新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.502、2006/10/17 18:57

[民事・執行]
質問:私は,先日,友人に貸して返ってこなかった200万円について地方裁判所で返還請求訴訟を行い,全額を認容する仮執行宣言付の判決をもらいました。しかし,相手方が控訴してきたので,現在,控訴審に向けて準備を進めているところです。そこで,質問なのですが,現段階で,相手方名義の銀行口座に対して強制執行を行うことができるのでしょうか。まだ裁判が確定していないと思いますのでできるか疑問です。

回答:
1、今回のように第1審判決に対して控訴がなされ,判決が確定していない場合であっても,第1審判決の主文に仮執行を認める文言(仮執行宣言)があれば,認められている部分につき,判決が確定していないとしても,相手方の財産に対して強制執行をすることができます。
2、そして,現在,控訴審の準備をしているとのことですが,仮執行宣言に基づいて強制執行を行う場合,強制執行申立という控訴審とは別個の手続を行う必要があります。今回のように,相手方の銀行口座を差し押さえる場合には「債権差押命令申立」という申立を地方裁判所の執行を担当する部(東京地方裁判所でしたら,民事第21部)に対して行う必要があります(なお,かかる銀行預金に対する差押えを行う場合には,現在のところ,少なくとも相手方名義の口座がある銀行の「支店名」まで特定できていないと差押えを行うことはできません。支店名まで判明しない場合は,自分で調査するか調査事務所に依頼する方法が考えられます。)
3、かかる債権差押命令申立が認められて裁判所から差押命令が出た後,差押え先として指定した銀行の支店に相手方名義の口座があり,かつ,預金残高がある場合には,一定の要件の下,銀行(差押命令事件では,第三債務者といいます。)から差し押さえた預金残高を,実際に取り立てることができます(民事執行法155条1項)。
4、もっとも,判決自体はまだ確定していない状態ですので,仮に,差押えが奏功し,200万円受領できたとしても,控訴審で相手方の控訴理由が一部認められ,例えば150万円についてのみ認容する判決に変更され,その判決が確定した場合には,差額の50万円について相手方への返還義務が生じます。ですので,仮執行宣言に基づく強制執行によって,第1審で認容された全額につき回収できたとしても,判決が確定するまでは,できるだけその金銭を費消しないで保管されておかれた方がよろしいかと思われます。
5、また,相手方が強制執行停止の申立(民事執行法39条)により,一審の仮執行宣言付判決を取り消す旨の控訴審判決の正本や,執行文付与に対する異議の訴え(民事執行法34条)の認容判決正本,請求異議の訴え(民事執行法35条)の認容判決正本などを提出した場合には,強制執行手続は停止し,さらに,執行手続き自体が取り消されることになります(民事執行法40条)。

≪参考条文≫

民事執行法
(執行文付与に対する異議の訴え)第三十四条 第二十七条の規定により執行文が付与された場合において、債権者の証明すべき事実の到来したこと又は債務名義に表示された当事者以外の者に対し、若しくはその者のために強制執行をすることができることについて異議のある債務者は、その執行文の付された債務名義の正本に基づく強制執行の不許を求めるために、執行文付与に対する異議の訴えを提起することができる。
2  異議の事由が数個あるときは、債務者は、同時に、これを主張しなければならない。
3  前条第二項の規定は、第一項の訴えについて準用する。
(請求異議の訴え) 第三十五条  債務名義(第二十二条第二号又は第四号に掲げる債務名義で確定前のものを除く。以下この項において同じ。)に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は、その債務名義による強制執行の不許を求めるために、請求異議の訴えを提起することができる。裁判以外の債務名義の成立について異議のある債務者も、同様とする。
2  確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。
3  第三十三条第二項及び前条第二項の規定は、第一項の訴えについて準用する。
(強制執行の停止) 第三十九条  強制執行は、次に掲げる文書の提出があつたときは、停止しなければならない。
一  債務名義(執行証書を除く。)若しくは仮執行の宣言を取り消す旨又は強制執行を許さない旨を記載した執行力のある裁判の正本
二  債務名義に係る和解、認諾、調停又は労働審判の効力がないことを宣言する確定判決の正本
三  第二十二条第二号から第四号の二までに掲げる債務名義が訴えの取下げその他の事由により効力を失つたことを証する調書の正本その他の裁判所書記官の作成した文書
四  強制執行をしない旨又はその申立てを取り下げる旨を記載した裁判上の和解若しくは調停の調書の正本又は労働審判法 (平成十六年法律第四十五号)第二十一条第四項 の規定により裁判上の和解と同一の効力を有する労働審判の審判書若しくは同法第二十条第七項 の調書の正本
五  強制執行を免れるための担保を立てたことを証する文書
六  強制執行の停止及び執行処分の取消しを命ずる旨を記載した裁判の正本
七  強制執行の一時の停止を命ずる旨を記載した裁判の正本
八  債権者が、債務名義の成立後に、弁済を受け、又は弁済の猶予を承諾した旨を記載した文書
2  前項第八号に掲げる文書のうち弁済を受けた旨を記載した文書の提出による強制執行の停止は、四週間に限るものとする。
3  第一項第八号に掲げる文書のうち弁済の猶予を承諾した旨を記載した文書の提出による強制執行の停止は、二回に限り、かつ、通じて六月を超えることができない。
(執行処分の取消し) 第四十条  前条第一項第一号から第六号までに掲げる文書が提出されたときは、執行裁判所又は執行官は、既にした執行処分をも取り消さなければならない。
2  第十二条の規定は、前項の規定により執行処分を取り消す場合については適用しない。
(差押債権者の金銭債権の取立て)第百五十五条 金銭債権を差し押さえた債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から一週間を経過したときは、その債権を取り立てることができる。ただし、差押債権者の債権及び執行費用の額を超えて支払を受けることができない。

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