新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.587、2007/3/22 15:52 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事、起訴前弁護 弁護人選任の必要性 強姦と親告罪 弁護方法の特殊性 】
質問:平成18年の夜道を一人で歩いている少女を強姦しようとしたところ、騒がれてしまい、周囲の人に強姦未遂で現行犯で逮捕されてしまいました。通常勾留満期日に検察官は起訴するところ、私のように勾留満期日が日曜日になる場合には、金曜日に起訴されるのが実務の慣習になっていること、強姦罪は、親告罪であるから、被害者から告訴を取り下げてもらえれば、起訴されないとききました。私は、どういう対応をとったらいいでしょうか?

回答:
1、まず、早く信頼できる弁護士に相談、依頼することが大切です。知り合いの弁護士がいない場合は逮捕された後、検察官から勾留請求された場合、裁判所で勾留質問をされることになりますが、この段階などで裁判所から「当番弁護」制度(当番弁護の派遣を希望する場合には、被疑者に対して弁護士会が弁護士を1回のみ無料で派遣するというものです。)の説明を受けることになると思いますのでこの制度を利用して起訴される前に、とりあえず弁護士に相談しましょう。

2、ただし、この当番弁護制度は、弁護士会で登録順番に機械的に派遣され弁護士が1度だけ無料で接見をするというもので、起訴後の被告人に認められている無料の国選弁護人制度とは異なりますから、実際に、当番弁護士に弁護人として活動してもらうには自分で私選弁護人と同様に弁護費用を負担して個別的に弁護士と委任契約を締結する必要があります。特に今回のように、被疑者も犯罪事実を認めている上に親告罪(公訴提起に、告訴を必要とする犯罪)の場合、弁護士を通じて被害者にこちらの謝罪の気持ちを伝えて示談を成立させ、告訴が出ている場合には取り下げてもらえれば、被疑者は不起訴処分となり直ちに釈放となりますが、被疑者の親族が被害者と交渉して示談を結ぼうとしても現実には難しいことから、弁護費用を負担しても(費用を用意できない場合には、法律扶助協会の「刑事被疑者弁護援助制度」を利用できる場合があり、法律扶助協会が弁護人の手数料と実費を立て替える制度もあります)事件の経験があるかどうか等を十分確認し信頼できる弁護士に、費用等を明定した刑事弁護委任契約書を正式に作成して弁護人として事件を委任することが大切です。

3、しかし、弁護士に委任したとしても、日曜日が勾留満期日に当たる場合には、起訴されるまで実質8日間(勾留満期日は検察官が勾留請求してから10日で、満期日に起訴するのが実務の運用ですが、日曜日が勾留満期日にあたる場合には、金曜日に起訴されるという慣習があるためです。 刑訴208条)しかない上、現実に弁護士が示談に向けて動けるのは費用の取り決め、弁護方針の確認、書類の受け渡し等があることから、弁護士が活動できる期間は限られています。更に、被害者が連絡先を教えないように警察官に依頼している場合も往々にしてあることから、弁護士が、短時間の間に、被害者と連絡を取ることすら容易ではありません。

4、したがって、弁護士が被害者と示談を締結するには、更なる工夫が必要と考えます。まず、被害者の連絡先を把握することが、先決ですが、前述の通り弁護士が警察署に利害者側の連絡先を尋ねても、プライバシーの観点から教えてもらえないのが通常です。そこで、警察署に、弁護士の連絡先を被害者に伝えてもらうように頼み被害者からの連絡を待つしか被害者側と接触をもつことは出来ないと考えておくべきでしょう。しかし、被害者側としては、突然の被害にあい精神的にも肉体的にも衝撃を受けており気持ちの整理がついていない状態である上に、加害者側の弁護人である弁護士が連絡を取りたいという申し出を警察から受け取っても、弁護士の意図がよくわからず、どのように対応してよいか分からないのが一般的な態様ですから、早期に被害者からの連絡を期待するのは難しいといえます。ですから、被害者に事実関係を整理してもらい安心してもらうことがまず必要なのです。

