新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.482、2006/9/26 16:06

[民事・不法行為]
質問:交通事故に遭い、治療費や車の修理代で相手方ともめています。近所の法律事務所に電話しましたが多忙な様で、弁護士会にも問い合わせたのですが、予約が一杯で再来週以降になるとのことです。交通事故に詳しいという業者をインターネットで見つけて相談すると、「弁護士に依頼すると時間もお金もかかる。自分達に任せてくれれば、相手方から受け取ったお金の中から謝礼を差し引くだけだから、費用をかけずに交渉ができる」と言われたのですが、依頼しても大丈夫でしょうか。

[結論]
依頼しないほうがいいと思います。正式な資格を持った法的な専門家にご相談ください。
[解説]
1.あなたとしては、交通事故に遭い一刻も早く揉め事を解決したいでしょうから弁護士より費用も低額で、迅速に対応してくれそうな人、業者であれば、相談、依頼をしたいと思う気持ちはよく理解できます。日本では弁護士等の法曹資格者が少ないと言われていますから実生活ではよく起こりえる問題です。このような正式な資格を持たないで交通事故、その他法的な紛争を請け負っている業者がかなりの数に上ると言われています。世上、示談屋、便利屋、代理業、交通事故調査業、交通事故鑑定業など、色々な名称で呼ばれていますが、これらの業者はもちろん正式な弁護士ではありませんし、解決能力と言った点からも本当に知識、解決方法を持ち合わせているか不明であり、資格を得るために試験等も受けていませんから社会的に何の保証も実際上はありません。そこでこのような業者について実質、形式面から考察してみましょう。
2.実質面からの検討。
以前、弁護士より交渉能力があり事件を請け負ってかなりの報酬を受け取り逮捕されたと言う新聞報道がありましたが、こういった業者の中には、全てがそうだとは言いませんが、お金を渡すと連絡が取れなくなってしまう者、相手方から受け取った示談金を持ち逃げする業者、何もしていないのに相手方との交渉が長引いていると言って費用を追加請求する業者や、中には相手方からも依頼を受けて報酬を得ようとする悪質な業者もいます。また、前述のように最低限の法律的知識を会得しているかはなはだ疑問であり法律の専門家ではない業者に任せても、適正な手続、交渉、書面作成等期待することは難しいと言わざるをえません。さらに、あなたが積極的にこのような業者に依頼し、不法な方法で事件を解決した場合あなたにも法的責任が科せられる危険もあるでしょう。
3.資格形式面からの検討。
日本に限らず、近代国家では法的な紛争を当事者に代わり事件処理をするには国家が認める資格を必要とします。弁護士法第七十二条は、弁護士以外の者が報酬をもらって代理や和解等の法律事務を取り扱うことを禁じていますし、これに違反すると刑事罰が科せられ2年以下の懲役300万円以下の罰金に処せられます。その制度趣旨は、近代国家における理想は公共の福祉に反しない限り個人の権利、利益の自由を最大限保障し実現することにあり(憲法13条)そのためには、対国家間においては法定手続きの保証(憲法31条)があり、一般社会生活において、法的紛争、事件は個人の権利、人権、利益に重大な影響を及ぼすものであり市民の利益を守り社会秩序を守るため国家が常に監督し、国家資格を有するもの以外事件の取り扱いを禁止したのです。非弁行為の禁止と言われています。この立法目的について最高裁判所は、「世上には、このような弁護士資格もなく、何らの規律にも服さない者が、自らの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とする例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益を損ね、法律生活の公正円滑な営みを妨げ、ひいては法律秩序を害することとなる(最判昭和46年7月14日)」と判示し、これが市民、当事者の利益及び法律秩序の維持にあることを明言しています。すなわち法は、資格のない業者を一切認めていないわけです。また、このような業者は社会的不法集団と結びついている場合があり、民事介入暴力行為の防止、不法な資金源を断つ意味でも是認することは出来ません。以上、どのような面から考えても言うまでもなくあなたが相談、依頼しょうとしている業者について実態は分かりませんが相談、依頼することをお勧めすることは出来ません。
4.なお、弁護士法の特例として、平成10年に債権管理回収業に関する特別措置法が成立し、法務大臣の許可を受けた債権回収業者(サービサー)も、債権回収業務を行うことができるようになりましたが、サービサーによって回収可能な債権の種類には規定があり(債権管理回収業に関する特別措置法第2条)、交通事故に関する賠償債権は含まれてはいません。
5.司法書士は、司法書士法3条1項7号により、140万円を超えない民事紛争について、「相談に応じ、又は仲裁事件の手続若しくは裁判外の和解について代理すること」ができます。つまり140万円を超えない請求の場合は示談交渉を代理することも可能ですが、これを越える事件について示談交渉をすることは出来ません。
6.行政書士は、行政書士法1条の2第1項により、「権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成すること」及びその相談に応ずることが出来ます。つまり当事者間で話し合いのついた案件について示談書を作成することは出来ますが、示談交渉をすることはできないと考えられます。
7.示談交渉に限らず、多重債務者を取り扱う業者、法務大臣の許可を受けていない債権回収業者なども弁護士法に違反します。繰り返しますが、これらの法的に認められていない業者は、反社会的組織とつながっていることが多く、後々思わぬトラブルに巻き込まれかねませんので、十分注意してください。もし、このような業者からの勧誘を受けた場合、あるいは弁護士以外の業者が代理人として接触してきた場合には、直ちにお近くの弁護士会にご相談下さい。

