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質問:電車内で痴漢被害に遭いました。犯人は逮捕されましたが,その後釈放されていると聞いています。先日,弁護人に就いた弁護士さんから示談の申入れを受けたのですが,自分がどういう立場なのか法的なことがわからず,どうしていいか決めかねています。示談に応じた方がいいでしょうか。示談金の相場はいくらくらいでしょうか。
↓
回答:ご心痛お察しいたします。当然のことですが,示談に応じるか応じないかはあなたの自由です。結論については最終的にはご自身で出していただかざるを得ませんが,ただ,自由と言われてもどうするのが最適か分かりかねるというのはそのとおりでしょう。そこで,やや長文になりますが,刑事手続の進行状況と民事上の法律関係についてざっとご説明します。あなたがご判断をする上での目安にしていただければ幸いです。
解説:
【刑事手続の現状と見通し】
≪迷惑防止条例違反の在宅被疑者≫
まず,痴漢行為の犯人とされる者は,現在,刑事訴訟法上の被疑者(マスコミでいう「容疑者」)という立場で,検察官から事情聴取を受けている状態にあります。犯人の行為がいかなる犯罪に該当するのかを決めるのは裁判所ですが,電車内の痴漢行為という行為態様からすると,おそらく各都道府県の定める迷惑防止条例違反であると予想されます。ご参考までに東京都の迷惑防止条例(正式名:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)違反に対しては,6か月以下の懲役か,50万円以下の罰金という刑罰が定められています。既に,あなたも警察署や検察庁で事情聴取を受け,供述調書を作成されたり,実況見分に立ち会ったりされているでしょうが,被疑者もまた,警察署や検察庁からの呼び出しに応じて,取調べに応じていることと思います。検察官は,今後,警察が収集した証拠や,自身の取調べ結果などを総合し,被疑者に対して刑事裁判を求めるかどうか,つまり,起訴するかどうかの判断をすることになります。
≪公判請求と略式起訴≫
この点,起訴するにしても2とおりの手続があります。ひとつは,裁判官,検察官,被告人(被疑者は起訴されると「被告人」という立場になります。本当は誤解を招く表現なのですが,マスコミでは「被告」などと呼ばれることもあります。),弁護人が法廷に集まって審理を開く正式裁判の請求(これを「公判請求」といいます。)です。もうひとつは,警察署や検察庁で取り調べられた書面証拠のみが裁判所に送られ,裁判官がその事件記録だけを読んで罰金の額を定める略式手続の請求(これを「略式起訴」といいます。)です。本件がどちらになるかは一概に言えませんが,今回が初犯で,事実関係を認めて反省の情を示しているということであれば,略式起訴になる確率が高いでしょう。略式起訴されて罰金刑が言い渡されるときの量刑については,上記の事情を前提とすると,高くても20万円から30万円前後ではないかと思います。
≪起訴猶予の可能性≫
反対に,検察官は,裁判まで求めるには及ばないとして,「今回は起訴を見送る」とする処分(起訴猶予処分)をする場合もあります(刑訴248条。起訴便宜主義)。ただ,被害者が処罰を求めている場合には,検察官も起訴猶予にはしにくく,その可能性は限りなく低くなります。ちなみに,起訴猶予処分といっても,決して事件自体がなかったこととされるものではなく,刑事記録が捜査機関(検察庁)によって保管・管理されることとなります。もし,被疑者が今後犯罪行為に及ぶようなことがあれば,本件の存在についても,当然,捜査機関が参照することになるでしょう。
以上が刑事手続の現状と見通しです。
【民事上の法律関係】
≪不法行為に基づく損害賠償請求権≫
次に,当事者間の法律関係である民事上の状況について説明します。刑事上の法律関係が刑罰権を有する国と刑罰を受けるかもしれない被疑者・被告人との関係であるのに対し,民事上の法律関係は,被害者であるあなたと加害者との関係です。あなたは,被疑者(加害者)に対して不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)請求権を有していると考えられます(民法709条)。損害賠償請求権の存否については争いがなかったとしても,その程度(金額)に争いがあれば,究極的には,あなたが訴訟等の法的手続を取ることにより,裁判所において慰謝料額が算定され,加害者に対してその支払いが命じられることになるでしょう。
≪慰謝料として認められる可能性のある金額≫
裁判手続を利用したとき,損害賠償として実務上どの程度の額が認められる傾向にあるのかについては十分な資料はありませんが,感覚的には,裁判所が認めるのは数万円から20万円程度ではないかと思います。加害者を懲らしめるのに必要な金額はいくらかという考え方(懲罰的損害賠償制度)を採用しているアメリカなどとは違い,我が国では発生した損害の金銭評価がいくらかという考え方を採用しています。そして,精神的損害の金銭評価が難しいこともあって,それに対する慰謝料の算定に対しては消極的な傾向にあるといえます。加えて,裁判手続を利用されるのにも労力・費用がかかります。簡易裁判所の少額訴訟手続(60万円以下)を利用すれば,弁護士に依頼せずともある程度の訴訟追行が可能ですが,1回の期日で結審するとは言え,手間暇は避けられません。こうしてみると,被害者の方にとっては,経済的,時間的,心理的な負担に見合った額が認められるとは限らないのが,残念ながら,現状の一端であるということもできます。
ちなみに,平成20年12月施行の犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成十九年法律第九十五号)による損害賠償命令の申立て制度は,特に被害者が民事上の損害賠償請求をすることについて精神的負担が大きい刑事事件(強姦,強制わいせつ,誘拐、監禁等)についてのみ被害者保護の立場から刑事裁判所で簡易な手続きにより(4回で終了、任意的口頭弁論となっています)民事損害賠償を認めています。本件とは異なりますが,この制度は被害者が自ら民事訴訟を起こす精神的負担の大きさを物語っています。本件も強制わいせつ類似のわいせつ的事案であり参考になると思います。
【弁護人からの示談の提案に対して】
≪示談の意義≫
示談とは,厳密な法律用語ではありませんが,民事上の紛争を訴訟等の法的手続によることなく,当事者の話し合い等で解決する行為を「示談」と呼んでいます。本件のような事案に即した言い方をすると,加害者が被害者に対して,深くお詫びし,その印としてお金を支払うなどし,被害者がそれを了承・受領することで,民事上の法律関係(不法行為に基づく損害賠償に関する紛争)を清算するということになるでしょう。
≪示談が及ぼす事実上の効力≫
上記のとおり,示談はあくまで民事上の行為であり,示談が成立したからと言って,検察官は迷惑防止条例違反の被疑事実について起訴猶予処分にしなければならない義務はありません。「民事と刑事は別」と言われるのはこのことです。ただし,検察官は,犯罪事実が認められると考えられる場合でも,諸般の事情を考慮して,起訴しない判断をする権限を持っています(起訴便宜主義)。そして,もし民事上の示談が成立していれば,そのことがこの諸般の事情の一つとして考慮されるでしょう。有体に言えば,示談が成立していれば,事実上,検察官が起訴猶予処分にする可能性が高くなります。
≪被害者救済の方法としての示談≫
刑事手続上,捜査段階における検察官の職責は,罪を犯したと疑われる者のうち,起訴相当とする者を起訴し,法令に照らして刑罰に処すことを裁判所に求めることにあります。他方,捜査段階の刑事弁護人に就任した弁護士は,起訴すべきでない事案,起訴せずに済む事案は起訴をしないよう求め,起訴が避けられない事案については,裁判に向けての準備をすることを職責としております。その意味で,起訴するかしないかの点について形式的に見れば,検察官と弁護人は,対立する意見を持つとも言えます。しかし,本件のように被害者のいる事案においては,方法論こそ違えど,被害者救済という目的については共通する点もあります。つまり,検察官は,罪を犯したと疑われる者について刑罰に処すことを求めることにより,本人の再犯防止と同種事犯の抑制を図ることで,結果的に被害者が救済されることを考えるのに対し,弁護人は,刑事手続上有利な事情として考慮される可能性があることを被疑者に説明して,被疑者に示談を申し入れる意思がある場合には,その実現に助力することで,被害者に現実の救済が図られるという道筋を考えることもできるのです。検察官は公務員であり,本来的職務でない示談の話し合いを取り持つことはできません。ただ,検察官が略式起訴をして,裁判所が罰金の支払いを命じたとしても,罰金は検察庁を通じて国庫に納められるもので,被害者に生じた現実の損害の填補については,各自が自己責任で民事手続をとるようにと言うだけになってしまいます。しかし,弁護士であれば,弁護人として被疑者の利益を図りながら,かつ,被害者の現実的な支援につながる示談という選択を試みることができるのです。
≪起訴前の示談に応じることのメリット,デメリット≫
これまで説明してきたように,起訴前の示談に応じれば,自ら請求をしたり,面倒な法的手続を採ったりすることなく,被害弁償を受けることができます。また,ただでさえ,理不尽な犯罪被害によって精神的に疲弊しているときに,わざわざ法的手続を採ることはなかなかの負担だと思います。こうした負担から解放される利益にも着目する必要があるでしょう。加えて,起訴前に示談が成立すれば,検察官が起訴猶予処分にする可能性があります。これに対し,起訴後に示談が成立しても,検察官は起訴を取り消しませんし,裁判所が無罪判決を言い渡すわけでもありません。したがって,起訴前の段階は,被疑者にとって,示談を申し入れるモチベーションが最も高い時期であるといえます。今,示談金を支払いたいと言っている被疑者が,起訴後や裁判後に同じ金額を提示するとは限らないばかりか,示談の申入れすら諦められてしまうかもしれないのです。他方,起訴前の示談に応じると,検察官が起訴猶予処分にする可能性が高まってしまいます。この意味で,どうしても被疑者を起訴してほしい場合には,起訴前の示談はデメリットがあるといえます。早期の被害弁償が受けらず,自ら手間暇の負担をし,民事の裁判所が認める限度の賠償を請求できれば構わないから,刑事処分を課してほしいというご希望である場合には,起訴前の示談に応じるべきではありません。
≪いくらなら示談に応じるべきか≫
示談金の相場がいくらくらいなのかを気にされる方は多くいらっしゃいます。初犯の事案の量刑相場である20万〜30万円程度が一つの参考にはなるでしょうが,それだけを示談に応じるか否かの基準にすべきではありません。たとえば,10万円であっても,加害者側が任意に提示するものであれば,特段の労を要せず弁償を受けることができます。しかし,たとえ,この倍額20万円が民事の裁判所の判決で認められたとしても,それを自ら法的手続を採って回収しようとすれば,それ以上の費用や労力がかかる可能性もあります。罰金を払ってお金がなくなってしまうかもしれません。さらに,被疑者本人には全く資力がないが,被疑者の身を案じた親族が5万円を提示してきたとします。親族には本来法的な義務がないので,親族に対し法的な請求をすることはできません。この申入れを断れば,法的に請求できるのは,お金がない被疑者本人だけになってしまいます。訴訟を起こして判決をもらったとしても,お金がない人から取ることはできません。このように,現実に受けられる被害弁償額の可能性を考慮する必要があります。結局のところは,「被疑者側が支払える限度と考えている金額と,被害者が諸般の事情を考慮すればそれもやむを得ないとして,一応承諾できる金額がどこかで合致するかしないか」というケースバイケースになるでしょう。
≪弁護人から示談申入れの連絡が来たら≫
お知り合いに弁護士がいないような一般の方の場合,被疑者の弁護人と話をすることに漠然とした不安を抱くかもしれません。しかし,弁護士の個性にもよるものの,弁護人の方も被害者の方には相当気を使って連絡していることと思います。したがって,過度の不信に陥らず,ある程度腹を割って話し合った方が,双方にとって有益な場合もあります。とはいえ,交渉の相手方であることは変わりありませんから,弁護人から提案があったときは一旦返事を保留にさせてもらって,あなたの側も弁護士に相談したうえで回答することや,交渉窓口を弁護士にすることも考えられます。
≪条文参照≫
刑事訴訟法
起訴便宜主義 第二百四十八条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成十九年法律第九十五号)
第一節 損害賠償命令の申立て等
(損害賠償命令の申立て)
第九条 次に掲げる罪に係る刑事被告事件(刑事訴訟法第四百五十一条第一項の規定により更に審判をすることとされたものを除く。)の被害者又はその一般承継人は、当該被告事件の係属する裁判所(地方裁判所に限る。)に対し、その弁論の終結までに、損害賠償命令(当該被告事件に係る訴因として特定された事実を原因とする不法行為に基づく損害賠償の請求(これに附帯する損害賠償の請求を含む。)について、その賠償を被告人に命ずることをいう。以下同じ。)の申立てをすることができる。
一 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪
二 次に掲げる罪又はその未遂罪
イ 刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十六条から第百七十八条まで(強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦)の罪
ロ 刑法第二百二十条(逮捕及び監禁)の罪
ハ 刑法第二百二十四条から第二百二十七条まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等)の罪
ニ イからハまでに掲げる罪のほか、その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪(前号に掲げる罪を除く。)
2 損害賠償命令の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面を提出してしなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 請求の趣旨及び刑事被告事件に係る訴因として特定された事実その他請求を特定するに足りる事実
3 前項の書面には、同項各号に掲げる事項その他最高裁判所規則で定める事項以外の事項を記載してはならない。
(申立書の送達)
第十条 裁判所は、前条第二項の書面の提出を受けたときは、第十三条第一項第一号の規定により損害賠償命令の申立てを却下する場合を除き、遅滞なく、当該書面を申立ての相手方である被告人に送達しなければならない。
(管轄に関する決定の効力)
第十一条 刑事被告事件について刑事訴訟法第七条、第八条、第十一条第二項若しくは第十九条第一項の決定又は同法第十七条若しくは第十八条の規定による管轄移転の請求に対する決定があったときは、これらの決定により当該被告事件の審判を行うこととなった裁判所が、損害賠償命令の申立てについての審理及び裁判を行う。
(終局裁判の告知があるまでの取扱い)
第十二条 損害賠償命令の申立てについての審理(請求の放棄及び認諾並びに和解(第五条の規定による民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解を除く。)のための手続を含む。)及び裁判(次条第一項第一号又は第二号の規定によるものを除く。)は、刑事被告事件について終局裁判の告知があるまでは、これを行わない。
2 裁判所は、前項に規定する終局裁判の告知があるまでの間、申立人に、当該刑事被告事件の公判期日を通知しなければならない。
(申立ての却下)
第十三条 裁判所は、次に掲げる場合には、決定で、損害賠償命令の申立てを却下しなければならない。
一 損害賠償命令の申立てが不適法であると認めるとき(刑事被告事件に係る罰条が撤回又は変更されたため、当該被告事件が第九条第一項各号に掲げる罪に係るものに該当しなくなったときを除く。)。
二 刑事訴訟法第四条、第五条又は第十条第二項の決定により、刑事被告事件が地方裁判所以外の裁判所に係属することとなったとき。
三 刑事被告事件について、刑事訴訟法第三百二十九条若しくは第三百三十六条から第三百三十八条までの判決若しくは同法第三百三十九条の決定又は少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)第五十五条の決定があったとき。
四 刑事被告事件について、刑事訴訟法第三百三十五条第一項に規定する有罪の言渡しがあった場合において、当該言渡しに係る罪が第九条第一項各号に掲げる罪に該当しないとき。
2 前項第一号に該当することを理由とする同項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
3 前項の規定による場合のほか、第一項の決定に対しては、不服を申し立てることができない。
(時効の中断)
第十四条 損害賠償命令の申立ては、前条第一項の決定(同項第一号に該当することを理由とするものを除く。)の告知を受けたときは、当該告知を受けた時から六月以内に、その申立てに係る請求について、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事審判法(昭和二十二年法律第百五十二号)による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。
