新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.512、2006/11/7 16:50

[民事・裁判・小額訴訟]
質問:知人に30万円貸しており借用書も書いてもらったのですが、約束の返済期日が過ぎても一向に返してもらえません。口頭で請求しても埒があかないので、法的な手続にのっとって回収したいのですが、金額が少額なので、手続に要する費用が回収額を上回るようだと元も子もありません。どうしたらよいでしょうか?

回答:
1.少額訴訟手続の利用
「60万円以下の金銭の支払請求」については、簡易裁判所での「少額訴訟手続」を利用するという方法がございます。一般に「裁判」といえば、「時間がかかる」「難しくて自分1人ではできない」「費用がかかる」等のマイナスイメージを抱かれている方も多いでしょうし、回収したい金額が低額であれば「何も裁判を起こしてまで」と尻込みされてしまう方も多いかと思います。簡易裁判所での「少額訴訟手続」は、こうした世間一般の「裁判」に対するマイナスイメージを払拭すべく、「誰でも」「簡単に」利用できる裁判手続として導入された制度です。
★時間がかかる?→「少額訴訟」は、原則として1回の期日のみで判決言渡(もしくは和解成立)となりますので、何度も裁判所に出廷する必要はありません。
★難しい?→典型的な事案に関する訴状の雛型は、チェック式で容易に記入できる形式のものが簡易裁判所に用意されております。
★費用がかかる?→少額訴訟にかかる費用(裁判所に納める費用)は、申立手数料(訴状に貼付する収入印紙代)1000円〜6000円(※1参照)程度、予納郵券(事前に裁判所に納める切手代)が6000円前後(※2参照)と低額です。
以上のとおり、「請求額に見合った費用・労力」で、「ご自身で紛争を解決したい」という方には、この「少額訴訟手続」を利用されることをお勧め致します。
※1 申立手数料

訴額(請求金額)
申立手数料(収入印紙)

10万円まで
1,000円

20万円まで
2,000円

30万円まで
3,000円

40万円まで
4,000円

50万円まで
5,000円

60万円まで
6,000円

※2 予納郵券:切手の種類・枚数等は裁判所ごとに若干異なりますので、具体的な金額・内訳については、申立をする管轄簡易裁判所へ直接お問い合わせ下さい。
2.少額訴訟手続の流れ
★訴状の作成、提出
→争点が少なく、あまり複雑ではない事案でしたら、簡易裁判所に用意されている定型訴状用紙をご利用されると簡単に作成できます。借用書等、証拠になるようなものがあれば、証拠書類として訴状に添付します。
→申立ができる簡易裁判所は、原則として「相手方の住所地」を管轄する簡易裁判所(民訴4:普通裁判籍)、また本件のような貸金請求の場合は、持参債務(=お金を借りた側が、貸してくれた人のところへ持参してお金を払う)の履行場所である「申立人の住所地」を管轄する簡易裁判所に申立することもできますし(民訴5@:義務履行地)、その他、例えば交通事故に遭ったので車の修理費用や治療費等を請求したい、というような場合には、「交通事故が起こった場所」を管轄する簡易裁判所に申立することもできます(民訴5H:不法行為地)。
★訴状の審査・受理、訴状の送達、期日の指定
→裁判所が少額訴訟の要件を満たしているか、管轄に間違いはないか、等を審査し、不備があれば連絡がきます。特に不備がなく受理された場合には、裁判所は相手方に訴状を送達し、答弁書の提出を求めます。また、出廷する期日が決定され、期日指定の連絡があります。
★答弁書受理、送付
→相手方が答弁書を提出した場合には裁判所から送付されますので、その答弁書に対する反論等を再度書面にまとめ提出することができますし、追加の証拠書類を提出することもできます。
★期日当日
→裁判官から少額訴訟手続の説明があり、双方の主張内容や提出された証拠に関する確認や質問を経た後、原則として、その日のうちに判決が言い渡されますが、裁判官より支払額や支払条件、支払方法等が提示され和解を勧められるケースが多いようです。双方とも和解に応じる意向があるようであれば、司法委員のサポートのもと、和解案について双方協議の上、合意が得られれば和解成立となります。
★強制執行
→せっかく判決を得たり、和解を成立させたとしても、相手方がその後判決・和解の内容どおりの支払をしてくれない場合には、現実に貸金を回収することができませんので、裁判所を通じて相手方の財産を差し押さえし、支払に充てることとなります。強制執行をするためには、まず相手方の財産の調査が必要となりますが、この調査はご自身では困難なケースもございますので、このような場合には事前に弁護士等へご相談されることをお勧めします。弁護士であれば、相手方の預金口座を調査する方法をアドヴァイスできることが多いと思います。調査会社に依頼する方法もありますが、会社によっては調査費用が高額になる場合もありますので、弁護士を通じたほうがよいかもしれません。
→相手方の勤務先や預金口座のある銀行等がわかっていれば、給料や預貯金等の差押が可能です。給料、賃料、預貯金等の「金銭債権」を差し押さえる場合には、「少額訴訟をした同じ簡易裁判所」に対し「少額訴訟債権執行」の申立をすることができます。
→「少額訴訟債権執行」で差し押さえることができるのは、上記「金銭債権」に限られます。不動産(土地・建物)、動産(指輪、パソコン等)、電話加入権等、金銭債権以外の財産に対する差押については、地方裁判所の管轄となります。
3.少額訴訟手続をご利用される際の注意点
★少額訴訟手続は、「60万円以下」の「金銭」の支払を求める場合に限られます。請求金額が60万円を超える場合や、「不動産」の明渡し等を求める場合には、少額訴訟手続を利用することはできません。
★同一の簡易裁判所では年間10回までしか利用できません(消費者金融等による貸金請求の多用防止のため)。
★相手方の所在が不明で裁判所からの書類を送達することができないような場合には利用できません(公示送達不可)。
★その他、争点が多く複雑な事案や、証拠・証人が不十分な事案については、1回の期日のみで審理することが難しいので、裁判所の判断により、職権で通常の裁判に移行されることもあります。また、相手方が少額訴訟の手続に同意せず通常裁判への移行を申し出た場合も同様です。
このようなケースの場合は、やはり専門家の法的知識に基づくアドバイスが必要になると思われますので、弁護士・司法書士等へご相談される事をお勧め致します。

