新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.566、2007/1/30 15:18 https://www.shinginza.com/qa-jiko.htm

【民事 交通事故 被害者は加害者加入の保険会社と示談交渉をする義務があるか 加害者の代理人弁護士とはどうか 損害賠償請求、自賠責保険請求権の時効】
質問:交通事故にあって、通院・治療中です。相手は、「保険屋さんに頼んだから」といって、謝罪すらしません。相手方の保険会社の担当は連絡してきますが、過失の割合に争いがあるほか、このような加害者の態度を考えると、慰謝料等の額にも納得がいかず、話し合いは平行線のままです。どうしたらいいでしょうか。また、何もしないと時効にかかって請求できなくなってしまうと聞きました。いつまでに請求すればよいのか教えてください。

回答:
1、
@最近の任意の自動車保険は被害者との示談交渉を被保険者の保険会社が行なう(示談代行)というような内容のものがほとんどで、さらには、保険会社の負担で弁護士をつけるという特約がついているようなものも少なくありません。先ず交通事故の被害者は、自由に保険会社に代理人を委任できるか、保険会社も自由に保険契約の加害者の代理人になれるかという問題ですが、この点弁護士以外の保険会社が法的紛争に関わることが出来るかという弁護士法72条の関係上限定的に解されています。

A結論を申し上げると保険会社はどのような場合でも示談代行ができるわけではなく、被害者が保険会社と直接交渉を了承しない場合には保険会社は示談代行を行うことは出来ません。保険約款にもこのような場合には示談代行をしないということは明示されています。その理由は以下のように考えられています。かかる保険会社の示談代行はあなたと加害者との私的紛争に保険契約があるとはいえ第三者として直接介入する事になりますから弁護士以外の者が報酬を得る目的で法的紛争に係わってはいけないという弁護士法72条非弁行為の禁止規定に反するおそれがあるわけです。弁護士法72条は資格のないものに法的紛争の代理人になる事を禁じ社会生活の法的安定を保とうとする法治国家の基本をなすものであり強行規定(私人間の契約、合意で規定の内容を変更できないという法規をいい、反対概念である任意規定と対比されます)ですがこの規定にもかかわらず、保険会社の示談交渉が認められる根拠は、保険約款の中で、保険金請求すなわち交通事故の損害金については契約当事者以外の被害者からからも保険会社に直接請求があった場合に保険会社が被害者に直接支払い義務を負うという規定に求められています。すなわち、被害者から保険会社に直接請求があった場合は、法的紛争のたる交通事故について保険会社は被害者と「当事者」の関係になり、「当事者」として被害者と交渉しているのだから、他人の紛争に介入してはいけないという弁護士法72条に反しないという理屈です。しかしこの理由は、被害者が保険会社に損害金を直接請求するという関係を前提としていますので、被害者が保険会社への請求、交渉を望まない場合にはあてはまりませんからそのような場合は原理原則に戻り、保険会社も被害者の意思に反して交渉を求める事が出来ず、加害者も被害者の意思に反して保険会社を交渉代理人として指定し交渉義務を免れる事は出来ないということになる訳です。

Bしたがって、本件の場合でもあなたが、いかなる理由にせよ保険会社との直接交渉を望まず拒否すれば(保険会社に直接請求しなければ)、相手方当事者の「保険屋さんに頼んだから。」という理屈は通らず加害者は正当な理由なく支払いに応じていないということになります。通常、保険約款にもこのような場合には示談代行をしないということは明示されています。あなたの具体的な対応ですがどうしても保険会社との交渉を望まない場合ははっきりと保険会社に交渉を拒否するべく通告し、保険会社から間接的にその旨を加害者に伝えてもらい加害者にも書面で直接交渉に応じるようその旨通知することです。

