新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.484、2006/10/5 14:36

[行政]
質問:2歳の子供が行っている公立認可保育園が1年後に民営化されると聞きました。保育園の民営化とはどういうことですか。

回答:
1.保育園の民営化とは、これまで行政が行っていた保育園の運営を、社会福祉法人、学校法人、企業、NPO法人などに託すことです。民営化の方法には、「移管方式(民設民営化)」と「委託方式(公設民営化)」の2種類があります。移管方式とは、土地や建物、備品を運営先に譲り(もしくは貸与し、)私立保育園として運営すること。委託方式とは、土地や建物等の管理は今までどおり行政が行い、保育や給食休職などの運営面を、委託先に託す方法です。地域によって異なりますが、委託先は、公募し、自治体が審査をして決定するのが一般的です。民営化の目的は、公立保育園の運営に掛かるコストを減らし、子育て支援対策の一環として、ゼロ歳児保育、夜間や休日保育、年末年始保育など、さまざまなニーズに対応することというのが行政側の説明です。
2.公立保育園の民営化は、現在設置されている公立保育所を○年○月○日をもって廃止する内容の条例を制定するという形で行われ、その施行に伴って廃止された保育所が民間団体に運営が移行されることになります。「官から民へ」の掛け声のもと、自治体の財政難なども後押しして、保育園の民営化は全国各地で進められており、八千代市や堺市、尼崎市など3ヶ月程度でスムーズに移管できたと判断される自治体もある中で、3ヶ月程度では混乱が生じたとして裁判でまで争われている事例もあります(横浜市、練馬区、板橋区など)。
3.判決が出た横浜市の例は、「横浜市立保育園廃止処分取消請求事件」(平成18年5月22日横浜地裁)として、横浜市がその設置する市立保育所のうち4つの保育所を廃止する内容の条例を制定したことに対し、廃止された各保育所に入所していた児童及びその保護者である原告らが、横浜市に対し、条例の制定が違法であるとして取消及び損害賠償を求めた事例です。地方議会が制定する条例は通常、一般的、抽象的な法規範を定立する立法作用としての性質を有し、原則として個人の権利義務に直接の効果を及ぼすものではないので、通常は条例の制定自体は行政事件訴訟法3条2項の「処分」に該当するものとはいえず、取消の対象とはならないのですが、条例自体によって、その適用を受ける特定の個人の権利義務や法的地位に直接の影響を及ぼす場合には、例外的に当該条例の制定行為をもって処分と解されています。本件では、「児童及び保護者の特定の保育所で保育の実施を受ける利益」が法律上保護された利益であり、改正条例の制定はこのような利益を必然的に侵害するものとして、「処分」性を認め、その先の違法性にまで踏み込んだ判決となっています。その言わんとするところは、「入所児童がいる保育所を民営化するについては、当該保育所で保育の実施を受けている児童及び保護者の特定の保育所で保育の実施を受ける権利を尊重する必要があり、その同意が得られない場合には、そのような利益侵害を正当化しうるだけの合理的な理由とこれを補うべき代替的な措置が講じられることが必要である」ところ、本件では「平成15年12月18日の時点で、平成16年4月1日に民営化を実施しなければならないといった特段の事情があったとはいえ」ず、このような民営化は、児童及び保護者の特定の保育所で保育の実施を受ける利益を尊重したものとは到底言えない、として裁量権の逸脱、濫用であり、違法として(但し、廃園から判決まで2年以上経過し、無用な混乱を避けるため、条例の取消はせず。「事情判決」)、一部損害賠償を認めたものです。
4.ところで、保育園は、家庭で常時乳幼児を養育できない場合に子供たちが預けられる場所であり、子供たちにとっては日中すべての時間を過ごす場所で、自宅にいるより保育園にいる時間の方が長く、またその間一緒に過ごす保育士は子供にとって第二の親たる存在といってもよいものです。幼い子供たちにとって、保育士は父母の代理であり、簡単に入れ替えのきく存在ではないことから、ある時点を境に一斉に職員が入れ替わるような民営化は多感な時期の子供たちにとっては、心身への影響も少なからずあると思われます。民営化されても、所在地や設備、施設が変更されないとしても、慣れていた保育士がいなくなり、その経験、子供との関係などが新保育士に移行されなければ、新たな保育園に入り直すのと変わりません。拙速な民営化は保育の質の低下を招くと言われるゆえんです。新旧保育士が子供との関係の中でスムースに引き継ぎができるように、何ヶ月かの共同保育の期間を設けるとか、順次保育士を入れ替えていくとか、様々な配慮が必要と思われます。

≪参考条文≫
行政事件訴訟法
(抗告訴訟)
第三条  この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2  この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
3  この法律において「裁決の取消しの訴え」とは、審査請求、異議申立てその他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決、決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
4  この法律において「無効等確認の訴え」とは、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。
5  この法律において「不作為の違法確認の訴え」とは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう。
6  この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
一  行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
二  行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
7  この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。

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