新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.596、2007/4/6 16:05 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

【民事・家庭内別居と不倫慰謝料請求・不倫相手の妻からの嫌がらせと法的請求】
質問:妻子ある男性に「家庭内別居状態でうまくいってない。付き合ってほしい」といわれ数年間不倫関係にあったのですが、先日不倫相手の奥さんから、突然勤め先会社に電話があり、「訴えてやる。あなたの会社の上司に話を聞いてもらう」などと言われ、精神的苦痛を受けました。奥さんに慰謝料を請求できますか?また奥さんが不倫を理由に訴えることはできるのでしょうか。

[結論]ご質問からわかる事情だけでは、奥さんに慰謝料を請求することはできないと思われます。相手の奥さんの電話が、明らかにあなたの業務に支障をきたすような嫌がらせとなる場合や、あなたが生命や身体に危害を及ぼすような脅迫を受けている場合など、奥さんの不法行為がみとめられるような事情があれば、慰謝料請求できる可能性もあります。

[解説]
1 他人の行為により精神的な苦痛を受けた場合民法709条、710条により慰謝料と言う名目で損害賠償請求ができます。民法709条に規定されている他人の権利を違法に侵害する行為を不法行為といい、不法行為によって損害が生じた場合は損害についての救済として金銭の賠償を請求できるとされています。その損害のうち経済的な損害はないが精神的に損害を受けている場合の賠償が慰謝料です。ですからあなたが、精神的な苦痛を受けたということであれば、慰謝料が請求できる可能性があります。しかし、その場合も不法行為によってあなたが精神的な苦痛を受けた場合に限られますから、相手の奥さんの行為が不法行為にあたるか否か検討が必要になります。

不法行為とは違法に相手の権利を侵害する行為です。あなたは平穏に生活したり、仕事を邪魔されない権利を有していますから、この権利が侵害されているのではないか検討する必要があります。ただ、奥さんからあなたに対する電話が2,3回ではあなたの権利が侵害されているとまではいえないでしょう。また、違法ともいえないと考えられます。但し、電話回数や電話をかける時間帯などから違法と判断される場合もあるでしょう。また、違法の度合いが強いと判断されれば威力業務妨害罪(刑法第234条)に当たる可能性がありますし、その電話が慰謝料の請求にとどまらず、あなたの生命や身体に危害を及ぼすような内容の告知であれば、脅迫罪(刑法第222条第1項)が成立します。したがって、そのような事情がある場合には、奥さんの行為があなたに対する権利侵害が認められ、不法行為が成立するので、慰謝料を請求できることになります。今回は、電話の内容が「不倫をあなたの上司に相談する」というものであなたとしては会社での立場がなくなり業務に影響が出る可能性も考えられるので精神的苦痛があるとは思いますが実際に上司、会社に不倫を公表する事になれば別ですが、今の段階では慰謝料請求は難しいですし、認められても小額にとどまるものと思われます。刑事事件としても警察署で脅迫罪として被害届けは受け付けてくれる可能性は少ないと思います。どうしても不安な場合は弁護士に相談して簡単な内容証明を出してもらい警告する事は必要かもしれません。

ご質問の場合、奥さんの電話をしている理由が、あなたに対する損害賠償請求ということですから、奥さんからすれば権利の行使に当たるとも考えられますが、それでも電話のかけ方や内容があなたの権利を侵害していると判断されれば不法行為や刑事犯罪にあたることもあります。

2 次に、奥さんがあなたを訴えることができるか否かについて説明します。
あなたは妻子にある男性と不倫関係にあるということですが、不倫関係をもつことは法律上不貞行為と呼ばれています。配偶者のある人が、自らの自由な意志に基づいて、配偶者以外の人と性的交渉を持つ場合です。配偶者のあるものが配偶者以外の人と性的関係をもつことは法律上直接は禁じられていません。しかし、不貞行為が離婚の条件になっている(民法第770条第1項1号)ことから、「貞操を守る義務」というのは義務が法律上認められるというのが通説です。しかし婚姻とは互いが協力し合い精神的にも肉体的にも一体となって共同生活を支えあっていくことを前提にしていますから、貞操義務は婚姻関係から当然に導かれる法的義務と考えるのが自然です。770条1項1号は貞操義務を前提として単に離婚原因を明らかにしたものと捉えるべきでしょう。この点については、恋愛は自由であり法律は男女の関係まで介入しないと言う考え方もありますが一般的とはいえないようです。

この義務は、夫あるいは妻が相手の配偶者に対して負っている義務で、相手からみれば夫あるいは妻に対して貞操を守るようすなわち夫婦生活の平穏を維持するよう要求する権利があるとされています。このような権利が認められていることから、この権利を侵害する行為はやはり不法行為に当たることになります。もちろん不貞行為の相手方は夫婦の関係とは別ですから直接に義務違反にはなりません。しかし、不貞行為は一人では出来ませんから不貞行為の相手になった人はあたかも不貞行為を手助けしているようなことになり刑法上で言えばそそのかし、手助け等教唆、幇助行為(刑法61条、62条、共犯の一態様です。)と同様な行為と評価される事になり民事上の責任としては結果的に不貞行為の相手方と一緒になって妻の夫(あるいは夫の妻)に対する権利を侵害したことになります。従って、不貞行為があれば通常、共同不法行為が成立することになります。

本例でも、不貞行為により妻の夫婦生活の平穏が侵害され精神的苦痛が発生したと考えることができますので、あなたと不倫相手による、奥さんに対する不法行為となります。二入で不法行為を行っていることから共同不法行為と呼ばれます。あなたと不倫相手は、奥さんに対し、共同して不法行為責任を負っていることになり、二入に慰謝料の支払い義務が生じています。今回の場合は、不倫の相手方が家庭内の別居状態であるといっていますが、これが真実であっても慰謝料請求は認められるものと考えられます。家庭内別居状態であれば夫婦間の貞操保持義務も幾分薄れるような気もしますが、夫婦喧嘩は犬も食わないといわれるように時として夫婦間では考えられないような喧嘩、不和も生じますので、正式に離婚していない状態での交際はやはり許されないでしょう。又不倫関係に入ろうとする人が、「家庭はとてもうまくいっていてシアワセですが、是非交際してください」などと言う訳がありませんから軽率に信じる事も出来ません。法律上離婚してから(又はかなり長期間の別居生活が継続し夫婦の実態がまったくない場合)お付き合いする事が必要です。

なお、あなたが、不倫相手が既婚者であることを知らなかった場合は、共同不法行為は成立しません。この場合も奥さんの権利は侵害されていますがあなたは奥さんのいることを知らなかったのですから知らなかったのですから、故意過失(民法709条「故意または過失によって」と規定)が無く不貞相手の一緒になって共同して配偶者の権利を侵害しているとはいえないからです。

また、慰謝料請求権は、被害者が損害及び加害者を知った時から3年、又は不法行為の時から20年で時効消滅します(民法第724条)ので、不倫が発覚してから3年以上、あるいは、あなたの最後の不倫行為から20年以上経っていれば、時効を援用することで慰謝料の支払を免れることができます。ただ、法的な責任がないとはいえ、謝罪はするべきでしょう。なお、不倫による慰謝料の金額は、交際期間や離婚に至ったかどうかなど個別の事情等によって異なるため一概には言えませんが、100〜300万円程度で解決されるケースが多いようです。

[参照条文]

民法第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
刑法第二百二十二条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第二百三十四条 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一  配偶者に不貞な行為があったとき。
二  配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三  配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四  配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五  その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2  裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

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