新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.605、2007/4/18 17:20

[商事,登記,動産譲渡登記制度の概要]
動産譲渡登記制度の概要

質問:動産譲渡登記制度について教えてください。

回答:

【大要】
動産譲渡の対抗要件に関し民法178条の特則をなす制度で,法人が譲渡人となる動産譲渡について登記をすることができるものです。動産・債権譲渡特例法(正式名称=動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律)によって創設されました。

【立法趣旨,経緯】
これまで,資金調達の際の物的担保といえば不動産でした。しかし,近時,企業が資金調達をするにあたって,当該企業が保有する在庫商品や機械設備等の動産を担保として活用する手法が注目されるようになりました。動産を担保とする資金調達としては,例えば,企業が動産を譲渡担保に供して金融機関等から融資を受ける方法や,動産を流動化(証券化)目的で譲渡して資金を取得する方法があります。これらいずれの方法による場合でも,動産自体は当該企業が直接占有して使用収益を続けるというのが通常です。

ところが,民法の原則では,動産譲渡の対抗要件は「引渡し」とされ(178条),上記のような場合には「占有改定(同法183条)」という外形的には把握しにくい引渡方法によって対抗要件を具備するしかありませんでした。そのため,後日,占有改定の有無や先後をめぐって紛争が生じるおそれがあり,動産を担保とする資金調達は利用しにくいとされてきました。そこで,登記という明確な対抗要件制度を創設し,このようなおそれを極力解消することによって,企業(特に担保不動産が十分でない中小企業)の資金調達の円滑化が図られました。動産・債権譲渡特例法は,平成16年11月25日に成立し,同年12月1日に公布され,平成17年10月3日から施行されています。

【譲渡の主体】
譲渡人は,法人に限られます。譲渡人を法人に限っても上記の立法趣旨が達成できることと,個人が譲渡人となる場合にまで認めてしまうと個人の生活用動産を狙って制度が悪用されるおそれがあることがその理由です。譲受人については制限がなく,個人が譲受人となる動産譲渡も登記が可能です。

【対象となる「動産」】
譲渡の目的となる「動産」は,個別動産(例=1つ1つの機械設備)か,集合動産(例=倉庫に保管されている多数の在庫商品)かを問いません。他方,貨物引換証,預証券及び質入証券,倉荷証券又は船荷証券が作成されている動産や,自動車,船舶等の特別法による登記・登録制度がある動産は除外されます。証券が作成されていればその証券によって担保の確保ができること,証券の引渡しと登記との間の優先関係をめぐる紛争が生じるおそれがあること,既に外形的な確認が可能な公示制度が機能していればそれで十分であることが理由です。

【対象となる「譲渡」】
本制度の対象となる「譲渡」は,真正譲渡(流動化目的を含む。)か担保目的譲渡かを問いません。他方,動産譲渡登記が動産所有権が移転しない取引(例えば,所有権留保売買,リース,代物弁済予約,停止条件付代物弁済予約,質権設定)についてはその対象に含まれません。

【動産譲渡登記の効力】
動産譲渡登記がされると,民法178条の引渡しがあったものとみなされます。したがって,二重譲渡があった場合などの対抗関係の優劣は,動産譲渡登記対動産譲渡登記の場合であっても,動産譲渡登記対民法上の引渡しの場合であっても,等しく対抗要件具備の先後により決せられます。また,動産譲渡登記制度には即時取得(民法192条)を排斥する効果はありませんので,後行する譲受人が即時取得の要件を満たせば,登記をしていても権利を失うことになります。しかし,個別の事案においては,登記調査を怠った後行譲受人に過失が認められ,即時取得が成立しないとされる可能性が生まれることから,事実上,即時取得を可及的に予防する効力を期待できるでしょう。

【登記ファイル制度】
動産譲渡登記は,「動産譲渡登記ファイル」に登記事項を記録することによって行われます(動産・債権譲渡特例法7条2項)。「動産譲渡登記ファイル」は,コンピュータを使用したデータ処理が可能な記録媒体であり,「指定法務局等」に備えられます(同法7条1項)。「動産譲渡登記ファイル」という冊子があるわけではありません。「指定法務局等(同法5条1項)」として指定されているのは,平成19年4月1日現在,東京法務局だけです。動産譲渡登記がされると,登記事項の概要が東京法務局の登記官から譲渡人の「本店所在地法務局等」に通知され,同所に備えられた「動産譲渡登記事項概要ファイル」に記録されます(同法12条)。

【終わりに】
以上,ご説明してまいりましたが,法制度の概要であることから法律用語が登場することが多く,難しかったかもしれません。もし,具体的事案に関してご不明の点があれば,実際に弁護士にご相談なさることをお勧めいたします。

【参照法令】

■ 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律 ■
第1条(趣旨)
この法律は、法人がする動産及び債権の譲渡の対抗要件に関し民法(明治29年法律第89号)の特例等を定めるものとする。
第3条(動産の譲渡の対抗要件の特例等)
1項 法人が動産(当該動産につき貨物引換証,預証券及び質入証券,倉荷証券又は船荷証券が作成されているものを除く。以下同じ。)を譲渡した場合において,当該動産の譲渡につき動産譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは,当該動産について,民法第178条の引渡しがあったものとみなす。
2項以下 略

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