第二節 審理及び裁判等
(任意的口頭弁論)
第十五条 損害賠償命令の申立てについての裁判は、口頭弁論を経ないですることができる。
2 前項の規定により口頭弁論をしない場合には、裁判所は、当事者を審尋することができる。
(審理)
第十六条 刑事被告事件について刑事訴訟法第三百三十五条第一項に規定する有罪の言渡しがあった場合(当該言渡しに係る罪が第九条第一項各号に掲げる罪に該当する場合に限る。)には、裁判所は、直ちに、損害賠償命令の申立てについての審理のための期日(以下「審理期日」という。)を開かなければならない。ただし、直ちに審理期日を開くことが相当でないと認めるときは、裁判長は、速やかに、最初の審理期日を定めなければならない。
2 審理期日には、当事者を呼び出さなければならない。
3 損害賠償命令の申立てについては、特別の事情がある場合を除き、四回以内の審理期日において、審理を終結しなければならない。
4 裁判所は、最初の審理期日において、刑事被告事件の訴訟記録のうち必要でないと認めるものを除き、その取調べをしなければならない。
(審理の終結)
第十七条 裁判所は、審理を終結するときは、審理期日においてその旨を宣言しなければならない。
(損害賠償命令)
第十八条 損害賠償命令の申立てについての裁判(第十三条第一項の決定を除く。以下この条から第二十条までにおいて同じ。)は、次に掲げる事項を記載した決定書を作成して行わなければならない。
一 主文
二 請求の趣旨及び当事者の主張の要旨
三 理由の要旨
四 審理の終結の日
五 当事者及び法定代理人
六 裁判所
2 損害賠償命令については、裁判所は、必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、担保を立てて、又は立てないで仮執行をすることができることを宣言することができる。
3 第一項の決定書は、当事者に送達しなければならない。この場合においては、損害賠償命令の申立てについての裁判の効力は、当事者に送達された時に生ずる。
4 裁判所は、相当と認めるときは、第一項の規定にかかわらず、決定書の作成に代えて、当事者が出頭する審理期日において主文及び理由の要旨を口頭で告知する方法により、損害賠償命令の申立てについての裁判を行うことができる。この場合においては、当該裁判の効力は、その告知がされた時に生ずる。
5 裁判所は、前項の規定により損害賠償命令の申立てについての裁判を行った場合には、裁判所書記官に、第一項各号に掲げる事項を調書に記載させなければならない。
第三節 異議等
(異議の申立て等)
第十九条 当事者は、損害賠償命令の申立てについての裁判に対し、前条第三項の規定による送達又は同条第四項の規定による告知を受けた日から二週間の不変期間内に、裁判所に異議の申立てをすることができる。
2 裁判所は、異議の申立てが不適法であると認めるときは、決定で、これを却下しなければならない。
3 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
4 適法な異議の申立てがあったときは、損害賠償命令の申立てについての裁判は、仮執行の宣言を付したものを除き、その効力を失う。
5 適法な異議の申立てがないときは、損害賠償命令の申立てについての裁判は、確定判決と同一の効力を有する。
6 民事訴訟法第三百五十八条及び第三百六十条の規定は、第一項の異議について準用する。
(訴え提起の擬制等)
第二十条 損害賠償命令の申立てについての裁判に対し適法な異議の申立てがあったときは、損害賠償命令の申立てに係る請求については、その目的の価額に従い、当該申立ての時に、当該申立てをした者が指定した地(その指定がないときは、当該申立ての相手方である被告人の普通裁判籍の所在地)を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所に訴えの提起があったものとみなす。この場合においては、第九条第二項の書面を訴状と、第十条の規定による送達を訴状の送達とみなす。
2 前項の規定により訴えの提起があったものとみなされたときは、損害賠償命令の申立てに係る事件(以下「損害賠償命令事件」という。)に関する手続の費用は、訴訟費用の一部とする。
3 第一項の地方裁判所又は簡易裁判所は、その訴えに係る訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、決定で、これを管轄裁判所に移送しなければならない。
4 前項の規定による移送の決定及び当該移送の申立てを却下する決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(記録の送付等)
第二十一条 前条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされたときは、裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人の意見(刑事被告事件に係る訴訟が終結した後においては、当該訴訟の記録を保管する検察官の意見)を聴き、第十六条第四項の規定により取り調べた当該被告事件の訴訟記録(以下「刑事関係記録」という。)中、関係者の名誉又は生活の平穏を著しく害するおそれがあると認めるもの、捜査又は公判に支障を及ぼすおそれがあると認めるものその他前条第一項の地方裁判所又は簡易裁判所に送付することが相当でないと認めるものを特定しなければならない。
2 裁判所書記官は、前条第一項の地方裁判所又は簡易裁判所の裁判所書記官に対し、損害賠償命令事件の記録(前項の規定により裁判所が特定したものを除く。)を送付しなければならない。
(異議後の民事訴訟手続における書証の申出の特例)
第二十二条 第二十条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における前条第二項の規定により送付された記録についての書証の申出は、民事訴訟法第二百十九条の規定にかかわらず、書証とすべきものを特定することによりすることができる。
(異議後の判決)
第二十三条 仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合において、当該訴えについてすべき判決が損害賠償命令と符合するときは、その判決において、損害賠償命令を認可しなければならない。ただし、損害賠償命令の手続が法律に違反したものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償命令を認可する場合を除き、仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における当該訴えについてすべき判決においては、損害賠償命令を取り消さなければならない。
3 民事訴訟法第三百六十三条の規定は、仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における訴訟費用について準用する。この場合において、同法第三百六十三条第一項中「異議を却下し、又は手形訴訟」とあるのは、「損害賠償命令」と読み替えるものとする。
第四節 民事訴訟手続への移行
第二十四条 裁判所は、最初の審理期日を開いた後、審理に日時を要するため第十六条第三項に規定するところにより審理を終結することが困難であると認めるときは、申立てにより又は職権で、損害賠償命令事件を終了させる旨の決定をすることができる。
2 次に掲げる場合には、裁判所は、損害賠償命令事件を終了させる旨の決定をしなければならない。
一 刑事被告事件について終局裁判の告知があるまでに、申立人から、損害賠償命令の申立てに係る請求についての審理及び裁判を民事訴訟手続で行うことを求める旨の申述があったとき。
二 損害賠償命令の申立てについての裁判の告知があるまでに、当事者から、当該申立てに係る請求についての審理及び裁判を民事訴訟手続で行うことを求める旨の申述があり、かつ、これについて相手方の同意があったとき。
3 前二項の決定及び第一項の申立てを却下する決定に対しては、不服を申し立てることができない。
4 第二十条から第二十二条までの規定は、第一項又は第二項の規定により損害賠償命令事件が終了した場合について準用する。
質問:私の息子が、半年にわたり面白半分に鉄道沿線の建物、マンションの壁等に、夜間ラッカースプレー、ペンキ等でいたずら書きをして、警察に逮捕されました。どうしたらいいでしょうか。
↓
回答:
1.他人の住居、マンションの壁をラッカースプレー、ペンキで汚損する行為には、建造物損壊罪が成立します(刑法260条前段)。器物損壊罪(法261条)と違い罰金はありませんし、法定刑は2年ほど加重されていますので(懲役5年)、今回のように連続して犯行を重ねた場合は余罪捜査の必要性、住民の被害感情の強さから逮捕、勾留請求が予想されます。
2.早急に被害者全員に謝罪し和解しないと、起訴となるでしょう。否認し、弁償、謝罪も行わなければ実刑の可能性もあります。
3.起訴されるまでの弁護活動が大切です。
解説:
1.建造物損壊罪は、刑法260条前段で、「他人の建造物又は艦船を損壊した者は、5年以下の懲役に処せられる。」と規定されています。本罪は、建造物の毀損行為を禁じ個人の財物を保護法益(個人法益)としています。器物損壊罪(法261条)と異なり罰金はありません。建造物は、財産的価値が高く日常生活に必要不可欠なものであり、艦船は交通の手段上重要性があり生命、身体の危険にも関連するので被害による社会生活への影響が大きいことを考慮し懲役刑のみを持って違法行為に対応しています。
2.「他人の建造物」とは、家屋その他これに類似する建築物であって、屋蓋を有し、障壁又は柱材によって支持され、土地に定着し、少なくともその内部に人の出入できるものをいいますから壁も建造物の一部に当たります。「損壊」とは、個人の財物、すなわち財産的価値及び実質的に社会生活上の利益をも保護する趣旨から、建造物を物理的に毀損することだけでなく、その他の方法によって建造物の使用価値を減却もしくは減損すること解釈されますから、ペンキの落書き行為により建物の美観を損ない使用価値を現存していますので、損壊に該当します。勿論、損壊は、修復(修理)可能なものでも構いません。本件のように、日常生活を営む上で住居への落書きはラッカースプレー使用の場合、完全に消し去ることも大変であり、その内容によっては被害住民の困惑、不愉快、プライバシーの間接的侵害は甚大であると考えられ、明らかに損壊行為と評価できるでしょう。
3.判例を参照します。
@最高裁判所第三小法廷平成18年1月17日決定、平成16年(あ)第2154号(建造物損壊被告事件)。前科もない24歳の男性が区立公園の公衆便所にラッカースプレー2本を用いて赤色及び黒色のペンキを吹き付け「戦争反対」「スペクタル社会」等と24文字を落書きした行為(被害7万円、被害弁償はない)を建造物損壊に該当すると判断し、懲役1年2月(執行猶予3年)を言い渡しています。従って、住居の連続的落書きは更に厳罰が予想されます。
4.本罪は懲役刑しかありませんから、被疑者の弁護活動として重要となるのは、被害者全員との示談交渉です。示談がまとまらなければ、本件のような被害者多数の場合起訴が予想されますから、仮に勾留請求されなくても注意が必要です。建造物損壊罪は、個人の財産すなわち個人的法益に対する犯罪であり、その被害者全員との示談交渉をして、被害者の損害を賠償して、損失の補填をし、示談・和解が成立すれば、民事的に解決が図られ、建造物損害罪の被害が回復したことになり、保護法益が事実上守られた事になります。さらに、被害者が被害届、告訴の取下げをすればさらに被害感情の点で有利になります。実務の扱いとしても、被害者全員の被害届、告訴の取下げがなされれば、事件は民事的に解決されたものとして、不起訴処分の可能性は大きいと思います。すなわち検察官は、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の状況一切を総合的に判断して、起訴するかどうか決定します(起訴便宜主義、刑事訴訟法248条)ので、犯行態様、被疑者の反省、前科の有無、被害者との示談、被害感情等が総合的に考慮されることになります。但し、勾留されている場合は、最長20日間の間に被害者全員と示談しなければなりませんから、緊急を要するでしょう。
5.公訴が提起された場合、建造物損壊罪の法定刑は、「5年以下の懲役」で罰金はありませんが、謝罪の意思を明らかにし示談が成立していれば、執行猶予判決が出る可能性が高いでしょう。量刑判断の際にも、弁論終結までに示談を成立させて、裁判所に示談書等を証拠として提出すべきですが、合わなくても、判決がなされるまでは弁論を再開して示談の成立について審理を受け付けますので、あきらめないで弁護人と協議して示談の交渉をすべきです。
6.被疑者の弁護活動の中心は被害者との示談交渉となります。
@被疑者及び被疑者の配偶者、両親などの謝罪の文書を被害者全員に提供します。本件は犯行態様において夜間、連続して行われていますので、内容によっては沿線住民の不安、怒り、プライバシー侵害等日常生活への間接的影響は大きく、被害感情はかなり強いと思いますので、謝罪は必要不可欠です。
A次に、謝罪の意思を明確に示すために、示談金を提供することになります。示談金の相場としては、建造物損壊罪の場合には損害を回復するのに必要な費用(修理代、買い替え費用等全額)を基本に謝罪の意思、被害者の精神的苦痛を慰謝のために金額を上乗せすることが考えられます。1軒あたり数十万円になるでしょう。
B被疑者及びその関係者が被害者及びその関係者との接触、及び再度加害行為をしないことを保証するために誓約保証書を作成します。
C被害感情が強く被害者との示談が成立しなかった場合には、示談が成立しない経緯を説明し、被疑者の謝罪、反省の意思を明確に示し、それを客観的に担保するために、示談金の供託をする方法もあります。供託所に納付することにより、民事上の弁済の効果を生じます(民法494条)。
7.建造物損壊罪の弁護活動において不安であれば、刑事弁護に精通した弁護士との協議が必要でしょう。
≪参照条文≫
刑法
(建造物等損壊及び同致死傷)
第二百六十条 他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
(器物損壊等)
第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
刑事訴訟法
第247条 公訴は、検察官がこれを行う。
第248条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。
質問:マンションに居住していますが、上階の部屋の排水菅がつまり水漏れを起こし、私の部屋が水浸しになってしまいましたので、急いで修理屋さんに依頼して修理代金の一部20万円を支払いました。私は誰にこの損害を請求すればいいのでしょうか。
↓
回答:
1.結論から言えば、民法709条、717条により、排水管の占有者、所有者に対して損害を賠償できるというのが回答になります。
2.答えは明快なように見えますが、結構複雑です。まず、排水管がマンションの区分所有権(建物区分所有法1条)の専有部分(法2条3項)に属する事が明らかであれば、専有部分の占有者(賃借人等)、専有部分の区分所有者に損害を請求できる事になります。排水管が本管のように共用部分(法2条4項)に該当することが明らかなようであれば、占有者であり共有所有者ある管理組合(法3条)に対して請求する事が出来ます。
3.しかし、本管へ通じる枝管のように専有部分か共用部分か不明の場合は、一棟の建物でどこからどこまでが専有部分であり共用部分との判断基準が必要となります。この点、専有部分を確定し、それ以外は共用部分ということになり、専有部分は、構造上の独立性と利用管理上の独立性を有する部分であり、その判断は、排水管の場所、排水管の機能、本件排水管に対する点検、清掃、修理等の管理の方法、組合規約及び建物全体の排水との関連などを、総合的に考慮する必要があります。通常マンションの床下を通っている枝管は専有部分ではなく、共用部分に属すると考えられます(判例)。従って、請求の相手方は、管理組合ということになるでしょう。
4.最高裁判所第三小法廷平成九年(オ)第一九二七号、平成12年3月21日判決(建物共用部分確認等請求事件)。控訴審において以下のように判断しています。専有部分か共用部分かは本件排水管が設置された場所(空間)、本件排水管の機能、本件排水管に対する点検、清掃、修理等の管理の方法、及び建物全体の排水との関連などを、総合的に考慮する必要がある。と判示しています。
5.東京簡易裁判所平成19年(少コ)第2729号、平成19年12月10日判決(立替金等請求事件)。こちらでも前記判例を引用しており、同様の判断です。
解説:
1.貴方は、階上の部屋の排水管が詰まり故障したことにより修理し損害を受けていますから、民法709条不法行為により損害賠償請求できることに争いはないと思います。排水管はマンションという集合建物の一部をなすものであり、明らかに工作物に該当しますし、排水管の水漏れは「設置、又は保存の瑕疵」といえますから、民法717条により、先ず排水管の占有者に工作物責任を追及することが可能です。又、占有者が無過失を立証しても、その所有者に対して責任追及が出来ることになります。占有者、所有者の工作物責任は、危険物責任、報償責任(危険物により利益を得ているものは公平上危険物から生じる損害を填補する責任があるという考え方)を背景にしていますから、法が認めた無過失責任であり、仮に占有者に資力なくても所有者も賃借人を通じて間接占有をしている関係にありますから、結果的に、解釈上占有者、所有者が重畳的に無過失責任を負うことになります。事例集bV30号も参照してください。
