払うことができない、ということも多くあります。ローンを全て払わない場合には、自宅に付けた住宅ローンの抵当権(担保)は外れません。代金を払っても、抵当権がついたままになって、いつ競売になるかわからないようなマンションを買う人はいませんから、そのような自宅マンションは、買い手がつかず売れません。

2.その場合は、Aの方法しかないことになります。自宅マンションについては、ご主人様だけでなく、奥様、家事により家計を助けた内助の功や、奥様ご自身の収入等により、その資産形成に寄与していますので、自宅マンションをご主人様単独所有にするのであれば、その資産価値を金銭で評価した上で、奥様の寄与による部分を、ご主人様から奥様に対して、精算金で支払うべきことになります(東京地方裁判所昭和60年3月19日判決)。しかし、既に述べたとおり、売却代金でローン全額を返せない物件は売れませんから、金銭評価として、プラスの資産価値は認めにくく、そうなると、奥様への精算金も算定できないことになります。あとは、せめて、ご主人様の単独所有にする代わりに、今後の住宅ローンの債務者もご主人様だけにして、所有者が返済を行う形にできないか、という問題となってきます。

3.しかし、住宅ローンの債務者を変更するだけでなく、通常は、夫の単独所有にすることについても、住宅ローンの債権者である、金融機関の承諾が必要になります(ローン契約上その旨の記載があるのが通常です)。この承諾を得るのは、実際上、かなり難しいと思われます。もともと、単独の収入では信用が不十分なので、本来の債務者と同様の支払債務を負担する連帯債務者が必要だったのですから、金融機関は、またもとの信用不十分な状態になるような承諾を見合わせるのが通常です。仮に信用状況が当時より多少改善していたとしても、債務を負ってくれる人が減るわけですから、金融機関が承諾に応じるメリットは乏しいことになります。代わりの連帯債務者や連帯保証人を用意することも一応考えられますが、同居しており、主たる債務者と年齢が近いことも多い配偶者と、同程度の信頼関係、経済的信用のある保証人を用意するのは至難の業です。

4.そこで、いったん別の金融機関から、ローンの返済資金をご主人様単独で借りて、これまでのローンを払ってしまい、その別の金融機関の抵当権をつけ直す(いわゆる借り換えローン)、ということも考えられますが、金融機関の信用判断には、それほど大きな差がなく、当初の金融機関が不安と判断した状況では、やはり、別の金融機関も不安と思うことが多いですから、これもあまり期待できません。

5.そうなると、金融機関との間では債務をそのままにして、ただ、ご主人様と奥様との間で、今後は支払をご主人様がする、という約束をするという方法になってしまいます。金融機関の承諾がないので、ご主人様は、ローンを支払い終わるまで、奥様の持分を取得することができませんが、ほとんどの債務を返済したご主人が、返済をほとんど免れた奥様から持分をもらえないのは不公平ですから、返済した時点で、持ち分をもらえる約束もすることが多いと思います。ただ、実は、その時まで、奥様の持ち分が、奥様のものとなっているかどうかは、不確実です。ケースとして多いわけではありませんが、奥様が別の負債を抱えて、その持ち分を差し押さえられたり、奥様が別の方に持ち分を移転してしまったり、ということも、手続上はあり得ますから、できれば、せめて、全額の返済ができたら移転する、という仮の登記を入れておく(仮登記)べきです。そうすると、差押や譲受をする人が登記を見たときにも、難しそうだ、と思うでしょうから、危険はかなり回避できます。

6.それでも、ご主人様が支払えなくなったときに、金融機関から奥様に請求が行くことは変わりませんから、奥様のご心配も大きく、交渉は難航すると思います。また、上記の交渉や手続、約束の定め方は、かなり複雑です。できれば、一度法律事務所にご相談の上、お進めいただいた方がいいと思います。

≪参考条文≫

(財産分与)
第七百六十八条  協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2  前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3  前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

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