新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.467、2006/9/6 14:13 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

[刑事・起訴前]
質問:被疑者国選弁護制度が平成18年10月から始まるそうですが、どのようなものですか。

回答:
1、被疑者国選弁護制度とは、刑事訴訟法の改正により成立した制度で、平成18年10月2日からは「死刑又は無期もしくは短期1年以上の懲役・禁固に当たる事件」(殺人、傷害致死、強姦のような、3人の裁判官で審理することとされている事件や強盗などの重大事件)で勾留決定された被疑者の請求により、国選弁護人が選任される制度です。平成21年5月からは、長期3年を超える懲役・禁固に当たる事件(窃盗、傷害、業務上過失致死、詐欺、恐喝等)に対象が拡大されます。被疑段階で選任された国選弁護人は、特別な事情で裁判所から解任されない限り、第1審の公判終了までの弁護を担当することになります。これにより、被疑者・被告人を通じて一貫した国選弁護制度が創設されることになりました。もともと刑事訴訟法は、憲法37条3項が「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。」としているのを受けて、これまでは起訴されて裁判に付された刑事「被告人」にのみ国選弁護人を附することとしており、起訴前の逮捕・勾留段階の「被疑者」には国選弁護制度がありませんでした。ところが、逮捕・勾留という捜査段階で弁護人がつかず、たった一人で警察の取調べを受けることは、刑事手続の内容や自身の権利を理解できず、身柄拘束下で不安が大きいばかりか、不本意な供述調書に署名押印をさせられて、裁判で重要な証拠である被告人の自白調書が作成されるなど、様々な不利益が生じていたため、逮捕された時点から弁護士が弁護人として関与することが重要であると言われていました。これを補う制度として、各弁護士会が、逮捕され身柄拘束された被疑者に最初の接見だけは無料で行う「当番弁護士」制度を設けていました。当番弁護士は、被疑者の疑問や説明に答えたり、被疑者が希望し、当番弁護士が承諾すれば私撰弁護人となることができます(資力不十分の場合は法律扶助協会の利用)が、被疑者段階での国選弁護人という制度が新たにできたわけです。
2、ところで、被疑者国選弁護制度では、刑事訴訟法上、「資力申告書」を提出することになっており、法務省は「資力」の基準額を50万円にする方針を固めたようです。現預金の合計が50万円以上になる場合、国選ではなく、まずは私選弁護人を弁護士会に選任してもらうよう申し出ることが本人に義務づけられます。これまでの起訴後の国選弁護人の場合、本人が「貧困その他」にあたると申告すれば、保有資産などを問われずに、国選弁護を受けられていましたが、今後は、被疑者・被告人ともに50万円の基準が適用されることになります。基準額50万円の設定について、法務省は(1)平均世帯の1カ月の必要生計費は約25万円(2)刑事事件を受任した私選弁護人の平均着手金は約25万円――としたうえで、「50万円以上あれば、私選弁護人に着手金を払ったうえでひとまず生活できる」と説明しています。虚偽の申告に対しては10万円以下の科料が課せられます。

平成16年改正刑事訴訟法(未施行)
第30条(現行と同じ)
1項 被告人又は被疑者は、何時でも弁護人を選任することができる。
2項  被告人又は被疑者の法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹は、独立して弁護人を選任することができる。
第31条の2
1項 弁護人を選任しようとする被告人又は被疑者は、弁護士会に対し、弁護人の選任の申出をすることができる。
2項 弁護士会は、前項の申出を受けた場合は、速やかに、所属する弁護士の中から弁護人となろうとする者を紹介しなければならない。
3項 弁護士会は、前項の弁護人となろうとする者がないときは、当該申出をした者に対し、速やかに、その旨を通知しなければならない。同項の規定により紹介した弁護士が被告人又は被疑者がした弁護人の選任の申込みを拒んだときも、同様とする。
第36条(現行と同じ)
被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判所は、その請求により、被告人のため弁護人を附しなければならない。但し、被告人以外の者が選任した弁護人がある場合は、この限りでない。
第36条の2
この法律により弁護人を要する場合を除いて、被告人が前条の請求をするには、資力申告書(その者に属する現金、預金その他政令で定めるこれらに準ずる資産の合計額(以下「資力」という。)及びその内訳を申告する書面をいう。以下同じ。)を提出しなければならない。
第36条の3
1項 この法律により弁護人を要する場合を除いて、その資力が基準額(標準的な必要生計費を勘案して一般に弁護人の報酬及び費用を賄うに足りる額として政令で定める額をいう。以下同じ。)以上である被告人が第36条の請求をするには、あらかじめ、その請求をする裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内に在る弁護士会に第30条の2第1項の申出をしていなければならない。
2項  前項の規定により第31条の2第1項の申出を受けた弁護士会は、同条第3項の規定による通知をしたときは、前項の地方裁判所又は当該被告事件が係属する裁判所に対し、その旨を通知しなければならない。
第37条の2  死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件について被疑者に対して勾留状が発せられている場合において、被疑者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判官は、その請求により、被疑者のため弁護人を付さなければならない。ただし、被疑者以外の者が選任した弁護人がある場合又は被疑者が釈放された場合は、この限りでない。
2項 前項の請求は、同項に規定する事件について勾留を請求された被疑者も、これをすることができる。
第37条の3
1項 前条第1項の請求をするには、資力申告書を提出しなければならない。
2項 その資力が基準額以上である被疑者が前条第1項の請求をするには、あらかじめ、その勾留の請求を受けた裁判官の所属する裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内に在る弁護士会に第31条の2第1項の申出をしていなければならない。
3項 前項の規定により第31条の2第1項の申出を受けた弁護士会は、同条第3項の規定による通知をしたときは、前項の地方裁判所に対し、その旨を通知しなければならない。
第38条の4 裁判所又は裁判官の判断を誤らせる目的で、その資力について虚偽の記載のある資力申告書を提出した者は、十万円以下の過料に処する。

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