2.しかし、問題は責任の根拠ではなくて、誰が排水管の所有者、占有者かと言う点です。というのは、貴方がお住まいになっている建物がマンションであり集合住宅ですから、単なる一戸建てとは異なり排水管の所有者、占有者は一体誰なのかを明らかにする必要があるからです。排水管は集合住宅、マンション内に共通に利用されているという側面があり、互いの部屋が接近する床、天井を通過し、利用者に見えず管理も誰が行うか不明確な部分が多いので、一概に誰が所有者、占有者かを確定することは困難なのです。
3.そこで、この様なマンション、集合住宅、建物のように一棟の建物内の構造上独立した複数の部分を集団で所有、利用する場合について規制する法律が昭和37年4月にできました。これが建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)です。何故このような法律ができたのかといいますと、簡単に言えば、一棟の建物内に部分的所有権を有する権利者間の所有、利用関係を整理、明らかにして権利関係を簡明化し(複数の)部分的所有者全員の権利の実効性、有益性、利便性を保障、確保するためです。近代私法関係の中核は、所有権絶対の原則(所有権を中心とした個人財産は絶対不可侵であるという原則。憲法29条、私有財産制)にあり、所有権は、目的物を直接排他的に支配する事が出来ますので、目的物の範囲は明確にしなければなりません。従来、一棟の建物が単独の所有権の目的になっている場合は、所有権の及ぶ範囲が明らかであり、使用利用、処分について特に問題は生じませんでした。しかし、人口集中、住宅事情の変化、建築技術の発達により、1棟の建物に複数の独立した所有権を認める集合住宅が都市を中心に建築され種々の問題が生じてきました。集合住宅は、複数の独立した所有権の対象になり複数人が占有利用しますから、,複数所有権(区分所有権)と共有部分(共用部分)から構成されますので、1棟1個の権利関係を前提にした従来の所有権の理論、共有理論では集合住宅の権利、利用関係を適正に規律できないという不都合が生じるようになりました。そこで、複数の区分所有権者全員の権利を適正、公平に保障するため区分所有権(法1条、2条1項)と共用部分(法2条4項、3分類できます)の範囲を明確にし、特に共用部分(建物全体)の利用、管理、処分、及び敷地利用について従来の共有理論(民法)を変更して明確な規定をしました。更に、以上の管理運営を迅速適正公平に行うため、管理団体(管理組合)を認めています。この法律が区分所有法であり、以上の趣旨から個別法規の解釈を行うことが求められます。
4.建物について区分所所有権の対象は、専有部分といい区分所有者は単独で所有、占有利用で行きますが(法2条3項)、専有部分以外の部分は共用部分であり(法2条4項)区分所有者全員の共有に属します(法11条)。共用部分の使用、管理、変更は各区分所有者全体の共同利益を考え共有理論を変更し、共有持分権を勝手に処分することは出来ませんし、民法とは異なり(民法上管理は過半数)、特別の議決方法等を規定し、円滑な管理業務遂行のため区分所有者全員で構成される団体である管理組合(法3条)が主体(法人とすることも出来ますし、法人でなくても法主体性は認められます。権利能力なき社団といいます)となって行います。
5.貴方が被害を受けた排水管ですが、通常排水管の本管は、共用部分を規定する法2条4項の「専有部分に属しない建物の附属物」に該当すると解釈されています。排水管は、ガス管、電気の配線と同じ様に建物の基本的構成部分ではなく建物を利用するために付加された設備であり、建物付属物であることに争いはありません。共有部分である以上、所有者、占有者は、区分所有者全員ということになり、管理団体である管理組合が無過失責任を負って20万円について賠償する法的責任を負うということになります。ちなみに、その他の共用部分として廊下、階段、エレベーターのように「専有部分以外の建物の部分」と建物外にある焼却炉(規約により共用部分とされた付属建物)があります。
6.問題は、本管に接続されているマンション各部屋の枝管の詰まり、故障の場合です。排水の枝管は専有部分に属するか、共用部分に属するかという問題です。枝管は、区分所有者が単独、又は隣と複数で使う場合があり、又各部屋の天井、壁等を通過しておりどこからを共用部分とするか、どこまでを専有部分にするか判断が困難です。
7.結論から先に言いますと、排水枝管は区分所有権の対象として、構造上の独立性と管理利用上の独立性を有する部分だけが「専有部分」となり、その他は「建物の付属物、すなわち共用部分」であると解します。そしてその判断は、排水管の場所、排水管の機能、本件排水管に対する点検、清掃、修理等の管理の方法、及び建物全体の排水との関連、組合規約などを、総合的に考慮して決めることになります(判例)。
8.その理由ですが、
@区分所有権者が目的物に対し責任を負う理由は、目的物に対して直接排他的に支配し利用管理し利益を受ける可能性を有する事にありますので、集合住宅においても自らが構造上利用管理できることが前提になります。そもそも所有権という物権の本質は直接排他的支配性にあり、対象物が構造上独立性を有する事が求められるのです。すなわち、マンション各部屋の区分所有者が自室内の排水管で、自ら管理、利用できる範囲を専有部分の付属物として責任を負うことになります。それ以外は共用部分ということになります。
A区分所有法の本来の趣旨は、区分所有者全体の利益を考え、1棟の建物全体の管理運営を適正、公平、迅速に行う事にあり、区分所有者が単独で管理利用できない範囲は全て共用部分として管理することが共同所有のトラブルをなくし、円滑な建物利用を可能にして最終的に全体の利益に直結すると考えられるからです。
B具体的な判断要素として、枝管の場所があり、専有部分内を通過し各区分所有者が他の所有者、共有者の協力なしに直接修理管理できる範囲が専有部分となり他は共用部分となります。天井裏、床下などは構造上も、管理上も区分所有者の直接支配利用は及ばないと判断されるでしょう。
C排水管の機能として枝管は、本管と違い単独、複数の区分所有者の利用になりますが、本管枝管は構造上関連した設備になり、大きさ構造も密接に連結していると考えられ、単独利用かどうかという事だけでは判断できません。
D本件排水管に対する点検、清掃、修理等の管理の方法がどのようなものであったかも重要です。通常枝管も管理組合が一括して排水管清掃業者に委託して行うので点検清掃、修理をしている以上、その故障についても管理組合の費用で行う事が理にあっているということが出来ます。
E建物全体の排水との関連ですが、排水本管とは別個の面がありますが、下水に関しては枝管、本管一体として機能、衛生面も保持できると考えられ、枝管のみを区別する事は出来ません。
F組合規約も考慮し、特別な規定があるかどうかを検討し、枝管について特に記載内容があれば本管の一部と評価する事が可能です。
9.貴方の場合、以上の判断基準から考え、上階の所有者、占有者が管理利用できて、構造上明らかに区分所有者が支配しているという独立性を有する配水管による故障の場合には、その者に対して損害賠償が可能です。それ以外は共用部分と評価されますから、共有者全員の機関である管理組合に請求する事になるでしょう。天井裏、床下を通過している排水枝管の故障は通常共用部分の故障となると思われます。
10.但し、故障の原因となるものを排水するように上階の区分所有者の故意、過失により特別に排水管の故障が発生した事が明らかになれば、その個人にも重畳的に請求が可能です。
11.尚、マンションの管理会社の責任ですが、管理会社は管理組合から建物全体の清掃、安全等の一般的管理を委託されており、排水管の所有者、占有者でもありませんし、特に配水管修理、管理に特別な委託がない限り管理義務がなく損害賠償請求は出来ません。(東京地判H5.1.28に同旨)また、この判例のケースでは、管理会社に上記義務がないとしても、管理会社が、住人から一旦水漏れについて連絡を受け点検を行っていた点を捉え、管理会社に善良なる管理者としての注意義務違反(民法697条、644条)が生じ、これについての債務不履行があるとの主張が原告側からなされていましたが、裁判所は本件では管理会社が善管注意義務を果たしていないとはいえないとしています。ただし、例えば、漏水事故を起こした部屋の住人が長期間不在であり、管理会社が中に入って水道管の点検等、事実上の管理行為を行っていた、というような特段の事情がある場合には、事務管理に基づく責任(民法701条、644条、善管注意義務違反)を負うようなケースもありえると思われます。
12.判例を参照します。
(1)最高裁判所第三小法廷平成九年(オ)第一九二七号、平成12年3月21日判決(建物共用部分確認等請求事件)。
@本件は、マンションの天井裏を通っている排水枝管が原因で水漏れ事故が発生し、右排水管が本件建物の区分所有者全員の共用部分(法律2条4項にいう「専有部分に属しない建物の附属物」)であることの確認を求め管理組合に対して、水漏れ費用の立替払いの求償を求め認められた事案です。
A控訴審における判断。「建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)は、区分所有権の目的となる建物については、これを専有部分と共用部分に区分し、共用部分について、その所有関係、使用権の所有、管理の方法及び費用の負担等について、必要な定めをしている。これは、区分所有権の目的となる建物の特殊性を考慮し、建物の維持管理、機能の保全等の見地から、共用部分について民法の共有とは異なる法的取扱いが必要とされることによるものである。したがって、目的物が専有部分か共用部分かを判断するについては、このような法の定める規律を受けるのはふさわしいかどうかを考慮する必要がある。本件排水管は、建物の付属物であるところ、法二条四項は、専有部分に属しない建物の付属物を共用部分と定めている。すなわち、建物の付属物のうち専有部分に属するもの以外のものを共用部分としている。そこで、本件排水管が専有部分に属するか否かを検討することとするが、この検討に際しては、本件排水管が設置された場所(空間)、本件排水管の機能、本件排水管に対する点検、清掃、修理等の管理の方法、及び建物全体の排水との関連などを、総合的に考慮する必要がある。」
B「このように本件排水管は、特定の区分所有者の専用に供されているのであるが、その所在する場所からみて当該区分所有者の支配管理下にはなく、また、建物全体の排水との関連からみると、排水本管との一体的な管理が必要であるから、これを当該専有部分の区分所有者の専有に属する物として、これをその者の責任で維持管理をさせるのは相当ではない。また、これが存在する空間の属する専有部分の所有者は、これを利用するものではないから、当該所有者の専有に属させる根拠もない。結局、排水管の枝管であって現に特定の区分所有者の専用に供されているものでも、それがその者の専有部分内にないものは、共用部分として、建物全体の排水施設の維持管理、機能の保全という観点から、法の定める規制に従わせることが相当であると判断される。よって、本件排水管は、専有部分に属しない建物の付属物として、共用部分であるというべきである。」と判示し請求を認めています。
(2)東京簡易裁判所平成19年(少コ)第2729号、平成19年12月10日判決(立替金等請求事件 )。こちらでも前記判例を引用しており、同様の判断です。
≪条文参照≫
建物の区分所有等に関する法律
第一章 建物の区分所有
第一節 総則
(建物の区分所有)
第一条 一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。
(定義)
第二条 この法律において「区分所有権」とは、前条に規定する建物の部分(第四条第二項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいう。
2 この法律において「区分所有者」とは、区分所有権を有する者をいう。
3 この法律において「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう。
4 この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第四条第二項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。
5 この法律において「建物の敷地」とは、建物が所在する土地及び第五条第一項の規定により建物の敷地とされた土地をいう。
6 この法律において「敷地利用権」とは、専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利をいう。
(区分所有者の団体)
第三条 区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。
(共用部分)
第四条 数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。
2 第一条に規定する建物の部分及び附属の建物は、規約により共用部分とすることができる。この場合には、その旨の登記をしなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。
(規約による建物の敷地)
第五条 区分所有者が建物及び建物が所在する土地と一体として管理又は使用をする庭、通路その他の土地は、規約により建物の敷地とすることができる。
2 建物が所在する土地が建物の一部の滅失により建物が所在する土地以外の土地となつたときは、その土地は、前項の規定により規約で建物の敷地と定められたものとみなす。建物が所在する土地の一部が分割により建物が所在する土地以外の土地となつたときも、同様とする。
(区分所有者の権利義務等)
第六条 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
2 区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。
3 第一項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。
第三節 敷地利用権
(分離処分の禁止)
第二十二条 敷地利用権が数人で有する所有権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。
第六節 管理組合法人
(成立等)
第四十七条 第三条に規定する団体は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で法人となる旨並びにその名称及び事務所を定め、かつ、その主たる事務所の所在地において登記をすることによつて法人となる。
2 前項の規定による法人は、管理組合法人と称する。
民法
(不法行為による損害賠償)
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第717条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。
ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前2項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
(賃貸物の修繕等)
第606条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
(事務管理)
第697条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
2 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。
(委任の規定の準用)
第701条 第六百四十五条から第六百四十七条までの規定は、事務管理について準用する。
質問:私は、半年前、元妻と離婚の調停をし、3歳の子供の親権を元妻に渡し、養育費を1ヶ月10万円支払うことを条件に調停が成立し、調停調書が作成されました。今、私は失業し、養育費を払うことができなくなりました。この調停事項を拒否し、養育費の支払いを拒むことはできますか?元妻は再婚し、子供も再婚相手と養子縁組をしたと聞きました。それなのに私が従来どおりの養育費を払わないといけないのでしょうか?
↓
回答:
1.養育費の変更は可能と思われます。
2.本来、当事者である貴方が合意し決めた養育費の支払いは、調停調書に記載されている以上、確定判決(家事審判法21条。)の効力として既判力(判決が確定した場合、裁判所はそれに抵触する判断ができないし当事者も主張できないこと)があり、合意したときの事情が変わっても勝手に変更できないはずですが、養育費(親権の変更等も)については、事情変更による養育費の変更を法律上再度裁判所に判断を求めることができます(民法766条2項、家事審判法8条乙類4号)。
3.調停成立以後の事情を基に養育費を計算し(事務所ホームページ養育費、婚姻費用の計算についての計算式、簡易早見表参照)、適正な養育費を主張する場合の参考にしてください。
解説:
1.夫婦が離婚する場合、未成年の子供がいるときは、子供の監護をすべきものを決める必要があります。そのため、離婚において、未成年の子供の親権者をいずれの親にするかを決めることになります。そして、親権の帰属とは別に、夫婦の収入等に応じて、養育費の負担を決めることになります(民法766条1項、家事審判法9条乙類4号)。
2.
