新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.611、2007/4/27 15:56 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事・起訴前弁護・恐喝・逮捕状が用意されて取調べが始まった場合の対応・逮捕状の執行を待ってもらう方法があるか】
質問:私は内装会社を経営していますが、1年前就職先がなくて困っていた従業員を引き取って今まで雇いそして、生活に困るからというので退職の時は返済するという約束で90万円近く貸していたのですが、人手が足りない時なのに急に条件がいい他の会社に就職したいので退職しますといってきたのです。私は腹がたって、何度か呼び出して「止めるなら今すぐ利息も含めて返せ!サラ金でも何でも借りてもって来い!ただじゃおかないぞ。何時だって監視がついているんだ。」といって酒を飲みながら何度か頭を小突いてしまいました。それから、従業員は用立てて何回かに分けて合計30万ほど送金してきました。半年程して突然朝、刑事さんが3人ほど捜索令状を持ってきて自宅を調べたいといって預金通帳などを持って帰りました。その時同行を求められたのですが私は独身で年老いた寝たきりの母(90歳)を自宅で介護養療しており本日連行されると母が死んでしまうとの事情を話し、「お金を脅し取るつもりはなかった貸したお金を返してもらいたかっただけです。」と説明してところ、刑事さんは「今日のところは引き上げるが、明後日警察署に必ず出頭するように」と言い残し帰りました。今は従業員2人の会社であり仕事も予定がびっしりで逮捕でもされたら倒産してしまいます。どうしたらいいでしょうか。もちろん前科はありません。

【結論】 出頭取り調べ前に弁護士に依頼して弁護方針を立て事前に担当捜査官と交渉して逮捕、起訴を避ける方法がないかどうか協議することが大切です。
【解説】
1.あなたの行為は従業員に90万円の貸し金があったとしても自ら脅かして回収するという自力救済は法的に許されておりません。従業員の頭を小突たり「ただじゃおかないぞ、いつも監視がついてるんだ」といって30万円送金させていますから脅迫して金員を脅し取ったことになり恐喝罪(刑法249条)に該当します。10年以下の懲役で罰金はありませんからこのままですと最終的に公開の刑事裁判になり2年前後の懲役刑を求刑され謝罪もしないでいると実刑の可能性も高いと思います。刑事裁判にするには起訴すなわち公判請求するのですが、起訴のための証拠資料を集めるために捜査、取り調べを行うのですがあなたの身柄を拘束する場合としない場合すなわち在宅で行う場合があります。その判断基準は証拠隠滅と逃走の危険です(刑訴60条、203条)。会社経営していれば逃走の危険というより証拠隠滅が問題になります。

2.あなたの言動からして今後の予想ですが、出頭すると事情を聞かれその場で逮捕状を示され逮捕、送検され最長23日間身柄拘束され起訴後も保釈許可まで身柄拘束は続くと思います(刑訴207条、208条)。最初に家宅捜索に来た時捜査官は捜索令状とともに逮捕令状を持ってきたと思われます。在宅の場合ですと一度は任意で呼び出しがあり事情を聞かれるのが普通だからです。今回は警察官が朝突然きたようですので捜査機関としては綿密に内定を続け同行を求め警察署で静かに逮捕するつもりで来たのですが、監護する母親の事情を聞き万が一の場合を考え逮捕を中断したものと思います。それにあなたの言い訳は「脅し取るつもりはない」ということでありとどのつまり犯行を否認していますから否認事件であり証拠隠滅の危険があると判断される事になり逮捕、勾留ということになります。具体的に言えばあなたの従業員に対し捜し出すなりして恐喝の事実関係につき圧力をかけたり証拠物を隠したりする危険が存するということです。

3.しかし逮捕、勾留されれば会社は倒産するかも知れませんし母の看病もありますので以下あなたの逮捕勾留、処罰を防ぐ方法を考えてみましょう。

4.先ず、本件の場合逮捕状はすでに用意されているようですが、明後日の逮捕を避けようとするならば思い切って先に犯行を認めてしまうことです。あなたとしては、困っている従業員を不況の時雇ってあげたという事もあり脅迫的な言動を繰り返したと思いますが、法的評価としては喝取すなわち30万円を「脅し取った」という事になります。90万円は法的手続きにより自分でするか弁護士に依頼して回収しなければなりません。それなのにあなたは、反省もなく犯行を否認していますから捜査機関としては公判の時の証拠資料を確保しなければなりませんので逮捕、20日間の勾留し捜査を行う事になります。それならば先手を打って恐喝の事実を認めてしまうのです。すなわち証拠隠滅の危険を自らないと積極的に証明するのです。そうすると警察官は証拠隠滅の危険(刑訴 60条 203条)がないのですから逮捕し身柄拘束の必要性もなくなり、万が一逮捕されても勾留請求も理由がなく出来ない事態になってしまいます。その方法ですが、今からすぐに弁護士に連絡して弁護人になってもらい捜査機関に対し否認するつもりがないことを口頭、書面で提出、説明してもらう事です。罪を認める上申書、謝罪文、30万円を返還する誓約書、被害者への謝罪金証明書(50万−100万)、寝たきりのお母様でもかまいません身内の身元引き受け書等を提出し二度と否認しないという誓約を伝えるのです。あなたは調書を取られていませんが、自宅で一度否認していますから、刑事としては明後日の警察署での取調べでひそかに別室に逮捕状を用意しながら逮捕する気持ちでいるはずです。ですからそれを覆すほどの確証を前もって提出する必要があります。やはり交渉役の弁護人は必要です。事実上の自白調書となる上申書、謝罪文は弁護人と協議して提出したとなれば後日自白の撤回は無理ですし、不当捜査などと異議を裁判で主張されないので捜査機関も安心するでしょう。あなたの場合前科もなく自宅で年老いた母を世話しているという事情もあり、もともと貸し金の90万円を回収しようとしただけで計画性もなく、雇用してくれたにもかかわらず恩を裏切った従業員にも非難される点も少しはありますから捜査官が取り調べの結果犯行を素直に認めており証拠隠滅の可能性がないと判断すれば逮捕を見合わせてくれると思います。しかし、弁護人に依頼する時間的余裕があまりありませんからこの点即座に対応してくれる法律事務所を見つけるよう努力してください。弁護費用(協議によりますが着手金30万円−50万円、報酬も同額が一般的でしょうか、参考に当ホームページ報酬規定を閲覧してください)、謝罪、弁償金も用意する必要があります。

