新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.388、2006/4/14 17:18

[家事・相続]
質問:昨年母が亡くなりました。母の財産は郵便局の貯金が270万円で、母は亡くなるまで私が面倒を見ていました。父はすでに他界しており、私には兄1人、弟1人がいます。兄は、私が母の面倒を見たのだし、財産は私の好きにしてよいと言ってくれていますが、弟は意思を明らかにしません。やむなく家庭裁判所の調停を申し立てましたが、弟は出席せず、調停委員の勧めで調停を取り下げざるをえませんでした。その後、どうしたらよいのか誰も教えてくれず全くわからなかったので、東京の中央郵便局に行き、貯金の3分の1(私の法定相続分です)でいいからおろしたいと直談判しに行きましたが、拒否されました。友人に相談すると、郵政公社を相手に内容証明を送り、裁判をすればいいと言われました。裁判にして、勝つ見込みはあるでしょうか。

回答:
1、家庭裁判所の調停で相続人が出席せず調停を取り下げざるを得なかったとのことで、郵政公社を相手に裁判をして勝つ見込みがあるかという質問です。郵政公社の立場から考えると、公社があなたの法定相続分が3分の1であることが明らかであるにもかかわらず、預金の払い戻しに応じないのは、郵政公社だけでなく金融機関一般にとって、本当にあなたが郵便貯金の3分の1を相続したのか明らかではないからです。例えば、あなたには母親の面倒を見たという寄与分の主張をする権利がありますし、弟さんには弟さんの言い分として他の兄弟は特別受益を得ているためにそれを持ち戻すべきとの主張があるかもしれません。財産が他にも沢山あれば、あなたは郵便貯金以外のものを相続することも可能です。遺産分割には様々な要素が絡むため、単純に郵便貯金の3分の1を現に目の前にいる人が相続したかどうかを判断するのは並大抵のことではありません。そのため、金融機関側は、相続人全員の同意書ないし遺産分割協議書の提出を求めます(実務では、銀行専用フォーマットの遺産分割協議書、戸籍謄本、相続人全員の印鑑証明書の提出となります)。大量処理を旨とする銀行実務では、後日のトラブルを避けるため、同意書や遺産分割協議書がない場合、預金払戻し請求を拒否しているようです。
2、しかし、本来であれば、相続財産中の金銭その他の可分債権は法律上当然に分割され、各相続人がその相続分に応じて権利を取得すると解するのが判例(最判昭和29年4月8日)ですので、預金債権の場合も例外ではなく、当然に分割されてよいはずであり、実際そのような下級審の裁判例もあります(浦和地裁川越支部平成11年7月8日など、判例タイムス1030号245頁)。そのため、あなたが郵政公社を相手に裁判をすれば勝つ可能性はあります。また、弁護士が同行して、分割債権であることを強く主張すれば、相続分のみの払い戻しをしてくれる銀行もあります(裁判を起こしてくれと言う金融機関もあるようです)。
3、ところで、調停を取り下げた際に、誰も何も教えてくれなかったとのことですが、あなたには審判を行う選択肢があります。審判は、いわゆる裁判であり、裁判官が各相続人の意見を聞いて、後見的立場から具体的な分割を決定する手続きです。ところが、遺産分割事件は、審判といっても当事者全員の合意が重視され当事者主義的運用が行われていますので、相続人が出席しないことが続く場合、家庭裁判所から取下げ要求のある場合がままあります。しかし、相続人が出席しなくても、調査官等が出席を促したり、相続人の意見を審判外で聴取したり書面の提出を命じたりして、裁判所が職権で調査することはできますので、あなたとしては、本件被相続人については郵便貯金以外に財産がないことを財産目録で明らかにし、加えて、被相続人の生存時、死亡前後の状態、過去の被相続人と相続人の財産の授受、死亡時の被相続人の財産の状況等様々な事実を明らかにすることによって、裁判所が審判を下すに足りる資料の提出をしていれば、相続人がどうしても期日に出席せず、調査にも協力的ではないなどで、職権調査に限界が生じれば、裁判所は法定相続分に従って決定をすることは可能ですので、最終的な決定は出ます。
4、以上であり、あなたとしては確定した審判書を利用し郵政公社で払い戻しの手続きをすることになるでしょう。

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