(1)離婚の際の養育費は民法766条の「その他監護について必要な事項」、家事審判法9条乙類4号「その他子の監護に関する処分」の解釈として認められていますが、養育費の実質的根拠条文は、民法877条に求める事が出来ます。877条の解釈として親は、直系血族として生活力がない未成年者の生活保持義務が認められます。その理論的根拠ですが、未成年の子は、人間の尊厳(憲法13条)を保持するため教育を受ける権利を有し(憲法26条)、発達に応じて自分を生んだ親に対して、経済的には扶養料(養育費)を請求できることになりますし、これを親の方から見ると教育の権利義務(憲法26条)の内容として経済的に扶養する義務が存在します。養育費は、離婚に際して教育監護権を有する一方が他方に請求するものであり、子供が独自に請求するものではありませんが、実質的には子の扶養請求権を親が代理し、離婚して両親の独自の請求権として規定し認めているのです。
(2)すなわち、養育費と扶養料は実質的に同一であり、子の人間として生きる権利を保障するために、両親の一方が他方に請求する権利と子供が独自に請求する権利を別個の角度から重畳的に認め、子供の成長発達を保護しているのです。従って、二重に請求は出来ませんし、養育費を請求する親がいない子(死亡等)は独自に扶養請求ができるのです。勿論、そういう意味で親が養育費の請求権を放棄することも出来ないわけです。
3.以上のような養育費の請求は、子供の人間としての尊厳を守るため成長、発達をいかに保護すべきかという合目的観点から決定されますから、通常の勝ち負けを決める訴訟によらずに家事審判事項として規定しています。すなわち、両親が養育費をどれだけにするかという勝ち負けを決めるということが本来の目的ではありませんから、子供の福祉を中心に決定されなければなりません。
4.家事審判とは、個別的に定められた家庭に関する事件(本件養育費の決定等)について訴訟手続である民事訴訟法ではなく、非訟事件手続である家事審判法に基づき家庭裁判所が判断する審判を言います。私的な権利、法律関係の争いは訴訟事件といい、民事訴訟手続により行われます。民事訴訟とは、国民の私的な紛争について裁判所が公的に判決等により判断を行い強制的に解決するものですから、当事者にとり適正(より真実にあっていること)公平で、迅速性、費用のかからないものでなければなりません(訴訟経済)。従って、訴訟事件は、原告被告を相対立する当事者と捉え、公正を担保するため公開でなければいけませんし、当事者の公平を保つため主張、立証、証拠収集について当事者の責任とし(当事者主義、弁論主義といいます。)、裁判所は仮に真実、証拠を発見し気づいたとしても、勝手に当事者の主張を変更し、証拠を提出、収集できないことになっているのです。更に、紛争の公的早期解決のため迅速に、費用がかからないようにその進行について積極的に訴訟指揮が行われます。しかし、事件の内容によってはこのような対立構造になじまない紛争があります。権利の存否(事実関係の有無、当事者の勝ち負け)が問題となる紛争ではなく、離婚時に親権者を定めたり、両親の養育費を定めたり、当事者の利害をどのように調整すべきか問題となるような紛争です。
すなわち、当事者に任せておいては事件の真の解決につながるか問題があり、国家、裁判所が後見的、裁量的判断を求められる事件があります。これが非訟事件です。非訟事件については、基本的には非訟事件手続法があり、個々の非訟事件について個別的に法令を定めて事件の性質に合った非訟手続を用意しています。家事審判とは非訟事件の中の、家庭に関する事件をさし、家事審判法はその手続を規定しているのです。非訟事件の基本構造は、事件の性質上合理的解決のため裁判所が裁量権を有し、後見的に介入し民事行政的作用の面があり、攻撃し相対立する当事者という形は取っていません。当事者の意見にとらわれず合理的解決を目指しているので、事件の内容を公開せず(非公開、非訟事件手続法13条)、国家が後見的立場から主張、証拠、収集について介入し自ら証拠収集ができ、主張に対するアドヴァイスができる事になっています(職権探知主義といいます。非訟事件手続法11条、当事者主義に対立する概念です。)。訴訟の指揮、進行も迅速性を最優先にせず、訴訟経済もさほど強調されません。本件養育費の決定は、双方どちらの両親が、どれだけ負担するかどうかという勝ち負けが大切ではなく、人間として生きていく子の生まれながらの権利をどのようにして確保実現していくかという問題であり、離婚を合意し相争っている夫婦の主張に拘束される事なく、証拠等を収集し国家が意思表示できない子の正当な利益を考え、後見的立場から判断を下す事になるわけです。
5.このような背景から、養育費の金額については、父母双方の収入状況を基に総合的に判断がなされます。原則としては、離婚の当事者の話し合いで決めることができますが、話し合いがまとまらなかった場合には、家庭裁判所の調停、審判で決めることになります。家庭裁判所には、子供の人数、年齢に応じた養育費の算定の基準が設けられており、年収金額、自営か勤務(サラリーマン)かによって判断がなされます。計算方法については、事務所ホームページ、養育費の計算方法を参照してください。事例集bU84号も参考にしてください。
6.家庭裁判所の家事調停において、調停が成立したときは、調停調書を作成します。この調停調書の記載には、「確定判決と同一の効力を有する」ものとされています(家事審判法21条)。すなわち、確定した判決と同様に既判力、執行力等の法的な拘束力が認められています。既判力とは、確定した調書の記載内容についての拘束力のことであり、調停の成立時点での判断の内容にその後裁判所は拘束され、その時点までに当事者が主張しえた事項をそれ以降主張できなくなり、判断の内容を覆すことはできないことになります(民訴114条115条)。また、執行力とは、調停調書を債務名義として、債務者に対して(預金差押・給与差押など)債務の実行を強制することができる効力です。強制執行が可能となる効力です(民事執行法22条)。調停による解決に実効性を持たせ、紛争の蒸し返しを防ぎ、確実な解決を図るために、調停調書にかかる強力な効力が認められているのです。
7.そのため、一旦調停調書において、養育費の支払義務、金額が記載された場合には、既判力によって調停調書の内容に拘束され、原則として調停の時点で主張しえた事情は主張できなくなります。調停内容の無効の主張は遮断されます。そして、養育費の支払義務には執行力がありますので、貴方が任意に養育費の支払いをしない場合には、強制執行によって、貴方の所有する財産の差押をうけ、強制的に養育費の支払いをさせられることになります。従って、原則として、調停調書の内容に従い、定められた養育費を支払う必要はあります。
8.しかし、第766条2項、「子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をすべき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。」、家事審判法第9条乙類四項(民法第七百六十六条第二項)は調停成立後に当事者間に事情の変化が生じた場合には、調停内容の変更を認めています。
9.そこで、このような規定は確定判決の既判力に反するのではないかという疑問が生じます。しかし、養育費についての家事審判による和解調書の既判力は制限されていると解釈する事が出来ます。すなわち、調書成立の基礎となった事情の変更認定によりその範囲で既判力は失われるということになります。その理由は、@養育費の決定は子供の人権を守るという観点から合目的に定められるものであり、離婚した夫婦当事者の合意により本来左右されないものなのです。従って、調書による確定判決の効力たる既判力も制限を受けるのです。Aそもそも既判力とは、訴訟手続における当事者主義に基づき、当事者が口頭弁論において自らの責任で訴訟を追行したという点に求められるのですが、非訟事件手続の家事審判事項にはその背景がないのです。B既判力は判決に認められるものであり決定(民訴87条但し書き、口頭弁論が任意的な裁判所の判断。同119条)には原則として認められませんから、本来家事審判は全て決定事項であり、養育費が調停調書によらず決定でなされた場合を比較すると当然の制限といえます。Cこの点について、既判力がそもそもないという考え方もあるようです。
10.以上より養育費の金額について、変更を求める調停、審判を申し立てることができます。具体的な事情としては、物価の高騰、貨幣価値の変動、父母の再婚とそれに伴う子の養子縁組、父母の病気、就職、失職などが挙げられます。
11.本件の場合、事情の変更としては、貴方の失業による収入の減少と相手方の再婚、及び再婚相手と子供の養子縁組が挙げられます。貴方の失業による収入の減少は、養育費を減額させるための重要な要因となります。また、相手方が再婚したことは、再婚相手の収入にもよりますが、一般的には相手方の経済的事情がよくなったものと考えられますので、養育費を減額させるための要因となります。そして、再婚相手と子供が養子縁組をしたことも養育費を減額させるための重要な要因となります。離婚後に子供が元妻の再婚相手と養子縁組をした場合には、(勿論、貴方と子供の血縁関係に基く親子関係も継続しますが)、法律的には再婚相手も子供の親となり、扶養義務が生じ、その子供を経済的に扶養すべき義務のある者が1人増えたことになるからです。従って、養育費算定の基礎収入に変更がありますので、調停内容の養育費の金額を減額することが可能であると考えられます。養育費計算方式に従い詳細なる検討が必要です。
12.判例を参照します。
@神戸家裁姫路支部 平成12年9月4日審判、子の監護に関する処分(養育費請求)申立事件。元夫が離婚時に合意した養育費を支払わないので、離婚後再婚し養子縁組を行った子の養育費を請求した元妻の申立について、裁判所は再婚した養親の収入を当然に申立人側の基礎収入として詳細に計算し申立を却下しています。
A東京家裁 平2.3.6審判、平元(家)3672号,3673号,3674号、子の監護に関する処分(養育費減額)申立事件。離婚時に決めた公正証書による養育費を離婚後元妻の再婚、3人の子の養子縁組により、新たな養親の収入を基礎収入として詳しく計算しなおして、養育費を減額し(30万円を21万円に減額)パイロットである元夫の減額請求を認めています。
13.具体的な手続ですが、当事者間の話し合いがまとまらなければ養育費を請求する相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、養育費減額の調停及び審判を求めることになります。手続、内容等に不安な場合は専門家である弁護士にご相談をされることを勧めます。
《参照条文》
憲法
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
○2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
家事審判法
第9条 家庭裁判所は、次に掲げる事項について審判を行う。
甲類
乙類
四 民法第七百六十六条第一項 又は第二項 (これらの規定を同法第七百四十九条 、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護者の指定その他子の監護に関する処分
第21条 調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。但し、第9条第1項乙類に掲げる事項については、確定した審判と同一の効力を有する。
2 前項の規定は、第23条に掲げる事件については、これを適用しない。
民法
(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第766条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。
《改正》平16法147
2 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をすべき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。
3 前2項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
(嫡出子の身分の取得)
第809条 養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する。
民事訴訟法
(口頭弁論の必要性)
第八十七条 当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論をしなければならない。ただし、決定で完結すべき事件については、裁判所が、口頭弁論をすべきか否かを定める。
(既判力の範囲)
第百十四条 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
2 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。
(確定判決等の効力が及ぶ者の範囲)
第百十五条 確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。
一 当事者
二 当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人
三 前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人
四 前三号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者
2 前項の規定は、仮執行の宣言について準用する。
(決定及び命令の告知)
第百十九条 決定及び命令は、相当と認める方法で告知することによって、その効力を生ずる。
質問:私は、62歳の主婦です。以前地方公務員として勤務していた頃の預金等で貯蓄の意味で数年株の取引経験があります。先日、ある業者から、何度も電話がありお会いしたところ、海外におけるコーヒー等の商品先物オンプション取引を勧められました。投資額が少なくて利益が出やすく、損失も限定的である。通常の商品先物取引、株式の信用取引と違い追加証拠金(追証)もないというのです。本当に商品先物オプション取引は安全な取引なのでしょうか。そもそもオプション取引って何ですか。取引をして損害が出た場合対策はあるのですか。勿論私は先物取引をしたこともありません。
↓
回答:
1.貴女のご経歴では、コーヒー等の海外商品先物引オプション取引をお勧めできません。
2.商品先物オプシヨン取引自体が安全であるということはありません。むしろ投機的取引の色彩が強く、一般の家庭の主婦が直ぐに理解できる取引ではありません。
3.先物取引、及びオプション取引もデリバティブ(日本語では派生商品という意味です)すなわち、金融派生商品といわれる取引ですから、例えば、株式売買、現物商品売買、為替取引等もともとの金融商品の取引自体を十分理解した上でないと、更に複雑な金融派生商品の取引行為をご自分の判断で行う事は困難です。オプション取引(本件の他に国内ですと大阪証券取引の日経平均株価オプション取引等があります)は、一般人にとり先物取引より更に複雑で投機予測が困難な取引となっていますから、長期の投資取引経験、知識、金融投資資金がない人には、自らの資産保持の面から危険性を伴う商取引です。後述の判例も、投資経歴、投資理解能力、投資資金の有無を重視しています。
4.万が一、一般の主婦等社会人が業者の電話勧誘等で理解できないままに、以上のようなオプション取引を行い損害が生じた場合には、民法、商法の一般原則、複雑で投機的色彩が強い商取引を規制する法律、例えば平成19年施行金融商品取引法(旧証券取引法が旧金融先物取引法等も取り入れ改正されました)、商品取引所法、海外先物規制法(略称)等を根拠に損害賠償をすることも可能です。諦めないでお近くの法律事務所にご相談ください。
5.当事務所事例集のbV23、bU38、bU15、bU14、bU09、bT94、bT93、bQ82等も参考にしてください。
解説:
1.貴女が勧誘を受けた取引は、海外の商品取引所で取引されているコーヒー等の商品先物取引に関するオプション取引ですから、海外商品先物オプション取引ということが出来ます。この構造は、基本的には商品先物取引とそれを前提とするオプション取引から成り立っていますから、理解する上で分けてご説明します。最後に海外の取引の特殊性をお話します。更に被害が生じた場合の対策も述べます。
2.コーヒー等の取引ですから、商品先物取引について先ずご説明します。
(1)先物取引とは「将来の一定時期に商品(又はある金融商品)の売り渡しする事を約束してその価格を現時点(この点が大切です)で決めておく取引」です。
(2)先物取引については、大きく分けるとコーヒー、金、銀、小豆(赤いダイヤ)、等の通常有体商品の先物取引(規制法律は商品取引所法、略称海外先物規制法)と、有体商品以外の金融商品例えば株価指数、国債、金利、通貨等の先物取引(規制法は金融商品取引法)があります。
(3)そもそも先物取引とは何かといえば、これに対する概念は現物(原資産)取引です。例えば、コーヒー、金、銀、有価証券(株、不動産担保の証券等)、債権、通貨等の一切の商品に関する現物取引です。
(4)先物取引と現物取引の関係は何かというと、経済の実態から言うと取引の本体は、現物取引にあります。大昔は、現物取引が単純で取引額もさほど多くなかった頃は取り決め、法令も単純、簡明でよかったのです。しかし、自由主義経済、市場経済の発達により大量の物資を時間的要素(将来の取引)が加わり複雑になるとこのような現物取引関係を適正、公平、迅速に維持することが当然求められる事になり、まず自然発生的に16世紀後頃から適正公平な現物取引秩序維持のために先物取引相場が出現したのです。最初は、現物取引のリスク回避(ヘッジ)のために相場が出現したのです。すなわち保険のようなものです。又適正な相場は、商品に対する適正な相場を明らかにし、商品を売る人も買う人も安心して取引が出来るようになったのです。
