新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.544、2006/12/12 15:04 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

〔家事・債務整理〕
質問: 妻が,高利の貸金業者から,妻名義で100万円を借り入れし,その後,失踪してしまいました。業者から,妻は生活費の不足を理由に借り入れをしたのであるから,夫である私も,民法761条の日常家事債務として支払義務があると主張されました。私に支払義務はあるのでしょうか。

回答:
1、結論から回答しますと,支払う必要がない可能性が高いと思われます。
2、まず,民法761条は,「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは,他の一方は,これによって生じた債務について,連帯してその責任を負う」と規定しております。これは,夫婦は生活共同体であることから,日常の家事に関するものに限り,他方配偶者が関知しなくても,その責任を認め,夫婦の一方と法律行為をした第三者を保護する規定です。
3、そして,この点,まず,「日常の家事」の範囲が問題となります。この点,最高裁昭和44年12月18日判決は,「日常の家事」に関する法律行為とは,「個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為」であると判断しています。そして,その判断要素として,個々の夫婦の社会的地位,職業,資産,収入といった当事者の属性,地域社会の慣習,当該法律行為の種類・性質を指摘しております。ですから、日常家事債務に当たるかいなかについてはこれらの要素について具体的な判断が必要となります。しかし、本件におけるように高利の貸金業者から100万円を借り入れると言う行為は,例え,生活費の不足を理由とした借り入れであったとしても,当該夫婦が,社会的地位・職業・資産・収入等において一般的・平均的な夫婦である場合には,夫婦の共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為であるとまでは言えず,「日常の家事」の範囲内の法律行為とまでは言えないと判断される可能性が高いと思われます。なお,下級審判例ですが,東京高裁昭和55年6月26日判決や横浜地裁昭和57年12月22日判決は,同種の事案で,「日常の家事」の範囲外の法律行為であると判断しております。
4、ただ,最高裁昭和44年12月18日判決は,仮に,「日常の家事」の範囲外の法律行為の場合でも,第三者を保護すべき場合があるとして,「第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信じるにつき正当の理由があるとき」は,第三者は保護されると判断しております。そこで,さらに,この点を検討する必要がありますが,日常家事債務かいなかについては,最高裁判所の指摘するように個々の夫婦の社会的地位,職業,資産,収入といった当事者の属性,地域社会の慣習,当該法律行為の種類・性質を客観的に判断することになりますから、本件のように,業者が夫へ何らの連絡もしておらず,また,夫の給与明細等の提出を受けていないなど上記の客観的事情について具体的に調査せず、単に妻の言葉を信じただけで、日常家事債務の範囲内であると軽信しているという事情の下では,他方で第三者が貸金業者で,一般的に高い注意義務が要求されることを考慮すると,業者には,「信じるにつき正当の理由」があるとまでは言えず,業者が保護される可能性は低いと思われます。なお,下級審判例ですが,東京高裁昭和55年6月26日判決や横浜地裁昭和57年12月22日判決は,同種の事案で,貸金業者の保護を否定しております。
5、従って、ご自分で交渉されるなら、「自分には支払い義務がないと考えるので、どうしても請求したいときは裁判を起こしてください。」と回答し、それでも相手が脅迫的な言動を行う場合など自分では対応が困難な場合は、弁護士にご相談なさり、代理人交渉を依頼することをお勧め致します。

≪参考条文≫

民法
第七百六十一条  夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

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