新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.528、2006/11/28 14:29 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事 犯罪被害者 刑事告訴 被害届けと捜査機関の対応】
質問:犯罪の被害に遭った場合、被害者としてとりうる手段を教えてください。特に、被害届、告訴について教えてください。

回答:
1.犯罪の被害に遭った場合、被害者がとりうる手段は大きく分けて2通りあります。加害者に刑事処分を受けさせるものと、加害者に対し、民事上の損害賠償を請求するものです。刑事処分は、警察が捜査をし、場合によっては加害者を逮捕して、検察官が公訴を提起します。損害賠償は、被害者自らが加害者を訴えて、金銭の支払を命じてもらうものです。一般に「訴える」などと言いますが、刑事裁判と民事裁判は異なります。被害者ができるのは、後者の民事上の損害賠償請求で、前者の刑事処分は、検察官が公訴を提起し、刑事裁判を開いてもらうことになります。では、前者の刑事裁判について、被害者に何かできることはあるでしょうか。この点を中心にお話致します。
2.犯罪の捜査は、警察、検察官の権限です。刑事処分をしてもらうには、彼ら捜査機関に犯罪があったことを知らせる必要があります。被害に遭ったら、まず警察に相談してください。警察は、被害の状況を調べ、犯罪の疑いがある場合には、捜査を開始してくれます。ところが、警察に行ったところ、体よく追い返されるという話をよく耳にします。捜査機関には事件を迅速かつ的確に捜査する義務があると考えられますが、仮に捜査で一定の成果が挙げられなかった場合、捜査機関の能力不足と判断され、マスコミ報道や、上層部の責任問題に発展する可能性があるからとか、警察は常に多忙であるからとか、様々な事情があるようですが、小さな事件や、証拠の少ない事件などは、捜査せずに「事件性が無い」「話し合いで解決しなさい」等といって追い返されることが多いようです。事件の大きい小さいに関係なく、被害者は困っているのですから、これは大変けしからんということになりますが、実際にそのような例は多数存在するようです。
3.以下に簡単な具体的例を示します。
@詐欺や背任など、いわゆる知能犯といわれるもの。犯罪の内容が複雑なものであることが多いため。
A親族や恋人同士の喧嘩、傷害、金銭問題など。話し合いで解決することが多いため(警察では、刑法244条を引き合いに出されることが多いようです)。
B事件から時間が経っている場合。当事者の記憶があいまいになっていたり、物的証拠の収集も難しいため。
4.そこで、警察に相談に行く際に、それなりの準備をして簡単に追い返されないようにすることを考えましょう。被害者が被害に遭ったことを警察に知らせる手続として、被害届、告訴、告発というものがあります。いずれも、犯罪があったことを捜査機関に知らせるものですが、これらは様式や効果などが異なります。
5.まず被害届ですが、これは、文字通り犯罪の被害に遭ったことを届け出るものです。警察の犯罪捜査の規範を示した犯罪捜査規範第61条に規定があります。しかし、刑法、刑事訴訟法などの法令に定められたものではありません。また、被害届は、被害を届け出るものであり、加害者を罰して欲しいという意思表示は含まれていません。ここが告訴・告発と大きく異なるところです。警察が届出られた事件についてどのように扱うべきか、明確に規定されているわけではなく、検察官などへの報告の仕組みもありません。したがって、被害届が出されても、警察の担当課限りで事件として扱わないことにできてしまうのが難点です。
6.これに対して、告訴は、刑法、刑事訴訟法にも規定があるもので、被害者を初めとする告訴権者が、捜査機関に対して、犯人を罰して欲しいという意思表示をするものです。書面または口頭でこれを行うことができ、受理も警察官だけでなく検察官もすることができます。ただし、告訴権者は、被害者、法定代理人、代理人、被害者死亡のときは配偶者、直系親族、兄弟姉妹など、一定の人に限られます。告訴は、必ず検察官に報告がなされ、検察官は、被告訴人(加害者)について、なんらかの手続を行った(公訴提起、不起訴処分など)際には、告訴人に必ずそれを通知しなければならないことになっています。すなわち、被害届に比べ、告訴については、捜査機関はある程度事件について調べる必要が出てくるため、被害者にとっては効果的であるといえます。告発は、告訴と異なり、誰でもすることができます。内容は、原則として告訴と同じです。告訴、告発は、口頭または書面でできますが、できれば書面によるほうがよいでしょう。以上から、加害者に対して何らかの処分を下してもらうには、告訴のほうが有利ということになります(親告罪などについて、当事務所HPの他の項目も参照してください)。しかし、これは逆に言えば、警察にとっても、一定の処理をしなければならないという点で、より「受け取りたくない」ものであるといえます。
7. ここで、警察がよく使う告訴の受理を避けるための言葉を紹介しておきます。管轄が違うから、事件発生地を管轄する警察署でないと受け取れない・・・犯罪捜査規範第63条には、「管轄区域内の事件であるかどうかを問わず」「これを受理しなければならない」と規定されています。警察は民事不介入だから・・・刑事事件として処罰を求めているのであり、民事の相談に来ているのではありません。犯罪行為は民事事件ではありません。証拠がないと・・・証拠を集めるのが警察の仕事なので、証拠がないと告訴ができないというのでは本末転倒です。警察は上記のような言葉で受理を避けようとしますが、特に法的な根拠があるわけではないのです。ただし、@実際に捜査をするのは、管轄のある警察なので、管轄が分かるなら管轄する警察署に行ったほうがよいでしょう。A自分の被害がどのような法律に違反しているか、実際に犯罪にあたるのかなど、事前に知っておくほうが話もしやすいでしょう。B警察に事件の存在自体を信用してもらうには、何らかの証拠があると望ましいです。怪我をしたなら医師の診断書、金銭のやりとりで被害に遭ったのなら領収書や請求書など、できる限り証拠を集めてから行ったほうがよいでしょう。C相談に行く際には、事件の背景、動機、経過を詳細に文書にまとめ持参することをお勧めします。それでも受け取ろうとしない場合、その警察署を統括する県警(または警視庁)本部、検察庁などに問い合わせてみるのも一つの方法です。その際には、最初に対応した捜査官との問答を記録しておくとよいでしょう。
8.検察官の対応に納得が出来ない場合は、検察審査会に相談することもできます。また、必要な資料や書類を準備したのに、合理的な理由無しに受理を拒む場合は、行政不作為による国家賠償請求を検討することも考えられます。
9. 以上のように、警察にも改善すべき点があることは確かです。しかし、どんなトラブルでも犯罪行為として警察が取り締まってくれるかというと、当然限界はあります。自分が巻き込まれているトラブルが、本当に警察に相談すべき「犯罪行為」にあたるのかは、専門家などのアドバイスをもらうなどして見極める必要があるでしょう。また、警察官も人間ですから、当たり外れや感情的な部分もあります。むやみに文句を言ったり、あまりに荒唐無稽な主張をしてしまうと、信用を得られなくなり、協力してもらいにくくなってしまいます。できるだけの準備をして、警察が受理しやすいようにしておく工夫は必要だと思われます。
10.場合によっては弁護士に相談してみましょう。弁護士は、提出する文書作成の支援や捜査機関への対応の指導などを行います。また、財産的被害について民事的な請求で取り戻す活動などについても御相談いただけます。ただし、「犯人を探し出す」ようなことは弁護士にはできませんので(だからこそ警察に頼る必要があるのです)御注意ください。