≪参考条文≫

民事訴訟法
第4条(普通裁判籍による管轄)訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
2 人の普通裁判籍は、住所により、日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所により、日本国内に居所がないとき又は居所が知れないときは最後の住所により定まる。
3 大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人が前項の規定により普通裁判籍を有しないときは、その者の普通裁判籍は、最高裁判所規則で定める地にあるものとする。
4 法人その他の社団又は財団の普通裁判籍は、その主たる事務所又は営業所により、事務所又は営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
5 外国の社団又は財団の普通裁判籍は、前項の規定にかかわらず、日本における主たる事務所又は営業所により、日本国内に事務所又は営業所がないときは日本における代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
6 国の普通裁判籍は、訴訟について国を代表する官庁の所在地により定まる。
第5条(財産権上の訴え等についての管轄)次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起することができる。
 @ 財産権上の訴え
  義務履行地
 A 手形又は小切手による金銭の支払の請求を目的とする訴え
  手形又は小切手の支払地
 B 船員に対する財産権上の訴え
  船舶の船籍の所在地
 C 日本国内に住所(法人にあっては、事務所又は営業所。以下この号において同じ。)がない者又は住所が知れない者に対する財産権上の訴え
  請求若しくはその担保の目的又は差し押さえることができる被告の財産の所在地
 D 事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するもの
   当該事務所又は営業所の所在地
 E 船舶所有者その他船舶を利用する者に対する船舶又は航海に関する訴え
   船舶の船籍の所在地
 F 船舶債権その他船舶を担保とする債権に基づく訴え
   船舶の所在地
 G 会社その他の社団又は財団に関する訴えで次に掲げるもの
   社団又は財団の普通裁判籍の所在地
   イ 会社その他の社団からの社員若しくは社員であった者に対する訴え、社員からの社員若しくは社員であった者に対する訴え又は社員であった者からの社員に対する訴えで、社員としての資格に基づくもの
   ロ 社団又は財団からの役員又は役員であった者に対する訴えで役員としての資格に基づくもの
   ハ 会社からの発起人若しくは発起人であった者又は検査役若しくは検査役であった者に対する訴えで発起人又は検査役としての資格に基づくもの
   ニ 会社その他の社団の債権者からの社員又は社員であった者に対する訴えで社員としての資格に基づくもの
 H 不法行為に関する訴え
   不法行為があった地
 I 船舶の衝突その他海上の事故に基づく損害賠償の訴え
   損害を受けた船舶が最初に到達した地
 J 海難救助に関する訴え
   海難救助があった地又は救助された船舶が最初に到達した地
 K 不動産に関する訴え
   不動産の所在地
 L 登記又は登録に関する訴え
   登記又は登録をすべき地
 M 相続権若しくは遺留分に関する訴え又は遺贈その他死亡によって効力を生ずべき行為に関する訴え
   相続開始の時における被相続人の普通裁判籍の所在地
 N 相続債権その他相続財産の負担に関する訴えで前号に掲げる訴えに該当しないもの(相続財産の全部又は一部が同号に定める地を管轄する裁判所の管轄区域内にあるときに限る。)
   同号に定める地

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