(5)商品先物取引の例ですが、小豆を来年仕入れようとする仕入れ業者は、1年前から価格を決めて生産者と予約しますが、天候により豊作となれば小豆相場は暴落して仕入れた小豆を安値で卸し販売する事になり、莫大な損害が生じます。しかし、そのような損害を填補する保険はありませんから、業者は天候に左右されるような取引ができず、取引自体が停滞し円滑な取引が阻害されることになります。そこで、そのような困った業者の要望に応えて、営業として先物取引相場が自然発生的に創設されました。仕入れ業者は、先物取引市場で、反対権利を同額購入するのです(小豆を売る生産者側の権利、前もって売却価格は決まっていますから、相場が崩れた時利益を得るのは生産者側です)。すなわち、実取引と同量の小豆売りの権利を数%の証拠金(売買代金ではありませんから証拠金といいます。従って、先物取引は少ない証拠金で何十倍の取引が出来るのです)で購入し、万が一相場が崩れても、現物売買での損失を先物相場で回復し、相場が上がって先物市場で損失を受けても、現物取引の利益でその損失を穴埋めすることが出来るのです。相場を利用するには別途取次業者に手数料がかかりますが、取引の必要経費として処理される事になります。以上の現象を生産者側なら見れば、相場の値段変化により小豆の生産量、生産設備への投資等を調整する事が可能となります。更に、このような先物取引市場に業者とは無関係な一般投資家の参入を認め、市場価格の判断をその時々の経済状況を反映した公の意見を集める事により、常に小豆相場の適正な価格を公にし売り手買い手にも公平、適正な取引秩序、市場経済が形成されることを最終目的にしているのです。この仕組みは市場経済にとり必要な制度なのです。
(6)適正公平な現物取引の実現を図るため先物取引は創設されたものであり、現物取引から派生した取引(広義の商品)でありのデリバティブ(金融派生商品)ということになります。以上により、適正な現物取引がなければそもそもそれに関する先物取引も有り得ません。従って、とどのつまり先物取引の予測は全て現物取引の予測に他ならないのです。この理屈は、商品先物取引に限らず全ての先物取引に共通のものです。
(7)しかし、一般の投資家が先物取引に参加するには、十分な予備知識や投資の経験がないと危険です。投資家は本当の業者と違い現物取引の裏づけがないのですから、少額の証拠金で数十倍の取引を行い、一旦損失が出たらこれを担保するものは何もないのです。元々、専門の取り扱い業者が将来の価格を予測できないからこそ、わざわざ手数料を支払い保険のため反対取引を行うのです。そのような1年前後の短期の取引に、取引実態の経験がなく理解も十分でない一般人が対等に予測し、売り買う時期を決断できるはずがありません。ところが、取次業者は形式的書面に署名を重ねて証拠を保全し、先物取引の構造の複雑さを利用し、無知な投資家を事実上誘導して取引を重ねて、主に高額な手数料(手数料は証拠金の額ではなくて数十倍の実際の取引額を基準に算出されますから莫大なものになります。その他向かい玉等の違法行為もあります)を取得しようとするのです。そのため、商品取引所法等で一般投資家保護の規定が種々おかれています。具体的内容は前記当事務所事例集を参照してください。
3.次に、オプション取引について説明します。
(1)オプション取引とは、ある目的物(商品、金融商品等原資産)をあらかじめ決められた期間(又は将来の一定の日)において、あらかじめ決められた一定の価格(又はレート、権利行使価格という。ストライクプライスといいます)買い付けることが出来る権利(又は売付けることが出来る権利、この権利をオプションといいます)を売買する取引です。先物取引と同じような定義になりましたが、売買の対象物が異なります。
(2)先物取引とどこが違うのかというと、先物取引はある目的物自体(商品等例えば、コーヒー、小豆等)を売買する取引なのですが、オプション取引は、目的物(例えば小豆を)を買い付ける事が出来る権利(売付けることが出来る権利)の売買なのです。すなわち、取引の対象が目的物の権利自体ではなく、目的物売買の予約権の売買と考えると分かりやすいと思います。
(3)買い付ける(売付ける)事が出来る権利自体を売買取引の対象にするので、買い付ける権利をコールオプション、売付ける権利をプットオプションといい、双方の権利自体が取引の対象になるので、双方の権利について売り買いが行われます。すなわち、コールオプションの買いと売り、プットオプションの売りと買いです。紛らわしいですが、現物の予約権自体を取引の対象としていると考えれば理解しやすいと思います。前例で言えば、小豆購入(売却)予約権と考えればいいでしょう。
(4)理解が難しいと思いますので、基本的取引の内容を説明します。オプションの買い手(バイヤーです)は、オプション料(プレミアムといいます)を売り手(グランダーです)に支払ってオプションを取得し、売り手はオプション料を先ず受け取って、買い手の権利(予約権)行使に従い、目的物の売る権利買う権利を引き渡す義務を負うことになります。買い手は既にオプション料を支払っていますから、権利(予約権)を行使するかどうかは自由です(小豆を買うかどうかは自由です)。コールオプションの買い手は、現物の実相場が上がれば当然権利行使してもいいですし(予約権を行使して小豆を買う)、権利行使しないで価格が上がったオプション自体を売却して利益をあげてもいいわけです。相場が下がっていれば損失を生じますから権利行使をする意味がないので、最終的には放棄ということになります(損害はオプション料だけで限定的です)。コールオプションの売り手はすでにオプション料を取得していますから、買い手の権利行使の請求を待つだけであり、実相場が上がっていれば買い手の権利行使により取引時あらかじめ決められた価格との差額が損失になります(その額は相場で決まりますか損害に限度はありませんから大変です。そういう意味で各オプションの売りは危険なのです)。実相場が下がっていれば権利行使してきませんから、受け取ったオプション料が利益になります(利益額はこのオプション料に限定されることになります)。プットオプションの買いと売りも結果は逆になりますが、構造は同じです。この制度も、先物取引と同じように現物取引をしている人には何ら危険はありません。いくらオプション取引で損失が出ても先物取引と同じく現物売買で反対利益が得られるからです。
(5)よく理解できないと思いますので、具体例(小豆)を挙げて説明します。
@ 本来小豆の卸業者が決済時の相場の下落に備えてオプション取引を利用する場合。権利行使価格100円のプットオプションについてプレミアムを支払って買った場合には、100円で売約定を得ることのできる権利ですから、相場が150円になれば約定値段100円のものが150円に値上がりしたのと同じ状況になります。相場が高騰している状態ですから、権利行使して150円の小豆を既に約束済みの100円で売却しても損害が生じますので、権利行使せずに放棄することになります。しかし、現物取引では相場高騰により利益を得ているので業者は支払ったプレミアムだけが損害で先物取引を利用した場合より損害額が少ないことになります。
A本来価格を決めて将来の売買をした小豆の生産業者側が決済時の相場の高騰に備えて利用する場合。ある生産業者が、権利行使価格100円のコールオプションについてプレミアムを支払って買った場合には、いつでも100円で、そのオプションの対象となる商品先物取引が行われている商品市場において、商品先物取引の買約定を得ることができるのと同様の権利を取得したことになります。相場が130円になったとき(相場が上がり130円の小豆を100円で売りますから現物取引では30円損をする状態)に権利行使をすると、約定値段100円のものが130円に値上がりしたのと同じ状況になりますので、現物取引での30円の損害をオプション取引で回復することが出来ます。すなわちプラスマイナスゼロとなります。この場合は先物取引を利用した場合と損害が異なりませんし、むしろプレミアム料が損となります。しかし、予想外の事であり予想通りの場合に生じる損害額の減少(@のように相場が下がった場合)を考えると、オプション取引の利用はやむを得ない取引と判断する事になります。
(6)もう一度、何故、オプション取引があるのかを解説します。端的に言えば、先物取引と同様に本来は現物取引のリスクヘッジ(保険、適正相場の公示)を先物取引より費用がかからないようにするためにあります。例えば、小豆の現物取引をする業者は、先物取引相場で反対売買を行って損害担保(保険)をするよりも、その小豆売りの予約権を購入しておき(プットオプションの買い手となる)本当に現物売買で損害が出るとき(相場が下がる)だけ権利行使を行い損害填補します(オプションの行使レートが市場レートより有利な場合インザマネーといいます)。予想どおり損害が出ないような場合(相場が上がるので現物取引では利益が出る状態です。すなわち行使レートが市場レートより不利であり権利行使をすると不利益な場合をアウトオブザマネー。尚、同等な場合アットザマネーといいます)は権利放棄を行うことで、最小限の出費で保険作用を行おうとするわけです。すなわち、先物取引なら現物取引の利益分全額を損失として計上することになりますが、オプション取引なら権利行使を放棄してプレミアム分の損失で済むわけです。最初から権利行使放棄が本来の目的であり権利放棄の場合、最初のプレミアム料と取次業者への手数料のみがいわゆる保険の経費となるわけです。その経費の総額はオプション(予約権)の売買の方が証拠金を積んで先物取引の反対売買を立てることによる決済額よりも少額であり、取引自体が成り立つことになります。反対に生産者側は、コールオプションの買い手となりますがその構造はまったく同じです。この取引に一般投資家が投資して、保険作用と適正な相場価格が公示されて、最終的に安全な取引秩序が形成されるのです。従って、現物取引業者の取引は両オプションの買いが原則となります。売りを行うのは例えば保険契約であれば、確実な保険料で利益を上げる保険会社と考えればいいと思います。従って、万が一の場合(相場が崩れる)莫大な出費が必要となります。このような立場に事情を知らない一般投資家が立つことはとても危険なわけです。以上をもっと分かりやすく言うと、各オプションの売りは通常の保険契約における保険会社の地位を取引の対象にしているようなものであり、何も起こらなければ安定収入が得られるのですが大きな危険性を内容しています。
(7)以上のように、オプション取引は現物取引業者にとり、いかなる相場結果になろうとも本来損失は生じないものです。すなわち、現物取引の保険のためにありデリバティブ(金融派生取引、商品)の一形態なのです。これにより結果的に現物取引の適正な取引維持のために作られた相場であり公正な取引が維持されるのです。
(8)歴史的に見ると、17世紀オランダのチューリップのオプション取引で価格高騰によるコールオプションの売り手の破産がオランダの経済不況の原因といわれています。チューリップ取引につい実体相場を無視してオプション権を過度に投機の対象としたことが原因となったのです。
(9)東京穀物証券取引所では、とうもろこし、大豆のオプション取引がありますが、取引量は少ないようです。規制法は商品取引所法(法2条8項4号)です。従って、本件のような取次業者は、本件のように取引量が多い海外の商品先物オプション取引を利用し、手数料等の利益を上げることを考えるのです。
(10)本来は、オプション取引もなくてはならない制度なのですが、その危険性を説明します。
@取引の対象である原資産は、そもそも短期間に価格変動の危険があるからこそ実体相場に応じヘッジ(保険)のため、先物取引、オプション取引が行われており、現物取引をしない一般投資家のオプション取引は、性質上常にハイリスクの危険性を内包しています。
Aプット、コール各権利について、それぞれ売り買いがあり、先物取引より更に複雑な構造を持っているので、構造理解が難しく投資判断が困難です。
B短期間(1年以内)においてオプション権(予約権)行使の時期、価格の見極めが難しい。権利行使をすると先物取引と同じように委託保証金が別途必要になります。
Cプレミアム(オプション料)の適正価格の判断が難しいです。プレミアムは原資産の価格の変動(予定するストライクプライスより上回る利益があるかどうか)、権利行使期間満了日までの時間的経過(満期日までの価格変動の期待権が要素となり満期日が近づくと価値がなくなってゆく)等により決まるので、変動が予測困難で転売、買戻しのタイミングなどについて十分な判断ができません。
D 現物取引、先物取引さえも行っていない一般人には理解が難しい。
E各オプションの売りは損害が予想できず拡大の危険がある。
F各オプションの買いのオプション料(プレミアム)は、元々業者が放棄を予想している現物売買の保険料と同じであり、満期日に近づくにつれて期待権が減少し下落する性質を有する(生命保険契約を考えれば分かりやすいと思います)。原資産が値上がりしなければ最終的に満期日にはゼロになる可能性が高い危険な取引です。これを取次業者は損害が限定的というのですが、限定的でも枚数により全てのプレミアムがゼロになり短期間に数千万円の損害も珍しい事ではありません。
G株のように放置できず、保険的意味から短期間に投資額全額を失う危可能性があります。
H手数料が高額であり、プレミアムが上がっても利益を出すのが難しい。仮に1枚10万円程度とすると(手数料の額は規制されていません)、通常プレミアムの30%−50%を占めることになり、その分だけ値上がりしなければ利益が出ない構造になっています。又、通常1枚の価格の30%−50%が手数料価格となり、高額すぎてこの分を回復することも困難です。
I取次業者は、以上の複雑な構造を利用し、本来権利行使放棄を予想される買い及び、危険なオプションの売りを勧め転売、買戻しを行い(通常の決済方法でありその度ごとに手数料がかかる。例えば1枚10万円等)、高額な手数料等(投資額の数十パーセント、)を請求する危険があります。
J以上より、このような取引については、先物取引以上に取引に参加で出来る資格があるか(適合性の原則、商品取引所法215条)、説明義務の必要性(商品取引所法218条)、取引枚数の制限、一任取引の禁止が更に要請されます。特に訴訟では、オプション取引前の有価証券等投資経験が金額、年数等どれだけあったかが重要になると思います。まったくなければ違法性は認定しやすくなるでしょう。
4.
(1)本件は海外での商品先物オプション契約ですから、国内の先物取引を規制法である商品取引所法は適用になりませんし、外国の先物取引を規制する海外先物規制法はオプション取引まで規定していませんので、規制外の取引になります。しかし、商品取引法、海外先物規制法の趣旨を類推し、日本国内の先物取引と同様に違法行為については、先物取引と同様に不法行為理論に基づき損害賠償を求めていく事になります。
(2)海外オプション取引の危険性として、海外市場に対する投資ですから、為替、海外市場の経済社会状況も考慮に入れる必要があり、情報入手自体も容易ではないです。又、日本の業者が委託した海外の取引業者(複数関与している場合もあります)の確認、取引自体行われているかの確認も困難な面がありますので、いざ損害が生じたときには実態解明が大変です。
5、本件では、勧誘業者が「投資額が少なくて利益が出やすく、損失も限定的である。通常の商品先物取引、株式の信用取引と違い追加証拠金(追証)もないというのです。」と話していますが、オプション取引の性質構造上虚偽的説明が含まれていると考えられます。貴女の投資経歴から見てとてもお勧めできません。貴女がこの解説を1読して直ちに理解できたとはとても思えません。法律家でも直ぐには理解できない点もあるのです。そのような先物オプション取引を一般ご家庭の主婦にとてもお勧めすることは出来ません。
6、判例を検討します。
(1)東京地方裁判所平成17年3月4日民事第23部判決(平成16年(ワ)第4891号、損害賠償請求事件)。夫と死に別れ年金収入により、都営住宅で一人暮らしをする77歳の独身女性が、取次業者から海外商品(金、銀、砂糖、ココア)先物オプション取引の勧誘を受け、取引により1600万円の損害が生じた事件です。被害者は10年ほど前に2年間株式取引の経験がありましたが、ほぼ全額について不法行為(民法709条)による損害と認定しています。その理由ですが、@原告の経験、知識、理解力、財産内容に照らせば、被告従業員による原告に対する勧誘、取引の受託は適合性原則に違反する、Aオプション取引についてその仕組みや価格変動要因、分析方法について、原告の知識、経験、理解力に対応した具体的な説明を行っていなかったとして、説明義務違反ある、B取引の内容について殆ど理解していなかった原告が、被告従業員に言われるままに予め取引内容が記載された売買伝票に署名押印していたことが、実質的な一任売買にあたる。C約1年2ヶ月の取引における1600万円の損害が全て業者の手数料であること。D業者が36回の取引により2450万7000円もの手数料を取得し、手数料化率(最終損害に対する手数料の割合)は153・15パーセントである。E取引開始2ヶ月で120枚の取引をして1300万円の損害を出している。以上を前提に判決は、業者の不法行為責任を認め、1割の過失相殺をしたうえで被害者側の請求を認めています。過失相殺を認めた点を除き適正な判決です。
(2)東京地方裁判所平成17年10月25日民事第45部判決、平成15年(ワ)第12743号損害賠償請求事件。
@取引時59歳、中学校を卒業し、職歴はあるが夫は、タクシー乗務員でその後死亡しその後1人で公団住宅に居住し、年金生活者である主婦が、業者の電話勧誘により海外商品(砂糖、銅、銀、原油、コーヒー等)、通貨先物オプション取引を行い3600万円の損失が生じた事件です。過去に株式取引を行ったことはあるが商品先物取引やオプション取引を行ったことはありません。3100万円の損害を認定しています。
A判旨を参照します。オプション取引の構造についての説明です。「オプション取引の仕組み等について 【ア】 オプション取引とは、原資産を予め定められた価格で買う権利又は売る権利を売買する取引であり、買う権利を「コール・オプション」、売る権利を「プット・オプション」、予め定められた価格を「ストライクプライス」、オプションを買付ける際のオプション価格を「プレミアム」という。 被告が扱うタイプのコール・オプションの保有者は、原資産を特定の期日(満期日)までの任意の時点に、ストライクプライスで、一定数量を購入する権利を取得し、プット・オプションの保有者は、原資産を満期日までの任意の時点に、ストライクプライスで、一定数量を売却する権利を有する。オプションの購入者は、満期日までに権利を行使するか権利を放棄するかを選択することができ、またオプションを転売することもできるが、満期日を経過すると、権利行使できなくなり、オプションは無価値となる。 オプションの購入者は、コール・オプションを購入した場合は、原資産価格がストライクプライスを超えて上昇すればするほど、プット・オプションを購入した場合は原資産価格が満期日にストライクプライスよりも下落すればするほど利益は拡大する。他方で、オプションの購入者は、原資産の価格が予想通りに変動しない場合はオプションを放棄すればよいので、損失は、購入時のプレミアム価格に限定されている。(一方、オプションの売り手は、取引時にプレミアムを受け取るが、オプションの買い手による権利行使によりストライクプライスでの対象商品の売買を履行する義務を負う。利益は受領したプレミアムに限定されるが、コール・オプションを売却した場合は、原資産価格がストライクプライスを超えて上昇すればするほど損失が拡大し、逆にプット・オプションを売却した場合は、原資産価格がストライクプライスを超えて下降すればするほど損失が拡大することとなり、その意味で損失は無限定である。)【イ】 プレミアム価格は、本来価値(現時点において権利行使をしたならば得られる金額)と時間価値(現時点から最終期日までにおける原資産の価格変動の可能性に伴う価値)により構成され、プレミアム価格の変動要因としては、原資産の価格、原資産の価格の変動可能性(ボラティリティ)、権利行使期間、ストライクプライス、短期金利等があり、これらの要因が複雑に絡み合って価格が決定される。すなわち、原資産価格の上昇は、コール・オプションのプレミアム価格の上昇の、プット・オプションのそれの下落の要因となり、原資産価格の下落は、それぞれ逆の要因となる。
