新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.240、2005/4/20 13:23

[刑事・違法性]
質問:上場企業に勤めていますが、勤務先や子会社の株式を市場で売買することは出来ますか?

回答:
1、ご自身の勤めている企業あるいはその子会社の株を売買すること自体には、特に問題はありません。しかしその売買がインサイダー取引にあたる場合はその取引は違法です。インサイダー取引とは,投資判断に影響を及ぼすような会社の未公開の情報を、ある一定の立場ゆえに知るに至った者が、その情報に基づいて、その情報を知り得ない者と、その会社の発行する株式等の証券の取引を行なうことをいいます。株式等の価格は会社の財政状況や経営状態を反映するものですから、このような取引がなされると、一部の者が不当な利益を受け、一般投資家が害されることになります。そこで、証券取引法166条がこのような取引を規制しており、同法に違反すると3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられ、またはこれを併科されることになります。(同法198条)
2、具体的に、どのような場合に同法166条に規定するインサイダー取引にあたるのかについて、法律では@インサイダー(内部者)にあたる者A情報の内容B未公開といえるための基準などについて詳細に定めています。
@については、条文上は当該上場企業等(子会社も含みます。ただし後述)の役員、代理人、使用人、その他の従業員、総株主の議決権の3分の1以上を有する株主などが対象となり得るとされている(同法166条1項各号)ほか、これらの者から情報を受領した者あるいは情報を受領した者が所属する法人の役員(同条3項)も処罰の対象としています。また、会社関係者でなくなってからも1年間は処罰の対象になります。
Aについては詳しくは同法2項に定められていますが、例えば当該上場企業あるいはその子会社が資本減少や新株発行、合併などの決定をしたこと、業務遂行過程で損害が生じたこと、主要株主が異動することなど投資者の投資判断に影響を与えると考えられる事実が列挙されています。この点、インサイダー(内部者)が職務や権利行使等において、これらの事実を知ったことが必要で、全く無関係に知った場合にはインサイダー取引にはあたりませんが、上述した情報受領者にあたる可能性はありますので注意してください。
Bについては重要事実が2つ以上の報道機関に公開され12時間経過した時、上場先の証券取引所等に通知し、当該証券取引所等のホームページに掲載された時、重要事実の記載された有価証券報告書等が公衆の縦覧に供された時(同条4項)にはその情報は公開されたものとされ、以降株式等の売買を行ってもインサイダー取引にはあたらないということになります。
したがって、あなたが勤務先の株を売る場合にはあなたがインサイダー取引の規制対象となる「インサイダー(内部者)」であることが強く疑われますから、以上の点について慎重に検討して株取引を行わなければなりません。
3、以上のことはあなたが勤務している企業の子会社の株式を売却する場合にも当てはまります。ただし、インサイダー取引規制上の「子会社」というのは、通常いうような出資比率によって決められるものではなく、直近の有価証券届出書等において当該上場企業等の属する企業集団属する会社として記載された会社をいう(同条5項)のでこの点にも注意が必要です。ご不明な場合には、お近くの弁護士にご相談ください。

≪証券取引法 第166条≫

次の各号に掲げる者(以下この条において「会社関係者」という。)であつて、上場会社等に係る業務等に関する重要事実(当該上場会社等の子会社に係る会社関係者(当該上場会社等に係る会社関係者に該当する者を除く。)については、当該子会社の業務等に関する重要事実であつて、次項第5号から第8号までに規定するものに限る。以下同じ。)を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け又は有価証券指数等先物取引、有価証券オプション取引、外国市場証券先物取引若しくは有価証券店頭デリバティブ取引(以下この条において「売買等」という。)をしてはならない。当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を次の各号に定めるところにより知つた会社関係者であつて、当該各号に掲げる会社関係者でなくなつた後1年以内のものについても、同様とする。
1.当該上場会社等(当該上場会社等の親会社及び子会社を含む。以下この項において同じ。)の役員、代理人、使用人その他の従業者(以下この条及び次条において「役員等」という。)その者の職務に関し知つたとき。
