新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.487、2006/10/5 14:54

[民事・保全]
質問:私(A)は3年前、Bさんに500万円を貸しました。返済期限は今からおよそ1年前で、一括返済のはずだったのですが、10万円ほどの返済があっただけで、その後は返済を求めてものらりくらりと話をそらしてなかなか返そうとしません。内容証明を送っても何の返事もないので、近々訴訟を提起しようと思っています。財産として不動産をいくつか持っていたのですが、登記簿謄本を取り寄せてみたところ、3ヶ月ほど前に一部を売却してしまっていることが分かりました。残っている不動産Xも、もともとはBさんの単独所有だったのですが、これも3ヶ月前に持分2分の1が譲渡され、共有になっていました。不動産Xに担保権の設定はなく、価値は1,000万円程度のようです。なお、現在Bさんには他に債務はないようですが、財産についても不動産Xのほかにはこれといったものはない模様です。このような状況で、私がこれから貸金返還請求訴訟を提起するにあたり、どのような手続を踏めばよいでしょうか。

回答:
これまでの経緯を見てみると、Bさんは、残った不動産(共有持分)も処分してしまう可能性があります。不動産を処分して現金にされてしまうと、これを探し出すのは非常に困難です。したがって、不動産が処分されてしまったとすると、仮に本訴請求(貸金返還請求訴訟)で勝訴しても、債権の回収は難しい状況になってしまいます。そこで、不動産の処分を防ぐため、本訴の提起に先立ち、不動産仮差押の申立て手続きを行うべきです。
解説:
1、仮差押について
仮差押とは、金銭債権の支払を保全(確保)するために、執行の対象となる債務者の責任財産のうち、債権額に応じた財産を選択してその現状を維持し、将来の強制執行を確保するという手段です。金銭債権の債権者は、債務者に対して、訴え(本訴)を提起して勝訴判決を受け、判決の確定(または仮執行の宣言)を経て、初めて強制執行に着手することができることになりますが、その間に債務者が財産を隠したりすると、結局債権回収という目的が達せられないことになってしまいます。そこで、財産隠しなどを防ぐために仮差押という方法が認められているのです。
2、仮差押の申立てについて
(1)管轄
仮差押の管轄については専属管轄とされており(民事保全法6条)、本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する(同法12条1項)とされています。
(2)申立ての理由
保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利または権利関係及びその保全の必要性を明らかにして、これをしなければなりません(同法13条1項)。そこで、申立書の申立ての理由には、保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を具体的に記載し、かつ、立証を要する事由ごとに証拠を起債しなければならない(民事保全規則13条2項)とされています。保全すべき権利又は権利関係(被保全権利)については、当該権利を理由づける事実を記載しなければなりません。本件で言えば、AさんとBさんとの間で締結された消費貸借契約について具体的に記載することになります。次に保全の必要性ですが、これは簡単に言えば、「もし保全(仮差押)をしなかったとすると、本訴で勝訴したとしても執行が不可能または著しく困難となる」であろうことを裏付ける具体的事実、ということになります。仮差押は他人の財産権に制限を加えるものであり、仮差押えを受けた者にとって不利益が生じることから、仮差押をしなくても十分に執行が可能であるような場合は敢えて仮差押命令を出す必要はなく、また出すべきでないためこのような記載が要求されているのです。本件では、債務の支払期限が過ぎてから不動産を処分しており放って置けば残りの不動産も処分してしまう可能性が高く、また、他に見るべき財産がないことなどを記載することになるでしょう。
3、審理について
保全命令申立事件は、すべて決定手続となり、審理の方式としては、書面による方式、当事者の審尋による方式(民訴87条2項)及び任意的口頭弁論による方式の三つがあり、実際はこれらを適宜組み合わせて審理がなされています。裁判所は、債権者が提出した申立書につき、まず書面審理を行います。引き続き、裁判所は申立書記載の主張及び疎明について釈明を求めるため、債権者だけに対して審尋を行うことがあります(民事保全法7条、民訴87条2項)。なお、東京地裁、大阪地裁など保全担当の専門部が置かれている裁判所では、保全命令申立事件の全権について裁判官が債権者に面接をしており、後述の「担保」の額に関する意見も聞かれます。