Cもっとも、保険会社との交渉を拒んだとしても、相手が交渉に応じるかどうかはそもそも自由です(いかに相手が悪いとはいえ、交渉に応じないからといって毎日家におしかけていいというものではありません。話合いができないのであれば、相手方を当事者として法的手続きをとるしかありません。)し、また、上記のような特約があれば、やはり本人は出てこないで、保険会社の弁護士が出てくるケースが多いと思います。   弁護士は、一応加害者からあなたとの交渉権限を委ねられた「代理人」なので、加害者本人代理人をつけて、直接の話し合いをあくまで拒んだ場合には、あなたとしても、最終的には、弁護士と話さざるを得ないということにはなるのではないかと思います。   ただ、保険会社の社員より弁護士の方が話をしやすい部分もあると思うので、保険会社との交渉を拒絶して、過失の点や慰謝料額について弁護士と交渉したり、本人に謝罪を要求してみるというのも一つの方法かと思います。

D以上本件のように相手方加害者が正当な理由なく不誠実な態度をとり賠償に応じないような事態が続けば、最終的には時間、労力はかかりますが自力救済が禁じられている関係上民事訴訟を起こし国の力を借りて損害賠償請求を起こし判決を得て強制的に権利を実現する他ないわけです。

2、上記のようなあなたの請求は、加害者に対する、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求ということになります。民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権については、「損害及び加害者を知ったとき」から3年で時効消滅します(民法724条)。単純な交通事故の治療費で相手方も判明しているような場合には、事故のときから3年ということになりますが、例えば、加害者が逃走して後日判明したような場合にはそのときから3年ということになるでしょうし、後遺障害についての慰謝料等の請求については、症状固定日が「損害」を知ったとき、ということになり、このときから3年ということになるでしょう。

もっとも、時効については、相手方が債務を「承認」した場合には、時効が中断し、そのときから、再度3年間の時効が進行することになります。あなたの場合のように、責任については認めるが、金額について争いがあって、交渉が継続しているようなケースでは、相手方の「承認」が認められると思いますので、時効の点についてはさほど心配する必要はないように思われます。(もっとも、裁判になった場合、上記のような意味での「承認」の立証責任はあなたにありますから、交渉していたことについての記録を念のため残しておくべきでしょうし、また、時効消滅が認められてしまう危険性、3年間も話し合いがつかない点を考えれば、その前に裁判をしてしまうほうがよいとは思います。)ただし、民法724条は上記とは別に不法行為のときから20年を経過したときには時効消滅すると規定されており、これは、除斥期間(中断という概念のないもの)と解されていますから、いくら交渉をしていても事故から20年たってしまえば、権利は消滅してしまいます。

3、なお、自動車保険というのは、基本的には、被害者と加害者の間に示談が成立し、これに基づいて、加害者がその支払った金額を保険会社に保険金の請求をするというのが基本的な構造になります。(ちなみに、このような意味での加害者の保険金請求権の消滅時効は賠償金を支払った日から2年以内(自賠法23条、商法663条)とされています。)このように考えると、示談ができない限り、被害者が一切の損害の填補を受けられないということになり、この結論は不当なので、自賠法16条は被害者から保険会社に対して直接請求(被害者請求)を認めています。あなたの場合も、この制度を使って、強制保険の範囲内で、損害の填補をうけつつ、それを超える部分について、引き続き交渉あるいは裁判をするということが一応可能です。ただし、この被害者請求の消滅時効については「損害を知ったとき」(通常は事故日)から2年間(自賠法19条)ということになっていますので、注意してください。(もっとも、2年を経過すれば、本件事故について、自賠責からの填補が一切受けられなくなるということではなく、後日、被害者と加害者の間で示談が成立し、加害者からの請求という形であれば、上記のとおり賠償金を支払った日から2年間は請求できます。) 

4、なお、一般的に、任意保険会社が提示する示談の案は、裁判所で判決となる場合の相場よりも若干低めの提案になることが多くなっております。裁判に要する期間や費用を考慮して考える必要がありますので、一度は弁護士などの専門家にご相談なさることをお勧め致します。

≪参照条文≫

弁護士法72条
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

民法
(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

自動車損害賠償保障法
(時効)
第19条  第16条第1項及び第17条第1項の規定による請求権は、二年を経過したときは、時効によつて消滅する。
(商法の適用)
第23条  責任保険の契約については、この法律に別段の定がある場合を除くほか、商法第3編第10章第1節第一款の規定による。

商法
第663条  保険金額支払ノ義務及ヒ保険料返還ノ義務ハ二年保険料支払ノ義務ハ一年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス

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