新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.421、2006/6/12 15:09 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

[家事・夫婦]、[刑事・違法性]
質問:昨年,妻が2歳の息子を連れて実家に帰ってしまい,現在,離婚調停中です。妻は,息子を私に会わせてくれないので,やむを得ず,保育園からの帰宅時を狙って妻の手から息子を連れ去り,私が面倒をみようと考えていますが,法的に何か問題はありますか。

回答:
1、夫婦は,その婚姻中,共同で親権を行使するものとされていますから(民法818条1項,3項),あなたは,少なくとも現段階では,まだ息子さんに対する親権を奥さんと共に有していることになります。親権の本質は,子を監護・教育する権利を有し,義務を負うことにあり(民法820条),具体的内容として,@居所指定権を初めとする子の身上に関する権能(同法821条から823条)とA財産管理権(同法824条)とが認められています。したがって,あなたが,息子さんを自己の支配下におき,監護養育することは親権の行使として許されるといえるように思われます。
2、しかし,一方で,刑法224条は,未成年者を略取し,又は誘拐した者を3か月以上5年以下の懲役に処するとしています(未成年者略取及び誘拐罪)。ここで略取とは,暴行(有形力を行使すること)・脅迫を手段として,他人をその保護されている生活環境から離脱させ,自己又は第三者の事実的支配下におくことをいいます。したがって,あなたが,現在奥さんの支配下で養育されている息子さんを無理やり(つまり,有形力を用いて)連れ去って,あなた自身の支配下におくと,未成年者略取罪に該当することになりかねません。
3、このように,一方の親権者が他方の親権者の支配下にある子を連れ去った場合に,未成年者略取罪が成立するかどうかにいては,「家庭内の紛争は,家庭裁判所で解決すべきであり,刑事司法が介入するのは望ましくない」との観点から,これを消極に解する考え方も有力でした。しかし,近時,最高裁は,共同親権者の一方である母親の実家(青森県内)において母親及び祖父母に監護養育されて平穏に生活していた2歳の長男が祖母に連れられて保育園を帰宅しようとしていた際,他方の親権者である父親(東京に居住)がすきを突いて背後から長男を抱きかかえ,自己の車に乗せて祖母の制止を無視して連れ去ったという事案で,親権者である父親に未成年者略取罪が成立するとの判断をしました(最高裁判所平成17年12月6日決定)。この事案で,最高裁が理由としたのは,@長男を奪取して手元におくことが,長男の監護養育上,現に必要とされるような特段の事情がないこと,A行為態様が粗暴で強引なものであること,B長男が,自己の生活環境についての判断・選択の能力が備わっていない年齢であること,C略取後の長男の監護教育について確たる見通しがあったと認め難いこと,以上の諸点です。
4、したがって,もし,あなたが息子さんを強引に連れ去ると,上記の@からCに該当するような場合には,未成年者略取罪に問われることになります。

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