4、担保について
仮差押がなされてしまうと、債務者は目的物を処分することができなくなり、場合によっては損害を被ることもあります。そこで、債権者は債務者の被る可能性のある損害を担保するため、担保を提供しなければなりません。担保の額は一般的に目的物(不動産)の価格の20〜30%程度となることが多いですが、被保全権利の疎明の程度や仮差押執行が継続すると見込まれる期間その他具体的な事情によって変動があります。不動産の場合、債務者が日常の住居、事務所等として使用するものについては、債務者がその処分を禁止されても直ちに大きな損害が生ずるわけではないので、担保も低く設定されることが多いですが、債務者が転売目的で取得した不動産であるような場合には、処分が出来ないことによって大きな損害が生じることになるため、担保の額も高額になることが予想されます。担保の額が決定した場合には担保を立てるべきことを命じた裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に対して供託することになります(法4条1項)。通常は金銭を供託しますが、あらかじめ申し立てて決定を受ければ、一定の有価証券を担保として立てることも可能です。
5、決定について
保全命令の申立てが認められると、調書決定(民保規則10条)をする場合を除き、決定書が作成されます(民保規則9条1項)。保全命令を発する決定は、当事者に確実に知らせることが必要なので、送達することになっています(法17条)。もっとも、保全命令の執行は、緊急性・密行性を求められることから、保全命令が債務者に送達される前であってもこれをすることができるとされており(法43条3項)、実際、実務においては、不動産仮差押の場合には、仮差押の執行である仮差押登記が目的不動産になされたのを確認してから、債務者に送達されるようになっています。
6、保全執行について
本案訴訟の場合、原則として執行文が付与されていなければ強制執行をすることができませんが、保全執行では、逆に原則として執行文が付与されなくても、保全命令の正本に基づいてこれを執行することができるとされています(法43条1項本文)。ただし、保全執行は、保全命令が債権者に送達された日から2週間を経過したときは、その執行をなし得なくなります(法43条2項)。本件のように不動産の仮差押をする場合、執行方法は仮差押の登記をする方法又は強制管理の方法(法47条1項本文)となり、両者は併用できる(同項ただし書)とされています。前者の方法による場合、執行機関は仮差押命令を発した裁判所であり(法47条2項)、具体的な方法としては、仮差押命令を発した裁判所の書記官が登記所に仮差押登記を嘱託する(法47条2項、3項)こととされています。登記所は、この登記嘱託にしたがい、登記簿に仮差押の登記をします。後者の方法による場合、執行機関は不動産の所在地を管轄する地方裁判所であり(法47条5項、民事執行法44条)、債権者は執行裁判所に執行の申立てをしなければなりません。執行の具体的方法は民事執行法の定める強制管理と同様であり(法47条5項、規則32条1項)、債務者所有の不動産を換価しないで、不動産の収益を裁判所が選任する管理人に収取させるというものですが、仮差押手続なので配当はなく、管理人は配当に充てるべき金銭を供託し、その事情を執行裁判所に届け出なければならないとされています(法47条4項)。
7、不動産仮差押の効力について
不動産仮差押命令の執行によって、債務者は仮差押の目的物について譲渡行為や担保権設定行為その他一切の処分行為が制限されます。もっとも、債務者によって目的物の処分行為がなされたとしても、その行為は当事者間では有効に存在し、ただ、仮差押債権者はそれらの処分行為に基づいてなされた登記(所有権移転登記や抵当権設定登記など)に関係なく、債務者を相手として不動産強制競売の申立てができるという形式をとっています(手続相対効)。一方で、不動産仮差押が取下げ等によって失効したときは、債務者による譲渡行為、担保権設定行為などは完全な効力を有することになります。
8、総括
不動産仮差押の概要は以上のとおりです。Aさんの場合も、本案請求に先立ち、不動産仮差押命令を得て仮差押執行の手続を経ておけば、勝訴した場合の債権回収がある程度確保されますので、本案請求の前に、まずは不動産仮差押命令の申し立てをするようにして下さい。なお、仮差押の登記をしておけば、本訴において勝訴した後、仮差押を本執行に移行させることが出来ます。具体的には、改めて本執行(不動産強制競売又は不動産強制管理)の申し立てをするということになります。

