新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.191、2004/8/18 16:25

[行政][刑事・起訴前]
質問:内縁の夫がオーバーステイで逮捕されました。強制退去になってしまうのでしょうか。

回答:
本邦に在留している外国人が、刑法犯で検挙された場合やオーバーステイで検挙された場合には、次の強制退去手続きが開始されます。

1、入国審査官の違反審査
   →強制退去事由に該当すると認定
2、 認定を不服として特別審理官に口頭審理を請求する
   →認定に誤りなしと判定
3、判定を不服として法務大臣に対して異議の申出を行う
4−@、異議に理由無く特別に在留を許可する事情も無いと判断された場合
   →退去強制令書発付
4−A、特別に在留を許可する事情があると判断された場合
   →在留特別許可

 特別に在留を許可する事情とはどのような事情でしょうか。入管法改正時の参議院法務委員会の附帯決議では、「退去強制手続、在留特別許可等の運用に当たっては、当該外国人の在留中に生じた家族的結合等の実情を十分配慮し、適切に措置すること。」と決議されており、当該外国人が、日本人(永住者)との間に家族的結合を生じていれば、これが考慮されると思われます。日本人の配偶者であったり、日本人との間に子供が居る場合(日本人の親となっている場合)などです。手続きは1年前後かかるケースがあります。
 外国人の夫が逮捕される前であれば、法律上の婚姻を成立させてから、日本人配偶者と共に入管に出頭し、仮放免許可申請書を提出し、在留特別許可を受けたい旨を上申します。
 既に逮捕されている場合は、弁護士に起訴前弁護を依頼し、窃盗など刑法犯で検挙されている場合は、弁護士に依頼して被害者に対する弁償を行い、被害届を取下げてもらうなどの弁護活動を行い、不起訴処分を得ると良いでしょう。同時に、法律上の婚姻手続きを行い、入管に陳述書や戸籍謄本を提出します。
 外国人との法律上の婚姻を成立させるためには、外国大使館で「婚姻要件具備証明書」の発行を受け、パスポートと外国人登録証を用意して、役所に婚姻届を提出します。外国人登録をしていない場合は同時に申請すると良いでしょう。大使館によっては、この婚姻要件具備証明書を発行していない国や、オーバーステイ外国人に対しては発行していない国もあり、注意が必要です。この場合、本国から証明書を取り寄せて翻訳文を添付して提出します。婚姻届は受理伺いになり(受理伺い証明書を発行してもらう)、事実関係が確認されれば数ヶ月以内に受理されることになります。
 強制退去令書が発布されてしまった場合は、直ちに取消しを求める行政訴訟を提起し、同時に執行停止の申立(行政事件訴訟法25条2項)を行います。
 これらの手続きは、勿論本人でもできますが、弁護士や行政書士などに相談して手続きされると良いでしょう。

関係する法令の抜粋出入国管理及び難民認定法(抜粋)
(入国審査官の審査)
第四十五条  入国審査官は、前条の規定により容疑者の引渡を受けたときは、容疑者が第二十四条各号の一に該当するかどうかをすみやかに審査しなければならない。
2  入国審査官は、前項の審査を行つた場合には、審査に関する調書を作成しなければならない。
(容疑者の立証責任)
第四十六条  前条の審査を受ける容疑者のうち第二十四条第一号(第三条第一項第二号に係る部分を除く。)又は第二号に該当するとされたものは、その号に該当するものでないことを自ら立証しなければならない。
(審査後の手続)
第四十七条  入国審査官は、審査の結果、容疑者が第二十四条各号のいずれにも該当しないと認定したときは、直ちにその者を放免しなければならない。
2  入国審査官は、審査の結果、容疑者が第二十四条各号の一に該当すると認定したときは、すみやかに理由を附した書面をもつて、主任審査官及びその者にその旨を知らせなければならない。
3  前項の通知をする場合には、入国審査官は、当該容疑者に対し、第四十八条の規定による口頭審理の請求をすることができる旨を知らせなければならない。
4  第二項の場合において、容疑者がその認定に服したときは、主任審査官は、その者に対し、口頭審理の請求をしない旨を記載した文書に署名させ、すみやかに第五十一条の規定による退去強制令書を発付しなければならない。
(口頭審理)
第四十八条  前条第二項の通知を受けた容疑者は、同項の認定に異議があるときは、その通知を受けた日から三日以内に、口頭をもつて、特別審理官に対し口頭審理の請求をすることができる。
2  入国審査官は、前項の口頭審理の請求があつたときは、第四十五条第二項の調書その他の関係書類を特別審理官に提出しなければならない。
3  特別審理官は、第一項の口頭審理の請求があつたときは、容疑者に対し、時及び場所を通知してすみやかに口頭審理を行わなければならない。
4  特別審理官は、前項の口頭審理を行つた場合には、口頭審理に関する調書を作成しなければならない。
5  第十条第三項から第六項までの規定は、第三項の口頭審理の手続に準用する。
6  特別審理官は、口頭審理の結果、前条第二項の認定が事実に相違すると判定したときは、直ちにその者を放免しなければならない。
7  特別審理官は、口頭審理の結果、前条第二項の認定が誤りがないと判定したときは、すみやかに主任審査官及び当該容疑者にその旨を知らせるとともに、当該容疑者に対し、第四十九条の規定により異議を申し出ることができる旨を知らせなければならない。
8  前項の通知を受けた場合において、当該容疑者が同項の判定に服したときは、主任審査官は、その者に対し、異議を申し出ない旨を記載した文書に署名させ、すみやかに第五十一条の規定による退去強制令書を発付しなければならない。
(異議の申出)
第四十九条  前条第七項の通知を受けた容疑者は、同項の判定に異議があるときは、その通知を受けた日から三日以内に、法務省令で定める手続により、不服の事由を記載した書面を主任審査官に提出して、法務大臣に対し異議を申し出ることができる。
2  主任審査官は、前項の異議の申出があつたときは、第四十五条第二項の審査に関する調書、前条第四項の口頭審理に関する調書その他の関係書類を法務大臣に提出しなければならない。
3  法務大臣は、第一項の規定による異議の申出を受理したときは、異議の申出が理由があるかどうかを裁決して、その結果を主任審査官に通知しなければならない。
4  主任審査官は、法務大臣から異議の申出が理由があると裁決した旨の通知を受けたときは、直ちに当該容疑者を放免しなければならない。
5  主任審査官は、法務大臣から異議の申出が理由がないと裁決した旨の通知を受けたときは、すみやかに当該容疑者に対し、その旨を知らせるとともに、第五十一条の規定による退去強制令書を発付しなければならない。
(法務大臣の裁決の特例)
第五十条  法務大臣は、前条第三項の裁決に当つて、異議の申出が理由がないと認める場合でも、当該容疑者が左の各号の一に該当するときは、その者の在留を特別に許可することができる。
一  永住許可を受けているとき。
二  かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき。
三  その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき。
平成16年4月15日 参議院法務委員会
  出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案に対する附帯決議
政府は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。
一 出国命令制度及び在留資格取消し制度など各種の対策を実施する際は、本邦に在留している外国人の人権や生活環境等を十分配慮し、適切な運用を行うこと。
二 退去強制手続、在留特別許可等の運用に当たっては、当該外国人の在留中に生じた家族的結合等の実情を十分配慮し、適切に措置すること。
附帯決議に対する野沢太三法務大臣の発言、「ただいま可決されました附帯決議につきましては、その趣旨を踏まえ、適切に対処してまいりたいと存じます。」

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