≪参考条文≫

犯罪捜査規範
第六十一条
 警察官は、犯罪による被害の届出をする者があつたときは、その届出に係る事件が管轄区域の事件であるかどうかを問わず、これを受理しなければならない。
2 前項の届出が口頭によるものであるときは、被害届(別記様式第6号)に記入を求め又は警察官が代書するものとする。この場合において、参考人供述調書を作成したときは、被害届の作成を省略することができる。
第六十三条  司法警察員たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、管轄区域内の事件であるかどうかを問わず、この節に定めるところにより、これを受理しなければならない。
2  司法巡査たる警察官は、告訴、告発または自首をする者があつたときは、直ちに、これを司法警察員たる警察官に移さなければならない。
第六十四条  自首を受けたときまたは口頭による告訴もしくは告発を受けたときは、自首調書または告訴調書もしくは告発調書を作成しなければならない。
2  告訴または告発の口頭による取消しを受けたときは、告訴取消調書または告発取消調書を作成しなければならない。
第六十五条  書面による告訴または告発を受けた場合においても、その趣旨が不明であるときまたは本人の意思に適合しないと認められるときは、本人から補充の書面を差し出させ、またはその供述を求めて参考人供述調書(補充調書)を作成しなければならない。
第六十六条  被害者の委任による代理人から告訴を受ける場合には、委任状を差し出させなければならない。
2  被害者以外の告訴権者から告訴を受ける場合には、その資格を証する書面を差し出させなければならない。
3  被害者以外の告訴権者の委任による代理人から告訴を受ける場合には、前二項の書面をあわせ差し出させなければならない。
4  前三項の規定は、告訴の取消を受ける場合について準用する。
第六十七条  告訴または告発があつた事件については、特にすみやかに捜査を行うように努めるとともに、次に掲げる事項に注意しなければならない。
一  ぶ告、中傷を目的とする虚偽または著しい誇張によるものでないかどうか。
二  当該事件の犯罪事実以外の犯罪がないかどうか。

刑事訴訟法
第二百三十条  犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。
第二百三十一条  被害者の法定代理人は、独立して告訴をすることができる。
2  被害者が死亡したときは、その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹は、告訴をすることができる。但し、被害者の明示した意思に反することはできない。
第二百四十六条  司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。
第二百三十九条  何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。
2  官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。
第二百四十条  告訴は、代理人によりこれをすることができる。告訴の取消についても、同様である。
第二百四十一条  告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない。
2  検察官又は司法警察員は、口頭による告訴又は告発を受けたときは調書を作らなければならない。
第二百四十二条  司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない。
第二百四十六条  司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。
第二百六十条  検察官は、告訴、告発又は請求のあつた事件について、公訴を提起し、又はこれを提起しない処分をしたときは、速やかにその旨を告訴人、告発人又は請求人に通知しなければならない。公訴を取り消し、又は事件を他の検察庁の検察官に送致したときも、同様である。
第二百六十一条  検察官は、告訴、告発又は請求のあつた事件について公訴を提起しない処分をした場合において、告訴人、告発人又は請求人の請求があるときは、速やかに告訴人、告発人又は請求人にその理由を告げなければならない。
第二百五十条  時効は、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
一  死刑に当たる罪については二十五年
二  無期の懲役又は禁錮に当たる罪については十五年
三  長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については十年
四  長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年
五  長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年
六  長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年
七  拘留又は科料に当たる罪については一年

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