新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.563、2007/1/11 13:32

【セクハラ】
質問:私は(派遣社員)、地方で働いている独身の女性(26歳)ですが、派遣先の上司から性的関係を迫られ、「応じないようなら契約更新はむずかしい」と言われ、勤務を続けたいこともあり不倫関係に陥ってしまいました。上司との関係を悩んでいます。私は、セクシャルハラスメントで慰謝料請求が認められるのでしょうか。私が、会社の相談窓口に相談したところ、どういうわけだか情報が漏れたようで、派遣先の正社員から無視されるようになりました。どうしたらいいでしょう。

回答:

1.まず、セクシャルハラスメントとはどのような概念なのか、判例においても問題となる当該性的行動を具体的に検討し、不法行為などによる損害賠償義務の有無を判断しており、セクシャルハラスメントの概念定義について言及したものは少ないです。京都大学事件において、多義的に用いられるとしつつ、法的責任の根拠としては、「相手側の意に反して、性的な性質の言動を行い、それに対する対応によって仕事をする上で一定の不利益を与えたり、又はそれを繰り返すことによって就業環境を悪化させること」等と定義しています。

2.派遣先の上司に対する請求
(1)直接の加害者である派遣先の上司に対しては、不法行為(民法709条)を理由として損害賠償請求することが考えられます。要件としては、@故意又は過失A違法性B損害の発生C行為と損害との間の相当因果関係が必要です。特に問題となる要件であるABについて説明します。

@違法性
まず、相手の意に反する性的言動すべてが、損害賠償の対象となる違法性を有するわけではないことに注意してください。「違法性」の要件は、基本的には被侵害利益と侵害行為の態様の相関関係から判断されますが、被侵害利益との相関関係の下で、その性的言動を@行為の具体的態様A行為の反復・継続性B行為者及び被害者の態様C両者のそれまでの関係D行為を行われた状況E被害者の対応等、諸般の事情を個別・具体的に検討して、その言動が社会的見地から不相当とされ、違法と評価しうるほど重大・悪質なものであるか否かを総合的に判断する(名古屋高裁金沢支部平8.10.30)とする裁判例があります。したがって、今回においても、加害者である上司がどこで、どのような態様で性的関係を迫ったのか(密室なのか、公然なのか、単なる発言か、肉体的接触を伴うか等)、どのぐらい頻繁に性的関係を迫っていたのか、上司と被害者である貴方が以前から親しい関係にあったのか、貴方が上司に対してどのような対応をとっていたか(はっきり拒否していたことがあるのか)等具体的な言動によって、違法性があるか判断されます。被害者の年齢や婚姻歴を基準として用いた判例もあります。本件では26歳の未婚の女性であり将来の結婚に障害が生じるような事情があれば既婚者の場合より違法性も高いと判断される可能性はあるでしょう。

A損害
発生する損害としては、財産的損害と精神的損害があります。本件においては、具体的に更新拒絶されたわけではないので、正当に支払われるべきであった賃金相当額を得べかりし利益の損失として請求することはできません。被害者が、不眠症やノイローゼに悩まされたり、対人恐怖症になったりしたのであれば、精神的損害として慰謝料を請求することが可能です。ただし、日本の裁判では、精神的損害に対して認められる慰謝料は低額にとどまっているのが実情です(大多数が50から150万円程度の額)。

(2)また、刑事責任としては、準強姦罪(刑法178条)、強姦罪(同177条)が成立するとして告訴することが考えられます。しかし、準強姦罪は「心身喪失や抗拒不能の状態を利用して姦淫することが必要ですし、強姦罪は、「犯行を抑圧するに足りる暴行脅迫」が必要なので、なかなか難しいかもしれませんが、最近は、相手方の地位などに非常に心理的な抑圧を受けて、無理やり性的交渉を持たされた場合に、準強姦や準強制わいせつを認める判決もでてきているようです。

3.派遣先の会社に対する請求
(1)まず、使用者責任(民法715条)にもとづいて損害賠償請求することが考えられます。そのためには、加害者側に一般的不法行為責任成立の要件が備わっていることが必要ですが、使用者責任固有の要件としては特に@「事業の執行について」A使用者に免責事由がないことの要件が問題となる場合が多いです。@は、特に、職場外、勤務時間外で性的言動がなされた場合、問題となりますが、出張先でなされたとか、職場の延長にあたる事情があれば「業務の一環」と一般的に言え、「事業の執行について」という要件を満たされることが、多いでしょう。更にAは、使用者側がの方で立証する必要がある要件ですが、この点について、男女雇用均等法(21条)において事業主にセクシャアル・ハラスメント防止のための事業主に配慮義務が参考になります。同規定は、直接的には、事業主に対する行政上の規制でありますが、この内容に沿った十分な対策が講じられていれば、選任、監督について過失がなかったとされる場合が多いと考えられます。

