新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.353、2006/2/6 14:03

[商事]
質問:中小企業の社長などがファクターからファクタリング契約の勧誘を受けた場合に、どのような点に配慮する必要がありますか。

回答:
1、(1)ファクタリング契約とは、売主(クライアント)が、顧客(カスタマー)に対して商品の販売、サービスの提供、工事の施工等によって得た売掛債権をファクターへ譲渡し、ファクターはこれに対し、前払いによる金融を行ったり、売掛金の支払保証や回収代行、さらに記帳事務の代行をおこなったりする、新しい形の金融サービスをいいます(なお、上記定義はファクタリング契約の全てにあてはまるものではありません。売掛債権をファクターへ譲渡するということまでは共通しますが、下線のその他についてはサービス内容に含まれない場合もあります。)。(2)ア このように、ファクタリング契約は、売主が顧客に対して有する売掛債権をファクターへ譲渡するという意味で一種の債権譲渡契約であるということができます。ただ、純然たる債権譲渡とは以下に述べるようにかなり異なります。イ(あ)純然たる債権譲渡においては、債権譲渡の時点で債権の売買がなされるわけですから、債権譲渡の時点で対価としての金銭が支払われることは当然ということになります。(い)これに対して、ファクタリング契約においては、売主と顧客間の売掛債権が将来的に発生される部分を含めて包括的に譲渡契約が締結されるのが通常であり、債権譲渡の処理も機械的になされ顧客の弁済期にファクターの口座に現金が振り込まれるとその振り込まれた金銭を売主は受け取ることになります。ここでは、債権譲渡というより債権の回収代行という側面が強くなります(債権回収代行機能)。この側面だけを捉えると債権譲渡(手形の裏書譲渡なども含む)とは根本的に異なるということになります。ただ、ファクタリング契約では、一定期日に顧客のファクターに対する売掛代金の支払いがなされることを見越してそれ以前でも金銭の借り入れが出来ます。この場合、手形のように証券の移転はありませんが、帳簿上債権譲渡がなされたことに対応する形での債権譲渡相当額の割引が出来る(手形を所持するという意味での煩瑣がないこと、帳簿記載事務をファクターが代替することなど手続の簡易化を図れる点を捉えて事務処理的機能があるといわれることがあります。)という意味で(債権譲渡たる性質を有する)満期前の裏書譲渡がなされたのと同様の関係となります。また、さらに、債権譲渡を引き当てとして現在有する売掛債権を超えて(売主・顧客間の取引を踏まえ将来発生するであろう売掛債権なども見越して)一定限度での貸付けが許容されるという場合《このような利用のされ方をすることもあります。》、債権譲渡を金融の手段として利用したということが出来ます(このような満期前の貸付け全体を捉えて金融機能があるといわれます。)。ウ このように、ファクタリング契約は、債権回収代行機能・金融機能・事務処理的機能などの機能の点に重点をおく契約であることから純然たる債権譲渡とはかなり異なる契約であるということが出来るのです。
2、(1)このようなファクタリング契約締結の条件としては顧客の支払能力に問題がないことが必要になります。この点、ファクタリング契約締結に際し、ファクターが顧客の信用調査をします。かかるファクターの信用調査により、顧客の資産状態が悪いことなどが判明し顧客からの回収可能性が低いと判断された場合や、そもそも顧客の資料が不十分で顧客の信用調査が十分に出来ないような場合、ファクターは契約締結には応じないからです。(2)もちろん、ファクターによる調査の結果、顧客が売主の保有する売掛債権全額について必ず支払われるというところまでの信用はないが、一定の範囲では回収がほぼ確実であるというような場合、債権回収がほぼ確実であるとファクターが判断した範囲でクライアントに対する償還請求権を放棄する形態でのファクタリング契約を締結するというような場合はあります。(3)このように、ファクターは顧客の信用度に応じて、売掛債権の回収見込みの高低を見積もり、その上でファクタリング契約の締結の有無、締結の際の許容限度額、その種類などを決定するのであり、その意味ではファクターの側に実質的なイニシアチブがあるということになるわけです。