次に、ボラティリティが大きいほど、満期日に原資産の価格がストライクプライスに達する可能性が高いことから、オプションのプレミアム価格の上昇要因となる。同様のことは、権利行使期間についても当てはまり、権利行使期間が長いほどプレミアム価格は高くなる。逆に言えば、時間の経過により権利行使期間が短くなるにつれ、時間価値が失われ、プレミアム価格の下落要因となる。また、コール・オプションについてはストライクプライスが現在の商品価格と比較して低いほど、プット・オプションでは高いほどプレミアム価格の上昇要因となり、短期金利の上昇はコール・オプションのプレミアム価格の上昇、プットオプションのそれの下落要因となるとされている。【ウ】 オプション取引は、原資産価格の変動リスクをヘッジする目的で開発された金融商品であるが、プレミアムが日々変動することに着目し、オプションの転売により利益を得るため、投機目的で購入されることもあり、個人投資家により購入される場合はこのような目的によるものである。【エ】 以上のとおり、オプションの購入による損失はプレミアム価格と手数料に限定されるが、投資額全額を失う可能性も相当程度あることから、オプション取引は一般投資家の行う取引の中では、ハイリスクな取引であるということができる。さらに、取引の仕組み自体が、抽象的・技術的な概念を多く用い、複雑であり、一般人には容易には理解しにくい上に、プレミアム価格の変動要因についての情報を一般の投資家が入手することが困難であり、特に、被告の扱う海外市場における先物オプションについては、原資産価格、ボラティリティはもちろん、プレミアム価格すら一般の公刊物には掲載されていない。従って、プレミアム価格の変動要因についての情報の入手が難しい上に、仮にこれを入手できたとしても、一般の投資家において、これを分析して適切な相場判断を行うことは極めて困難であると解される。」
B本件取引は、2回目の取引に過失相殺30%を認め3100万円の損害を商品取引所法、金融商品取引法等の規定趣旨を類推し認定しています。理由は、@適合性違反、A説明義務違反、B一任取引、C断定的判断の提供、D過当取引、本件第1及び第2取引の取引回数は合計153回であり、月平均の取引回数は約4.54回である(期間約3年半)。E本件第1及び第2取引において原告が被った損失総額は、3671万8634円であるが、このうち手数料は2742万1000円であり、損失総額に占める割合は、74.67パーセントである。過失相殺の点を除き妥当な判断でしょう。
(3)名古屋地方裁判所平成15年12月3日判決、(平成14年(ワ)第274号損害賠償請求事件)。56歳の専業主婦(過去に2年間勤務経験がある)が10年程度の株式取引を経験した後に海外商品先物オプション取引を行い、2400万円の損失(期間6ヶ月)について40%の過失相殺を認め1440万円を損害と認定しています。理由は、説明義務違反、断定的判断の提供、新規委託者保護義務違反を認めましたが、10年間の株取引から適合性の原則は違反していないとの判断です。本件では、コーヒーのオプション(アウトオブザマネーでのコールオプションの買い)は権利行使、転売の機会もなく満期に無価値となっています。手数料は、1枚10万円、91枚取引により910万円(手数料率38%)を支払っています。
(4)大阪地方裁判所平成15年10月21日判決(平成14年(ワ)第6605号損害賠償請求事件)。損害全額認定。
@当時68歳、専業主婦(健忘失語症の症状)、個人年金にて独りで生活していた女性(中学校卒業後日本舞踊の師匠)が電話勧誘により始めた海外商品先物オプション取引により(老後の資金)3170万円(内手数料955万円)の損失が生じた事件です。20年前に株取引を行ったことがあったが、先物取引やオプション取引の経験はなく全額を損害として認定しています。全プットオプション買い130枚が転売も出来ずに満期日に権利喪失しています。適合の原則違反、説明義務違反、新規委託者保護義務違反、実質的一任売買が理由です。プレミアム価格の40%が手数料額となっており高額です。当然の判決です。
A判決内容。「オプション取引の基本的な仕組みとリスク。【ア】オプション取引の基本構造。前記前提事実記載のとおり、オプションとは、原資産を、満期日又は満期日までの期間内にストライクプライスで買う権利(プットオプション)又は売る権利(コールオプション)をいう。本件取引は、原告が、米国市場における9月限月・100円75セント又は77セントの円先物のプットオプション(ドル建て)を買ったものである。オプション保有者は、権利行使をするか否かの自由を有し、また、オプションを相場価格で転売することもできるが、権利行使しないまま満期日を徒過すると、オプションは無価値となる。そして、オプション取引には、プットとコールのそれぞれについて、購入と売却があり、これに応じて、オプション取引におけるリスクとリターンの特徴は4種類に分類される。このうち、本件のようなプットオプションの購入であれば、損益曲線は、原資産価格がゼロの場合に最大となり、損益分岐点を通って原資産価格とストライクプライスが一致する点まで単調減少するが、さらに原資産価格が増加しても、その後は一定の値(投資額相当額のマイナス)を取ることになる(甲6、乙5)。【イ】リスクヘッジ目的によるオプション取引の場合、以上のように原資産の保有者は、プットオプションの購入により、その投資額を負担するだけで、原資産価格がストライクプライス以下に下落するリスクを回避できる。このような掛捨て型の保険と同様の経済的効果を得ること(リスクヘッジ)が、オプション取引本来の目的である。そして、リスクヘッジ目的のオプション取引には、原資産価格の相場が予想と反対に変動した場合に価格変動リスクを負担しない点で、これを全面的に負担する先物取引などとは異なる経済的意味があり、仮に満期日までにプレミアムが減少し、最終的に権利を放棄することになり、投資額全額を喪失したとしても、それにはリスク回避の対価としての経済的意義があるから、プレミアムが合理的に算定されている限り、有用かつ合理的な商品といえる。
【ウ】投機目的のオプション取引の場合。(ア)以上に対し、投機目的のオプション売買は、市場のオプションを購入して、プレミアムが騰貴したときに転売利益を得ようとするものである。この場合も、先物取引とは異なり、投機のリスクは投資額に限定されている(本件取引のように為替変動リスクがある場合も同じ。)。しかし、専らプレミアムの価格騰貴による転売利益の取得のみを見込んだ取引であるため、将来のプレミアムの価格変動について合理的な予測を行うことが必要であり、そのためには、前提として、価格変動の特徴及びその要因についての正確な理解が不可欠である。(イ)まず、プレミアムの価格変動は、当然、原資産の価格変動により左右される。しかし、プレミアムは原資産価格よりも遥かに大きく変動するのが通常であり(レバレッジ効果)、また、権利行使の可能性が減滅した場合などには原資産の価格変動とは必ずしも連動しない場合があるため、単純に原資産の価格変動が予測できればよいというものでもない。(ウ)また、プレミアムは、本質的価値(直ちに権利行使し得たとした場合に得ることのできる利益)と時間的価値(将来の権利行使日において権利行使した場合に得ることのできる利益の期待値の総和)とからなるとされる(甲6)。しかし、本件オプションのプレミアムは、購入時において、円相場がストライクプライスを上回っていたため本質的価値はいずれもゼロであり、時間的価値のみからなっていたところ、時間的価値は、さらに、原資産価格の変動率(ボラティリティ)、原資産価格とストライクプライスとの距離、満期までの期間の長短等により決定されるが、基本的に時間の経過とともに加速度的に下落する性質を有することに加え、特に、本件オプションは、権利行使期間が4ないし5か月と短いため、ボラティリティが将来十分大きくなることが予測される場合でなければ、時間的価値(即ちプレミアム全体)が急激に値下がりする可能性が高かったものといえる。(エ)さらに、本件取引においては、プレミアムの約4割という高額の手数料が徴収されているため、プレミアムが値上りしただけでは利益とならず、これが購入時の約1.4倍以上に上昇しない限り、やはり損失を被ることになる。(オ)以上を要するに、本件取引は、リスクの範囲が投資額に限定されており少ない投資で多くの投資効果が得られるという有利な面もないわけではないが、反面、プレミアムが時間的価値のみからなること、満期までの期間が短いこと、手数料が高額であることなど各種の要因を考慮すれば、転売利益が出る可能性に比して、元本欠損の危険性の方が確率的には高く、高度の投機性を有するハイリスク・ハイリターンな取引であるといわざるを得ない。これに加え、プレミアムの変動要因は極めて多種多様であって上記したところに尽きないこと、オプション取引は日本では馴染みの薄い取引であることにも照らせば、通常の理解能力を有する一般投資家であっても、オプション取引について合理的な投資判断を下すことは、相当の困難を伴うというべきである。」
(5)名古屋地方裁判所 平成15年8月19日判決平成13年(ワ)第4962号(損害賠償請求事件)。電話勧誘による海外商品先物オプション取引の大学卒元歯科医師43歳男性について過失相殺4割を認めて損害を認定。主に説明義務違反、断定的判断の提供等を一連の違法行為としています。コーヒー、大豆、原油各オプションの買い取引です。
(6)東京地方裁判所 平成13年6月28日民事第30部判決損害賠償請求事件。当時36歳、オプション取引前1年間の株の購入暦がある専業主婦(大学薬学部卒)が行った電話勧誘による海外商品先物オプション取引に関し、過失相殺20%−50%を認めて2600万円の損害を認定。主に説明義務違反、断定的判断の提供等を違法行為としています。コーヒー、砂糖等オプション取引です。
(7)名古屋地方裁判所平成13年2月28日判決損害賠償請求事件。海外商品(砂糖、コーヒー等)先物オプション取引、専業主婦、ほぼ投資経験なし、37歳、電話勧誘、過失相殺40%(契約書等書類への署名が理由となっています)で損害350万円認定。適合性違反、説明義務違反を根拠としています。
(8)名古屋地方裁判所平成13年2月21日判決損害賠償請求事件。海外商品(大豆、銅)先物オプション取引、保健施設で婦長の職歴あり、ほぼ投資経験なし、56歳、電話勧誘、過失相殺30%(契約書類への署名が理由となっています)で損害1800万円認定。適合性違反、説明義務違反を根拠としています。
(9)東京地方裁判所平成13年2月9日判決損害賠償請求事件。海外商品(砂糖、天然ガス)先物オプション取引、短大卒専業主婦、投資経験なし、当時55歳、電話勧誘、過失相殺なし(判断の対象にしていない)損害2200万円(老後資金)全額認定。適合性違反、断定的判断の提供を根拠としています。
7.ついでに、日経平均株価オプション取引の判例も参照します。
(1)大阪地方裁判所平成19年11月16日第11民事部判決、(平成17年(ワ)第1995号損害賠償請求事件)。
@ それまで株式投資経験がなかったが、同一証券会社で3年間株式の現物取引、株価指数連動型上場投資信託(ETF)及び日経平均株価オプション取引等を行った34歳男性(大卒)について、現物取引、ETF取引に業者の違法性を認めず、オプション取引については、複雑でハイリスク・ハイリターンな取引であるから、業者側の説明義務違反、過当取引、手数料稼ぎ(日計り)を認め、過失相殺2割として1390万円の損害を認定した事案。構造は商品先物オプシヨン取引とまったく同様です。
A 判決内容。オプション取引の説明を引用しますが商品先物オプション取引と構造は同一であり、現物取引のヘッジ(保険)のためにオプション取引相場が建てられているのです。「日経平均株価オプション取引。(ア)オプション取引とは、特定の商品を、あらかじめ定められた期日に、あらかじめ定められた価格で買う権利、又は売る権利(オプション)を売買する取引をいう。(イ)日経平均株価オプション取引は、日経平均株価を対象とした株価指数オプション取引である。決済の方法としては、期限までに反対売買を行う方法のほか、期限に権利行使ないし履行を行うことによる方法があるが、株価指数という抽象的な数値を対象とする取引であるため、その場合は差金の支払によって決済がされる。(ウ)日経平均株価オプション取引においては、買う権利(コール・オプション、以下「コール」という。)、売る権利(プット・オプション、以下「プット」という。)の双方につき、買い建てと売り建てがある。買い建てを行う者はその対価としてプレミアムを支払う必要があり、売り建てを行う者は、その対価としてプレミアムを受け取ることができる。買い建てにおいては、行使期限が過ぎると権利が消滅し、投下したプレミアム全額が損失となるというリスクがあるが、予想に反した値動きをした場合でも権利を放棄することが可能であり、損失はプレミアムの額に限定される。他方、売り建てにおいては、利益はプレミアムに限定されるが、予想に反した値動きとなり、オプションの買い手が権利行使してきた場合、損失は無限定となる。売り建てを行うに際しては、取引の履行を確保するため、顧客は、証券会社に一定の証拠金を預託することが必要とされ、値動きにより、追加証拠金が請求される場合もある。」
B本件では、当初からインザマネーでの売り建てが繰返され、買い建ての日計り(同日に決済)の繰り返し、ストラングル売り(原資産の動く程度を限定的に予想し予想の範囲内であれば同一限月で権利行使価格の異なるコール、プットの買い売りを組み合わせて確実に利益を得ようとする方法であるが予測が難しい)等が行われ7ヶ月、損失3180万円、内手数料1580万円であり高額な手数料(手数料率約50%)となっています。
(2)東京地方裁判所平成17年7月22日民事第10部判決、平成16年(ワ)第14082号(損害賠償請求事件)。44歳、大学工学部卒、区立中学校用務員、アパート賃料収入あり、日経平均株価指数オプション取引まで有価証券取引の経験はないが株式の相続を機会に取引を始めた男性について適合性違反、説明義務違反、過当取引を理由に50%の過失相殺をして約1600万円を損害と認定しています。1年3ヶ月722回の取引により損失金3200万円のうち2500万円が手数料となっています。
(3)京都地方裁判所平成16年5月26日第2民事部判決、平成14年(ワ)第1562号(損害賠償等請求事件)。請求棄却。日経平均225オプション取引、65歳男性、大卒、賃貸マンション経営所有、金融資産等3000万円、大学卒業後数年株式取引、その後10年間山一證券で株式現物売買、山一證券倒産後被告会社で株式の現物取引を行う。損失1200万円。適合性の原則違反、説明義務違反、手仕舞い義務違反、損害拡大防止義務違反、ロールオーバー(プレミアム収入により得たオプションについて損失が生じた場合、その損失を(帳簿上)回復するために更にプレミアムが高くなっているオプションの売りを継続して行い相場の回復を待つ取引で万が一の場合リスクが大きい)の違法性を認めませんでした。株式取引が長く投資経験を重視したと思われます。
(4)さいたま地方裁判所平成16年6月25日第5民事部判決、平成14年(ワ)第399号(損害賠償・預託金返還請求事件)。請求棄却。55歳、高卒、女性、独身(夫死亡)、7年間出版社勤務、6年間図書関係会社勤務、その他出版に関する仕事に従事、主婦、オプション取引前10数年間有価証券投資、又仕手株投資を行い複数の証券会社の口座を有する。日経平均株価オプション取引に投資する金融資産を有していたが3800万円の損失発生。以上の事情を基に適合性の原則違反、断定的判断の提供、善管注意義務違反を認めませんでした。
(5)京都地方裁判所平成14年9月18日第7民事部判決、平成11年(ワ)第542号(損害賠償等請求事件)。日経平均株価指数オプション取引です。過失相殺20%で損害を認定。被害者3名、3200万円の損害を認定。(関連条文旧証取法43条。)一部原告には、かなり前から有価証券取引の経験があったが、本件オプション取引は賭博性が強く長い投資経験と深い知識を必要とし一般投資家には向かない制度として、適合性違反等の理由により損害を認定しています。
(6)京都地方裁判所平成11年9月13日判決(損害賠償等請求事件)。
@日経平均株価指数オプション取引。当時66歳、女性、尋常小学校卒業、33年間小学校事務員勤務、投資歴8年、転換社債、投資信託、外国債券、外国投資信託等ハイリスク商品の取引歴、70%過失相殺し300万円の損害認定(適合性、説明義務違反、旧証取法54条1項)。ストラドル、ストラングルの売り、ロールオーバーが行われている。
A判決内容。(オプション取引について)の説明。
(一)本件日経平均株価指数オプション取引は、日経平均株価を取引対象とするもので、満期日にしか権利行使ができないいわゆる「ヨーロピアンタイプ」に属し、大阪証券取引所が執行している。満期日は各月の第二金曜日(休業日に当たるときは順次繰り上げる)である。
(二)オプションの買い手は、売り手に対し、「プレミアム」と呼ばれる対価を払う。買い手と売り手は、満期日までに、買付けあるいは売り付けたオプションそのものを反対売買によって決済することができる。買い手は、満期日に権利行使することも、権利を放棄することも可能である。売り手は、買い手が権利行使すれば、これに応じなければならない。もし買い手が権利行使できないまま満期日を迎えれば、プレミアムが売り手の利益となる。
(三)オプション取引は、コールの売り、買い、プットの売り、買いの四つが基本型である。
(四)オプション取引は、右基本型を組み合わせて様々な手法を使うことができる。代表的なものとして、次のものがある。
(1)ストラングルの売り
同一満期日の異なる権利行使価格のコールとプットを同時に売る取引である(通常は、高いコールと低いプットを売るが、逆に低いコールと高いプットを売る場合もある)。株価の変動が小幅になると予想したときの戦略であり、株価が二つの権利行使価格の間に入ると利益(プレミアム分)が出るが、逆にこれを超えて株価が大きく変動すると、大きな損失を被ることになる。
(2)ストラングルの買い