本件の相談者は、派遣社員でありますが、派遣先の会社も労働者派遣法47条の2において男女雇用均等法21条が適用されますので、派遣先の会社も派遣社員のためにセクハラ防止義務を負っています。したがって、このような防止義務を十分会社がしていなかったような場合には、免責事由は認められにくいと考えます。本件においては前述の男女雇用均等法21条により、会社は雇用管理上配慮すべき義務を負っており、更生労働省は均等法の指針として、職場におけるセクシャルハラスメントが生じた場合の事件の迅速かつ適切な対応を掲げています。例えば、苦情、相談担当者や人事部門、専門の委員会等による事実関係の確認、事案に応じた配置転換等の措置、就業規則に基づく措置等、プライバシー保護の留意及び周知と、当該女性労働者が苦情を申し出たことで不利益な取り扱いを受けないようにとの留意及び周知について定められております。このような観点から致しますと、本件は、会社の相談室から情報が流出したといえるので、プライバシーの保護を十分に留意できなかったと認定される可能性があります。したがって、事業者に免責事由がみとめられない可能性があると考えます。

(2)次に、一般的には、会社が環境整備義務(セクシャルハラスメント発生を極力防止する義務)に違反したことを理由に債務不履行責任(民法415条)基づいて損害賠償請求することも考えられますが、本件の事案は、派遣社員と派遣先の会社との問題であり、両者は雇用契約の関係にはありません。したがって、債務不履行に基づく損害賠償は難しいと考えます。

4.解決方法
(1)相談者は、派遣先の社員から無視されるようになったとのことですが、この点につきましては各都道府県の労政事務所に相談したり、厚生労働省が全国に設置している雇用均等室に相談して助言や指導を受け解決の方向性を探ることをまずしてみましょう。

(2)次に、上司の性的言動が続いているのであれば、この点についてもまずは、雇用均等室などに相談して助言を受けてみましょう。その上で、内容証明郵便で通知書を出すなどして、任意交渉・示談交渉することが考えられます。この方法は、被害者、加害者が秘密裏に問題を解決することを希望している場合、有益ですが、加害者が応じなければ当然に解決が望めないという短所もあります。また、相手側を会社とするか加害者とするかについても慎重な判断が必要です。なぜなら、会社が知ることにより相談者が予想している以上の懲戒処分がなされてしまったり、また、加害者の方も、本人を飛び越えて会社に通告したことにより、態度を硬直させてしまう可能性もあるからです。したがって、具体的事情を弁護士など専門家に話した上で、どちらを相手とするか慎重に判断したほうが良いでしょう。

(3)更に、交渉で和解がまとまらなかった場合、訴訟の提起を検討することも考えられますが、慰謝料として認められる金額はそれほど多額ではないの現状です。(事案にもよりますが、100万から300万である)。したがって、簡易裁判所で行う調停という制度、弁護士会の仲裁センターを利用することも検討してみるのが良いでしょう。

(4)以上のような方法を検討した結果、最終的には、民事訴訟を利用して、前述した加害者に対する不法行為責任、会社に対する使用者責任を追及して損害賠償を請求する方法を選択することも考えられます。

この場合にこちら側の請求が認容されるためには、こちら側で原則として其々の要件を主張、立証しなくてはなりません。したがって、性的言動の事実を立証するための証拠(たとえば、加害者との会話の内容を録音したテープ、性的言動を行われた日時や行為態様が記しておく、他に被害者はいないか探し出して事情聴取するなど)や損害を立証するための証拠(医師の診断書)等を準備しておくとよいでしょう。

以上述べたように、多様な解決方法があります。どの方法が相談者にとってもっとも適切であるかは、加害者の性的言動の行為態様、両者の置かれた立場、被害者の対応、被害の状態によって判断されるべきものですから、やはり各弁護士会の相談窓口、お近くの弁護士にご相談した上で慎重な対応を採ることをお勧めいたします。

≪参考条文≫

民法
第四百十五条  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第七百十五条  ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

刑法
第百七十七条  暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、三年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。
第百七十八条  人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。

男女雇用均等法
第二十一条  事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する女性労働者の対応により当該女性労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう雇用管理上必要な配慮をしなければならない。

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