新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.454、2006/8/8 13:42

[家事・夫婦]
質問:DV(ドメスティックバイオレンス)を受けていますが、気を付ける点はありますか。法的にはどのような対応がとれますか。また、平成16年の改正内容を教えて下さい。

回答:
1.DVを受けている場合の法的対応には、民事事件と刑事事件とがあり、いずれであっても相談を受ければ弁護士は法的対応をしますが、ことDVの場合は通常の離婚事件や刑事事件とは異なる観点が必要です。まず、暴力を受け続けてきた女性というのは、自分はどうしたいのか、どうすべきか、そのためには何をしたらよいのか、という意識が往々にして欠如していることが多いのです。長い間暴力を受け続けていても、自活するための収入も貯金もないため、現状のままでいることしかできない、夫のもとでしか暮らせないと思っているため、夫に怒られないように毎日自分が我慢しさえすればいいという日常を送ってきています。すると、何かをしようという気力がだんだんなくなってきて、殴られ続けてしまうのです。そういう気持ちで頭の中が一杯の人に対して、あなたは悪くない、悪いのは暴力を振るう方だということを理解してもらうことが必要です。そのためには、まず相談機関に相談し、カウンセリングを受け、固くなった心をほぐすことが必要です。そのための相談機関として、婦人相談所などに設置された配偶者暴力相談支援センターや警察など相談窓口が用意されています。相談をしていくうちに、女性自身が「暴力を断ち切ろう」と決心してやっと行動に移せるようになります。「暴力を断ち切る」とは、最終的には、別居もしくは離婚により夫との共同生活を解消することを意味します。
2.次に、女性が行動を起こそうと決めたとき、まずは「夫の元を去ら」なければ暴力はやみません。そこで、「別居」することになります。「別居」といっても、子供もいて専業主婦の場合、自分だけの収入や貯金もあまりないことが普通ですので、アパートを借りることも一苦労です。それに、夫は妻がいなくなったとわかれば、捜索願を出したり、妻の実家や友人をしらみつぶしにあたって、妻の居場所を突き止めようとするでしょう。従って、夫にわからないように、居場所を見つけることが必要です。また、喧嘩をして暴力を受けて、着の身着のままに逃げる場合もあります。その場合、緊急保護施設が必要ですが、欧米では各地でシェルターが設置されていますが、日本ではまだ少なく、緊急避難場所として一番心強い味方は「婦人相談所」一時保護施設ですが、婦人相談所の沿革がもとは売春防止法34条に基づいて設置されたため、保護の基準が少し厳しく、利用期間も2週間程度と、その後の行き場所をその期間内に見つけなければならない点で使いづらい場合もあります。婦人相談所の一時保護施設は福祉事務所を通じて利用されており、どこの場所にその施設があるかということも非公開ですので、夫が居場所を見つけだす心配はそれほどないと思われます。
3.民事手続としては、離婚の申立てを家庭裁判所にすること、調停が不調になった場合は裁判離婚の手続きとなります。離婚原因については、「夫の暴力」を原因とすることになると思います。離婚について問題となる点として、「暴力」による慰謝料を加味するかどうか、保護命令を申し立てるかどうか、です。保護命令とは、被害者が配偶者からの更なる身体に対する暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときに、裁判所が被害者からの申立てにより、加害者(事実婚の者及び元配偶者を含みます。)に対し発する命令で、「接近禁止命令」と「退去命令」があります。接近禁止命令とは、加害者に、被害者(被害者と同居している未成年の子についても可能)の身辺へのつきまといや住居・職場等の近くをはいかいすることを6か月間禁止するもので再度の申立ても可能です。退去命令とは、被害者と加害者が生活の本拠を共にする場合、加害者に、2か月間、住居からの退去及び住居の付近のはいかいの禁止を命ずるもので再度の申立ても可能です。
4.刑事手続としては、例えば、夫が無理矢理妻の髪の毛を切ったりむしり取ったりしたような場合、暴行罪として2年以下の懲役または30万円以下の罰金または拘留もしくは科料となりますし、殴って怪我をさせれば傷害罪として15年以下の懲役か50万円以下の罰金となり、妻を部屋に閉じこめて脱出できないようにして自由を束縛すれば逮捕監禁罪として、3ヶ月以上7年以下の懲役刑となり、「逃げたら殺すぞ」とか「お前の親や兄弟を殺すぞ」と脅迫したら脅迫罪となります。警察への事前相談、110番通報、被害の事後申告、告訴などをすることにより、夫の暴力を一時的に止めさせたり、夫に暴力の違法性を知らしめることにより、一定の効果はあります。刑事手続をとろうとする場合の問題点としては、従来、殺人罪や傷害致死罪などのように被害の程度が重大な場合を除いて、警察は「民事不介入、法は家庭に入らず」の名目を盾に夫婦間の問題として介入を回避する傾向が見られました。夫が否認している場合には、動こうとしない例もあり、告訴状を受理だけはしても、捜査をしない、捜査をして逮捕をしてもらったのに、処分保留にするなどの例もありましたので、DVは犯罪であること、刑法の条文に該当する行為があったことを強く主張し夫側の処罰を求める必要があります。
5.平成16年12月施行の改正点として主なものは、(1)「配偶者」の中に「離婚後(事実上離婚したと同様の事情に入ることを含む)も引き続き暴力を受ける場合を含むとしたこと、(2)「暴力」に、身体に対する暴力のみならず「これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」を含めたことです(なお、保護命令に関する規定等については、身体に対する暴力のみを対象としています)。(3)保護命令については、加害者に「元配偶者」を含めたこと、接近禁止命令の被害者に「被害者と同居している未成年の子」についても可能としたこと、退去命令は2週間から2ヶ月へ延長、再度の申立も可能としたことです。(4)その他、市町村も自らが設置する適切な施設において、配偶者暴力相談支援センターの機能を果たすことができるようになり、支援センターはその業務を行うに当たっては、必要に応じ、民間団体との連携に努めることが規定されました。

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