同一満期日の異なる権利行使価格のコールとプットを同時に買う取引である。上昇するか下落するかは判断がつかないが、いずれにせよ株価が大幅に変動すると予想したときの戦略であり、株価が二つの権利行使価格の間に入ると損失(プレミアム分)が出るが、逆にこれを超えて株価が大きく変動すると、大きな利益が出ることになる。
(3)ストラドルの売り
同一満期日の同じ権利行使価格のコールとプットを同時に売る取引である。株価の変動が小幅になると予想したときの戦略であり、株価の変動が小幅であれば利益が出るが、逆に株価が大きく変動すると、大きな損失を被ることになる。ストラングルの売りと比べると、プレミアムが高額だが、利益を出す株価変動の幅は小さい。
(4)ストラドルの買い
同一満期日の同じ権利行使価格のコールとプットを同時に買う取引である。上昇するか下落するかは判断がつかないが、いずれにせよ株価の変動が大幅になると予想したときの戦略であり、株価の変動が小幅であれば損失が出るが、逆に株価が大きく変動すると、大きな利益が出ることになる。ストラングルの買いと比べると、プレミアムが高額だが、より小幅の株価変動で利益を生じる。
(5)オプション取引を理解するためには、プレミアムの形成要因を把握する必要がある。プレミアムは、本質的価値(市場価格と権利行使価格との差)と時間価値との合成である。時間価値は、満期までの原証券価格の変動性の大きさ(ボラティリティ)、満期までの残存期間、短期金利、配当率等が要素となっている。
(6)東京地方裁判所平成13年11月30日判決損害賠償請求事件。日経平均株価オプション取引、断定的判断の提供、過失相殺60%損害600万円認定、男性、41歳、事故の保険金が資金、歯科技工士、後に警備員、有価証券経験投資は保険金が入りオプション取引の約1年前から行い信用取引等も行う。根拠は民法709条、旧証取法42条。
(7)千葉地方裁判所平成12年3月29日判決(損害賠償請求事件)。日経平均株価オプション取引、女性、専業主婦、59歳、高校卒、亡夫公務員、パート以外職歴ほとんどなし、オプション取引前数年間被告の会社との取引を除き投資歴なし、過失相殺なし、業者の善管注意義務違反により損害全額30万円を認定しています。
8、外国為替オプション取引の判例を参照します。
(1)大阪地方裁判所平成18年1月31日第20民事部判決、平成16年(ワ)第13886号(損害賠償請求事件)。10%の過失相殺を認め1700万円の損害を認定。主婦、64歳、中学校卒業、内職の経験があるが鉄工所勤務の夫の収入で生計をたて、有価証券投資等の経験は一切なく、電話勧誘により取引を開始したが金融投資用の資産はなく、適合性、説明義務に違反していると判断しています。外国為替オプション取引の構造は、商品先物オプション取引と同一です。
≪条文参照≫
商品取引所法
(昭和二十五年八月五日法律第二百三十九号)
(定義)
第二条
8 この法律において「先物取引」とは、商品取引所の定める基準及び方法に従つて、商品市場において行われる次に掲げる取引をいう。
一 当事者が将来の一定の時期において商品及びその対価の授受を約する売買取引であつて、当該売買の目的物となつている商品の転売又は買戻しをしたときは差金の授受によつて決済することができる取引
二 当事者が商品についてあらかじめ約定する価格(以下「約定価格」という。)と将来の一定の時期における現実の当該商品の価格の差に基づいて算出される金銭の授受を約する取引
三 当事者が商品指数についてあらかじめ約定する数値(以下「約定指数」という。)と将来の一定の時期における現実の当該商品指数の数値の差に基づいて算出される金銭の授受を約する取引
四 当事者の一方の意思表示により当事者間において次に掲げる取引を成立させることができる権利(以下「オプション」という。)を相手方が当事者の一方に付与し、当事者の一方がこれに対して対価を支払うことを約する取引
イ 第一号に掲げる取引
ロ 第二号に掲げる取引(これに準ずる取引で商品取引所の定めるものを含む。)
ハ 前号に掲げる取引(これに準ずる取引で商品取引所の定めるものを含む。)
9 この法律において「商品市場」とは、一種の上場商品又は上場商品指数ごとに、次の各号に掲げる区分に応じて当該各号に定める取引を行うために商品取引所が開設する市場をいう。
一 上場商品に係る商品市場 当該上場商品に係る前項第一号に掲げる取引又は同項第二号に掲げる取引
二 上場商品指数に係る商品市場 当該上場商品指数に係る前項第三号に掲げる取引
10 この法律において「商品市場における取引」には、前項各号に定める取引のほか、商品取引所が、定款で定めるところにより、商品市場において次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に定める取引をすることとしたものを含むものとする。
一 上場商品に係る商品市場 次に掲げる取引
イ その対象となる物品が当該上場商品であるか又はこれに含まれる商品指数に係る第八項第三号に掲げる取引
ロ 当該上場商品に係る第八項第四号イ又はロに掲げる取引に係る同号に掲げる取引
ハ その対象となる物品が当該上場商品であるか又はこれに含まれる商品指数に係る第八項第四号ハに掲げる取引に係る同号に掲げる取引
ニ 当該上場商品の売買取引(第八項第一号に掲げる取引に該当するものを除く。以下この号において同じ。)
ホ 当事者の一方の意思表示により当事者間において当該上場商品の売買取引を成立させることができる権利(以下「実物オプション」という。)を相手方が当事者の一方に付与し、当事者の一方がこれに対して対価を支払うことを約する取引
二 上場商品指数に係る商品市場 当該上場商品指数に係る第八項第四号ハに掲げる取引に係る同号に掲げる取引
16 この法律において「商品市場における取引等」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品市場における取引
二 前号に掲げる行為の委託の取次ぎ
三 商品清算取引の委託の取次ぎ
四 前号に掲げる行為の委託の取次ぎ
17 この法律において「商品取引受託業務」とは、商品市場における取引等(商品清算取引を除く。)の委託を受ける営業をいう。
18 この法律において「商品取引員」とは、商品取引受託業務を営むことについて第百九十条第一項の規定により主務大臣の許可を受けた者をいう。
(不当な勧誘等の禁止)
第二百十四条 商品取引員は、次に掲げる行為をしてはならない。
一 商品市場における取引等につき、顧客に対し、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供してその委託を勧誘すること。
二 商品市場における取引等につき、顧客に対し、損失の全部若しくは一部を負担することを約し、又は利益を保証して、その委託を勧誘すること。
三 商品市場における取引等につき、数量、対価の額又は約定価格等その他の主務省令で定める事項についての顧客の指示を受けないでその委託を受けること(委託者の保護に欠け、又は取引の公正を害するおそれのないものとして主務省令で定めるものを除く。)。
四 商品市場における取引につき、顧客から第二条第八項第一号に掲げる取引の委託を受け、その委託に係る取引の申込みの前に自己の計算においてその委託に係る商品市場における当該委託に係る取引と同一の取引を成立させることを目的として、当該委託に係る取引における対価の額より有利な対価の額(買付けについては当該委託に係る対価の額より低い対価の額を、売付けについては当該委託に係る対価の額より高い対価の額をいう。)で同号に掲げる取引をすること。
五 商品市場における取引等につき、その委託を行わない旨の意思(その委託の勧誘を受けることを希望しない旨の意思を含む。)を表示した顧客に対し、その委託を勧誘すること。
六 商品市場における取引等につき、顧客に対し、迷惑を覚えさせるような仕方でその委託を勧誘すること。
七 商品市場における取引等につき、その勧誘に先立つて、顧客に対し、自己の商号及び商品市場における取引等の勧誘である旨を告げた上でその勧誘を受ける意思の有無を確認することをしないで勧誘すること。
八 商品市場における取引等につき、顧客に対し、特定の上場商品構成物品等の売付け又は買付けその他これに準ずる取引とこれらの取引と対当する取引(これらの取引から生じ得る損失を減少させる取引をいう。)の数量及び期限を同一にすることを勧めること。
九 前各号に掲げるもののほか、商品市場における取引等又はその受託に関する行為であつて、委託者の保護に欠け、又は取引の公正を害するものとして主務省令で定めるもの
(適合性の原則)
第二百十五条
商品取引員は、顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行つて委託者の保護に欠け、又は欠けることとなるおそれがないように、商品取引受託業務を営まなければならない。
(商品取引員の説明義務及び損害賠償責任)
第二百十八条
商品取引員は、受託契約を締結しようとする場合において、顧客が商品市場における取引に関する専門的知識及び経験を有する者として主務省令で定める者以外の者であるときは、主務省令で定めるところにより、あらかじめ、当該顧客に対し、前条第一項各号に掲げる事項について説明をしなければならない。
2 商品取引員は、顧客に対し前項の規定により説明をしなければならない場合において、前条第一項第一号から第三号までに掲げる事項について説明をしなかつたときは、これによつて当該顧客の当該受託契約につき生じた損害を賠償する責めに任ずる。
外商品市場における先物取引の受託等に関する法律(略称、海外先物規制法)
(昭和五十七年七月十六日法律第六十五号)
最終改正:平成一一年一二月二二日法律第一六〇号
(目的)
第一条 この法律は、海外商品市場における先物取引の受託等を公正にし、及び当該先物取引の委託者が受けることのある損害の防止を図ることにより、当該先物取引の委託者の利益の保護を図ることを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「先物取引」とは、売買の当事者が将来の一定の時期において当該売買の目的物となつている商品及びその対価を現に授受するように制約される取引であつて、現に当該商品の転売又は買戻しをしたときは差金の授受によつて決済することができるものをいう。
2 この法律において「海外商品市場」とは、外国に所在し、かつ、商品(有価証券、通貨その他これらに類するものとして政令で定めるものを除く。以下同じ。)の先物取引が行われる市場であつて、政令で指定するものをいう。
3 前項の規定による指定は、当該海外商品市場における先物取引の目的物となつている一種の商品ごとに行う。
4 この法律において「海外商品市場における先物取引の受託等」とは、海外商品市場において先物取引を行うことの委託を受け、又はその委託の媒介、取次ぎ若しくは代理を引き受けることをいう。
5 この法律において「海外商品取引業者」とは、海外商品市場における先物取引の受託等を業として行う者(海外商品市場における先物取引の受託等を業として行うことについて、この法律以外の法律でその適用により海外商品市場における先物取引の受託等の公正及び当該先物取引の委託者が受けることのある損害の防止が確保されるものの規定に基づく規制を受ける者として政令で定めるものを除く。)をいう。
6 この法律において「海外先物契約」とは、海外商品市場における先物取引の受託等を内容とする契約であつて、海外商品取引業者が売付け又は買付けの別、売付け又は買付けに係る価格、数量及び時期その他の経済産業省令で定める事項につき別に顧客の指示を受けて売付け若しくは買付け又はその注文をする旨の定めのあるものをいう。
質問:中小企業の製造業に勤務していましたが、遅刻が多く仕事に熱心でないとして、突然、自宅謹慎を言い渡され、自主退職を求められ応じないでいたところ、就業規則により会社を懲戒解雇されました。知人から労働審判を勧められました。労働審判とはどういう手続きですか?他の手続きはどのようなものがありますか?手続きの見通しはどうなりますか?
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回答:
1.解雇権の濫用であり、解雇は無効と思われます。労働審判制度を利用して迅速な解決を求める事ができます。平成18年、19年、労働審判事件の50%は地位確認の事件になっています。
2.地位保全の仮処分、解雇無効確認の訴えを提起しても同様の結果が得られると思いますが、期間が必要となります。
3.労働審判制度は要点のみ解説いたします。
4.事例集bV43、657、642、5号を参考にしてください。
解説:
1.先ず、ご希望の労働審判法を説明し、その後事件の解説を致します。この法律は平成18年4月1日から施行されました。
2.この制度は、あまり複雑性を有しない雇用者と労働者の私的紛争(労働事件)を適正、公平、迅速、低廉(費用がかからないように)に解決するために創設されました。労働問題に限らず、民事紛争は適正公平迅速に解決されなければならないのは当然の事ですし(民事訴訟法2条)、1年前後の期間を要する通常訴訟(地位確認の仮処分)により争われるのが原則です。しかし、労働事件には、特に迅速性が要求される特殊性があります。雇用契約は継続的契約であり、労働者が生きていくための基本的権利(憲法13条、25条)にかかわりますから、紛争が長期化すれば不利益を被るのは組織力、資本力、情報力を持たず日々の生活に追われている労働者側です。従って、労働事件は、当事者の勝敗より労働者の生きるための生活権確保という目的に従い、特に迅速性、実情にあった実質的公平性、合目性が要求されるのです。そこで、労働審判制度は、複雑性を有しない事件について(労働審判法24条、大規模の整理解雇事件等は適しないでしょう)、適正、公平性を担保しながら迅速性(法15条、期日は3回以内 実務は約3ヶ月以内 )を重視して、常に調停を併用しながら(法24条)職権主義を導入し(法17条、迅速性、合目性を確保するため審判委員会が独自に事実を調査し証拠調べをしますから、その権能を当事者に任せる当事者主義は後退します)、主張立証方法を制限して(事実上1回−2回を原則とする)、非公開(法16条)、弾力的に運用しながら合目的な早期解決を目指します。ただ、当事者は、労働事件についても当事者主義に基づく適正手続による裁判を受ける権利(憲法32条)を有するので、審判結果に異議を申し立てる権利(法21条、22条)は当然留保されています。使用者側の立場から見ても労働事件の早期解決は業務、業績の向上という点からむしろ望ましい制度であり、労使双方の早期紛争解決の意思があれば実効性ある制度であると考えられます。
3.労働審判手続の特色を説明します。
@管轄地方裁判所において、労働審判官1名と労働審判員2名によって構成される労働審判委員会が事件の解決(審判)に当たります(法2条、7条)。
A労働審判官には裁判官がなり、労働審判員には労使関係実務家がなります。労使実務家の存在によって専門性を担保しながら、労働事件の実情にあった公平な解決が担保されています。
Bそして、労働審判は迅速性を最優先にしますので、まず地方裁判所に申立書を提出して行います。申立の日から40日以内で第一回期日が指定されます。そこから原則として3回以内の期日において調停の成立もしくは審判がなされます。施行以来、申立から終了日までの平均審理期間は約70日前後(すなわち40日を控除すると、第1回期日から最終3回期日まで1ヶ月程度となります)、約95%の事件は3回以内の期日で処理されているようです(法15条)。従って、第1回目の期日までに当事者双方主張立証を全て出し尽くす態度が要求されますし、第1回目から逐次裁判所(委員会)の当事者尋問等証拠調べが始まります。時間的には基本的に3−4時間が予定されているようです。代理人がいても本人を同行する必要があるでしょう。事件関係者であれば許可を得て傍聴も可能です(法16条)。第2回目の期日は調停、補充的主張立証となります。第3回目は、事実上最終調停、審判期日になるでしょう。
C原則として申立書、答弁書以外の書面は認められません(規則17条1項)。
D審理は、非公開ですが、許可があれば傍聴が可能です。労働者の生活権が問題となっていますから、労働者の家族等は許可されるでしょう。
E労働審判では、まず調停による解決が試みられます(法24条、規則22条)。継続的契約関係ですから、当事者の話し合いが優先します。これで解決しない場合には3回目までの期日を経て審判が、書面、又は口頭で実情に即した解決案として下されます(法20条)。
F裁判を受ける権利がありますから、調停によらず審判がなされた場合で、その内容に不満があるときは、書面にて異議申立(審判書を受け取ってから2週間以内、告知の場合も)を行うことができ、通常裁判に事件が移行し、さらに争うことが出来ます(法21条、規則31条)。審判は裁判官、実務家による判断ですから、異議の申し立てによる通常訴訟も同様の判決の可能性があり、むやみに異議がなされるということもないと思われます。平成18年度の結果ですが、概算で70%が調停成立、8%が審判による確定、12%が審判への異議、10%がその他取り下げ(法24条終了は3%)等です。
G主張立証は第1回期日が中心になる関係上、迅速包括的な対応が要求されますから、法的な評価、整理、学説判例の説明を必要とする場合は、弁護士を代理人とすることも必要となります。
4.労働審判委員会によらない手続きですが、労働審判制度が創設される前から採られていた法的手段として解雇無効確認訴訟を提起し(民訴134条)、事前に地位保全の仮処分(民事保全法1条、23条2項)の申立をして従業員としての地位確保を図ることができます。一般的には、第一審の解決まで半年から1年程度の期間が必要となりますので(控訴されれば更に数ヶ月から半年)、迅速性から言えばはるかに労働審判制度が勝っています。
5.ところで貴方の事件ですが、遅刻が多く勤務態度がよくないという理由で、就業規則により懲戒解雇されていますが、貴方が労働契約時に就業規則を労働者が了解していても、懲戒解雇は、労働基準法上18条の2により合理性がなく、社会通念上不相当な場合は解雇権濫用として許されません(労働期間経過後の解雇も同様です。民法627条、628条)。
6.どのような場合に解雇について合理性があり、社会的相当性があるかは勤務の遂行状態について性質、態様、背景、状況等の諸般の事情を総合的に考慮して判断されるが、就業規則による懲戒解雇については、具体的にはその他の懲戒理由、前例があったかどうか、経歴、性格、環境から勤務状態改善の可能性があるかどうか、懲戒理由が今後の業務遂行に障害となる可能性が大きい事等が考えられます。なぜなら、解雇は、労働者の生活権を根底から奪うものであり、業務遂行上真にやむを得ない例外的場合に限られるからです。労基法18条の2は、平成15年改正で規定されたものであり、それまでの判例理論を抽象的に規定されたものです。