[参考資料]
財団法人 交通事故紛争処理センター(http://www.jcstad.or.jp/)自動車事故に伴う損害賠償の紛争を解決するために、法律相談、和解のあっ旋および審査を行っています。

[参照条文]
弁護士法第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
債権管理回収業に関する特別措置法第二条 この法律において「特定金銭債権」とは、次に掲げるものをいう。
一  次に掲げる者が有する貸付債権
イ 預金保険法 (昭和四十六年法律第三十四号)第二条第一項に規定する金融機関
ロ 農林中央金庫
ハ 政府関係金融機関
ニ 独立行政法人中小企業基盤整備機構
ホ 農業協同組合法(昭和二十二年法律第百三十二号)第十条第一項第三号の事業を行う農業協同組合及び農業協同組合連合会
ヘ 水産業協同組合法(昭和二十三年法律第二百四十二号)第十一条第一項第四号の事業を行う漁業協同組合及び同法第八十七条第一項第四号の事業を行う漁業協同組合連合会
ト 水産業協同組合法第九十三条第一項第二号の事業を行う水産加工業協同組合及び同法第九十七条第一項第二号の事業を行う水産加工業協同組合連合会
チ 保険会社
リ 貸金業の規制等に関する法律(昭和五十八年法律第三十二号)第二条第二項に規定する貸金業者
ヌ イからリまでに掲げる者に類する者として政令で定めるもの
二 前号に掲げる者が有していた貸付債権
三 前二号に掲げる貸付債権に係る担保権の目的となっている金銭債権
四 機械類その他の物品を使用させる契約であってその使用させる期間(以下この号において「使用期間」という。)が一年を超えるものであり、かつ、使用期間の開始の日(以下この号において「使用開始日」という。)以後又は使用開始日から一定期間を経過した後当事者の一方又は双方がいつでも解約の申入れをすることができる旨の定めがないものに基づいて、当該物品を使用させることの対価としての金銭の支払を目的とする金銭債権
五 それと引換えに、又はそれを提示して特定の販売業者又は役務の提供の事業を営む者(以下この号及び次号において「販売業者等」という。)から商品を購入し、又は役務の提供を受けることができる証票その他の物(以下この号及び次号において「証票等」という。)をこれにより商品を購入し、又は役務の提供を受けようとする者(以下この号において「利用者」という。)に交付し、当該利用者がその証票等と引換えに、又はそれを提示して販売業者等から商品を購入し、又は役務の提供を受ける場合において、その代金又は役務の対価に相当する金額を当該販売業者等に交付し、当該利用者から当該金額又はあらかじめ定められた時期ごとにその代金若しくは役務の対価に相当する金額の合計額を基礎としてあらかじめ定められた方法により算定して得た金額を受領することを約する契約に基づいて、当該利用者に対し生ずる金銭債権
六 証票等を利用することなく、販売業者等が行う購入者又は役務の提供を受ける者(以下この号において「購入者等」という。)への商品の販売又は役務の提供を条件として、その代金又は役務の対価の全部又は一部に相当する金額を当該販売業者等に交付し、当該購入者等から当該金額を受領することを約する契約に基づいて、当該購入者等に対し生ずる金銭債権
七 それと引換えに、又はそれを提示して商品を購入し、又は役務の提供を受けることができる証票その他の物をこれにより商品を購入し、又は役務の提供を受けようとする者(以下この号において「利用者」という。)に交付し、その証票その他の物と引換えに、又はその提示を受けて当該利用者に商品を販売し、又は役務を提供する場合において、その代金若しくは役務の対価又はあらかじめ定められた時期ごとにその代金若しくは役務の対価の合計額を基礎としてあらかじめ定められた方法により算定して得た金額を受領することを約する契約に基づいて、当該利用者に対し生ずる金銭債権
七の二 それと引換えに、又はそれを提示して商品を購入することができる証票その他の物を利用することなく、購入者から代金を六月以上の期間にわたり、かつ、三回以上に分割して受領することを条件として機械類を販売する契約(以下この号において「機械類販売契約」という。)又は購入者から代金を二月以上の期間にわたり、かつ、三回以上に分割して受領することを条件として割賦販売法(昭和三十六年法律第百五十九号)第二条第四項に規定する指定商品を販売する契約(機械類販売契約を除く。)に基づいて、当該購入者に対し生ずる金銭債権