5、そこで、こちらの意図を伝えるために、たとえば、弁護士から警察官に対して、弁護士の連絡先だけではなくて被疑者が犯罪事実を認め謝罪の意思を現しているという被疑者の状態及びこちらの示談の意思及び具体的内容を被害者に伝えてもらい、被害者にこちらが接触を持とうとしている真意を理解してもらう方法が有効であると考えます。この場合、警察官は、こちらの連絡先を被害者に伝達してくれても、民事不介入の原則を理由に、こちらの示談の内容までは伝えてもらえない可能性もあります。そのような場合には、弁護士から、被害者に対する慰謝の気持ちと示談の具体的な内容を記載した手紙を被害者に渡してもらえるように検察官に頼む方法も考えられます。以上のような方法を用いて、被害者が安心して弁護人と連絡を取れる状態を作ってあげることが必要不可欠なのです。

6、さらに、このような手段を講じたとしても、被害者からも連絡がない場合には、こちらからは被害者と連絡をとれないのですから示談する余地はありません。しかし、被害者としては、被害を受けたことに憤りを覚えているとはいえ、加害者が犯罪事実を認め謝罪の意思を表していること及び具体的な示談の内容について知っているのですから、このまま告訴を維持し、公判で審議をすることが、最善の方法なのか悩んでいる場合も多くあります。よって、勾留満期日か到来したとしても、このように被害者の意思が不安定なままで起訴することは、親告罪の趣旨(犯罪行為によって被害を被った者が、公開の公判廷で事実関係を取り調べられることで更なる二次被害を受けることを防ぐため、被害者意思を確認するというものです)にも反しているというべきですから、検察官は勾留満期日までに告訴の取り下げがなされなくても、時期を待ち被害者の意思を最終的に確認した上で検察官は起訴するか否かの決断をするべきですと考えます。

7、そのために、弁護士としては、検察官に勾留延長の請求をしてもらうように働きかける方法を採ることが考えられます。勾留延長は、「やむを得ない事由があるとみとめるとき」(刑事訴訟法208条1項)に例外的に認められるもので、判例によれば、事件の複雑性、証拠収集の遅延もしくは困難性から、さらに取調べをしなければ起訴・不起訴の決定をすることが困難な場合に勾留延長が認められるとしています(最判昭和37.7.3)。今回のように、被疑者が犯行を認めているような場合には、犯罪事実に関する事項についてこれ以上捜査の必要性はないかもしれませんが、親告罪においては、特別な配慮を求められると考えるべきです。すなわち、親告罪の趣旨は、犯罪行為によって被害を被った者が、公開の公判廷で事実関係を取り調べられることで更なる二次被害を受けることを防ぐため、被害者意思を確認するというものです。よって、被害者が告訴を取り下げるのかについて未だ熟慮している段階で、取り下げをする可能性があるような場合にまで、起訴することは、この親告罪の趣旨を害するといえます。

8、したがって、被害者が告訴を取り下げるか否か検討中の間は、親告罪の趣旨を害さないために、更に調べる必要がある場合にあたるというべきなのです。よって、あなたとしては経験などを確認し一刻も早く信頼できる弁護士を探し依頼して、弁護士から検察官に対して(あなた自身が検察官に申し立てる事も可能です)以上の趣旨を主張して、勾留延長の請求を促すと共に起訴するか否かの決定も延長してもらうよう働きかけるべきであると考えます。

≪参考条文≫

第二百七条  前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
2  前項の裁判官は、第三十七条の二第一項に規定する事件について勾留を請求された被疑者に被疑事件を告げる際に、被疑者に対し、弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を告げなければならない。ただし、被疑者に弁護人があるときは、この限りでない。
3  前項の規定により弁護人の選任を請求することができる旨を告げるに当たつては、弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
4  裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき、及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。

刑事訴訟法208条1項
前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。


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