2.当該上場会社等の商法第293条ノ6第1項に定める権利を有する株主若しくは優先出資法に規定する普通出資者のうちこれに類する権利を有するものとして内閣府令で定める者、商法第293条ノ8第1項に定める権利を有する株主又は有限会社法(昭和13年法律第74号)第44条ノ3に定める権利を有する社員(これらの株主、普通出資者又は社員が法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。以下この条及び次条において同じ。)であるときはその役員等を、これらの株主、普通出資者又は社員が法人以外の者であるときはその代理人又は使用人を含む。)
当該権利の行使に関し知つたとき。
3.当該上場会社等に対する法令に基づく権限を有する者
当該権限の行使に関し知つたとき。
4.当該上場会社等と契約を締結している者又は締結の交渉をしている者(その者が法人であるときはその役員等を、その者が法人以外の者であるときはその代理人又は使用人を含む。)であつて、当該上場会社等の役員等以外のもの
当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関し知つたとき。
5.第2号又は前号に掲げる者であつて法人であるものの役員等(その者が役員等である当該法人の他の役員等が、それぞれ第2号又は前号に定めるところにより当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を知つた場合におけるその者に限る。)
その者の職務に関し知つたとき。
《改正》平10法107
《改正》平10法107
《改正》平11法125
《改正》平11法160
《改正》平11法160

2 前項に規定する業務等に関する重要事実とは、次に掲げる事実(第1号、第2号、第5号及び第6号に掲げる事実にあつては、投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものとして内閣府令で定める基準に該当するものを除く。)をいう。
1.当該上場会社等の業務執行を決定する機関が次に掲げる事項を行うことについての決定をしたこと又は当該機関が当該決定(公表がされたものに限る。)に係る事項を行わないことを決定したこと。
イ 株式(優先出資法に規定する優先出資を含む。ヘにおいて同じ。)、転換社債及び新株引受権付社債の発行
ロ 資本の減少
ハ 資本準備金又は利益準備金の減少
ニ 商法第210条若しくは第211条ノ3の規定又はこれらに相当する外国の法令の規定(当該上場会社等が外国会社である場合に限る。以下この条において同じ。)による自己の株式の取得
ホ 商法第211条の規定又はこれに相当する外国の法令の規定による自己の株式の処分
ヘ 株式の分割
ト 利益若しくは剰余金の配当又は商法第293条ノ5に定める営業年度中の金銭の分配(その一株若しくは一口当たりの額又は方法が直近の利益若しくは剰余金の配当又は金銭の分配と異なるものに限る。)
チ 株式交換
リ 株式移転
ヌ 合併
ル 会社の分割
ヲ 営業又は事業の全部又は一部の譲渡又は譲受け
ワ 解散(合併による解散を除く。)
カ 新製品又は新技術の企業化
ヨ 業務上の提携その他のイからカまでに掲げる事項に準ずる事項として政令で定める事項
2.当該上場会社等に次に掲げる事実が発生したこと。
イ 災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害
ロ 主要株主の異動
ハ 特定有価証券又は特定有価証券に係るオプションの上場の廃止又は登録の取消しの原因となる事実
ニ イからハまでに掲げる事実に準ずる事実として政令で定める事実
3.当該上場会社等の売上高、経常利益若しくは純利益(以下この条において「売上高等」という。)若しくは第1号トに規定する配当若しくは分配又は当該上場会社等の属する企業集団の売上高等について、公表がされた直近の予想値(当該予想値がない場合は、公表がされた前事業年度の実績値)に比較して当該上場会社等が新たに算出した予想値又は当事業年度の決算において差異(投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとして内閣府令で定める基準に該当するものに限る。)が生じたこと。
4.前3号に掲げる事実を除き、当該上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実であつて投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの
5.当該上場会社等の子会社の業務執行を決定する機関が当該子会社について次に掲げる事項を行うことについての決定をしたこと又は当該機関が当該決定(公表がされたものに限る。)に係る事項を行わないことを決定したこと。
イ 株式交換
ロ 株式移転
ハ 合併
ニ 会社の分割
ホ 営業又は事業の全部又は一部の譲渡又は譲受け
ヘ 解散(合併による解散を除く。)
ト 新製品又は新技術の企業化
チ 業務上の提携その他のイからトまでに掲げる事項に準ずる事項として政令で定める事項
6.当該上場会社等の子会社に次に掲げる事実が発生したこと。
イ 災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害
ロ イに掲げる事実に準ずる事実として政令で定める事実
7.当該上場会社等の子会社(第2条第1項第4号、第5号の2又は第6号に掲げる有価証券で証券取引所に上場されているものの発行者その他の内閣府令で定めるものに限る。)の売上高等について、公表がされた直近の予想値(当該予想値がない場合は、公表がされた前事業年度の実績値)に比較して当該子会社が新たに算出した予想値又は当事業年度の決算において差異(投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとして内閣府令で定める基準に該当するものに限る。)が生じたこと。
8.前3号に掲げる事実を除き、当該上場会社等の子会社の運営、業務又は財産に関する重要な事実であつて投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの
《改正》平9法55
《改正》平10法107
《改正》平10法107
《改正》平11法125
《改正》平11法160
《改正》平11法160
《改正》平12法091
《改正》平12法091
《改正》平13法080
《改正》平13法129
《改正》平13法129
3 会社関係者(第1項後段に規定する者を含む。以下この項において同じ。)から当該会社関係者が第1項各号に定めるところにより知つた同項に規定する業務等に関する重要事実の伝達を受けた者(同項各号に掲げる者であつて、当該各号に定めるところにより当該業務等に関する重要事実を知つたものを除く。)又は職務上当該伝達を受けた者が所属する法人の他の役員等であつて、その者の職務に関し当該業務等に関する重要事実を知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等をしてはならない。
《改正》平10法107
4 第1項、第2項第1号、第3号、第5号及び第7号並びに前項の公表がされたとは、上場会社等に係る第1項に規定する業務等に関する重要事実、上場会社等の業務執行を決定する機関の決定、上場会社等の売上高等若しくは第2項第1号トに規定する配当若しくは分配、上場会社等の属する企業集団の売上高等、上場会社等の子会社の業務執行を決定する機関の決定又は上場会社等の子会社の売上高等について、当該上場会社等又は当該上場会社等の子会社(子会社については、当該子会社の第1項に規定する業務等に関する重要事実、当該子会社の業務執行を決定する機関の決定又は当該子会社の売上高等に限る。以下この項において同じ。)により多数の者の知り得る状態に置く措置として政令で定める措置がとられたこと又は当該上場会社等若しくは当該上場会社等の子会社が提出した第25条第1項に規定する書類(同項第7号に掲げる書類を除く。)にこれらの事項が記載されている場合において、当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に供されたことをいう。
《改正》平10法107
《改正》平10法107
《改正》平13法129
5 第1項及び次条において「親会社」とは、他の会社(協同組織金融機関を含む。以下この項において同じ。)を支配する会社として政令で定めるものをいい、この条において「子会社」とは、他の会社が提出した第5条第1項の規定による届出書、第24条第1項の規定による有価証券報告書又は第24条の5第1項の規定による半期報告書で第25条第1項の規定により公衆の縦覧に供された直近のものにおいて、当該他の会社の属する企業集団に属する会社として記載されたものをいう。
《追加》平10法107
《改正》平10法107
《改正》平15法054
6 第1項及び第3項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
