新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.423、2006/6/12 15:19 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

[家事・相続]
質問:私の父は生前から家にいることがなくいつもどこかに放浪しておりその生活実態について母でさえ正確なところは分からない状況でした。そんな中、1年前警察から父が死亡した旨の連絡がありました。遺体を確認したところ、父に間違いなく、所定の手続きをしました。その後、1年くらい経過した頃、突然金融業者から、父の相続人である私に対して、父に対する貸金である500万円を返済するように請求する内容証明郵便が送られてきました。私はこの借金を返済しなければいけないのでしょうか。

回答:
1、お父様は1年前に死亡していますので、相続について考える必要があります。相続は、被相続人の死亡とともに開始され(民法882条)、相続人が被相続人の財産を包括的に承継することになります(民法896条)。相続人の範囲、順位は民法に規定されており、本件の場合には相続人は配偶者であるお母様と子供であるあなたになります(民法889条、890条)。また、相続の対象となる財産は、預貯金のようなプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。したがって、何もしなければあなたはお父様の借金である500万円の貸金債務を相続により承継し、債権者に対して返済する義務を負うことになります。
2、しかし、相続についても相続人の意思が尊重され、相続を承認するか、放棄するかの選択権が認められています。被相続人の遺産についてマイナス財産がプラス財産を大きく上回っていて、相続するメリットがないときは、相続を放棄することができます。相続放棄の手続きは、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する方法により行います(民法915条、938条)。この3ヶ月間が相続放棄の熟慮期間と呼ばれ、この期間内に遺産を相続するか放棄するかを検討する必要があります。本件の場合、被相続人であるお父様が死亡したことを知った時から1年経過しており、相続放棄の熟慮期間を経過していますので、原則として相続放棄はできません。
3、ただ、この熟慮期間を形式的に適用すると、相続人に過酷な事態となり、具体的な妥当性を欠く事態が生じることがあります。特に一部の悪質な金融業者はこの熟慮期間を悪用して、わざと被相続人が死亡して3ヶ月を経過してから相続人の無知に乗じて相続人に請求をしてくることが見受けられます。この不都合性を是正して具体的妥当性を図るために、熟慮期間の原則に修正を加える解釈がなされるようになりました。裁判所も修正を認める判例を出しています。すなわち、「熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事実を知った時から起算すべきものであるが、相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である(最高裁昭和59年4月27日判決、判例時報1116ー29)」との判例があります。遺産がないと信じたことに相当な理由が認められれば、死亡を知ってから3ヶ月が経過していても、相続の放棄が認められる可能性があります。本件の場合、お父様は生前から別居しており、その生活実態が全く分からない状態であり、お父様の遺産について正確に把握できないことから、あなたがお父様に遺産がないと信じたことが相当であるといえます。よって、熟慮期間の例外を主張して、相続の放棄を申述すべきでしょう。
4、したがって、本件ではあなたに金融業者から内容証明郵便が届いた日から熟慮期間を計算すべきと主張して、家庭裁判所に相続放棄の申述をすると良いです。もし、家庭裁判所において申述が却下されて認められなかった場合は、2週間以内に高等裁判所に即時抗告をして異議を申し出ることができます。

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