5.運良く逮捕、勾留されなかった場合ここで安心してはいけません。逮捕されないだけで無罪になったわけではないですし、数ヵ月後にあなたを裁く刑事裁判が待っているからです。具体的に謝罪、弁償等何もしなければ実刑(執行猶予がつかないため刑務所に収監されることを実刑と言います)になってしまいますしこれでは元の木阿弥でしょう。そこで、何とか不起訴処分に出来ないかどうか次に考えてみましょう。あなたのように初犯で犯罪の悪性が強くない人はむやみに犯罪者としてのレッテルを貼らず社会に復帰させて法秩序を守ろうとする起訴便宜主義(刑訴248条)からすれば不起訴処分の可能性が残されています。社会復帰への大前提は二度と犯罪を起こさないという社会への誓約、保証です。具体的に言うならば被害者への謝罪、被害賠償、被害者の処罰感情の喪失(告訴被害届けの取り消し)です。被害者への謝罪なくして反省も出直しもありませんし、被害者は自力救済を禁じられる結果として法による裁きを通して自らの被害の救済を行うという面があり被害者が処罰を願っている状態では恐喝によって生じた社会秩序の乱れはいまだ回復していないと考えられるからです。本件で言えば至急依頼している弁護人と協議し先ほど提出した書類を理由に被害者側に謝罪の連絡をしてほしい旨捜査官に要請するのです。本件のような場合被害者は被害届けと同時に難を恐れて引っ越しているのが普通ですから捜査機関を介して連絡してもらう他ありません。捜査機関としても捜査中に示談されることは後述のごとく不起訴が予想されことから捜査が無駄になる可能性があり通常歓迎しませんが否認事件について弁護士が積極的に罪を認めて活動している関係上連絡せざるを得ない情況になるでしょう。被害者にご自分で謝罪に行かれても結構ですが、被害者は加害者と直接交渉することは望まないのが一般ですし、ましてや当事者で賠償金支払いの話などできる状態にはないと思います。しかし被害者からすれば、再度同じような業界で仕事をしていく場合もありますし、何よりも被害の弁償謝罪を内心求めているのが通常です(被害者は借金がある様ですし、)。唯、加害者との再度の係わり合いを嫌っている場合が多いのです。そこでせっかくですから多額の費用を支払い依頼している私選の弁護人に話をしてもらいましょう。謝罪の意思を熱心に説明すれば相手も安心して賠償に応じると思います。被害者と連絡が取れ交渉の結果告訴被害届けが取り下げられ、賠償額も妥当なものであれば検察官も人の子です、老婆を介護している親孝行なあなたを起訴してまで処罰しようとしないでしょう。

6.尚運悪く逮捕勾留された場合でも、同様な趣旨から弁護人に連絡、選任し被害者との謝罪、賠償を行ってください。公訴提起前であればまだ不起訴処分の可能性が残っているからです。そして不幸にも起訴となった場合にも同様です。謝罪、賠償は早期の保釈、執行猶予の不可欠な条件なのです。以上から明らかなように「被害者のある犯罪」では謝罪、賠償は避けて通る事が出来ない弁護活動といえるでしょう。

≪条文参照≫

刑法
(恐喝)
第二百四十九条  人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2  前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

刑事訴訟法
第二百四十八条  犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
第六十条  裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一  被告人が定まつた住居を有しないとき。
二  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三  被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
○2  勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。
○3  三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限り、第一項の規定を適用する。
第六十一条  被告人の勾留は、被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければ、これをすることができない。但し、被告人が逃亡した場合は、この限りでない。
第二百三条  司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
○2  前項の場合において、被疑者に弁護人の有無を尋ね、弁護人があるときは、弁護人を選任することができる旨は、これを告げることを要しない。
○3  司法警察員は、第三十七条の二第一項に規定する事件について第一項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
○4  第一項の時間の制限内に送致の手続をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
第二百七条  前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
○2  前項の裁判官は、第三十七条の二第一項に規定する事件について勾留を請求された被疑者に被疑事件を告げる際に、被疑者に対し、弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を告げなければならない。ただし、被疑者に弁護人があるときは、この限りでない。
○3  前項の規定により弁護人の選任を請求することができる旨を告げるに当たつては、弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
4  裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき、及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。
第二百八条  前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
○2  裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。

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