八 資産の流動化に関する法律(平成十年法律第百五号)第二条第一項に規定する特定資産(以下「資産流動化法に規定する特定資産」という。)である金銭債権
九 削除
十 金銭債権であって、これを信託する信託の受益権が資産流動化法に規定する特定資産であるもの
十一 資産流動化法に規定する特定資産の管理及び処分により生ずる金銭債権(資産の流動化に関する法律第二条第三項に規定する特定目的会社又は同条第十六項に規定する受託信託会社等が有するものに限る。)
十二 一連の行為として、次のイからホまでに掲げる資金調達の方法により得られる金銭をもって資産を取得し、当該資産の管理及び処分により得られる金銭をもって、それぞれ当該イからホまでに定める行為を専ら行うことを目的とする株式会社又は外国会社が有する当該資産(以下「流動化資産」という。)である金銭債権
イ 証券取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第一項第四号に掲げる有価証券又は同項第九号に掲げる有価証券のうち同項第四号に掲げる有価証券の性質を有する有価証券(同条第二項の規定により同号に掲げる有価証券又は同条第一項第九号に掲げる有価証券のうち同項第四号に掲げる有価証券の性質を有する有価証券とみなされる権利を含む。)の発行その債務の履行
ロ 証券取引法第二条第一項第八号に掲げる有価証券又は同項第九号に掲げる有価証券のうち同項第八号に掲げる有価証券の性質を有する有価証券(同条第二項の規定により同号に掲げる有価証券又は同条第一項第九号に掲げる有価証券のうち同項第八号に掲げる有価証券の性質を有する有価証券とみなされる権利を含む。)の発行その債務の履行
ハ 資金の借入れその債務の履行
ニ 証券取引法第二条第一項第六号に掲げる有価証券又は同項第九号に掲げる有価証券のうち同項第六号に掲げる有価証券の性質を有する有価証券(同条第二項の規定により同号に掲げる有価証券又は同条第一項第九号に掲げる有価証券のうち同項第六号に掲げる有価証券の性質を有する有価証券とみなされる権利を含む。)の発行利益の配当及び消却のための取得又は残余財産の分配
ホ 商法(明治三十二年法律第四十八号)第五百三十五条に規定する匿名組合契約に基づく出資の受入れ利益の分配又は出資の価額若しくは残額の返還
十三 金銭債権であって、これを信託する信託の受益権が流動化資産であるもの
十四 流動化資産の管理及び処分により生ずる金銭債権(第十二号に掲げる株式会社又は外国会社が有するものに限る。)
十五 第一号に掲げる者であって、商業、工業、サービス業その他の事業を行う者から金銭債権を買い取ることを業として行うものが有する金銭債権(その業として買い取ったものに限る。)
十六 破産手続開始の決定、再生手続開始の決定、更生手続開始の決定、特別清算開始の命令又は外国倒産処理手続の承認の決定(以下「手続開始決定」という。)を受けた者(当該手続開始決定に係る破産手続、再生手続、更生手続、特別清算手続又は承認援助手続が終了している者を除く。次号において同じ。)が有する金銭債権
十七 手続開始決定を受けた者が譲渡した金銭債権
十八 特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律(平成十一年法律第百五十八号)第二条第一項に規定する特定債務者が同条第三項に規定する特定調停が成立した日又は当該特定調停に係る事件に関し裁判所がする民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)第十七条の決定が確定した日に有していた金銭債権
十九 手形交換所による取引停止処分を受けた者がその処分を受けた日に有していた金銭債権
二十 前各号に掲げる金銭債権を担保する保証契約に基づく債権
二十一 信用保証協会その他政令で定める者が前号に掲げる債権に係る債務を履行した場合に取得する求償権
二十二 前各号に掲げる金銭債権に類し又は密接に関連するものとして政令で定めるもの
2 この法律において「債権管理回収業」とは、弁護士又は弁護士法人以外の者が委託を受けて法律事件に関する法律事務である特定金銭債権の管理及び回収を行う営業又は他人から譲り受けて訴訟、調停、和解その他の手段によって特定金銭債権の管理及び回収を行う営業をいう。
3 この法律において「債権回収会社」とは、次条の許可を受けた株式会社をいう。

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