新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.490、2006/10/5 15:15

[民事・契約]
質問:弊社はコンピュータソフトウェアの開発等を業としている会社(中小企業)です。この度,取引先から新規受注にあたり「秘密保持契約」を締結してほしいと言われ,契約書を渡されました。秘密保持契約とはどのような契約なのでしょうか。注意することはありますか。

回答:
1、秘密保持契約とは?
秘密保持契約とは,主に企業間取引において,自社の保有する情報を取引先に開示する必要がある場合に,その情報の秘密性を保持することを目的とする契約です。近年,知的財産権の価値・重要性が注目されるようになったことや,個人情報保護法の制定などを契機として情報の秘密性保護に関心が高まったこともあって,今まで取引を続けてきた企業から突然,秘密保持契約の締結を求められるケースも増えているようです。
2、秘密保持契約の必要性・有用性
企業の保有する秘密情報に対する保護としては,現行法上,不正競争防止法による営業秘密の保護(差止請求,損害賠償請求)が制定されています。但し,これにより保護されるのは,「営業秘密(同法2条6項)」に限られます。つまり,「営業秘密」にあたらない秘密情報は同法による保護を受けられないのです。実際の裁判では,問題になっている情報が「営業秘密」に当たるとした事例も当たらないとした事例もあります。これでは,リスクを予想することができません。企業秘密はできるだけ他社に開示しないのが原則とはいえ,ビジネスのためには開示することが必要・有益な場合もあります。しかし,それによるリスクが予想できなければ,安心して自社情報を開示することができず,その結果,ビジネスチャンスを失うことにもなりかねません。そこで,秘密保持契約を結んでおけば,不正競争防止法上の「営業秘密」に当たるか当たらないかにかかわらず,契約による差止請求や,契約違反による損害賠償請求ができることとなり,秘密情報の保護が可能となるのです。しかも,何が秘密保持の対象となるのか,どのような行為をしてはいけないのかなどを予め明確に定めておけば,何をすればよくて何をしてはいけないのかを予測することができます。こうすることで,より安心して取引先に情報を開示したり,取引先から開示を受けたりできるようになります。
3、秘密保持契約の内容と注意点
秘密保持契約で定める条項うち特に肝となるのは,「何が秘密情報に当たって,何が当たらないのか」という秘密情報の定義ないし範囲と「何をしてはいけなくて,何をすればよいのか」という秘密保持義務の内容ないし秘密保持の具体的方法です。これが曖昧なままでは,情報を開示する側としては本当に秘密が保護できるのかが分からず,情報を開示される側としては予想外のことで契約違反の責任を追及されるおそれが払拭できません。ですから,これらを明確に定めることは開示する側とされる側の双方にメリットがあります。ところが,これらを明確にするとしても,その範囲をどのように定めるかについては,情報を開示する側とされる側とで利害が対立する可能性があります。すなわち,情報を開示する側としては,秘密情報や,秘密保持義務の範囲を広く定めた方が保護を受けられる範囲を広くすることができます。他方,情報開示を受ける側としては,これらを狭く定めた方が責任の生じる範囲を限定することができるからです。ですから,秘密保持契約を締結するに際しては,その条項を熟読し,疑問点がある場合にはきちんと問い合わせ,双方でよく話し合うことが大切です。契約の締結については,取引先との力関係が影響することは否定できませんから,対等な交渉が困難な場合もあるでしょうが,それでも契約締結前にその内容を十分知っておくべきです。また,今回は貴社が取引先から契約の締結を求められているケースですが,貴社のほうから他の取引先に秘密保持契約の締結を求めることが有益な場合もあります。
4、弁護士の利用
秘密保持契約の締結を求められている場合であっても,こちらから求める場合であっても,予め弁護士に相談して助言を受けておくことをお勧めします。もっとも,弁護士は法律の専門家ではありますが,貴社がどのような企業かを知っているわけではありませんから,契約一般についての助言であれば直ちにできても,どう対応することがビジネス上有益かまでは判断しかねる場合があります。日ごろから相談ができ,会社のことをよく知っている顧問弁護士から助言を得られればより安心です。顧問契約を結べるかどうかや顧問料等については,各法律事務所にお問い合わせください。

≪参考条文≫

不正競争防止法
2条1項 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
7号 営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の競業その他の不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為
2条6項 この法律において「営業秘密」とは,秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないものをいう。

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