新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.362、2006/2/24 17:30

[刑事・違法性]
質問: 高齢者虐待防止法について教えてください。幼い頃、実の娘のようにとてもかわいがってくれた、実家の隣の家に住む「おばさん」のことが気がかりです。今は私も実家を出ているので、なかなか会えずにいましたが、年賀状などのやりとりはしていました。ご主人を亡くされた後、ご高齢のため、ほぼ寝たきりの状態になり、一人息子が夫婦で同居して面倒を見ていると聞いていたのですが、1年ほど前、彼女から私宛の封書の手紙が届きました。「食事をさせてもらえない」「引き出しのお金がなくなっている」「冷たくされている」などと書かれていました、最初は、ご高齢でもあるし、思い過ごしではないか、と思っていたのですが、何度かそのような手紙が来た後、ばったりと手紙が途絶えてしまいました。気になって電話をしてみましたが、長男夫婦がとりついだせいか、あまり話もできずに終わってしまいました。心配なのですが、実の子が同居して面倒を見ている、というのに、親族でもない私に何ができるのかわかりません。会いに行ってみるしかないのかもしれませんが、会えなかったらどうしたらいいのか、会えて、もしひどい扱いを受けているようだったら、それはそれで、どうしたらいいのか、教えて下さい。できることはしてあげたいと思っています。

回答:
1.ご心配だと思いますが、まずは、事実の確認が大事になります。お手紙やお電話が一応可能なら、状況のご認識、ご判断等をされる能力はおありではないか、とも思いますし、何度もお手紙を出されている以上、思い過ごしとはいいきれませんが、公的機関等、第三者の対応を求めるには、それだけでは難しいかもしれません。以前お世話になったので、ということで、できれば、ご自身で、会いに行ってみていただいたほうがいいでしょう。その場では直接聞けなくても、身体に傷があったり、おびえて落ち着きがなかったりするかもしれません。あるいは、寝たきりになっている部屋の様子や、息子夫婦との会話等から、何かおかしい、ということがあるかもしれません。また、訪問を断られたり、嫌がられたりして、理由もはっきりしない、等のことがあれば、やはり気になります。
2.その上で、ご心配が解消されないようでしたら、ご本人様のお住まいの市区町村の役所の窓口に、受け取ったお手紙や、これまでの電話や訪問の日時、そのときの状況など、経過をまとめたメモ等をご持参の上、ご相談いただくという方法があります。平成18年4月1日から施行される、高齢者虐待防止法では、虐待を受けたと思われる高齢者を発見した人からの通報(第7条)に対し、市町村は、安全及び事実確認をしなければならないと規定されています(第9条)。この法律の施行後は、地域包括支援センター等、関係機関や手続も整備されていくと思います(ただ、平成18年2月現在では、まだ具体的な運用が明らかになっていません。)が、その窓口を確認するという意味でも、まずは市町村に申し出ていただくことになるでしょう。
3.このご相談により、具体的には、市町村の対応により、高齢者問題の専門家が、質問、訪問等の調査を行うことになります。生命や身体に重大な危険が生じているおそれがある場合は、立入調査(第11条)も行うことができ、それを正当な理由なく拒否、妨害した場合には、罰金となります(第13条)。「食事もできない」という可能性が高ければ、相当の調査がなされなければなりません。
4.その結果、生命や身体に重大な危険があるおそれがあり、緊急に対応する必要がある、という場合には、介護保険等も利用しながら、施設入所等が進められることになるでしょう。ご判断能力があれば、入所の契約を勧められると思いますが、それが難しい場合には、家庭裁判所への成年後見の申立がされて、後見人が契約する方法がとられるでしょう。深刻な場合には、病院で医療措置が執られたり、警察が捜査したりすることもあるはずです。
5.また、そこまで緊急性がなくても、虐待の事実がある場合には、やはり、介護保険等の利用により、在宅中心のケアを受けるという方法もありますし、条件が整わない、あるいは、ご本人様が希望を表明しにくい場合でも、引き続き、福祉関係で見守っていくよう、お願いすることになると思います。
6.この法律には、虐待されていると思われる高齢者を発見した人は、通報に努めなければならず(第7条第2項)、その虐待で、生命や身体に重大な危険が生じている場合には、義務として、通報しなければならないと定められています(第7条第1項)。あなたへの手紙は、ご本人様にとって、最後の手段かもしれません。お一人での手続きがご心配でしたら、法律事務所にご相談下さい。ご本人様のお住まいの近くの法律事務所の方が、対応が早いかもしれません。

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