7.本件では、懲戒の前例もなく遅刻は、これからの業務遂行に重大な障害をもたらすものとは言いがたく、改善の可能性もまだあるので解雇は合理性を欠くものと考える事ができます。合理性、相当性の立証責任は無論使用者側にあります。
8.判例参照します。
@東京地方裁判所平成16年4月19日判決、平成15年(ワ)第4753号、(地位確認等請求事件)特別養護老人ホーム事務局長が、就業規則に基づき解雇された事案です。当該就業規則23条4号は、(勤務状態及び業務の遂行に必要な能力が、著しく不良で就業に適さない)です。労働者である原告が、[1]医師や看護主任の判断を尊重せず、不適切な行為があった。〔2〕入所者の健康等を軽視するかのような言動がみられること〔3〕入所者及びその家族に対する配慮を欠く言動がみられること〔4〕職員に対する配慮を欠く言動がみられること〔5〕職場の規律を乱す行為があったこと〔6〕不正をしているのではないかとの疑いを受ける余地もある好ましくない行為をしたこと〔7〕老人福祉部会総会に出席したとして請求、受領した4340円は理由がないものであったこと〔8〕業務日誌を正確に記載していなかったこと等の問題点が存することが認めました。しかし、過去に懲戒処分がないことと長期間にわたる軽微な職務違反行為であるから解雇の合理性、社会的相当性がないとして解雇無効と判断しています。
A最高裁判所第平成16年3月25日判決、平成14年(行ヒ)第154号(郵便局において郵便外務事務に従事していた郵政事務官の免職処分取消請求事件)第一審、原審判決を破棄して免職の有効性を認めました。使用者は国ですが、公務員でも民間企業と同様に労働者の地位にあり解雇理論は同一に考えられます。参考のため 判決を引用します。免職処分を規定する、国家公務員法78条3号の「その官職に必要な適格性を欠く場合」とは、当該職員の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、能力、性格等に基因してその職務の円滑な遂行に支障があり、又は支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合をいうものと解される。この意味における適格性の有無は、当該職員の外部に表れた行動、態度に徴してこれを判断すべきであり、その場合、個々の行為、態度につき、その性質、態様、背景、状況等の諸般の事情に照らして評価すべきであることはもちろん、それら一連の行動、態度については相互に有機的に関連付けて評価すべきであり、さらに、当該職員の経歴や性格、社会環境等の一般的要素をも考慮する必要があり、これら諸般の要素を総合的に検討した上、当該職に要求される一般的な適格性の要件との関連において同号該当性を判断しなければならない(最高裁昭和43年(行ツ)第95号同48年9月14日第二小法廷判決・民集27巻8号925頁参照)。
被上告人は、約7年間の長期にわたって、胸章不着用、始業時刻後の出勤簿押印、標準作業方法違反、研修拒否、超過勤務拒否等の非違行為その他類似の行為を繰り返し、合計937回の指導及び職務命令を受け、13回の注意、118回の訓告、5回の懲戒処分に付されたものであり、〔2〕その態様も、上司から再三にわたり指導訓戒されているにもかかわらず、あえて上司の職務上の命令に従わず、終始無言の態度を採るというものであって、〔3〕懲戒処分を受けても、人事院の判定が下されるまでは、当該懲戒処分の理由とされた非違行為を一向に改めようとしないばかりか、〔4〕人事院の判定が下された後は、それまでとは異なる類型の新たな非違行為を始め、懲戒処分の対象とされなかった非違行為については頑として改めなかったというのであるから、上司の指導、職務命令に従わず、服務規律を遵守しない被上告人の行為、態度等は、容易に矯正することのできない被上告人の素質、性格等によるものであり、職務の円滑な遂行に支障を生ずる高度の蓋然性が認められるものというべきである。そうすると、本件処分が裁量権の範囲を超え、これを濫用してされた違法なものであるということはできない。
B東京地方裁判所 平成15年10月29日判決、平成14年(ワ)第18477号 退職金等請求事件(本訴)、平成14年(ワ)第25931号 反訴請求事件(反訴)。労働者が約1年間の間にその担当する顧客先18社、153案件、合計2134万1500円について請求書を作成交付することを怠ったため、813万9675円が回収不能になったことは、就業規則解雇理由「再三注意したにも拘わらず業務に対する熱意誠意がなく怠慢な者」に該当しない。懲戒解雇が相当でないと判断しています。労働者に過去の懲戒例がなく回収不能全てが、当該労働者の責任でない事を理由にしています。
9.以上より、本件についても解雇無効確認を労働審判で争う方が迅速なる解決が可能と思います。平成18年、19年上半期の審判事件の約50%は地位確認の紛争です。
10.具体的な提出書面の書き方等は、お近くの法律事務所にお尋ねください。
≪参照条文≫
憲法
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
○2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
第二十七条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
○2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
第三十二条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
民法
(期間の定めのある雇用の解除)
第六百二十六条 雇用の期間が五年を超え、又は雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきときは、当事者の一方は、五年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。ただし、この期間は、商工業の見習を目的とする雇用については、十年とする。
2 前項の規定により契約の解除をしようとするときは、三箇月前にその予告をしなければならない。
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
労働審判法
(目的)
第一条 この法律は、労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(以下「個別労働関係民事紛争」という。)に関し、裁判所において、裁判官及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者で組織する委員会が、当事者の申立てにより、事件を審理し、調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み、その解決に至らない場合には、労働審判(個別労働関係民事紛争について当事者間の権利関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判をいう。以下同じ。)を行う手続(以下「労働審判手続」という。)を設けることにより、紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とする。
(管轄)
第二条 労働審判手続に係る事件(以下「労働審判事件」という。)は、相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する地方裁判所、個別労働関係民事紛争が生じた労働者と事業主との間の労働関係に基づいて当該労働者が現に就業し若しくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所の管轄とする。
(移送)
第三条 裁判所は、労働審判事件の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを管轄裁判所に移送する。
2 裁判所は、労働審判事件がその管轄に属する場合においても、事件を処理するために適当と認めるときは、申立てにより又は職権で、当該労働審判事件の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる。
(代理人)
第四条 労働審判手続については、法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ代理人となることができない。ただし、裁判所は、当事者の権利利益の保護及び労働審判手続の円滑な進行のために必要かつ相当と認めるときは、弁護士でない者を代理人とすることを許可することができる。
2 裁判所は、前項ただし書の規定による許可を取り消すことができる。
(労働審判手続の申立て)
第五条 当事者は、個別労働関係民事紛争の解決を図るため、裁判所に対し、労働審判手続の申立てをすることができる。
2 前項の申立ては、その趣旨及び理由を記載した書面でしなければならない。
(不適法な申立ての却下)
第六条 裁判所は、労働審判手続の申立てが不適法であると認めるときは、決定で、その申立てを却下しなければならない。
(労働審判委員会)
第七条 裁判所は、労働審判官一人及び労働審判員二人で組織する労働審判委員会で労働審判手続を行う。
(労働審判官の指定)
第八条 労働審判官は、地方裁判所が当該地方裁判所の裁判官の中から指定する。
(労働審判員)
第九条 労働審判員は、この法律の定めるところにより、労働審判委員会が行う労働審判手続に関与し、中立かつ公正な立場において、労働審判事件を処理するために必要な職務を行う。
2 労働審判員は、労働関係に関する専門的な知識経験を有する者のうちから任命する。
3 労働審判員は、非常勤とし、前項に規定するもののほか、その任免に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
4 労働審判員には、別に法律で定めるところにより手当を支給し、並びに最高裁判所規則で定める額の旅費、日当及び宿泊料を支給する。
(労働審判員の指定)
第十条 労働審判委員会を組織する労働審判員は、労働審判事件ごとに、裁判所が指定する。
2 裁判所は、前項の規定により労働審判員を指定するに当たっては、労働審判員の有する知識経験その他の事情を総合的に勘案し、労働審判委員会における労働審判員の構成について適正を確保するように配慮しなければならない。
(労働審判員の除斥)
第十一条 民事訴訟法 (平成八年法律第百九号)第二十三条 、第二十五条及び第二十六条の規定は、労働審判員の除斥について準用する。
(決議等)
第十二条 労働審判委員会の決議は、過半数の意見による。
2 労働審判委員会の評議は、秘密とする。
(労働審判手続の指揮)
第十三条 労働審判手続は、労働審判官が指揮する。
(労働審判手続の期日)
第十四条 労働審判官は、労働審判手続の期日を定めて、事件の関係人を呼び出さなければならない。
(迅速な手続)
第十五条 労働審判委員会は、速やかに、当事者の陳述を聴いて争点及び証拠の整理をしなければならない。
2 労働審判手続においては、特別の事情がある場合を除き、三回以内の期日において、審理を終結しなければならない。
(手続の非公開)
第十六条 労働審判手続は、公開しない。ただし、労働審判委員会は、相当と認める者の傍聴を許すことができる。
(証拠調べ等)
第十七条 労働審判委員会は、職権で事実の調査をし、かつ、申立てにより又は職権で、必要と認める証拠調べをすることができる。
2 証拠調べについては、民事訴訟の例による。
(調停が成立した場合の費用の負担)
第十八条 各当事者は、調停が成立した場合において、その支出した費用のうち調停条項中に費用の負担についての定めがないものを自ら負担するものとする。
(審理の終結)
第十九条 労働審判委員会は、審理を終結するときは、労働審判手続の期日においてその旨を宣言しなければならない。
(労働審判)
第二十条 労働審判委員会は、審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえて、労働審判を行う。
2 労働審判においては、当事者間の権利関係を確認し、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命じ、その他個別労働関係民事紛争の解決をするために相当と認める事項を定めることができる。
3 労働審判は、主文及び理由の要旨を記載した審判書を作成して行わなければならない。
4 前項の審判書は、当事者に送達しなければならない。この場合においては、労働審判の効力は、当事者に送達された時に生ずる。
5 前項の規定による審判書の送達については、民事訴訟法第一編第五章第四節 (第百四条及び第百十条から第百十三条までを除く。)の規定を準用する。
6 労働審判委員会は、相当と認めるときは、第三項の規定にかかわらず、審判書の作成に代えて、すべての当事者が出頭する労働審判手続の期日において労働審判の主文及び理由の要旨を口頭で告知する方法により、労働審判を行うことができる。この場合においては、労働審判の効力は、告知された時に生ずる。
7 裁判所は、前項前段の規定により労働審判が行われたときは、裁判所書記官に、その主文及び理由の要旨を、調書に記載させなければならない。
(異議の申立て等)
第二十一条 当事者は、労働審判に対し、前条第四項の規定による審判書の送達又は同条第六項の規定による労働審判の告知を受けた日から二週間の不変期間内に、裁判所に異議の申立てをすることができる。
2 裁判所は、異議の申立てが不適法であると認めるときは、決定で、これを却下しなければならない。
3 適法な異議の申立てがあったときは、労働審判は、その効力を失う。
4 適法な異議の申立てがないときは、労働審判は、裁判上の和解と同一の効力を有する。
5 前項の場合において、各当事者は、その支出した費用のうち労働審判に費用の負担についての定めがないものを自ら負担するものとする。
(訴え提起の擬制)
第二十二条 労働審判に対し適法な異議の申立てがあったときは、労働審判手続の申立てに係る請求については、当該労働審判手続の申立ての時に、当該労働審判が行われた際に労働審判事件が係属していた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなす。
2 前項の規定により訴えの提起があったものとみなされる事件は、同項の地方裁判所の管轄に属する。
3 第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされたときは、民事訴訟法第百三十七条 、第百三十八条及び第百五十八条の規定の適用については、第五条第二項の書面を訴状とみなす。
(労働審判の取消し)
第二十三条 第二十条第四項の規定により審判書を送達すべき場合において、次に掲げる事由があるときは、裁判所は、決定で、労働審判を取り消さなければならない。
一 当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れないこと。
二 第二十条第五項において準用する民事訴訟法第百七条第一項 の規定により送達をすることができないこと。
三 外国においてすべき送達について、第二十条第五項において準用する民事訴訟法第百八条 の規定によることができず、又はこれによっても送達をすることができないと認められること。
四 第二十条第五項において準用する民事訴訟法第百八条 の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後六月を経過してもその送達を証する書面の送付がないこと。
2 前条の規定は、前項の規定により労働審判が取り消された場合について準用する。
(労働審判によらない労働審判事件の終了)
第二十四条 労働審判委員会は、事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判事件を終了させることができる。
2 第二十二条の規定は、前項の規定により労働審判事件が終了した場合について準用する。この場合において、同条第一項中「当該労働審判が行われた際に労働審判事件が係属していた」とあるのは、「労働審判事件が終了した際に当該労働審判事件が係属していた」と読み替えるものとする。
(費用の負担)
第二十五条 裁判所は、労働審判事件が終了した場合(第十八条及び第二十一条第五項に規定する場合を除く。)において、必要と認めるときは、申立てにより又は職権で、当該労働審判事件に関する手続の費用の負担を命ずる決定をすることができる。
(事件の記録の閲覧等)
第二十六条 当事者及び利害関係を疎明した第三者は、裁判所書記官に対し、労働審判事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は労働審判事件に関する事項の証明書の交付を請求することができる。
2 民事訴訟法第九十一条第四項 及び第五項 並びに第九十二条 の規定は、前項の記録について準用する。
(訴訟手続の中止)
第二十七条 労働審判手続の申立てがあった事件について訴訟が係属するときは、受訴裁判所は、労働審判事件が終了するまで訴訟手続を中止することができる。
(即時抗告)
第二十八条 第三条第一項及び第二項、第六条、第二十一条第二項、第二十三条第一項並びに第二十五条の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(非訟事件手続法 及び民事調停法 の準用)
第二十九条 労働審判事件に関しては、非訟事件手続法 (明治三十一年法律第十四号)第一編 (第三条、第六条、第七条、第十条中民事訴訟に関する法令の規定中人証及び鑑定に関する規定を準用する部分、第十一条、第十三条、第十五条、第二十一条並びに第三十二条を除く。)並びに民事調停法 (昭和二十六年法律第二百二十二号)第十一条 、第十二条、第十六条及び第三十六条の規定を準用する。この場合において、非訟事件手続法第二十六条 中「裁判前ノ手続及ビ裁判ノ告知ノ費用」とあるのは「労働審判事件ニ関スル手続ノ費用」と、民事調停法第十一条 中「調停の」とあるのは「労働審判手続の」と、「調停委員会」とあるのは「労働審判委員会」と、「調停手続」とあるのは「労働審判手続」と、同法第十二条第一項 中「調停委員会」とあるのは「労働審判委員会」と、「調停の」とあるのは「調停又は労働審判の」と、「調停前の措置」とあるのは「調停又は労働審判前の措置」と、同法第三十六条第一項 中「前二条」とあるのは「労働審判法(平成十六年法律第四十五号)第三十一条及び第三十二条」と読み替えるものとする。
(最高裁判所規則)
第三十条 この法律に定めるもののほか、労働審判手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
(不出頭に対する制裁)
第三十一条 労働審判官の呼出しを受けた事件の関係人が正当な理由がなく出頭しないときは、裁判所は、五万円以下の過料に処する。 <