1.新株引受権(優先出資法に規定する優先出資引受権を含む。以下この号において同じ。)を有する者が当該新株引受権を行使することにより株券(優先出資証券を含む。)を取得する場合
2.新株予約権を有する者が当該新株予約権を行使することにより株券を取得する場合
2の2.特定有価証券等に係るオプションを取得している者が当該オプションを行使することにより特定有価証券等に係る売買等をする場合
3.商法第245条ノ2第1項、第245条ノ5第3項、第349条第1項、第355条第1項(同法第371条第2項において準用する場合を含む。)、第358条第5項、第374条ノ3第1項(同法第374条ノ31第3項において準用する場合を含む。)、第374条ノ23第5項、第408条ノ3第1項若しくは第413条ノ3第5項若しくは有限会社法第64条ノ2第1項の規定による株式の買取りの請求又は法令上の義務に基づき売買等をする場合
4.当該上場会社等の株券等(第27条の2第1項に規定する株券等をいう。)に係る同項に規定する公開買付け(同項本文の規定の適用を受ける場合に限る。)又はこれに準ずる行為として政令で定めるものに対抗するため当該上場会社等の取締役会が決定した要請(委員会等設置会社にあつては、執行役の決定した要請を含む。)に基づいて、当該上場会社等の特定有価証券等又は特定有価証券等の売買に係るオプション(当該オプションの行使により当該行使をした者が当該オプションに係る特定有価証券等の売買において買主としての地位を取得するものに限る。)の買付け(オプションにあつては、取得をいう。次号において同じ。)その他の有償の譲受けをする場合
4の2.商法第210条若しくは第211条ノ3の規定又はこれらに相当する外国の法令の規定による自己の株式の取得についての当該上場会社等の商法第210条第1項の規定による定時総会の決議若しくは第211条ノ3第1項に規定する取締役会の決議(委員会等設置会社にあつては、執行役の決定を含む。)(同条第2項に規定する事項に係るものに限る。)又はこれらに相当する外国の法令の規定に基づいて行う決議等(以下この号において「定時総会決議等」という。)について第1項に規定する公表(当該定時総会決議等の内容が当該上場会社等の業務執行を決定する機関の決定と同一の内容であり、かつ、当該定時総会決議等の前に当該決定について同項に規定する公表がされている場合の当該公表を含む。)がされた後、当該定時総会決議等に基づいて当該自己の株式に係る株券若しくは株券に係る権利を表示する第2条第1項第10号の3に掲げる有価証券その他の政令で定める有価証券(以下この号において「株券等」という。)又は株券等の売買に係るオプション(当該オプションの行使により当該行使をした者が当該オプションに係る株券等の売買において買主としての地位を取得するものに限る。以下この号において同じ。)の買付けをする場合(当該自己の株式の取得についての当該上場会社等の業務執行を決定する機関の決定以外の第1項に規定する業務等に関する重要事実について、同項に規定する公表がされていない場合(当該自己の株式の取得以外の商法第210条若しくは第211条ノ3の規定又はこれらに相当する外国の法令の規定による自己の株式の取得について、この号の規定に基づいて当該自己の株式に係る株券等又は株券等の売買に係るオプションの買付けをする場合を除く。)を除く。)
5.第159条第3項(同条第4項において準用する場合を含む。)の政令で定めるところにより売買等をする場合
6.社債券(新株予約権付社債券を除く。)その他の政令で定める有価証券に係る売買等をする場合(内閣府令で定める場合を除く。)
7.第1項又は第3項の規定に該当する者の間において、売買等を取引所有価証券市場又は店頭売買有価証券市場によらないでする場合(当該売買等をする者の双方において、当該売買等に係る特定有価証券等について、更に第1項又は第3項の規定に違反して売買等が行われることとなることを知つている場合を除く。)
8.上場会社等に係る第1項に規定する業務等に関する重要事実を知る前に締結された当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等に関する契約の履行又は上場会社等に係る同項に規定する業務等に関する重要事実を知る前に決定された当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等の計画の実行として売買等をする場合その他これに準ずる特別の事情に基づく売買等であることが明らかな売買等をする場合(内閣府令で定める場合に限る。)

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