新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.616、2007/5/8 14:00

【行政・外国人との婚姻・オーバーステイと婚姻届出・手続き】

【質問】私は、フィリピンの女性と恋愛におちいり結婚しようと思っていますが、事情があり彼女はオーバーステイです。日本で結婚届をするにはどうしたらいいでしょうか。届出をすると入管の関係上自国に強制送還されるかもしれないという不安があります。手続きを教えてください。

【回答】:結婚し一生を共にする決意をしたのであれば、いつまでも相手女性をオーバーステイの状態にしておくことはできません。弁護士などに相談しながら勇気を持って、婚姻の届出をしてください。結婚の実態があれば、法務大臣の在留特別許可が得られる事例が多いと思われます。

【解説】
1 婚姻届を提出する方法について
日本人同士が婚姻届を提出するには、市町村役場に戸籍を添付して申請する必要があります。日本では、婚姻できる年齢が定められていますし重婚も認めていないので、日本の市町村役場で婚姻届を受理してもらうためには、これら事由に該当していないかを戸籍を元にして判断する必要があるからです。先ず基本的認識として結婚の相手が外国籍の人であっても、婚姻の自由は認められなければなりません。人間として当然の権利として憲法24条1項でも保障されていますし、国際協調主義(憲法前文、98条)を根本原則とするわが憲法上の下では相手が外国人であることを理由に差別する事は許されませんから、基本的に両性の合意があれば婚姻の成立を認めなければならないわけです。

ただ、外国籍の人の場合、婚姻の要件に関して「法の適用に関する通則法第24条」により外国人の本国の法律により求められる要件を満たす必要があります。日本人のように生年月日や氏名、婚姻歴の有無が判断できる戸籍などの証明書を日本国で発布することは出来ませんので、その人がどこの国の誰で、独身で結婚できる人であるとういうことを証明するには、母国からの書類や大使館・領事館から証明書を発布してもらうなどすることが必要となってきます。そのための書類として市町村役場では通常、@パスポート、A外国人登録カード、B婚姻要件具備証明書の3点を提出するように求めてきます。

今回の相談者のように、オーバーステイ等のためパスポートの効力が切れていて提示できない場合には、パスポートの代わりに、国籍と完全な氏名と正確な生年月日がわかる公的書類を提出すれば前述のように婚姻の自由から受け付けてもらえるはずですが、先ほど挙げた全3点具備されていないと、役場の戸籍担当者だけでは、受理してよいかの審査することが難しいため、「受理伺い」として役場が書類を預かり、戸籍法の運用に関する管轄官庁である法務省・法務局に書類が送付され、そこで審査されることになります。本来パスポートの代わりに他の公的書類と日本語の翻訳文を添付して国籍と完全な氏名と正確な生年月日を証明することができれば許可されるはずですが、2,3ヶ月かかってやっと受理されることも多いようです。その理由は公的機関としてオーバーステイの外国人の存在を事実上認めることへの抵抗感が根底にあると思います。このように、正式受理ではないけれども、書類を預かって審査してもらう状態のことを、「受理伺い」と言います。書類提出時に、「受理伺い証明書」を発行してもらうことができますので、請求すると良いでしょう。

戸籍法第48条 届出人は、届出の受理又は不受理の証明書を請求することができる。

ですから、スムーズに手続を済ませたい場合には、婚姻の自由の原則を説明し法務局がどのような事実について、証明不十分と考えているのかを的確に把握して適切な書類を速く提出できるように交渉する必要があります。このような交渉を弁護士に委任することも一つの方法ですので、最寄の弁護士事務所にご相談下さい。また、A外国人登録カードは、市町村役場に外国人登録を行うことにより作成してもらうものですが、外国人登録法においては、ビザの有無にかかわらず、90日以上日本にいる全ての外国人が外国人登録をしなければなりませんので、パスポートがなくても国籍と氏名と生年月日がわかる本国の公的書類を添えれば手続してもらえるはずです。さらにB婚姻要件具備証明書は、各国の駐日大使館・領事館で発行してもらうものです。これは、婚姻できる人であるかどうかを証明するため、@現在独身であることA結婚できる年齢に達していることBいかなる本国法においても婚姻を制限されていないこと(婚姻禁止期間ではないことなど)の全てを満たしていることを証明するものです。

これら書類は戸籍法に定められた必須書類ではありませんが、法務省と各市区町村の運用により、事実上提出を求められているものです。理屈上は、他の書類でも同じような事実関係を証明できれば差し支えないと考えることができます。。場合によっては本国の役所発行の戸籍謄本や独身証明書に翻訳文を添付して提出する場合もあります。