≪参考条文≫

民事保全法
第四条  この法律の規定により担保を立てるには、担保を立てるべきことを命じた裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に金銭又は担保を立てるべきことを命じた裁判所が相当と認める有価証券(社債等の振替に関する法律(平成十三年法律第七十五号)第百二十九条第一項に規定する振替社債等を含む。)を供託する方法その他最高裁判所規則で定める方法によらなければならない。ただし、当事者が特別の契約をしたときは、その契約による。
第六条  この法律に規定する裁判所の管轄は、専属とする。
第七条 特別の定めがある場合を除き、民事保全の手続に関しては、民事訴訟法の規定を準用する。
第十二条  保全命令事件は、本案の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
第十三条  保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにして、これをしなければならない。
第十七条  保全命令は、当事者に送達しなければならない。
第四十三条  保全執行は、保全命令の正本に基づいて実施する。ただし、保全命令に表示された当事者以外の者に対し、又はその者のためにする保全執行は、執行文の付された保全命令の正本に基づいて実施する。
2  保全執行は、債権者に対して保全命令が送達された日から二週間を経過したときは、これをしてはならない。
3  保全執行は、保全命令が債務者に送達される前であっても、これをすることができる。
第四十七条  民事執行法第四十三条第一項 に規定する不動産(同条第二項の規定により不動産とみなされるものを含む。)に対する仮差押えの執行は、仮差押えの登記をする方法又は強制管理の方法により行う。これらの方法は、併用することができる。
2  仮差押えの登記をする方法による仮差押えの執行については、仮差押命令を発した裁判所が、保全執行裁判所として管轄する。
3  仮差押えの登記は、裁判所書記官が嘱託する。
4  強制管理の方法による仮差押えの執行においては、管理人は、次項において準用する民事執行法第百七条第一項の規定により計算した配当等に充てるべき金銭を供託し、その事情を保全執行裁判所に届け出なければならない。
5  民事執行法第四十六条第二項 、第四十七条第一項、第四十八条第二項、第五十三条及び第五十四条の規定は仮差押えの登記をする方法による仮差押えの執行について、同法第四十四条、第四十六条第一項、第四十七条第二項、第六項本文及び第七項、第四十八条、第五十三条、第五十四条、第九十三条から第九十三条の三まで、第九十四条から第百四条まで、第百六条並びに第百七条第一項の規定は強制管理の方法による仮差押えの執行について準用する。

民事保全規則
第九条  第一条第一号から第五号までに掲げる申立てについての決定は、決定書を作成してしなければならない。
第十条  第一条第一号から第五号までに掲げる申立てについての決定は、前条の規定にかかわらず、口頭弁論又は審尋の期日において同条第二項第四号から第六号までに掲げる事項を言い渡し、かつ、これを調書に記載させてすることができる。
2 前項の場合において、保全命令を発するときは、同項の調書に当事者の氏名又は名称及び住所並びに代理人の氏名を記載させなければならない。
3 前条第三項及び第四項の規定は、第一項の場合について準用する。
第十三条 保全命令の申立書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 当事者の氏名又は名称及び住所並びに代理人の氏名及び住所
二 申立ての趣旨及び理由
2 保全命令の申立ての理由においては、保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を具体的に記載し、かつ、立証を要する事由ごとに証拠を記載しなければならない。
第三十二条 民事執行規則第二十三条第一号、第二号及び第五号、同規則第六十三条、同規則第六十五条から第六十八条まで、同規則第七十一条並びに同規則第七十三条において準用する同規則第二十五条の規定は、強制管理の方法による不動産に対する仮差押えの執行について準用する。この場合において、同規則第七十一条第一項中「法第百八条」とあるのは、「民事保全法第四十七条第四項」と読み替えるものとする。

民事訴訟法
第八十七条 当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論をしなければならない。ただし、決定で完結すべき事件については、裁判所が、口頭弁論をすべきか否かを定める。
2  前項ただし書の規定により口頭弁論をしない場合には、裁判所は、当事者を審尋することができる。

民事執行法
第四十四条  不動産執行については、その所在地(前条第二項の規定により不動産とみなされるものにあっては、その登記をすべき地)を管轄する地方裁判所が、執行裁判所として管轄する。
2  建物が数個の地方裁判所の管轄区域にまたがつて存在する場合には、その建物に対する強制執行については建物の存する土地の所在地を管轄する各地方裁判所が、その土地に対する強制執行については土地の所在地を管轄する地方裁判所又は建物に対する強制執行の申立てを受けた地方裁判所が、執行裁判所として管轄する。
3  前項の場合において、執行裁判所は、必要があると認めるときは、事件を他の管轄裁判所に移送することができる。
4  前項の規定による決定に対しては、不服を申し立てることができない。

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