即ち、売主の意思とは無関係にファクターの側が償還請求権を留保する形態でのファクタリングしか認めない場合、売主とファクターが顧客に対し一括的に(依存的)債務引受契約を締結する形態でしか応じない場合、上記2つの方法ですらファクターが応じない場合(例えば、売掛債権を担保に信用保証協会が保証をして金融機関が融資をする)、といったようにファクターは顧客に対する回収の危険を出来る限り回避することを常に考慮したうえで売主に勧誘してくるわけです。(4)ただ、このようにファクターが回収リスクの危険の分散をするということが売主の側にとってファクタリング契約締結を躊躇すべきとは必ずしもいえません。例えば、中小企業を念頭に置いて考えますと、銀行はなかなか中小企業への貸付けに応じてくれないのが現状です(いわゆる銀行の貸し渋り)。このように資金繰りの苦しい中小企業の立場からすると、仮に償還請求権を留保する内容のファクタリング契約しかファクターが締結に応じてない場合でも、売主は顧客の信用により金融を得ることが可能となります。このことは、ファクタリング契約を締結することは、中小企業の売主などにとって通常機動的な資金調達の一手段として極めて有益であるということを意味するものでありそれだけでも十分に魅力的といえるのです。
3、(1)以上述べたことからすると、中小企業の社長さんがファクタリング契約の勧誘をファクター(や顧客など)から受けた場合、中小企業の社長さんは多いにその活用を検討してよいと思われます。即ち、ファクタリング契約は、以上見てきたように、@有用な資金調達手段(自己金融)となること、Aファクターに対する売掛債権譲渡は特に証券等を伴わずに手形割引の代替的手段として利用できること、ファクターが顧客の預金を売主の口座に振替えるなどの方法により自動的に処理されるため手形の割引の場合のように手形の銀行への持込みや台帳への記帳等が不要であることなど、事務処理上の利点が大きいこと、B売主は、顧客に対する売掛金の回収に頭を悩ませる必要がないこと、C売主は、(売主に対する)償還請求権を放棄する形態でのファクタリング契約の成立した範囲では、後日弁済期日に顧客がファクターに対し弁済を拒絶した場合でも、売主は責任を負う必要がないこと、など利点が大きいといえるからです。(2)ただ、中小企業の社長さんがファクタリング契約締結に際し注意しておくべき点もあります。というのは、@上記でも述べたとおり、ファクタリング契約締結のイニシアチブは実質上ファクターの側が握っていること、Aそのことと関連して、ファクターの言うとおりにファクタリング契約を締結すると売主にとって必要以上に不利な内容となることもありうること、B例えば、売主に対する償還請求権を留保する形態でファクタリング契約を締結する場合、売主である中小企業の社長さんは(手形の裏書人が手形の所持人に対し担保責任を負うのと同様)、顧客がファクターへの支払いを拒絶した場合責任を負うことになること、Cまた、ファクタリング契約の内容として、売掛債権の満期まで結局期限前の割引すら認められないような内容となることがあること(この場合は債権回収代行機能に特化する)、D売掛債権を譲渡した時点で金融を得ることが出来る場合でも、顧客の信用度に応じて金利が変動するため、顧客の信用度が低い場合には金利は高くなること、などがあげられます。(3)以上、中小企業の社長さんにとってファクタリング契約の勧誘を受けることは資金調達の多様化につながるため通常有難いことではありますが、ファクターは顧客に対する債権回収に伴う危険を回避するために様々に売主である中小企業の社長さんに不利な条項を付加することが考えられるのです。従いまして、ファクタリング契約の締結をする際には売主である中小企業の社長さんの側でその契約内容を十分に検討する必要があります。ただし、そのような契約内容の十分な検討はある程度の法律知識がないと難しい場合もあります。そこで、ファクタリング契約の内容に不当に不利な点がないかについては弁護士に相談するなど慎重な対応が必要になるでしょう。

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