婚姻要件具備証明書の発行については、オーバステイの人に対しては発行していない国もあり、発布するか否か各国によって方針が異なっています。フィリピンの場合ですと、(オーバーステイの人に対しても)現在は具備証明書を発行しているようです。但し、対応が変更されてしまう場合も往々にしてありますので、駐日大使館や領事館に直接確かめてください。このように、婚姻手続とビザの手続とはまったく別の手続ですから、どこの国の誰で、独身で結婚できる人であることを公的な書類で証明できれば婚姻の手続をすることができます。

2 強制送還される可能性について
確かに、オーバースティの状態であるということは、入管法24条(退去強制事由)に該当するので、公務員には入国管理局に通報する義務があります(入管法62条、外国人登録事務取扱要領)が、登録カードを作成する場合に、退去強制事由に該当する疑いがあると思慮するにいたった場合には「通知を要しない」と規定されていますので(外国人登録事務取扱要領本文但書き)、外国人登録手続をする過程でオーバースティであることが発覚したからといって、外国人登録の担当者が入国管理局に通知する可能性は低いといえるでしょう。したがって、届出を提出したからといって、必ず強制退去の手続を採られるわけではありません。

3 このように、日本で婚姻届を提出する方法は考えられますが、婚姻できたからといって、残念ながら日本に滞在し続けることが許されるわけではありません。
滞在期間経過して日本に残留している以上、退去強制事由に該当することに変りは無いからです。もし、日本で今後も生活し続けるお気持ちがあるのでしたら、自主的に入国管理局に出頭し、在留特別許可を求める上申を行うことをお勧めいたします(まず入国審査官から退去強制対象者に該当する旨の通知が来たら、この認定に対して異議申し出をします。滞在期間経過後も滞在している以上、異議に理由があるとは認められにくいですが、「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」には法務大臣が在留を特別に許可することができます) 。しかし、これは、在留することを要求できる権利があることを意味するものではなく、あくまで法務大臣の裁量により許可される可能性があるに過ぎません。したがって、「特別に在留を許可すべき事情」があることを説得的に説明することが重要となってきます。この書類を弁護士などが作成して提出することもできます。ただし、許可を認めるか否かについては、違反者の過去の出入国状況、在留状況、日本における生活の安定(あなたのように結婚の事実も重要な事情のひとつです)など個人的事情のみならず、国際情勢なども総合的に考慮して決定されるものですので、まずは最寄の弁護士にご相談ください。

≪参考条文≫

法の適用に関する通則法
第24条(婚姻の成立及び方式)
1 婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による。
2  婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による。
3  前項の規定にかかわらず、当事者の一方の本国法に適合する方式は、有効とする。ただし、日本において婚姻が挙行された場合において、当事者の一方が日本人であるときは、この限りでない。
第25条(婚姻の効力)  婚姻の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないときは夫婦に最も密接な関係がある地の法による。

平成11年8月13日、出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律
衆参両院法務委員会の付帯決議「政府は、被退去強制者の上陸拒否期間の延長や不法在留罪の新設等に伴い、在留特別許可等の各制度の運用にあたって、家族的結合等の実情を十分考慮すること、また、特別永住者に対して、再入国許可制度のあり方について検討するとともに、その運用については、人権上適切な配慮をすること」

出入国管理及び難民認定法
(口頭審理)
第四十八条  前条第三項の通知を受けた容疑者は、同項の認定に異議があるときは、その通知を受けた日から三日以内に、口頭をもつて、特別審理官に対し口頭審理の請求をすることができる。
(異議の申出)
第四十九条  前条第八項の通知を受けた容疑者は、同項の判定に異議があるときは、その通知を受けた日から三日以内に、法務省令で定める手続により、不服の事由を記載した書面を主任審査官に提出して、法務大臣に対し異議を申し出ることができる。
2  主任審査官は、前項の異議の申出があつたときは、第四十五条第二項の審査に関する調書、前条第四項の口頭審理に関する調書その他の関係書類を法務大臣に提出しなければならない。
3  法務大臣は、第一項の規定による異議の申出を受理したときは、異議の申出が理由があるかどうかを裁決して、その結果を主任審査官に通知しなければならない。
(法務大臣の裁決の特例)
第五十条  法務大臣は、前条第三項の裁決に当たつて、異議の申出が理由がないと認める場合でも、当該容疑者が次の各号のいずれかに該当するときは、その者の在留を特別に許可することができる。
一  永住許可を受けているとき。
二  かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき。
三  人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき。
四  その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき。
2  前項の場合には、法務大臣は、法務省令で定めるところにより、在留期間その他必要と認める条件を附することができる。
3  第一項の許可は、前条第四項の適用については、異議の申出が理由がある旨の裁決とみなす。

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