新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.246、2005/4/20 16:28 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

[刑事・起訴前]
質問:私は、病院に勤務している医師です。先日、同じ職場の18歳のAさんと初めて食事に行った後、ラブホテルにしつこく誘い、同意の上で関係をもってしまいましたが、後日、Aさんの両親と、本人から乱暴されたと訴えられました。警察署から事情を聞きたいといってきたので「そんなことはしていません。」と警察署で話してきました。今後どうしたらいいでしょうか。

回答:
1、Aさんに対するあなたの行為は、合意の上ですから強姦罪(刑法177条)には該当しません。捜査機関、検察官が、あなたの話を信じてくれれば問題はありません。しかし、被害者が、未成年者18歳であり、強引にホテルに誘っている点から、その供述に信憑性がある、必ずしも合意があるとはいえないと判断されると逮捕状が請求され逮捕される可能性が十分にあります。逮捕されると、本件は、被害者とあなたの供述が食い違いますから、いわゆる否認事件として、逮捕後48時間以内に検察庁に送検され24時間以内に勾留請求され、勾留請求の日から最長20日間身柄拘束の可能性があります。又病院の医師という社会的地位から報道される可能性が大きいと思います。最終的には、裁判によって有罪か無罪かが争われることになるでしょう。
2、そこであなたにとって今後の選択肢は3つあると思います。
@1つは、真実を曲げずにあくまで無罪を主張し逮捕覚悟で捜査機関に対し対決姿勢を崩さず、弁護人を依頼し、今から当時の事実関係を詳細に文章化して捜査機関に対し提出して無実を信じてもらうように働きかけることです。あなたの社会的地位からして逮捕自体を避けなければなりません。本件の場合、場所がラブホテルであり、Aさんも、関係を持つことに同意していたとの裏づけの1つになるはずです。Aさんとの会話の内容から、同意していたとの推論させるような言葉を詳細に書き出しておくことです。本罪の場合、暴行、脅迫が犯罪成立の要件になりますからどのような暴行、脅迫があったのかを弁護人を通じて、捜査機関に確認してもらい、その反証を十分に用意することが必要です。捜査機関は、捜査の密行性から争点となる事実は、事前に開示しませんが、捜査機関も具体的反論を聞きたいこともあり弁護人との面談に応じてくれる場合もありますから、諦めずに、弁護人と同行し詳しく説明を求めていくことが大切です。自分は、犯罪行為はしていないとの理由で、捜査機関の呼び出しに一切応じないというのも方法ですが、反論を十分にしないと、突然逮捕状に基づき逮捕されることがあります。逃走の危険のない人は朝方の逮捕が多いようです。不安な毎日を送るより、弁護人とともに積極的に身の証を立てるのが妥当と思われます。弁護人との十分な打ち合わせが必要でしょう。
A2つ目は、被害者に犯行を認めてしまい、被害者と話し合い、和解し告訴を取り下げてもらうことです。あなたの主張する事実と食い違うわけですから、これには勇気が要ります。強姦罪、強制わいせつ罪、未成年者誘拐罪、ワイセツ目的誘拐罪、名誉毀損罪、器物損壊罪は、「親告罪」といって、一旦被害者が、被害届け、告訴をしても、起訴前に告訴取り消し(刑事訴訟法237条1項)になると、公訴権消滅により勿論逮捕もありませんし、仮に逮捕されても起訴前であれば捜査機関に取り消し書を提出すれば多くの場合は即日で釈放になります。起訴後は法的な取り消しができないことから(同法同条1項)、事実上、裁判の情状に影響があるだけで、裁判は終了しません。あなたにとって耐え難いことかも知れませんが、1つの方法として提案します。なぜなら、裁判になった場合は、必ず無実のひとが勝訴するとは限らないからです。本件の場合、あなたにとって有利な事情はたくさんあります。しかし、18歳の未成年者女子と成人男性のどちらの供述が信用されるかは裁判になり具体的に供述調書等証拠書類を見てみないとなんともいえないからです。裁判官の判断は、裁判の独立の関係上裁判官自身が独自の判断によるので予測を超える可能性はあります。近時問題となっている裁判員制度はこの弊害を避けようとするものです。また起訴された場合、検察官は、無罪となると控訴し最後まで争うのが通常です。否認事件の場合、裁判の期間は、起訴後1年以上になるのが通常です。控訴審を含めると2年は超えることになります。起訴事実を認めた場合は、通常起訴後3ヶ月以内に終了します。それにあなたは医師ですから、万が一有罪判決となれば、自動的に医道審議会にかけられ、裁判終結後1年以内に、免許取り消しとなるおそれが高いと思われます。強姦より法定刑が軽い強制わいせつでも、近時の処分例は取り消しとなっていることが多いことを考えると免許取り消しは覚悟しなければなりません。さらに医師法上の取り消し後の再免許交付は、ここ10年ぐらい申請しても認められた例がありません。最後に免許取り消しの行政訴訟もありますが、これも難しい手続きであまり期待できません。すなわち、あなたは、医師の資格を一生失ってしまう可能性が十分にあるのです。これは懲役よりある意味では重大なことです。以上の事情を総合的に考慮し、自分でできなければ、弁護人に被害者宅に犯罪事実を認め謝罪に行ってもらい、示談を行い告訴、被害届取り消しの手続を行います。これが功を奏するかどうかは、あなたまたは、弁護人の力量によります。なぜなら、被害者は事件の性質上示談すなわち、金員での解決を望まないのが通常だからです。まずは、断られることを覚悟で面談交渉を求めなければ成りません。立場上からも最初から、「はい、わかりました。」などという被害者はいません。特に今回は未成年者ですから両親が交渉相手となりますからなお困難です。1度断られたからといってあきらめてはいけません。むしろ、断られてからが本当の交渉なのです。地道な説得、経験が必要とされます。この交渉は、謝罪であり、法律論争ではありませんから、弁護士といえども成功するとは限らないのです。熱心に謝罪し説得することです。この方法には危険が伴います。被害者に犯罪事実を認めると、捜査機関に伝わり、逮捕状が出る可能性があるからです。交渉の方法に注意が必要です。示談金は、通常200〜300万円程度用意する必要があります。
B最後の方法は、犯罪事実を直接認めず、和解交渉により示談し、告訴を取り消してもらうことです。あなたにとっては、一番都合のいい方法かも知れません。おそらく弁護人でなければできないと思います。この方法の欠点は、示談成立の可能性がかなり低いということです。被害者の立場になって考えてください。犯罪事実を認めず、金員のみにより解決を図ろうとしているととられかねないからです。最悪の場合示談交渉は決定的に決裂し、最終的に裁判訴訟に移行する可能性をかなり秘めています。相手方が潔癖なひとであれば、致命的なことにもなりかねません。すなわち裁判になってからも示談ができず、実刑の可能性(懲役2−3年)があるからです。また、交渉の際、どのような説明をしながら説得していくか、かなり困難な面があります。弁護人と相談することをお勧めします。しかし、不可能な方法ではありません。
3、以上これがベストという方法はありません。事情を正確に把握し、弁護人に正確に情報を伝え、適正なアドヴァイスを受けることです。弁護人は、家族以外であなたの唯一の味方です。

刑法(強姦) 第百七十七条  暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、三年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。
刑事訴訟法 第二百三十七条  告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る