新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.450、2006/7/28 15:35

[民事・契約]
質問:弊社は,マンションなどの居住用サブリース物件の管理会社です。この度,長期間(4か月)にわたって賃料不払いを続けている悪質な賃借人(Aさん)がいて困っています。Aさんの居室を訪ねてもいつも不在で,ほとんど居室に戻っていないようです。弊社の催促から逃げ回っているのかもしれません。かといって,溜まっていた郵便物がときどきなくなっていますので,全く行方不明になっているわけでもないようです。どう対応すればよいかについてご教示ください。具体的には,Aさんから弊社に連絡させるために,Aさんの居室のドアの鍵を交換してもよいでしょうか。また,Aさん不在中にマスターキーを使って居室に入って様子を見てもいでしょうか。なお,弊社が入居者との間で交わしている契約書には,「甲(弊社)は,管理上必要なとき,予め乙(借主)に通告し,又は非常の場合は事後承諾により居室内に立ち入り,適切な措置を講じることができる。」との条項があります。この条項を使うことはできるでしょうか。

回答:
1、賃貸借(サブリースですので厳密には転貸借)契約終了に基づく建物明渡請求訴訟を提起して,その勝訴判決に基づいて強制執行をすることになります。幸い,Aさんは郵便物を取りに戻っているようですので,Aさんが不在通知を受け取って郵便局に行くことにより訴状の特別送達(郵便法66条,民事訴訟法103条ないし106条及び109条)もされることでしょう。契約の終了原因は,賃料不払いによる債務不履行解除です。判例上,借主の債務不履行があっても,契約当事者間の信頼関係を破壊しないと認めるに足りる事情があれば解除の主張は認められませんが,本件では,Aさんが4か月分も賃料を滞納し,かつ,ほとんど連絡も取れないとのことですから,裁判所は,おそらく解除の主張を認めるものと思われます。
2、さて,Aさんの居室のドアの鍵を交換してもよいかとのことですが,これは法的に許されることではありませんので,なさらないでください。たしかに,賃料を支払わないAさんが悪いといえばそうなのですが,権利の実現は法律に基づく適正な手続によってなされなければならず,法律に基づかない実力行使は認められないというのが民法の原則(自力救済の禁止)だからです。もし無断で鍵を交換すると,目的物を貸す債務の不履行という契約責任のほかに不法行為責任を問われるおそれもあります。また,会社としてそのようなことをする方針を採っているものとして御社の評判,企業イメージに傷がつく可能性もあるでしょう。
3、ましてや,マスターキーを使って勝手に中に入るなど言語道断です。このような行為は,前述した契約責任及び不法行為責任を問われるおそれがあるだけでなく,住居侵入罪(刑法130条前段)という犯罪に該当する可能性があります。契約書の条項についてですが,予め通告することにより居室内に立ち入ることができる「管理上必要なとき」とは,おそらく居室内設備の保守点検のようなケースが想定されているのではないでしょうか。また,事後承諾により立ち入ることができる「非常の場合」とは,ガス漏れが強く疑われるとか,居室内で人が死傷していると疑われるなど,文字どおりの緊急事態に限られるものと思います。したがって,その条項を本件で使うことはできないでしょう。
4、Aさんのような困った借主に遭われたのは災難ですが,違法な対応に手を染めることなく,正当な法的手段に訴えるべきです。

≪参考条文≫

郵便法
(特別送達)第六十六条 特別送達の取扱いにおいては,公社において,当該郵便物を民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第百三条から第百六条まで及び第百九条に掲げる方法により,送達し,その送達の事実を証明する。
2 特別送達の取扱いは,法律の規定に基づいて民事訴訟法第百三条から第百六条まで及び第百九条に掲げる方法により送達すべき書類を内容とする通常郵便物につき,これをするものとする。

民事訴訟法
(送達場所)第百三条  送達は,送達を受けるべき者の住所,居所,営業所又は事務所(以下この節において「住所等」という。)においてする。ただし,法定代理人に対する送達は,本人の営業所又は事務所においてもすることができる。
2  前項に定める場所が知れないとき,又はその場所において送達をするのに支障があるときは,送達は,送達を受けるべき者が雇用,委任その他の法律上の行為に基づき就業する他人の住所等(以下「就業場所」という。)においてすることができる。送達を受けるべき者(次条第一項に規定する者を除く。)が就業場所において送達を受ける旨の申述をしたときも,同様とする。
(送達場所等の届出)第百四条  当事者,法定代理人又は訴訟代理人は,送達を受けるべき場所(日本国内に限る。)を受訴裁判所に届け出なければならない。この場合においては,送達受取人をも届け出ることができる。
2  前項前段の規定による届出があった場合には,送達は,前条の規定にかかわらず,その届出に係る場所においてする。
3  第一項前段の規定による届出をしない者で次の各号に掲げる送達を受けたものに対するその後の送達は,前条の規定にかかわらず,それぞれ当該各号に定める場所においてする。
一  前条の規定による送達
その送達をした場所
二  次条後段の規定による送達のうち郵便の業務に従事する者が郵便局においてするもの及び第百六条第一項後段の規定による送達
その送達において送達をすべき場所とされていた場所
三  第百七条第一項第一号の規定による送達
その送達においてあて先とした場所
(出会送達)第百五条  前二条の規定にかかわらず,送達を受けるべき者で日本国内に住所等を有することが明らかでないもの(前条第一項前段の規定による届出をした者を除く。)に対する送達は,その者に出会った場所においてすることができる。日本国内に住所等を有することが明らかな者又は同項前段の規定による届出をした者が送達を受けることを拒まないときも,同様とする。
(補充送達及び差置送達)第百六条  就業場所以外の送達をすべき場所において送達を受けるべき者に出会わないときは,使用人その他の従業者又は同居者であって,書類の受領について相当のわきまえのあるものに書類を交付することができる。郵便の業務に従事する者が郵便局において書類を交付すべきときも,同様とする。
2  就業場所(第百四条第一項前段の規定による届出に係る場所が就業場所である場合を含む。)において送達を受けるべき者に出会わない場合において,第百三条第二項の他人又はその法定代理人若しくは使用人その他の従業者であって,書類の受領について相当のわきまえのあるものが書類の交付を受けることを拒まないときは,これらの者に書類を交付することができる。
3  送達を受けるべき者又は第一項前段の規定により書類の交付を受けるべき者が正当な理由なくこれを受けることを拒んだときは,送達をすべき場所に書類を差し置くことができる。
(送達報告書)第百九条  送達をした公務員は,書面を作成し,送達に関する事項を記載して,これを裁判所に提出しなければならない。

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