新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.400、2006/4/25 17:12

[刑事・違法性]
質問:私は以前、刑事裁判の被告人になったことがあります。最近、マスコミ関係の人から、取材に使いたいのでそのときの裁判の資料を貸してほしい、謝礼はする、という話がありました。刑事裁判で使用した資料を、対価を受け取って他人に渡しても問題ないでしょうか。

回答:
1、刑事裁判においては、検察官が公判に提出する予定である証拠について、事前に被告人または弁護人に開示、謄写の機会が与えられます。これは、公判に提出する予定の証拠を事前に確認して、防御活動の準備をするためです(この証拠のことを、便宜上「開示証拠」と呼ぶことにします)。これに関して、近時の刑事訴訟法の改正により、「開示証拠」の適切な管理、運用に関する事項が規定されました。刑事訴訟法第281条の3では、「検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧または謄写の機会を与えられた証拠にかかる複製等」について、適切な管理を義務付けています。このような証拠を、目的外、すなわち、当該刑事裁判の準備以外の目的で他人に交付することは禁じられ(刑事訴訟法第281条の4)、罰則が科せられます。
2、近時の司法改革で、公判前整理手続が導入されていますが、公判前整理手続では、検察官が開示すべき証拠の範囲がかなり広範になっています(第316条の4等)。それに伴い、証拠を開示した際の弊害である、罪障隠滅、証人威迫や、証拠に現れた第三者のプライバシーの保護などが問題になります。このような弊害を防止するために、新しく制定されたのが、刑事訴訟法第281条の3以下です。同法以下には、開示証拠を使用することのできる例外や、違反した場合の罰則などが規定されています。条文上は、ご質問のように、開示証拠を取材などの名目でマスコミ等に交付することは禁止されています。
3、同条の「目的外使用」については、当該刑事事件と関連する民事事件や、行政訴訟、行政処分などの手続に当たっても、当該「開示証拠」の使用が禁じられているのかなども問題になりますが、条文の文言上は、いずれの場合にも「開示証拠」の使用は禁止されています。これとは異なる手続(刑事確定訴訟記録法に基づく開示請求)で入手した資料のみ使用できるという趣旨のようです。刑事訴訟法第281条の3以下は、施行後間もない法律であり、今後どのような取り扱いがなされるかは前例の蓄積を待つべき問題だと思われます(当事務所でも関係各省への問い合わせなど調査を続行しています)。
4、いずれにせよ、相談者が現在お持ちの資料を、当該刑事裁判以外の目的で使用することは、刑事訴訟法第281条の3に抵触する可能性がありますので、使用をご検討の場合は、事前に裁判所や、弁護士に相談して意見を求めることをお勧めいたします。

≪参考条文≫

刑事訴訟法
第281条の3 弁護人は、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等(複製その他証拠の全部又は一部をそのまま記録した物及び書面をいう。以下同じ。)を適正に管理し、その保管をみだりに他人にゆだねてはならない
第281条の4 被告人若しくは弁護人(第440条に規定する弁護人を含む。)又はこれらであつた者は、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、次に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供してはならない。
1.当該被告事件の審理その他の当該被告事件に係る裁判のための審理
2.当該被告事件に関する次に掲げる手続
イ 第1編第16章の規定による費用の補償の手続
ロ 第349条第1項の請求があつた場合の手続
ハ 第350条の請求があつた場合の手続
ニ 上訴権回復の請求の手続
ホ 再審の請求の手続
ヘ 非常上告の手続
ト 第500条第1項の申立ての手続
チ 第502条の申立ての手続
リ 刑事補償法の規定による補償の請求の手続
2 前項の規定に違反した場合の措置については、被告人の防御権を踏まえ、複製等の内容、行為の目的及び態様、関係人の名誉、その私生活又は業務の平穏を害されているかどうか、当該複製等に係る証拠が公判期日において取り調べられたものであるかどうか、その取調べの方法その他の事情を考慮するものとする
第281条の5 被告人又は被告人であつた者が、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、前条第1項各号に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときは、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
2 弁護人(第440条に規定する弁護人を含む。以下この項において同じ。)又は弁護人であつた者が、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、対価として財産上の利益その他の利益を得る目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときも、前項と同様とする。

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