新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.584、2007/2/26 18:00

【不動産誇大広告】
質問:誇大広告につられて不動産を購入したのですが、解約できますでしょうか。方法についても教えてください。

回答:
1、不動産の誇大広告に関する法規制
宅地建物取引業法は,宅地建物取引業者に対し,その業務に関して広告をするときは、その広告に係る宅地または建物の所在、規模、形質等について著しく事実に相違する表示をし、または実際のものよりも著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない旨の規制を行っています(第32条)。この「著しく」というのは非常に曖昧で、はっきりとした線引きや基準はないのですが、一般的には,「広告として社会通念上許容される程度の誇張,誇大の限度を超えるもの」といえます。また、表示することによって誤認等をさせる場合だけでなく、表示しないことによって誤認させる場合もこれに該当するものとされています。それでも,かかる規定では誤った広告を防ぐことができないため、全国の不動産公正取引協議会(首都圏エリアでは『社団法人首都圏不動産公正取引協議会』)による『不動産の表示に関する公正競争規約』でひとつひとつの細かな広告表示ルールが定められています。だだし,上記の規定は,事業者に対しての行為規制を定めるいわゆる「業法」上の規定であり,これに違反したとしても,民事的効果が直接的に発生するものではありません。

2、そこで,民事上考えうる手段を以下,列挙いたします。
(1)クーリング・オフ(宅地建物取引業法37条の2)まず,売主が宅地建物取引業者であり,その業者の事業所以外の場所で売買契約が締結された場合には,法定事項の記載がある書面の交付を受けてから8日以内であれば宅地建物取引業法37条の2にもとづき,クーリング・オフにより契約を解除することができます。

(2)消費者契約法上の取消し
消費者契約法上,事業者が重要事項につき事実と異なることを告げたために消費者が誤認した場合(同法4条1項1号),契約の目的となるものに関して,不確実な事項ついて断定的判断を提供した場合(同法4条1項2号),重要事項ないし同事項に関連する事項につき,一方で有利なことを告げ,他方で不利益な事実をあえて告げないために消費者が誤認した場合(同法4条2項)には,意思表示を取り消すことができるとされています。契約を取り消す旨の意思表示をすることで,契約は初めに遡って消滅することになります(民法121条本文)。したがって,本ケースにおける誇大広告が,所在,構造,状態,外観,景観等の重要事項について事実と異なるものである場合や,これらの事項や関連事項についての不利益な事実が記載されていなかった場合,当該不動産に関して不確実な事項であるにもかかわらず断定的な記載がなされていた場合などには,消費者契約法上,意思表示(契約の申込み)を取り消し,売買契約を初めからなかったことにすることができます。

(3)詐欺取消し(民法96条1項)
詐欺は,相手方又は第三者から騙されて,錯誤に陥り,その錯誤によって意思表示をする場合をいいます。本件において,あなたは,誇大広告の内容が真実であると信じ,本当のことを知っていれば,することはなかった申込みをしたのですから,もし,売主が,買主を騙すつもりで誇大広告を出したといえる場合は,詐欺に該当し,取り消しをすることで,契約は初めに遡って消滅することになります(民法121条本文)。

(4)錯誤無効(民法95条)
錯誤無効とは,契約等を行うに際し,その重要部分について,真意と異なる表示行為を行った場合,契約は無効で,はじめから存在しなかったものと扱われる,というものです。本件では,あなたは,その広告に記載してある内容が真実であるということを前提に,購入するという申込みをしたのであって,虚偽の内容であると知っていればそのような申込みはしなかったはずですので,錯誤に該当します。なお,このケースのように「動機」に錯誤がある場合でも,動機が表示され,法律行為の内容になったときには,錯誤無効を認めるというのが判例の立場ですが,本件では,広告の内容が真実であるから当該不動産を購入するという動機は明らかですから,特にこの点を明示していなかったとしても,錯誤無効は認められるものと考えます。

3、以上のような方法がありますが,これら(1)ないし(4)は,いずれも同時に主張することができますので,あなたとしては,まず,これらの理由を記載した配達証明付き内容証明郵便で,売主に対し,取消し又は無効の主張をしましょう。そして,売主があなたの主張を認めない場合には,民事訴訟などの法的手続きをとる必要があります。詳しくは,弁護士に相談してください。

<参照条文>

・宅地建物取引業法第32条(誇大広告等の禁止)
宅地建物取引業者は、その業務に関して広告をするときは、当該広告に係る宅地又は建物の所在、規模、形質若しくは現在若しくは将来の利用の制限、環境若しくは交通その他の利便又は代金、借賃等の対価の額若しくはその支払方法若しくは代金若しくは交換差金に関する金銭の賃借のあつせんについて、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。

・宅地建物取引業法第37条の2
(事務所等以外の場所においてした買受けの申込みの撤回等)宅地建物取引業者が自ら売主となる宅地又は建物の売買契約について、当該宅地建物取引業者の事務所その他国土交通省令で定める場所(以下この条において「事務所等」という。)以外の場所において、当該宅地又は建物の買受けの申込みをした者又は売買契約を締結した買主(事務所等において買受けの申込みをし、事務所等以外の場所において売買契約を締結した買主を除く。)は、次に掲げる場合を除き、書面により、当該買受けの申込みの撤回又は当該売買契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。この場合において、宅地建物取引業者は、申込みの撤回等に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。

1.買受けの申込みをした者又は買主(以下この条において「申込者等」という。)が、国土交通省令の定めるところにより、申込みの撤回等を行うことができる旨及びその申込みの撤回等を行う場合の方法について告げられた場合において、その告げられた日から起算しで8日を経過したとき。
2.申込者等が、当該宅地又は建物の引渡しを受け、かつ、その代金の全部を支払つたとき。

2 申込みの撤回等は、申込者等が前項前段の書面を発した時に、その効力を生ずる。
3 申込みの撤回等が行われた場合においては、宅地建物取引業者は、申込者等に対し、速やかに、買受けの申込み又は売買契約の締結に際し受領した手付金その他の金銭を返還しなければならない。
4 前3項の規定に反する特約で申込者等に不利なものは、無効とする。

・消費者契約法4条(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
1.重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
2.物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認

2 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。

3 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
1.当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。
2.当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。

4 第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。
1.物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容
2.物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件

5 第一項から第三項までの規定による消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しは、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

・民法第95条(錯誤)
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。(詐欺又は強迫)第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

・民法第121条(取消しの効果)
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

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